「フル尺が一番いいできなんですよ」今期の話題作「ひそねとまそたん」OP&EDテーマ、そして劇伴を手がける作曲家・岩崎太整にインタビュー!

映画やドラマ、CM等の音楽を手がける作曲家・岩崎太整さん。映画「モテキ」で第35回日本アカデミー賞 優秀音楽賞を受賞、アニメではTVアニメ「血界戦線」の音楽を手がけている。そんな彼が樋口真嗣総監督の話題作「ひそねとまそたん」を担当。今回のサウンドトラックは、これまでの作風とはまったく違うテイストの仕上がりとなっている。「ひそまそ」サウンドがどのようにできあがっていったのか。その一部始終を聞いた。


まったくのゼロからスタートした楽曲制作

──「ひそねとまそたん」の音楽を担当することになった経緯を教えてください。

岩崎太整(以下、岩崎) 結構前ですね。2年くらい前に樋口真嗣総監督から、すごくラフに相談されたんですよ。「今度お願いする件があるかも」みたいに。まだどんなものなのかもわからず、BONESさんと一緒にやるかもくらいだったかな。それからしばらく経って1年くらい前に、座組みも固まって、いよいよやることになりそうだと。岡田麿里さんとやるというのも聞いたところで、具体的な話になっていった感じですね。僕はもともと樋口総監督とは特撮映画「巨神兵東京に現わる」(2012年公開)で一緒にやっていたので、その縁故採用みたいなものなのなのかはわからないですけど(笑)。

──岩崎さんとしては、また一緒にやりたいという気持ちは持っていましたか?

岩崎 そうですね。まったく悪い印象がなかったというか、すごく音楽を大切にする人なんです。「巨神兵東京に現わる」のときもそうだったんですけど、なんなら絵のほうを変えるから音楽をちゃんと作ってくれと言う。樋口さんの音楽に対する思いってかなり強くて、音楽が成立する状態でやりたいっていう発想の持ち主なんですよ。そういう総監督ってなかなかいないし、どうしても絵が先行になることが多いんです。特にアニメーションは画作りに時間がかかるので、それはむしろ仕方ないことなんですけど、樋口さんはもともとそういうマインドを持っている方なので、その時から、またご一緒できたらいいなとは思っていました。

──絵に音を合わせてほしいという要望はよくありますからね。そうなるとそこだけじゃなくて前後も変えないといけなくなるから大変ではあるんでしょうけど。

岩崎 でもそれは全然悪いことではなくて、監督のやり方によるんです。ただそういうマインドを持っているということ自体が、音楽家からすると一緒にやってみたいと思えるというか……。こちらとしてはありがたいなと思います。

──ではオファーがあったときは、こういう物語で、こういうメッセージがあるんです、みたいな具体的なお話があったんですか?

岩崎 何もなかったです。樋口さんから説明されたことって、ほとんどないですね(笑)。

──えっ! ではどこから取りかかっていくんですか?

岩崎 1~2話くらいの脚本をもらっていたので、それだけですね。オーダー表みたいなのもなくて、散文詩みたいなのをもらったんですよ。そこにはこういう話だからこういう感情がある、くらいしか書いてなくて、あとは思ったようにやってくれと(笑)。

──え~~(驚)! オーダー表とか、何曲必要とかが普通はありますよね?

岩崎 まったくなかったですね。

──それはいっぱい働けと言われてる感じですね(笑)。

岩崎 あははは(笑)。そうですね。感じ取れってことですしね。だから自主的にメニュー表のようなものは作りましたけどね。ただ僕のやり方的には、とてもやりやすくてありがたかったです。でも最初に樋口さんとサウンドトラックいついて話したとき、板倉文さんや大村雅朗さんみたいな、80年代のシンセサウンドみたいな話だったんです。サントラを2枚渡されて、こんな感じかなぁって言われたんだけど、脚本を読んだらどうもそうはいかなくなってきちゃって、全然違うものを提出したんです。

──シンセサウンドと今のサントラが結びつかないんですけど、それで大丈夫だったのですか?

岩崎 大丈夫かどうか正直わからなかったけれど、結果的にはそのまま樋口さんに使ってもらえましたね。最初だけちょこっと聴いてもらいましたけど、デモもほとんど出してないです。

──信頼は当然あるものとして、樋口総監督としては、どんな音楽でも受け止めるようなところがあったのかもしれないですね。その他に作曲するにあたってしたことはありますか? 舞台に行ったなど。

岩崎 話をする前に、何となく取り掛からなければいけないなと思って富山県に行って、“おわら風の盆”っていうお祭りを見たんです。

──それはどういう理由で?

岩崎 そのお祭りがすごく面白くて、9月の3日間しかやらないんです。越中八尾市っていう富山県でも特殊な町並みが見られる場所があって、そこで夜通しやる祭りなんですけど、女の子が急に目の前に来て、舞うんですよね。

「ひそねとまそたん」の話を聞いたとき、巫女というキーワードはあったし、このお祭りのことは元から知っていたので、一度見に行きたいなと思ったんです。しかも18歳から20歳くらいまでの子しか参加できない踊りなどもあって。なのでこれを見たことが、自分がこの作品に関わる最初の仕事だったというか。ひそねたちも高校を卒業したくらいの女の子たちですけど、そういう、ある特殊な時期に身を捧げるようなところが、作品と重なる部分があるように感じられました。

──そのお祭りは物語とはまったく関係ないんですか?

岩崎 物語とは全然関係ないです。何となく自分がそこに同じようなマインドを感じたので、それを見に行っただけです。その年代の女の子たちが、役目を帯びて何かをするという姿を見てみたいと思ったんです。

──そこからインスピレーションを受けたところもある、みたいな。

岩崎 そう言うとカッコいいんですけど、なんとも言えないところですね(笑)。期限を切り取られた女の子たちの神々しさ、みたいなものは感じられたかなぁ。



徹底的に映像にあわせて作られた劇伴

──そこから曲を作っていくわけですが、シンセサウンドが無理となったあとはどういう曲を作っていったのですか?

岩崎 岡田麿里さんの脚本と樋口さんのイメージを聞いて、シンセサウンドは少し違うかなっていう気がして。これ、もっと本質的な物語だなって思っちゃったんですよね。樋口さんって、僕と話すとどうしてもふざけ合っちゃうから、ノリでテキトーにやろうみたいな空気になっちゃうんだけど、そうはいかないと思ったから、わりと真っ向勝負みたいなことになるかなって思いました。

──その時には、青木俊直さんのキャラクター原案はご覧になっていたんですか?

岩崎 いや、見ていないです。

──少しゆるさもあるポップな絵だと思うんですけど、驚きはありませんでした?

岩崎 それはなかったです。すんなりと受け入れられましたね。物語もしっかりしていたから、むしろこの絵がいいなって思いました。逆にすごくキレのある絵だったら、合わなかったんじゃないかなって思います。

──確かに。物語の実はシリアスな側面とかをポップにしてくれるあの絵と、本格的なオーケストラのサウンドが絶妙にマッチしていて、感動したんですよね。

岩崎 僕は劇伴屋なので、作品に合っていることが第一なんですよ。作品を追い抜くようなことはしたくないので、それをしてしまうのはよくないなぁと思うんです。だから合っていると評価いただくのが一番嬉しいです。

──2話で盗んだバイクで走り出した名緒さんのところで、すごく壮大な音楽が流れて、幾嶋博己の登場あたりから刑事モノみたいな音楽が流れ、まそたんがスネてるところはピアノ旋律のしっとりとした予告と同じメロディの曲が流れる。その展開と音楽がシンクロしてて、本当に素晴らしいなと思いました。

岩崎 樋口総監督がよく使ってくれてるんですよね。映像に曲を付けているのは樋口さんなんです。自分で選曲して当ててくれているんですよね。それを山田陽音響監督が聴いて整合性を取るという流れなので、それは樋口さんの手腕だと思うし、やっぱり音楽が好きなんですよね。

──いろんなタイプの曲はありますよね。

岩崎 それは少し意図的に作ってます。でも音楽を貼るのは樋口さんにお任せしてます。「これどう?」って聞かれるので、それには返事をしてという感じですね。

──意図してないところで使われることもあるんですか?

岩崎 いや、音楽の付けどころに対しては僕の意図は基本ないというか。こう付けてくれとか、こういうイメージみたいなものは書かないで渡しているので、お互い文字と音楽で、散文詩のやり取りをしてる感じですよね。

──感覚がわかっているからこそできるやり方ですね。

岩崎 ものすごく特殊なやり方をしてると思いますよ。でも、完全に絵に合わせて音を付けたところもあります。

──4話のOTFの飛行シーンですよね。

岩崎 はい。あそこはコンテまであったので、そこで分数を見て、調整しながら飛行機の動きに合わせて曲調が変わるような感じにしました。

──フィルムスコアリングですね。

岩崎 そうですね。TVシリーズではまずやらないことですよね。

──そうですね。逆になぜやろうと思ったんですか?

岩崎 勝手にやりました(笑)。ちょっと突っ込んだ話をすれば、アクションシーンって物語は止まるんです。お話は動かないから、音楽が主張する必要がある。ほかのシーンは物語が進んでいくので、そこの心情とか劇の感情に作用して合わせる必要があるんですけど、模擬戦はアクションシーンですから、脚本だとト書きで終わるような部分なんです。そういうところで躍動感を生むためにはテンポとか音楽が大事で、そこへの比重が大きくなるんです。そこで音楽に合ってなかったり、テンポがズレてしまったらまったく別のものに見えてしまう。それだったら音楽が合わせるべきだと個人的に思っているので、やっちゃおうと(笑)。

──そのこだわりは見ててもわかりますよね。

岩崎 やっぱり意識的であれ無意識であれ、感じられると思うんです。どんな人でも、聴けば何となくよかったな~って思っちゃうものなんですよ。だからあまり視聴者を舐めたようなことをしてはいけないと思うんです。

──では、今後もそういうシーンは?

岩崎 ありますね(笑)。

──音楽的なテイストも変わってくるんですか?

岩崎 かなり変わってきます。日本ではやらないし、日本でしかやらない。どこでもやらないようなことをやってみようかなと思っています。

──ヒント的なところももらえますか?

岩崎 雅楽(国風歌舞)です。物語に巫女的な成分があったので、そこのところで、かなり正当なものにしたかったので、所作ひとつから間違えないようなものにしていますね。

──それは岩崎さんにとっても新しい試みなんですか?

岩崎 今までやったことがないですね。雅楽って譜面もすごく特殊なものだから、本当に日本ってユニークな国だなって。雅楽について知っていくと、いろいろと思うことが多かったので、すごくいい経験でした。



OPテーマの決め手は「歌い手になりきっていないこと」だった

──5月30日には、OPテーマ「少女はあの空を渡る」とEDテーマ「Le temps de la rentrée ~恋の家路(新学期)~」のCDがリリースされますが、どちらも本当に衝撃的で、特にEDテーマがすごかった。このカバーのアイデアはどこから?

岩崎 最初僕はデュエットにしたい、1話ごとに変えたいという話をしていたんですけど、樋口さんが何かのカバーがいいねって話をしていたので、選曲は樋口さんです。でも、YouTubeを貼り付けてきて、「これどうかな?」って来ましたけど(笑)。「いいですけど、(フランス語で)歌ってくれますかね?」って聞いたら「わからない」と(笑)。

──よく歌ってくれましたよね(笑)。

岩崎 無理をしてもらっちゃいましたね。僕が一応フランス語をカタカナにしてお渡ししたんですけど、みんなすごく真面目に覚えてきてくれて。すごく練習をして来てくれました。

──ワンフレーズずつ歌ったのかな?と思いました。

岩崎 いやいやいやいや! 全然そんなことないです。皆それぞれのやり方で本当にちゃんと練習してきれくれて。黒沢ともよさん(貝崎名緒役)なんかは、カタカナのここで切るようにとか、全部メモをしていて素晴らしかったです。難しいのは重々承知でお願いしたんですけど、レコーディングはみんな思った以上に早かったです。

──河瀬茉希さん(星野絵瑠役)は、キャラソンのレコーディング自体が初めてなんですよね。

岩崎 そうなんですか! それはもうただ謝るしかない(笑)。でもすごく練習してくれていたのはわかりました。

──でも話題になったのでよかったですよね。原曲を調べて聴いたりしましたから。

岩崎 話題になったのはうれしいですね。あの原曲はフランス・ギャルの中でもマイナーな曲だから、樋口さんは本当に音楽好きなんでしょうね。

──そしてOPテーマ「少女はあの空を渡る」ですが、すごくいい曲です。

岩崎 でも、フル尺が一番いいできなんですよ。

──それは買わないといけないですね(笑)。

岩崎 オープニングも詳細のオーダーが最初なかったんですよ。誰もオープニングのことを言ってなくて、ぼんやり話していたんですけど、そのうち偉い方が来て、「オープニングやってよ」って割と軽く言われて(笑)。そんなありがたい機会があるならぜひに!と引き受けました。でも特にオーダーもなかったので、脚本と樋口さんのイメージを考えて、歌を生業にしていない女の子のボーカルがいいなと思いました。

 おわら風の盆もそうなんですけど、ある年齢の子だけが持つようなものをそのまま切り取れたらいいなとずっと思っていたんです。

──どんな曲を作ろうと思いましたか?

岩崎 ちゃんとしたオーケストラのオケで女の子が歌う主題歌って今はなかなかないなと思ったんです。それがひとつと、物語を祝福しているような曲にしたいと思いました。その時点で物語がどうなるかはわからなかったんですけど。それで曲だけ作ったあとに、岡田さんと初めてお会いする日があったんです。で、「はじめまして」と言った二言目には、「歌詞をお願いします」と、初対面で歌詞をお願いしました(笑)。

──ものすごくマッチしてますよね。

岩崎 なんのイメージも共有していなかったんです。「こちらから言うことはないんです。あなたが作っている物語なので、思うように歌詞を書いていただくのがベストです」と言ったら、あの歌詞が届いたので、もうまったく思っていた通り!というか。イメージしたままが上がってきたので、すごく驚きました。

──それは音楽の力ですね。岡田さんが音楽から感じたことと、岩崎さんが脚本を読んで感じたことが、とても近かったということでしょうね。

岩崎 脚本は1話だけだったんですけどね。なぜか祝福の歌にしたいと思ったんですよ。でも本当にズレをまったく感じなかったので、すごいなぁって思いました。

──そしてボーカルの福本莉子さんの、何のてらいもない歌声がいいんですよね。

岩崎 先ほどの歌を生業にしてない女の子ですね。たまたま友人というか同級生が、彼女のマネージャーだったんですよ。2人で飲んでいるときに、こういう子を探しているんだよねって話したら、「うちの子の歌を聴いてみてくれない?」って。「東宝シンデレラ」オーディションのグランプリになった方だったんですけど、それほど当時はまだ活動はしてないし、歌もCMで少し歌ったことがあるくらいということだったので、まずは会って、そのままカラオケに行って声を聴いて、この子でいいと決めました。

──声に魅力を感じたと?

岩崎 すごくラッキーだったのが、「歌い手」になってなかったんですよ。やっぱり歌い手になると歌が完成されてしまうので、そうなる前の人の声というか。ひそねたちDパイの女の子にそぐう感じのものになればいいなと思ったんですね。

──完成されてない感じはしますよね。

岩崎 もちろん歌もちゃんと歌えるし、上手なんですけど、歌い手にはなってないんです。それがよかったなって。今回はうまい人ではないイメージで作ったので、17歳の、その年代にしか出せない声ってやっぱりあると思いました。子供でもないし、大人の女性として完成されてもいないというところに魅力を感じたんですよね。だから途中のコーラスの女の子も杉並合唱団の高校生の女の子にお願いしたんです。その頃の声の人たちだけで編成してくださいということで。

──予告の「ラーラーララー」っていう曲も本当にいいですよね。聴くだけで感動します。

岩崎 そうですよね。あれも杉並合唱団です。その年代の女の子たちの声でやる、というのが大きいんです。彼女たちは本当にプロフェッショナルでうまいんですが、あれが大人のクワイアの人たちだったら、ああいう感じにはならないと思うんですよね。

──主題歌もそうですけど、サントラまで楽しみになります。

岩崎 皆さんお気づきかと思いますが、先週からオープニングは分岐型のものが流れております。これからも色んな曲が出てくるので、楽しみにしていてください!

(取材・文/塚越淳一)

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