グンマーな編集長がディープに迫る!「お前はまだグンマを知らない」まんきゅう監督・ロングインタビュー
2018年春アニメとして現在放送中の「お前はまだグンマを知らない」。ネット界隈で何かとディスられることの多い「グンマー」(グンマ県/県民の意)をテーマにし、その一風変わった文化や風習について、ややデフォルメ気味に取り上げるショートギャグアニメである。そんな本作を手がけたまんきゅう監督に、真性グンマーであるアキバ総研・編集長の鎌田が、その内容などについてディープに切り込んだ!
DLEに入社して、いきなりアニメ監督になった、まんきゅう監督
──まずはじめに、まんきゅう監督がアニメ業界に入った経緯をお聞かせいただけますでしょうか。
まんきゅう 大学を卒業した当時、Flashアニメが流行ってまして、これだったら自分でも作れるかなと、独学で勉強して個人作家として作り始めたのがきっかけです。その時、25歳くらいで、この先の自分の人生考えたときに不安があったんですけど、1年間好きなことをやって、ダメだったら違う道に進もうと思って始めました。
それで、Flashアニメを自主制作して、コンクールとかイベントとかに出すようになったんですが、最後に「東京国際アニメフェア」という、今の「AnimeJapan」の前身のイベントに出展したときに、「鷹の爪」などで有名なDLEの社長さんから「うちにおいでよ」とお声がけいただきまして、これもご縁かなということでお世話になることになりました。
で、DLEに入ったらすぐに、テレビ東京でやっていた「ファイテンション☆テレビ」という番組の中のショートアニメの制作を任せてもらい、2年くらい1コーナーを担当させてもらいました。その後、吉田戦車先生の「伝染るんです。」の発売20周年を記念したOVAを作ることになって、そこで原作ものの監督を初めてやらせてもらいました。その「伝染るんです。」を作っていたチームがみんな仲良かったんですが、僕がDLE辞めるときに、気がついたらみんな一緒に辞めていまして(笑)。それで「何か作る?」的なノリで、ギャザリングという制作会社を作りました。ギャザリングには役員として入って、約8年くらい原作ものアニメをたくさんやらせていただいていたんですが、去年独立しまして、今はフリーでやっています。
──アニメ業界でも、比較的変わった経歴をお持ちのような気がしますが、元々「絵を描きたい」というよりも、作品全体を作りたいというお気持ちが強かったんでしょうか。
まんきゅう もともと「かいけつゾロリ」みたいな児童文学が好きで、児童書を描きたかったんですけど、なかなか狭き門というか、食べていくのも難しいので、だったら「リラックマ」みたいなキャラクター作って一発当てたほうがいいんじゃないかと(笑)。そう思ってアニメを作り始めたのが最初です。
──今でも、そういうオリジナルキャラクターを作りたいというお気持ちがあるとお聞きしましたが。
まんきゅう ありますね。そこは変わっていません。フリーになったのも、会社に所属していると、オリジナルキャラを作っても会社のものになっちゃうからで。やっぱり自分の子どもは自分で面倒みたいという気持ちがどうしても捨てきれずに、ギャザリングの社長とも話をして、独立させていただきました。
──DLEさんと言えば、「鷹の爪」のFROGMAN監督に代表されるように、監督が1人何役という感じで制作するイメージがありますが。
まんきゅう そうですね。僕がいた当時は、個人作家をいろんなところから引き抜いていて、クリエイターはすごく面白い人が多かったですね。毎日文化祭みたいな、そんな楽しい空気でした。
──DLEさんでは、いきなり監督を任されたんですか?
まんきゅう はい。漫画家さんで言うと、アシスタントやったことのない先生っていらっしゃいますけど、あれに近い感じですね。
──とまどったりすることはありませんでしたか?
まんきゅう それはなかったですね。もともとひとりで全部やっていたので。逆に、作業分担することの方がとまどいましたね(笑)。
──1年ほど前にフリーとして独立されたということですが、今回の「お前はまだグンマを知らない」は、フリーになられて初めての作品なんでしょうか?
まんきゅう そうですね。フリーになってすぐに旭プロダクションさん(以下、旭プロ)のほうからお話をいただきました。
──これまでのお仕事でも、ショートアニメの制作はお手の物かと思いますが、「お前はまだグンマを知らない」は同じショートアニメでも、これまで監督が手がけてきたキャラもの的な作品とは、かなり質が異なる作品のように思いますが、苦労した点などはありますか。
まんきゅう 視聴者層が割と幅広いということを聞いていたので、ホラー的な表現とか、グロテスクな表現はなるべくしないように気をつけました。スタッフの皆さんにも「ホラー」という言葉は使わないようにして「ミステリー」という言葉に言い方を変えています。最初は、色味も赤とか黒とかをみんなガンガン使ってきたりしてたんですけど(笑)、最終的には紫系で落ち着かせたりとか。
尺も短かったので、話もシンプルにして、1話見ると1個グンマのことがわかるというようにしました。原作で「かかあ天下とからっ風」という回があるんですが、2つの要素が入っているので、アニメ版では「からっ風」(第7話)だけにフォーカスしたりとか、パッと見てわかりやすい感じにしています。
──話は変わりますが、本作における監督の作業範囲はどのあたりまでになるのでしょう。
まんきゅう いわゆるシリーズ構成的な部分と、脚本は全部書きました。絵コンテは1話と最終話だけ自分で描きました。演出については全話演出の方にお願いしています。僕がやったのは、Vコンテという、アフレコ前に自分の声でキャラの声をあてて、音を貼ってという段階のもので、音周りは結構自分でやりましたね。
──音響監督でクレジットもされてましたね。
まんきゅう 音響監督さんを別に立てちゃうと、逆に面倒なこともあって。ショートアニメなので、ひとりでやったほうが割と思い通りになりますし。作曲家の方も、たまたま飲み屋で知り合った人にお願いしたという(笑)。
──飲み屋? そうなんですか?(笑)
まんきゅう そうなんですよ。その方は当時、オリコンで1位の曲とか書いてた人なんですが、飲み屋で「お、いいじゃん!」みたいな感じで意気投合しまして(笑)。音楽も、実は結構映画みたいな作りにしてるんですよ。仮の映像見ながら、ここまで音楽入れて、ここから新曲行ってみようか!みたいな感じで。そういう意味では、音楽的には結構ぜいたくな作りをしてますね。
──原作を読まれたのは、アニメ制作の話をいただいてからですか?
まんきゅう そうですね。タイトル自体は知っていたんですが、中身は見たことがなかったです。最初は正直「わからない〜っ!」って感じでした(笑)。
──ですよね(笑)。基本、グンマ県民にしかわからないネタばかりですもんね(笑)。
まんきゅう でも読み進めていくと、自虐ネタではあるんですけど、奥の深い部分では郷土愛があることがわかってきて。グンマ愛があるからこそ、自虐ネタも面白おかしく受け入れられるわけで。ただ、読んでいると、ウソか本当かわからなくなってきますね。で、グンマ出身の方に聞くと、「うん、大体本当だよ」という(笑)。
──グンマ人は自虐に慣れてますからね。ネット上でいじられても、むしろそれをネタとして喜んでいるくらい懐は深いですから、あれくらいの自虐ネタはどうってことないです(笑)。
まんきゅう 多分、井田先生のマンガの見せ方が、すごく上手なんだろうなあと思います。あれがギリギリのラインを突いてるんだと思います。スタッフにも、根幹にはグンマ愛があふれているわけで、決してグンマのことをディスる作品じゃないんですよ、ということはずっと言ってますね。特に神月君が「うわーっ!!」って驚きすぎると、やっぱりちょっとバカにしたような感じになっちゃうので(笑)。でも、他県の人から見たグンマってちょっとびっくりするような文化もあって、その驚き方の表現の度合いが最初の頃難しかったですね。驚かなすぎても面白くないですし、その辺のさじ加減が難しかったです。
まさかの群馬テレビのみの地上波1局放送は、最初から狙っていた!?
──本作のCパートの部分でグンマ県のPR的な実写映像「産地直送!グンマ愛」が入っていますよね。あれって、やっぱりグンマ県とのタイアップなんですか?
まんきゅう あれは、(旭プロの)菅野さんが頑張って……。
旭プロ・菅野さん(以下、菅野) あれはですね、実は元々なかった15秒のコーナーなんです。今回、海外への配信も決まっており、それならばせっかくなので、グンマ県の魅力をより多くPRできないかということで、まんきゅう監督のほうから申し出があったものなんです。そこで生まれたのが「産地直送!グンマ愛」というコーナーで、グンマ愛を詰め込んだ内容となりました。
まんきゅう それで15秒何をやろうって考えたときに、市長さんとか自治体のトップの方が出てくれるとオフィシャル感が出ていいですねー、とか言ってたら、委員会のある方が「僕、パイプあります!」って言ってたんですが……。
菅野 実際に確認したら、直接、窓口に問い合わせくださいと……(笑)。
──えーっ(笑)!!
菅野 結局、全部、自分で問い合わせしました。最終的には、高崎市長、前橋市長、それから群馬県知事にも出演いただきまして、よい形となりました。
──そんなにがっちりバックアップ体制ができていたわけじゃないんですね。
菅野 当初はなかったというか、できてなかったですね。監督からのアイデアと、原作の力と、製作委員会の努力とグンマ県の皆さんのおかげで、何とかできた感じです。
まんきゅう でも、視聴者側には、一丸となってやっている風に伝わるかなと思いますけどね。ご協力いただいて、すごくありがたかったです。
──いやー、完全にそう見えてました。しかも、本作はなんと地上波では、群馬テレビ(群テレ)しか放送しないという、何とも思い切った超ローカル仕様じゃないですか。これには驚きました(笑)。
まんきゅう ですよね。普通だったら全国ネットでやろうとするじゃないですか。グンマの魅力を全国に伝えようみたいな。そこをあえて、群馬でしかやらない、というところに、最大のグンマ愛があるという(笑)。
一同(笑)。
まんきゅう 最初に旭プロさんからお話をいただいたときに、僕はグンマ出身でもないですし、グンマ出身の監督さんのほうが、よりグンマに近いものができるんじゃないかと思ったんですけど、「実は群馬テレビ1局でしか放送を考えてません」って言われた瞬間に、うわーガチだなと思って(笑)。
──いやー、ガチガチですよ(笑)。
菅野 本作を制作するにあたって、他作品と差別化を図りたいという気持ちがありました。で、今回原作の新潮社さんとお話ししたときに、実は原作の売り上げが一番あるのが群馬県だという話を聞きまして。であるなら、「グンマ県の皆さんに見てもらおう!」というところから「地上波はいっそグンマ県だけで放送!!」に行き着きました(笑)。そこで、「群馬テレビでしかやりません!」というお話を群馬テレビさんに持って行ったと。
──それはすごい!思い切りましたね。
菅野 放送が始まってから、自分でもその無謀さに気づきました(笑)。
一同 (笑)
まんきゅう 後でエゴサーチしたら、面白かったですよ。「なんで群馬テレビでしかやらないの。バカなの?」とか(笑)。
菅野 「グンマ県民なのにグンマのこと知らないわけないじゃん」とかね。でも、そういうツッコミも含めて、やってよかったかなと。
──僕もグンマ出身で、本作のアニメ見たいと思いながらも、今グンマに住んでないから、群馬テレビ見られないじゃん!っていう(笑)。おかげで、この1か月「GYAO!」を相当見ましたよ。
菅野 元々全国区は配信やBS/CS放送でカバーしようと思ってたんです。ショートアニメということもあり、スマホやタブレット等で気軽に見てもらおうと。
──いやー、新しいですよね。しかもその群馬テレビでは、再放送を毎日やってて、もう帯で放送しているという。
菅野 そこは群馬テレビさんのご協力で。これで放送を見逃すことはないかと(笑)。
──ちなみに、本作は1クールものなんですか?
まんきゅう はい。1クールですね。
──ものすごいローカルに攻めてきてるので、もしかしたらもっと続くんじゃないかと、若干期待もしていましたが、終わっちゃうんですね。
まんきゅう そうですね。まだ原作の1巻しかやってないんですけどね。
菅野 後はグンマ県の皆さんの応援次第ですかね。
まんきゅう そうなりますね。
グンマーで固めたスタッフ・キャスト陣。出身じゃないのは、主人公の2人だけ!?
──そういえば、本作に出演されている内田彩さんも、グンマの出身ですよね。
まんきゅう そうですね。ぐんま観光特使をやられてるんじゃなかったかな。先日、収録語に中入り的な飲み会をしたときに結構話したんですが、すごく地元愛が強い方で、飲み会の終わり頃にはグンマネタでだいぶ盛り上がりましたね。
菅野 その他のキャスト陣もほぼグンマ出身者ばかりなんですよ。本当に、主役2人(梶原岳人さん、笠間淳さん)だけですね、グンマ出身者じゃないのは。
まんきゅう 原作でも主人公の2人は、チバ県から引っ越してきたという設定なので。それ以外のキャラクターに関しては、ちょっと方言的なところもあったりするので、なるべくグンマ出身の方で固めてます。方言指導とか僕できないので、キャスト陣に丸投げしてました(笑)。
──相当、グンマに寄り添ってますね。
菅野 実はミキサーの方も、音響制作の方も、グンマ出身なんですよね。
まんきゅう で、効果音担当の方だけがなぜかトチギ出身という(笑)。
──敵国のスパイ!(笑)
一同 (笑)。
まんきゅう あと、美術監督の方がたまたまグンマ出身の方でしたね。一緒にロケハン行ったりしましたが、結構最後までこだわってらっしゃって。
──風景ですね。わかります。ちょっと独特なんですよね、光の入り方とかが。ロケハンに行って、何か感じたこととかありますか?
まんきゅう 最初に新幹線で高崎に着いたんですが、あまりに都会で、思っていたのと違ってびっくりしました。でも、ちょっと郊外に行くと、建物の高さも低くて、空も大きくて、気持ちいいなと思いました。原作の井田先生の出身校にもおじゃましたりして、学校もいろいろ見せてもらいました。
──実は、僕の実家の近くなんですよね、あの高校。
まんきゅう そうなんですか! ちょうど10年くらい前に新しい校舎を建てたらしいんですが、原作に出てくる旧校舎のほうはあまり残ってなかったんですよ。それで卒業アルバムとかを見せてもらって、その写真を写真に撮ったりしましたね。あと11話で出てくる自販機だけの「ドライブイン七輿」に行ったりとかもしましたね。
──うどんとかハンバーガーとかがセルフで出てくるアレですね。懐かしいなあ。昔は実家の近くにもありましたけど、今はだいぶ減ったみたいですが。
まんきゅう 最近は観光地化しているみたいで、結構お客さん来ているみたいです。でもロケハンに行って一番よかったのは、何とも言えない空気感を感じられたことですね。何というか、ブルースが聞こえてきそうな感じというか。今、ネットで検索すると、どこでも風景は見ることができるじゃないですか。でも、あの空気感というのは感じられないですからね。本当に行ってよかったなと思います。でも、ちょうどロケハンに行ったその日が、たまたま、1年のうちに何日あるかどうかという、からっ風の吹かない日で、めちゃくちゃのどかでした。
──何と、せっかく行ったのに!(笑)
DVD「グンマEdition」は、何と驚きの980円! しかも100分も内容収録!
──7月27日には本作のDVDが発売されますが、本作には特別版の「グンマEdition」が用意されるそうですね。
菅野 先ほどのお話にも出てきたように、本作は「グンマ県の方に見てもらおう!」というコンセプトのもと、じゃあDVDもグンマ県の特別版を作ろうということになりました。なるべく幅広い層の方に見ていただきたいと考えております。ですが、アニメDVDの価格って通常7,000円くらいと手が出しにくい価格。じゃあアニメファン以外の方でも買える値段っていくらかなって考えたときに、DMMさんが思い切って「980円!」っておっしゃったんですよ。
──ええっ! 980円ですか? 思い切り過ぎじゃないですか?
菅野 それを委員会の席で言われたとき、場が一瞬ザワつきましたね。聞き間違いじゃないかと(笑)。
一同 (笑)
菅野 最初はさすがにマジか……って思いましたけど、やっぱりみなさんに手にとっていただきたいです。一家に1枚、公共施設には必ず置いてあることを願い、「グンマEdition」はすごくお求めやすい価格となりました。さらに、「グンマEdition」は、原作の井田先生の描き下ろしパッケージになります。気になる「グンマEdition」ですが、グンマ県内のお店のみでの販売となっております。グンマに行かないと買えないんです!
──なるほど! それはいいですね。
菅野 通常版のほうも1,980円と、驚きの価格設定にしています。
──いや、まさに驚きの価格設定! アニメのDVDとは思えません(笑)。これはみんなで買わなくてはいけませんね。
菅野 本編映像の他、映像特典が2種類つきます。ひとつは、神月紀役「梶原岳人」さんと轟二矢役「笠間淳」さんの2人がグンマに行ったことがないというので、丸2日間で、グンマを堪能していただく弾丸ツアーを行いました。その時の様子を20分の映像にまとめたものを収録しています。2つ目は、これは監督から発案があったものなんですが、全話をイッキ見できるバージョンを入れました。何と1枚のDVDにも関わらず、コンテンツが100分くらい入っているという(笑)。
──聞いたことないですよ、そんな仕様(笑)。
菅野 これで価格が1,980円。グンマに行けば980円で買えますから。何だったら、グンマまで電車で行って買ってもいいくらいです(笑)。
まんきゅう お土産に買ってもいいですしね。
──いやいや、新しいですねえ(笑)。
菅野 先ほどもありましたけど、本作を作るときにグンマ県だけで放送するということも含め、グンマ県で何か面白いことしたいねと委員会にて話しておりましたので。
──なるほど。ガチガチにローカルな作品に仕上がってるんですね(笑)。
まんきゅう それを最後まで貫き通せてよかったなと。
──これはグンマ県民はみんなで買わないといけないですね。「力合わせる200万人」で(笑)。
菅野 そうですね。200万枚売れたら結構うれしいですね!200万売れたら、第2期が!!(笑)
──最後に、読者にメッセージなどあればいただけますでしょうか。
まんきゅう まだまだ原作の魅力を伝え切れてないかなという気持ちでいるので、できることなら続編にチャレンジしたいなと思ってますので、まずは200万の県民パワーをいただけると(笑)。よろしくお願いします。
──ですね。グンマ県民はみんなでDVDを買いましょう! 今日はありがとうございました。
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