「ひそねとまそたん」第10話感想:ていねいに積み上げたストーリーを、最後にひっくり返す! さすが! な岡田麿里・脚本回

10話の脚本は岡田麿里さん。これまでで一番展開が読めない回だった。1週間が待ち遠しいという意味では、最高の引きだった…。もやもや。


毎回オープニングは、いつまどわなくなるんだろうと思いながら見ているのだが、10話もまだまどったままだった。そしてやっとやってきた名緒のターン。Dパイの中で、圧倒的にまともだった名緒だが、これまでは控えで、ほとんどマツリゴトに関わることはできなかった。だがここに来てやっと自分の役割が廻ってくる。つまり10話は名緒回だった。

相変わらず小此木への思いと、まそたんへの深い愛情の間で揺れている甘粕ひそね。恋をしてるとか、恋をしたから乗れないとか、わからないと悩む。そんなひそねたちを見て、吻合(ふんごう)は言ってしまえば「OTFのヤキモチみたいなもの」と言ってしまう名緒。どうやら我々の認識は間違えていないらしい。

その後、名緒は幾嶋に相談をする。これまで幾嶋にぞっこんだったように見えたが、いつの間にかそんな感じも見せなくなっている。それを感じてかはどうかはさておき、まそたんとひそねのことを本気で心配する名緒に、幾嶋も向き合うことを決意する。ちなみに幾嶋はここで、名緒は依存体質ではないから、まそたんに乗れなかったと言っていたが、OTFへの依存こそが、Dパイになる資質であり、それこそが名緒が乗れなかった理由だとわかる。

ひそねが主人公である所以は、悩むことであり、人と違う答えを見つけ出すことができることにあると思っている。要するに型にはまらないということ。いっぽうでその対比ではないけれど、星野絵瑠は極めてまっとうな反応をする。チャラいことで知られていた財投は、絵瑠には本気(マジ)だったと見せかけておいて、絵瑠の夢のことを考えて、飯干の命令通りに絵瑠を振る選択をする。そして飯干の計画通り、絵瑠はOTFへの依存を高めていった。

いつもの居酒屋で酔いつぶれる絵瑠に、恋愛偏差値が高い人だったら、「それは本意ではないかもしれないよ」という余計な忠告のひとつでもしそうなものだが、そこはDパイ、ただただ酔いつぶれる絵瑠を見ているだけだった。そして、酔いつぶれた絵瑠と、それに付きそうひそねの元にジョアおばあさん姿の貞が登場する。そこでDパイは絶対に裏切らないOTFを裏切ってはならないと、鋭い眼光で忠告。74年前を知っているからこその言葉なのだろう。だが個人的に、世界が滅びても愛する人を守る的な選択をするのが正義という日本のアニメを見て育ってきたので、何となくもやもやする発言だった。

Bパートは小此木と棗(なつめ)の会話から。「楔女(くさびめ)に選ばれたら、何でもお願いかなえてくれる」という発言から、アバンで小此木が楔女に選んだのは、棗だったと明らかになる。そして、楔女になるために育てられてきたことも明かされる。

小此木は小此木で、決められたことを当たり前だと受け入れるのではなく、自分だけの答えを見つけているひそねに、何かしらの気持ちがあることを悟っていたように見えた。そして整備をしている小此木のもとにひそねが現れ、どさくさ紛れに思わず告白。そのまま「今ちょっといろいろ…あと少しっぽい感じになってきたので」と言って勝手に出ていくというドタバタっぷり。自分ひとりで考えて答えを出そうとするところが、とてもひそねっぽいと思った。これがひそねだよねと納得することができるのは、しっかり甘粕ひそねという人間を積み上げてきたからだろう。記号的でなく、ちゃんとした人間として描くところが、岡田麿里さんの脚本の魅力だなぁと、いつも思う。

さて、ようやく絵瑠は復活。そして熱を発散させるため名緒がDパイとしてまそたんに搭乗する。「誰よりも志は高い」という幾嶋のセリフで、これまでの名緒は救われたと思う。幾嶋が名緒に言った周りの人の支えがあって、パイロットは空を飛べるというイイ話は、人生でとても大切なことなので、若い子はメモを取って心に刻んでおくべき。こういうメッセージを込められることが、アニメのよさでもあると思う。ちなみに名緒はDパイになれなくても整備としてまそたんに触れていたし、いつも走ってたし、努力を怠ってなかったことが、放熱作戦成功の結果につながっているというのも見逃せないZO!

で、ここまで物語を積み上げていったあと、雲が晴れた顔でひそねが最後に放った言葉はーー「私…Dパイを、自衛官を辞めます!」

わからねーーー!!!と、誰もが叫んで終わった第10話。めちゃくちゃ面白かった。

(文/塚越淳一)

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