アニメライターによる2018年春アニメ中間レビュー【アニメコラム】

2018年3月から4月にかけて放送・配信がスタートした春アニメは約80本。その中から注目の5作品をピックアップ。プリティーシリーズの最新作「キラッとプリ☆チャン」、動画工房制作のオリジナル作品「多田くんは恋をしない」、競走馬が美少女になった「ウマ娘 プリティーダービー」、アニメ化50周年アニバーサリーイヤーの「ゲゲゲの鬼太郎」、珍獣を追ってジャングルを彷徨う「テレビ野郎 ナナーナ」を紹介します。


キラッとプリ☆チャン

玉のようにかわいかった幼年期はとうに過ぎ去り、アイドルになる機会を逃してしまった我々にとって、少年少女たちが歌って踊るアイドルアニメはもはや他人事でしかない。だが主人公の桃山みらいが、動画サイトの「プリ☆チャン」を通して配信しているのは、素敵な花屋さんの紹介だったり、特製スイーツの美味しさだったり、アスレチックにチャレンジする姿だったりと、やろうと思えば誰もができる内容だ。彼女の番組は、面白いと感じたことを人々に伝える行為そのものが「プリ☆チャン」なのだと教えてくれる。
本作のEDテーマは「プリ☆チャン! 見て見て! 始まる!」という歌詞で締められている。作品の終わりに流れる曲としてはふさわしくないようにも思えるが、これは「今度はあなたたちがプリ☆チャンを始める番だ」というメッセージととらえるべきである。「プリ☆チャン」は誰でもアイドルになれる夢のチャンネルなのだから。



多田くんは恋をしない

アニメ「月刊少女野崎くん」のスタッフが再集結したオリジナルアニメ。カメラマンを目指す多田光良が桜の木にシャッターを合わせていたところ、突然フレームインしてきた留学生のテレサ・ワーグナーを撮ってしまう冒頭シーンが印象的だ。風景写真ばかり撮っていた多田くんのライブラリーに予期せぬポートレートが加わり、物語は急展開を迎える。
タイトルに否定形が含まれている作品は、それが本当か嘘かが焦点となる。本作であれば多田くんは恋をするのかしないのかポイントだが、第3話には「男と女は8秒目が合えば恋に落ちる」という気になるセリフが存在する。そこから冒頭を見直すと、ファインダー越しに多田くんとテレサが見つめ合うシーンは果たして何秒あったのかが気になってしまう。オリジナル作品ゆえの憶測が胸をときめかせる一作。



ウマ娘 プリティーダービー

1870年代後半、写真家のエドワード・マイブリッジは馬の連続写真を撮影し、「疾走する馬の脚は4本同時に地面から離れるのか?」という長年の疑問を解決した。まるで馬が動いているように見える連続写真は、映画の誕生に大きく寄与することになる。馬の存在は映像文化にも深く関わってきたのだ。
ゆえに馬がウマ娘に置き換わったアニメにおいて、我々の知る史実と異なる出来事が描かれるのは必然と言える。その世界ではダービーに出場しなかった馬は優勝馬と競り合い、天皇賞で故障をした馬は復帰に向けてリハビリに励むだろう。第1話の冒頭で映し出される壁画風のイラストも新たな歴史をつむぐ決意表明のように思える。ウマ娘の未来のレース結果はまだ誰にもわからない。



ゲゲゲの鬼太郎

1968年にテレビアニメの放送がスタートした「ゲゲゲの鬼太郎」も今回で6期目。鬼太郎役に沢城みゆき、目玉おやじ役に野沢雅子と実力派キャストを起用したことや、8頭身に生まれ変わったねこ娘のクールビューティーなデザインが放送前から話題に。初回では冒頭からYouTuberを思わせる動画配信者が登場。渋谷のスクランブル交差点で信号無視をしてアクセスを稼ぐという、現代の世相を取り入れた展開で視聴者の驚きを誘った。
シリーズ恒例の「幽霊電車」の回ではブラック企業の社長が餌食になったり、第9話「河童の働き方改革」では河童が「時給・きゅうり3本」という低賃金で働かせられたあげく、人間たちの尻子玉を抜きまくって反旗をひるがえしたりと、社会風刺が効いたエピソードも。本格ホラーからナンセンスなギャグまで受け入れる「鬼太郎」の懐の深さが感じられる新シリーズだ。



テレビ野郎 ナナーナ

貧乏テレビ局・テレビナナーナの撮影クルーが、幻の珍獣・キーナのスクープ映像を撮るためジャングルへ旅立つショートアニメ。テレビ東京のマスコットキャラクターであるナナナから発想を得た本作は、キャラクターがすべてバナナの姿で表現されている。伝説のお色気番組「ギルガメッシュNIGHT」や情報バラエティ「出没!アド街ック天国」など、テレ東を支えてきた人気番組のパロディもあり、独自路線を貫く同局の魅力が詰め込まれた。
メインキャストには実写のチンパンジーの吹替を務めたこともあるビビる大木をはじめ、俳優の温水洋一、芸人のつぶやきシローを起用。ゲストにはムツゴロウさんこと畑正憲や、プロレスラーの藤波辰爾が電話で出演し、ジャングルを生き抜くための知恵を教えてくれるものの、トークは次第にあらぬ方向へと脱線していく。どこからが芝居でどこからがアドリブなのかわからない不思議なかけ合いに引き込まれる一作。



(文/高橋克則)

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