「〈ひとりには させない〉。思いを届けたい」 アニゴジ第二章「GODZILLA 決戦機動増殖都市」主題歌を歌うXAIインタビュー

第8回「東宝シンデレラ」オーディションにて、初代アーティスト賞を受賞したシンガー・XAI(サイ)さん。アニメ版「ゴジラ」シリーズ第一章「GODZILLA 怪獣惑星」の主題歌「WHITE OUT」でデビューを果たした彼女だが、5月18日に公開された第二章「GODZILLA 決戦機動増殖都市」でも主題歌を担当。2018年5月9日には、2ndシングル「THE SKY FALLS」をリリースした。今作は、前作の包みこむような楽曲とはまた違う力強さがあふれた楽曲となっている。

今回、いまだ多くのヴェールに包まれる彼女のプロフィールと最新シングルについて、語ってもらった。


音楽ルーツはアニソン、ボカロ、歌い手だった


──どんな音楽が好きだったのかを調べていたら、「マクロスF」の歌が好きだとのことで。どんなところに惹かれたのでしょうか?

XAI 菅野よう子さんの大ファンというのもあるのですが、作品自体はリアルタイムでは見ていなかったんです。「マクロス」シリーズって戦いと歌がすごく密接に関わっているので、そういったところに惹かれました。私のように音楽や歌に救われてきた人間としては、戦いの中で人を想う歌、一緒に戦う歌があるというのはすごく魅力的で胸を打つことでした。

──劇中で歌姫と呼ばれているランカ・リーもシェリル・ノームも、歌う曲はいい曲ばかりですよね。

XAI 好きな曲ばかりです! しかも両極端で、ランカちゃんなら人を応援するような歌、シェリルだったら戦うような歌がある。私はシェリルがシェルターの中で「あなたが希望の歌姫なら、あたしは絶望の中で歌ってみせる」というセリフとともに「ダイアモンド・クレバス」を歌うシーンがすごく好きで、「東宝シンデレラ」オーディションでも、この曲を歌わせていただいたんです。そのときに生まれて初めて、本当に誰かのためを思って歌うという経験をして……。自分にとってたくさん思い入れのある曲ですし、シェリルの生き様を見て、私もこういうシンガーになりたい、誰かの力になれたら、と。「マクロスF」は、そう思わせてくれた作品です。

──セリフまで覚えているんですね。しかも菅野さんのファンでしたか。ほかにアルバムも聴いていたり?

XAI 「地球少女アルジュナ」の「Cloe クロエ」という曲が本当に好きで、最高です。ですよね?

──最高ですし、名盤です! 歌うとすると言語からしてよくわからないですけどね。ちなみに「マクロスF」ではどんな曲が好きでしたか?

XAI 選べませんが、シェリルの「オベリスク」もすごく好きですね。シェリルのあの瞳。走りながら衣装を着替えて、歌い出す、あの姿にシェリルの覚悟や生き様が詰まっていると思うんです。私も、君を尽きるまで愛して死にたいです。

──ノーザンクロスの一節ですね! 愛がヒシヒシと伝わってきます(笑)。前作「WHITE OUT」は少し静かな曲でしたが、激しい曲も歌ってきてはいたんですね。ほかにはどんな曲が好きですか?

XAI 梶浦由記さんの「a song of storm and fire」とか、エレクトロと民族音楽が混ざったような楽曲も好きです。家族が音楽好きだったので、いろんな音楽は聴いてきましたが、私はボカロも好きで、すごく聴いていました。あとは久石譲さんのサウンドトラックを聴いていたり。

──XAIさん自身は、わりとアニメとかボカロ好きなんですね。

XAI きら星のような方がたくさんいらっしゃいましたからね。ハチさん(=米津玄師)が出てきたときは、もう鮮烈でした。DECO*27さんも好きで。お名前をあげていったらキリがないのです。リアルタイムの人ならわかってくださる感覚だと思うんですけど、そのくらいハマってたくさん聴いていました! 実はボーマス(※注)にも一度行ったことがあるくらい。

(※注「ボーマス」。「THE VOC@LOiD M@STER」の略。VOCALOID専門の同人誌即売会)



誰かの力になれるような歌を歌いたい


──当然歌い手とかにも憧れはありつつ、みたいなところもあったんですね。でもその中で「WHITE OUT」でデビューして、あらためてプロの方々と触れ合うことで感じたことはありましたか?

XAI 初めてのレコーディングが「BOOM BOOM SATELLITES」の中野雅之さんとだったので、大人というか……大人の方と対峙するというのからして、初めてだったんです(笑)。しかも中野さんは音楽に深く携わってきた方で、本当にストイックに音楽をしていらっしゃる方なので、いろいろお話をさせていただいたり、時間を過ごさせていただけただけでも、自分の中ですごく大きな変化がありました。

──話しているだけで、その深みというのは感じられそうですね。

XAI 深みというか、すごみというか。それは作詞をしていただいた蒼山幸子さん(ねごと)もそうなんですけど。もともとねごとさんも大好きで、auのLISMO(現・レコチョク)のCM曲の「カロン」のときからリリックが好きだという話をしていたら、中野さんはねごとさんのプロデュースもされているので、繋いでくださり、歌詞を書いてくださることになったんです。すごく嬉しかったです。

──蒼山さんとは、何か話をされましたか?

XAI 前作に引き続き、中野さんのスタジオに通ってレコーディングさせていただいていたのですけど、蒼山さんもそこに来てくださって。「WHITE OUT」では歌詞を当て書きしてくださったんです。なので、お話もさせていただいたり、気持ちの面を共有する機会はいただけたのかなと思います。

──XAIさんも作詞をしていますが、蒼山さんの歌詞を側で見ていて感じたことなどありますか?

XAI 蒼山さんは詞を提供される時に、その人のパーソナリティーも考えたうえで書いてくださるんです。今回の「THE SKY FALLS」ではサビに〈鮮やかなblue〉という歌詞があるんですけど、言葉を見るとポップに見えるかもしれない。でも、私が歌ったときに切なく聴こえると思ったからこの言葉を選んだ、おっしゃってくださって。声が乗ったときにどう響くのかも考えながら書いていらっしゃったので、本当にすごいなと思いました。改めて、お2人の曲を歌わせていただくのは嬉しいことだな、と。

──メロディに合った言葉、声に合った言葉があるんですね。「THE SKY FALLS」で、再び中野さんと蒼山さんと一緒に作品を作れると聞いたときはどう思いましたか?

XAI 「WHITE OUT」は私にとっても特別な曲なので、またお2人とお仕事させていただけるのがすごく嬉しくもあり、気が引き締まる思いでした。お2人と過ごす時間が長くなるにつれて、お2人のすごみが雰囲気からも感じられるんです。お2人とも、周りの空気が澄んでいて。走っても走っても追いつけないほどの距離があるんだけど、わかっているんだけど自分なりに一生懸命がんばってもがいて、少しでもついていけるように、というか。そういう気持ちで臨まないといけないなって思いました。



──「THE SKY FALLS」を初めて聴いた時はいかがでしたか?

XAI 中野さんの曲って、聴いてすぐに中野さんの曲だとわかる、特別なパワーがあると思うんです。絶対に誰かの力になる希望の音楽というか。デモを聴いたときも、「WHITE OUT」とはまた違ったアプローチをしないといけないなって思いながら、すごく感動しました。

──ボーカルのレコーディングはどうでしたか?

XAI 「WHITE OUT」は包み込むような、救いになれるような曲だとしたら、今回はもっと自分も戦場で戦うような。しっかり足を大地につけて、歌っているような曲になると思ったので、そういう心持ちは伝わるようにしたいと思いました。歌についても、たくさんアドバイスをいただきました。思いっきり歌うことはできるけど、それに加えて技術的なところももっと「こう歌うのはどうか」とアドバイスをくださったので、それに応えられるようにとレコーディングをしました。

──「GODZILLA 決戦機動増殖都市」の映画と合わせて聴いてみて、いかがでしたか?

XAI 1作目の「GODZILLA 怪獣惑星」もすさまじい展開だったんですけど、今回はより一層シリアスで、もっともっと感情的にさせられる内容でした。本当にキャラクターひとりひとりの表情、そこから浮かび上がってくる人生や生き様がより強い。〈ひとりには させない〉という歌詞があるんですけど、そういうメッセージがより届くんじゃないかなと思いました。

──〈ひとりには させない〉で気になったんですが、一番最後、歌詞カードには載っていないのですが〈ひとりには させない〉と歌っていますよね。その振り絞る感じがすごくよかったです。

XAI この曲と歌詞の中でも〈ひとりには させない〉というメッセージはすごく強いと思っていて。私も音楽にたくさん救われてきた人間なので、音楽の力みたいなものがすごく込められているというか。私が歌手をやらせてもらっているのは、誰かの力になれるような歌を歌いたいからで、そうでないといけないと思っているんです。そういうことも含めて、自分はこの曲を魂を込めて歌わなくてはいけないな、と強く思っています。



「Let me free」はポジティブな意味で「逃避する」イメージ


──カップリングの「Let me free」はすごく美しいメロディーの曲でした。自由に対しての歌詞でしたが、何でこのテーマを歌おうと?

XAI 私は、音楽でもそうですし、すごく狭い世界で生きてきたので、中野さんとお話させていただく時間は私にとって「生きるのって大変だけど、世界ってこんなに広くて、こんなに美しいんだよ」っていうことを教えていただける時間なんです。

これからリリースイベントをさせていただいたり、人前に立たせていただく機会が多くなるんですけど、私は1週間会わなかった友人と話すのも緊張するくらいなので、皆さまがどんなリアクションを返してくださるんだろうと少し身構えてしまっていて。そういう恐れとか精神、環境とか経験……肉体が置かれている環境って自分の精神を不自由にすることもあるじゃないですか。そこからもっと自由になりたいのにって思うことがあるんですね。音楽に集中して精神を研ぎ澄ませたいというか。そういう意味合いも込めながら、書きました。

それから、中野さんのデモを聴かせていただいた時に、ポジティブな意味で、光に向かって暗闇の中をひたすら走る、逃避するようなイメージを持ったので、そういう自分の感情を乗せさせていただきました。だから内容は内省的なんですけど、戦わなきゃいけない時は人それぞれあるけど、それだけではないよって。人生を生きていく中で、逃げていくこともすごく大切なことだと思うから、だからこの曲を聴いてくれている数分間だけででもいいから、私と一緒に逃避しませんかっていう。そういうふうに聴いてくれたらなお嬉しいな、と思います。

──中野さんの曲は、すごくポジティブな気持ちにさせてくれるパワーもあるから、逃げてもいいんだよってメッセージに、説得力を持たせてくれている気がしますね。光に向かってるんだよっていう。では最後に、「GODZILLA 決戦機動増殖都市」を楽しみにしている方にメッセージをお願いします。

XAI 前作もそうですが、今作も息もつけないくらいすさまじくシリアスな内容だと思います。自分がもしこの中にいたらっていう感覚になるんですけど、生きていて「自分はいま生きてるな!」って感じる機会ってあまりないと思うんです。そういう感覚ですら映画を観ると感じることができると思うし、他人事にはしてはいけないメッセージも込められていると思います。ひとりひとりの生き様、それぞれの正義に向かって命をかけて戦う姿勢は見どころだと思います。

そして、それを見たあとに私の曲を聴いていただけると、また新しい聴き方をしていただけるんじゃないかと思います。前作が救いになれる曲だとしたら、今回はサバイブソングという役割を担えたら、嬉しいなと思います。

(取材・文・撮影/塚越淳一)

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