「宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち」 第五章 煉獄(れんごく)篇、上映せまる! 制作現場の中枢・小松紘起アニメーション・プロデューサーインタビュー
圧巻のテレザート星解放作戦で観客の度肝を抜いた「第四章 天命篇」上映から早4か月。「宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち」 第五章 煉獄篇」が、2018年5月25日(金)より劇場上映される。アキバ総研では、物語のクライマックスへとなだれ込んでいく第五章のフィルム作りを取り仕切る、小松紘起アニメーション・プロデューサーへのインタビューを敢行。これまで主に羽原信義監督やシリーズ構成の福井晴敏さんによって語られてきた舞台裏とはひと味違った、「制作現場からのリアルな声」にぜひ注目してほしい。
「アニメーション・プロデューサー」とは?
──「宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち」における、小松さんの役職「アニメーション・プロデューサー」とは、どのようなお仕事なのでしょうか?
小松 簡単に言うと、制作現場を取り仕切る役割で、デザイナーさんやアニメーターさんなどの人材を確保したり、その人達にどういうタイミングでどういう仕事を担当してもらうかを割り振ったり、製作委員会やメーカーさんと調整しながらスケジュールを決め込んだりするような仕事をしています。もちろん、作品全般の舵取りは羽原さんが、ストーリーラインは福井さんが、メカや美術は小林誠副監督が中心に見ていますが、羽原さんは、多くのスタッフの意見を取り入れてよいものを作ろうという姿勢の方なので、さまざまなアイデアや提案が飛び交う現場になっています。皆の意見を聞いて取りまとめるのは並大抵のことではありませんが、羽原さんはそこを諦めないすごい人ですね。この流れができるだけスムーズになるように見守るのが私の仕事です。
──「宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち」に参加しての印象は?
小松 私は「2202」の立ち上げ時期からではなく、途中からの参加でしたし、なにせビッグタイトルなので、自分に務まるかどうか大いに不安でした。でも、実際に仕事を初めてみるととにかく面白い! それに、ビッグタイトルということは、ファンの声が直接響いてくるんですよ。そこにはやり甲斐と手ごたえを感じています。ネットの反応を見ても、熱心なファンが多いのは明らかですし、反応の内容も濃いので、「話題になっている」という実感があります。もちろん、逆にプレッシャーを感じる場面も多いですけどね。
私自身はアニメ制作会社XEBECに入って7年目で、作画や演出ではなくずっと制作を担当しています。プロデューサーを担当するのは今回が初めてですが、私がこれまでに経験した他の作品と比べると、「2202」は作業工程がとても複雑ですね。ここまで3DCGの割合が多いのも初めての経験です。3Dの素材を用意してから美術に発注しないといけない……など、「2202」ならではの手順があります。当初はそれを把握するのが大変でしたね。
──「第四章 天命篇」までの道のりを振り返ってみての感慨などは、いかがでしょうか?
小松 正直、ようやくここまでやって来たなぁという印象ですね。作品の内容としても、スタッフのチームワークやコミュニケーションとしても、最初の段階は本当に手探りなので、どうしてもうまく転がりにくい面があります。そこを乗り越えて軌道に乗せるまでは苦労の連続でした。第一・二章は「軌道に乗せるまで」の勢いでガムシャラに取り組んでいましたけど、そろそろ軌道に乗せたいタイミングの第三章でもなかなかうまく転がらなくて(笑)、スケジュール的にもいろいろ苦しい局面が生まれてしまいました。逆にその後の第四章は、しっかりと腰を据えて作ることができましたね。
特に「2202」は、3DCGが多く使われているので、最初の時期はモデリングそのものに時間がかかって大変だったんですが、制作作業が進むと手慣れてくる面もありますし、それまでに作ったモデルをどんどん活用することができるので、流れがスムーズになっていくんです。3Dモーションや爆発の表現、その他エフェクト表現などもストックができてきて、引き出しが増えていくような感覚ですね。
各章で実験的な試みも重ねてきています。第二章のヤマト発進のカットも、作画で描いたものに3Dで波の飛沫を重ねる作業でずいぶんと試行錯誤を繰り返しましたし、第四章の主砲発射のカットでも、作画と3Dを違和感なく融合させる新しい工夫をしています。
──小松さんご自身の、「ヤマト」原体験とは、どのようなものだったのでしょうか?
小松 小学生のとき、の第1作「宇宙戦艦ヤマト」のNHK-BSでの再放送を観たのが最初の体験ですね。古い作品なのに不思議と気にならずに見入ってしまいました。父親がいろいろと解説してくれるんですよ。今の用語はこういう意味だよ……とか(笑)。父親は映画「さらば宇宙戦艦ヤマト」(1978)も劇場に観に行ってるようで、「すごくいい作品だから」と太鼓判を押してました。「2202」を担当することが決まったとき、「さらば」のリメイクに自分が関わるようになったよ……って、まずは父親に自慢しました(笑)。今まで担当してきた作品は、名前を言っても「聞いたことないな」とあまり反応が返ってこないことがほとんどなので。自分の仕事に興味を持ってもらえるのは嬉しいですね。
「ヤマト」ならでは現場の苦労とは?
──「ヤマトはほかのアニメとは違う」「ヤマトは大変」とスタッフの方が時々語られますが、具体的にはどのような部分が「大変」なのでしょうか?
小松 まず、絵コンテの段階で時間がかかってしまうのがヤマトの特徴かもしれません。シナリオを元にしてコンテを発注するんですが、シナリオの表面には出てこない、背後の設定がとにかく多いので、コンテの担当者がそれを読み解いて理解するのがまず大変ということがありますね。また、皆さん本当に熱を入れてコンテを描いてくださるので、できあがってきたら今度は尺に入り切らないこともあって(笑)。その調整が大変ですね。
また、「宇宙を征く戦艦、あるいは艦隊」を描く作品なので、サイズ感、特に巨大感の表現には気をつかいますね。これはフィルムになってスクリーンにかけて初めてわかるような場合もあるので、とても難しい感覚で、悩みどころでもありますし、常に不安に感じているところです。3Dモデルそのままの寸法で画面に置いてしまうと、あまり巨大に感じられなかったりすることも多いので、カットによってはあえて数倍のサイズのモデルを見せたりすることもあります。あるいは、動くスピードが速すぎると小さく軽く見えてしまうので、ここは3倍の尺を使ってゆっくり動かしてほしい……とか。もちろん、羽原監督、小林副監督もそこには敏感で、そういう3D表現に対してリテイクを出すこともあります。そういったリテイクに対応してくれる3D担当の方々には頭が上がりません。
あとは、キャラクター表現も「2202」では難しいところかもしれません。結城信輝さん(キャラクターデザイン)の描くキャラクターはとても線が繊細なので、アニメーターさんによっては「似せる」のがとても難しいそうです。作画監督陣であっても、「このキャラは得意だけど、このキャラはうまく似ないなぁ……」ということがあるそうです。古代と雪、それにデスラーは、「似せる」のがなかなか難しいと言われてます(笑)。
テレビシリーズとは違う、全七章に分けて劇場上映する形式というのも、「2202」特有のスケジュール感覚ですね。テレビシリーズよりも、しっかりと作業時間は取れますが、油断すると余計な時間を使ってしまうこともあるので。テレビシリーズの場合ではOKだったものも、ヤマトの場合は「あれを足したい」「これを足したい」と、テイクを何回も重ねることが多いです。スケジュールギリギリまで深追いしてしまうことも、正直ありますね。
──「深追いしてしまう」という話がありましたが、具体的にはどのような点でしょうか?
小松 メカのディテールをいかに見せるかも、それこそヤマトという作品の醍醐味のひとつでもあるので、苦労の多いところですし、つい「深追い」してしまうポイントです。ここぞというカットではどうしてもメカのディテールを見せたいですから。1からディテールを描き上げるのは大変なので、3Dでベースの絵を出してもらって、そこに手でディテールを描き足していくようなこともしています。小林副監督が直接こういう作業を担当することもあります。
第二章では、ゆっくりカメラを動かして海底ドックに係留されているヤマトを見せていくカットで、ほぼ映像ができあがった状態で、監督から「ここはもっとディテールアップしたい!」と、突然追加作業が降ってくるようなこともありました(笑)。でも、そこを乗り越えていい映像ができあがったときは、皆が心底やってよかったと思えるんですよ。そういう急な注文も聞いてくれる優秀なスタッフが揃っています。スタッフには感謝しかありません。助けてくれるスタッフの皆さんに気持ちよく仕事をしてもらうための環境を整えるのが私の仕事です。
若手スタッフから見た「直撃世代の熱さ」
──「2202」の制作チームは、羽原さん、福井さん、小林さんなどのヤマト直撃世代の「熱さ」が原動力になっているように思えるんですが、逆に、その下の世代である小松さんの目には、そういうオジサマ達の「熱さ」はどのように映るんでしょうか?
小松 いや、純粋にカッコいいと思いますよ。旧シリーズからずっとヤマトを見続けている方々の感覚は刺激的で、信頼できます。その「熱さ」のおかげでいい作品に仕上がっていっていると思いますし、そこを忘れてしまっては舵を失ってしまうようなものです。作品も、僕も、スタッフ全体も、そういう「熱さ」に支えられていますし、しっかりその後ろに付いていこうと思っています。
──羽原さんや福井さんは舞台挨拶やWeb配信番組「愛の宣伝会議」ですっかりおなじみですが、それ以外のスタッフの皆さんのお仕事の役割や奮闘ぶりについてもおうかがいしたいのですが。
小松 まずはやはり副監督の小林誠さんですね。設定からメカ、美術まで、なんでも相談しています。シナリオの段階では想定できなかった設定のないメカなどもキッチリ仕上げてくれます。
私たちが困っていることをスッと拾い上げて解決してくれるような、本当に頼れる中心人物です。
あとは、作画監督の前田明寿さん。話数によっては総作画監督もお願いしている作画の要です。先ほどの話のように、キャラクターの作画がうまく似ないなどで困ったときは、前田さんに頼ってまとめてもらうような場面も多いですね。第18話からはキャラクターデザインの結城信輝さんも作画監督として参加されますので、第五章以降の作画面はさらに期待していただければと思います。
そしてもうひとり、忘れてはならならないのが、作画監督を務められた髙木弘樹さんです。本当に残念なことに、2月に急逝されてしまったんですが、前田さん同様、作画面では何でも相談に乗ってもらえる、頼り甲斐のある方でした。「2202」の折り返し地点である第四章まで、なんとか辿りつくことができたのも、髙木さんの力が大きかったと思っています。髙木さんがいなくなってしまった状態での作業は、当初は本当に不安しかありませんでしたが、今では私たち現場のスタッフ一同も、髙木さんに恥ずかしくない形で「2202」を最終章まで描き切ろうと、決意を新たにして取り組んでいますよ。
──では最後に、小松さんがぜひとも訴えたい、「第五章 煉獄篇」の見どころは?
小松 第四章の終わり方から想像されている方も多いとは思いますが、第五章の前半はデスラーの物語がメインになっていきます。今まで隠されていたデスラーの過去なども描かれていきますので、ここはぜひ注目して頂きたいですね。さらに後半は、大迫力の艦隊戦になります。息つく暇も与えないほどの戦闘アクションシーンの連続になりますので、そこを楽しみにして、ぜひ劇場に足を運んでいただければと思います。
──本日はお忙しい中、ありがとうございました。
(取材・文/不破了三)
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