大好評公開中!「荒野のコトブキ飛行隊 完全版」をより楽しむために! 水島努監督の足跡をたどるアニメレビュー!
今、もっとも「ヒット」に近いアニメ監督のひとりである水島努監督。「クレヨンしんちゃん」劇場版、「侵略!イカ娘」など、作品名をあげれば枚挙にいとまがないが、「ガールズ&パンツァー」「SHIROBAKO」ではともに劇場版までのヒットにつなげている。
そして現在、映画「荒野のコトブキ飛行隊 完全版」が公開されており、「SHIROBAKO」に続き、同年に2作の劇場版アニメがスクリーンにかかるということにもなる。
しかも2作品とも完全オリジナルであり、両作の共通点をつまみあげると「水島努」の名前が見つけられるというわけだ。「荒野のコトブキ飛行隊 完全版」の全国劇場公開スタートに合わせ、水島努監督の足跡を駆け足で振り返りたい。
水島努監督の演出デビューは1991年のシンエイ動画時代、「美味しんぼ」第120話「ジャンボ茶碗蒸し」にて果たされた。この話数は、自己中心的な現代女性の二木輝子が初登場したが、その登場シーンなどが原作から巧みに改変されている回でもあった。その後、やはり恋愛がらみエピソードで、山岡士郎の乳母的存在である中川チヨの初登場回でもある127話「二人の花嫁候補」などを演出。
その後は演出助手として、美味しんぼTVスペシャル「日米コメ戦争」を経て、1994年からは「クレヨンしんちゃん」劇場版シリーズとTVシリーズに参加。TVシリーズでは演出のほか、絵コンテ、脚本までも手がける機会を得ているが、この時期に見てもらいたい作品としては、「クレしんパラダイス! メイド・イン・埼玉」がある。
「映画クレヨンしんちゃん 爆発!温泉わくわく大決戦」(1999年)と同時上映された、わずか12分に6本の短編が織り込まれた小品だが、そのどれもが秀作。しかも、そのうちの一編である「私のささやかな喜び -A motion for a long time.-」はミュージカル仕立てで、便秘の解消された野原みさえがその喜びを表現するときに歌い、踊り始めるのだが、そのとき歌われた「私のささやかな喜び -A motion for a long time.-」は作詞曲が水島努監督によるもの。想像がつくかもしれないが、細部にシュールさをまとっており、のちに劇中歌で名をはせる水島努監督らしさを感じる逸品である。この作品以外でも、そもそも「クレヨンしんちゃん」は、本郷みつる監督や原恵一監督、そしてのちに「光と水のダフネ」「げんしけん」「くじびきアンバランス」「ジャングルはいつもハレのちグゥ」「侵略!イカ娘」「じょしらく」で監督や、各話コンテ、演出をされた池端隆史監督とも仕事をともにした作品で、水島努監督を語るうえでは欠かせないアニメとなっている。
だが、「クレヨンしんちゃん」まではまだ息をひそめていた水島努監督のセンスが、本格的にあふれだすのは2000年代に入ってから。まず、TVシリーズの監督デビューとなった「ジャングルはいつもハレのちグゥ」(2001年)では、水島努監督作品の特徴である「音」と「間」でのこだわりがすでに強く見られる。本編でのギャグ演出にとどまらず、OP・EDで流れる楽曲、その楽曲に合わせたキャラクターアクションなどで、見る者に強い印象付けを果たしているが、そこに共通するのは「リズム感」。ギャグシーンにおいても、楽曲に合わせて踊るキャラクターたちにおいても、肉付けされた秀逸かつ巧妙なリズムは快適とさえ言える。「ジャングルはいつもハレのちグゥ」や、のちの「よんでますよ、アザゼルさん。」で魅了された者は、「水島努監督=ギャグ」というイメージを持っているだろう。
だが、2004年にシンエイ動画を退職した水島努監督は、CLAMP原作の「xxxHOLiC」(2006年)、高校野球モノの「おおきく振りかぶって」(2007)を監督。会話が重要となるシリアスストーリー漫画を見事にアニメ化したことで、「水島努監督=女性をも魅了する正統派」というイメージも獲得する。ただ、限られた話数にセリフを収めるという意味では、そのテンポ感、リズム感の本領が発揮された作品であるとも言えるだろう。
また、「おおきく振りかぶって」においては、金属バットの打球音やプロテクターに当たった音、そしてデッドボールの音など、高校野球部に出向いて実録した効果音が非常に作品に彩りを与えている。「xxxHOLiC」にしても、本編での効果音もさることながら、主題歌に採用された楽曲は、シリーズ全作でOPテーマを務めたスガシカオ、ラッパーのSEAMOなど、グルーヴを感じさせるものが多く、OPでもEDでも楽曲と映像がユニゾンされており、両作品においてもやはり「音」がポイントになっていた。実に、「音」に並々ならぬ情熱を見せる水島努監督らしい。
いっぽうで、監督は、自身のギャグ&音楽センスをいかんなく発揮できる漫画にめぐりあう。「ケメコデラックス!」(2008年)だ。そのシュールな作風は水島努監督の得意とするところであり、OP・EDテーマの作詞を監督が手がけたことは特筆に値する。
特にケメコ役の斎藤千和が歌うEDテーマ「プリップリン体操」は、詞に水島努節が炸裂、高校時代に自主映画を撮っていた監督らしく、「ソドムの市」という単語が登場するほか、映画監督の「パゾリーニ」「ピエール」、思想家の「ジグムント」、政治家の「ジョージ」「サルコジ」、ケメコの「精神分析」「夢判断」という声に入る合いの手は「口唇期!」「エディプス王!」といったように、奇作となっている。
また、音楽に入れ込んだギャグセンスはまぎれもなく、のちの「ガールズ&パンツァー」の「あんこう音頭」、そして「SHIROBAKO」の「エンゼル体操」へ連なる系譜の祖としてとらえられる。これらの楽曲に付けられた独特な踊りは、どれも水島努監督の発案によるもので、歌詞とともに狂気を感じさせる出来となっている。このような監督のがんばりによって、このあたりから水島努監督作品では二次創作物、つまり、劇中歌やキャラクターソングを収めたサウンドトラックの質と量についても見逃せなくなってくる時期でもあった。
2010年代は、「ガールズ&パンツァー」、「SHIROBAKO」というオリジナルアニメを連続でヒットさせた時代だが、その合間に手がけた作品も「よんでますよ、アザゼルさん。」(2011年) 、「BLOOD-C」(2011年)、「Another」(2012年)、「じょしらく」(2012年)と、いずれ劣らぬ怪作ばかり。ここに水島努監督のすごさがある。「よんでますよ、アザゼルさん。」は代表作のひとつにもあげられるほど、いい意味で「ひどい」作品で、原作が持つ最低に下品な下ネタを映像規制という高い壁にひるむことなく、エログロスカトロ満載でアニメ化してみせた。
特に第2期「よんでますよ、アザゼルさん。Z」の第9話に登場した、ギャグボールをつけた悪魔サルガタナス(金田朋子)と、その契約者である変人48面相(三木眞一郎)はその極み。それまでも「声優のむだづかい」が有名な水島努監督だったが、金田朋子には実際にギャグボールをつけて演技してもらう、三木眞一郎には「まんが日本昔ばなし」EDテーマ風だが、歌詞がひどすぎる劇中歌「変なうた」を歌わせる(変人48面相が踊る振付もひどい)、という行為に走り、視聴者からの喝さいを浴びた。「変なうた」の作詞は当然、水島努監督自身である。
どうしてもモザイク、打ち消し音が入りまくった映像になっているが、DVD/BDを見ていただくと実はもっとひどいことがわかるので、確認してもらいたい。
実は、「よんでますよ、アザゼルさん。」に関しては、第4巻単行本の特別限定BOXについてきたアニメDVDから手がけており、こちらもチェックしてもらいたいところだ。
他方、「BLOOD-C」「Another」は、過剰な流血表現を見せた前者に、画面から得も言われぬ感覚が漂う後者と、タイプは違うが、現代を象徴するような「恐怖作品」のひとつ。だが、この新たなジャンルでも手腕を発揮したことで、水島努監督に死角なし、と思わせた。むしろ、先の「よんでますよ、アザゼルさん。」、エロとバイオレンスで満ちた傑作「監獄学園」(2015年)と合わせて、「水島努監督=過激表現・暴力表現」というイメージを抱いた者も多いだろう。
だが同時期に、女子落語を扱ったアニメ(ではあるが落語シーン自体は少ない)「じょしらく」を手がけている点も忘れてはいけない。監督作品のジャンルが多岐にわたり、水島努監督がノリにノッていることがわかったが、その中でも「じょしらく」は水島努監督が持つリズム感・テンポ感という意味の結晶ともいうべき作品であった。5人の女子落語家が楽屋を中心にまったりと会話を続けるが、それでいてテンポがいい。アニメオリジナルのBパートでは、寄席をはじめとする東京都内の名所を5人が巡る様子が描かれたが、さまざまなシチュエーションで話し、動く場面は映画的であるとすら言える。
もうひとつ、水島努監督を語るうえで見ておきたいのは「侵略!イカ娘」である。本作ではギャグが散りばめてはいるが、純然たるストーリーも同居したコメディ作品で、シュールさや過激さが売りでもなかった。「楽しい」「かわいい」作品として作り込まれたことが、確実にアニメ版の評価を高めている。
そして、自身初の完全オリジナルアニメであった「ガールズ&パンツァー」、監督が取り上げてみたかったジャンルという、アニメ業界モノの「SHIROBAKO」である。両作ともオリジナルであり、劇場版まで展開されるほどのヒットにつなげたことで、水島努監督の名声はゆるぎないものになったと言えよう。
だが、確実にヒットさせる、という過剰なイメージは監督にとって必ずしも好ましいものとは限らない。しかも、水島努監督の多彩なジャンルで作品を昇華させてきたという経歴が、どんなジャンルを渡されても成功に導いてくれるのではないかという期待を強固にする。売上なり、世間での盛り上がりなり、無論必要なところではあるが、作品外の要素が足かせのようにまとわりつき、意識させられるのはクリエイターとしてつらいところであろう。
しかし、それでも負けずに水島努監督が自我を発揮させたのが「荒野のコトブキ飛行隊」ではないだろうか。3DCGという条件の下にスタートした本作は、女性パイロットたちを主人公に、架空の世界でレシプロ戦闘機が戦闘を繰り広げる。当初は、空版あるいは戦闘機版「ガールズ&パンツァー」を思わせたものだが、空戦により比重を置き、コックピット視点が非常に多くなることで、主人公キリエをはじめとしたコトブキ飛行隊が戦闘機で繰り出しても、意外にも画面上で女子が苦悶し、安堵し、歓喜する様子は少ない。
しかも、ゲストキャラクターたちにまでまんべんなくスポットが当てられ、さらに女子要素が減じられているため、ガールズアニメでありながら硬派な印象を与えられる。ここまで幾度となく述べてきた、テンポ感、リズム感に関しても、戦闘機によるドッグファイトに発揮され、緩にも急にも偏らず、ゆったりとしながらもスピード感のある高密度のアニメーションが展開されているが、これは言い換えれば、キャラクター性の転化でもある。
つまり、多岐にわたる水島努監督作品で共通点を見いだすとするならば、そのひとつとしてキャラクター性があげられる。キャラクターを魅力的に描写するための心地よいテンポ感であり、「間」であり、逸脱した表現であった。
だが、「荒野のコトブキ飛行隊」では戦闘機にキャラクター性を付加し、登場人物たちを描くように戦闘機が描かれている。画面から響く「音」もそのひとつであり、戦闘機が個性を見せるよう、発進する際の音、戦闘機が被弾する音、プロペラが空気を切り裂く音に注力し、見せ場を作っている。この点に関しては実際に劇場で、特にMX4Dシートで鑑賞したことでその魅力を十二分に味わうことができた。
ある種、水島努監督にとって「荒野のコトブキ飛行隊」は、当然のことながらこれまでの延長線上にある作品でありながら、革新的、挑戦的な作品でもあるということだ。
しかも、『「大空の風」になれる映像体験! 9月11日公開「荒野のコトブキ飛行隊 完全版」MX4D先行体験&プログラマーインタビュー!』でも述べたように、MX4Dを意識した画面作りまで感じられるとなれば、「荒野のコトブキ飛行隊 完全版」は体験しておきたい作品であることは間違いない。
本作を鑑賞したうえで、水島努監督という存在を、現代日本アニメーションシーンにおけるポジションの中で感じながら語り合ってもらいたい。
(文/清水耕司)
【作品情報】
■「荒野のコトブキ飛行隊 完全版」
公開日:2020年9月11日(金)
配給:バンダイナムコアーツ、ショウゲート
宣伝:クロックワークス
<スタッフ>
監督・音響監督:水島努/シリーズ構成:横手美智子/脚本:横手美智子 吉野弘幸 檜垣亮/メインキャラクター原案:左/キャラクターデザイン:菅井翔 /ミリタリー監修:二宮茂幸/ミリタリー設定:中野哲也 菊地秀行 時浜次郎/設定協力:白土晴一/3D 監督:江川久志/テクニカルディレクター:水 橋啓太/総作画監督:中村統子/美術監督:小倉一男/色彩設計:山上愛子/撮影監督:篠崎亨/編集:吉武将人/音楽:浜口史郎/音響効果:小山恭 正/サウンドミキサー:山口貴之/エンディング主題歌:コトブキ飛行隊「翼を持つ者たち」/制作:デジタル・フロンティア/アニメーション制作: GEMBA/作画制作:ワオワールド
<キャスト>
キリエ:鈴代紗弓
エンマ:幸村恵理
ケイト:仲谷明香
レオナ:瀬戸麻沙美
ザラ:山村響
チカ:富田美憂
マダム・ルゥルゥ:矢島晶子
サネアツ:藤原啓治
アンナ:吉岡美咲
マリア:岡咲美保
アディ:島袋美由利
ベティ:古賀葵
シンディ:川井田夏海
ナツオ:大久保瑠美
ジョニー:上田燿司
リリコ:東山奈央
<イントロダクション>
一面荒野が広がる世界、“イジツ”――。 ある日、空に“穴”が空き、そこから色々なものが降ってきた。中でも“ユーハング”がもたらしたものの影響は大きく、とりわけ飛行機の存在によって 人々の生活は激変。以降、世界の潮流は空へと移っていった。 時は流れ――、空には商船とその用心棒、荒くれ者の空賊など、さまざまな人々が飛び交っていた。オウニ商会の雇われ用心棒“コトブキ飛行隊”は、空 を飛ぶことが大好きな、女の子だけのスゴ腕パイロット集団。 彼女たちは愛機である隼一型とともに、イジツ全体を巻き込む大きな戦いへと立ち向かっていく――。
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