多層人格の殺し屋、不可視の脅威・笑う顔、型破りで哲学めいた物語……ゲームキューブタイトルきっての怪作「killer7」【思い出ゲームレビュー第1回】

筆者が過去に遊んだゲームの中でもオススメの作品を紹介する企画。記念すべき第1回では、2005年にゲームキューブで発売され(のちにプレイステーション2版が登場)、現在はSteamで配信中のアクションアドベンチャー「killer7」を取り上げる。(文中の操作方法はSteam版準拠)

8つの人格を持つ暗殺部隊「スミス同盟」



本作の主人公は、8つの「多層人格」を持つ暗殺部隊「スミス同盟」。「神殺し」とうたわれる盟主ハーマン・スミスのもと、ガルシアン・スミスと呼ばれる男が6名の人格を率い、実行部隊「killer7」として、アメリカ政府の依頼次第であらゆる対象を殺害する。



「多層人格」というのは本作独自の言葉で、ひとつの身体の中に複数の人格が存在する多重人格と違い、多層人格は切り替わると性格だけでなく姿も変わる。ガルシアン・スミスを筆頭に、ダン・スミス、カエデ・スミス、ケヴィン・スミス、コヨーテ・スミス、コン・スミス、マスク・ド・スミスの7人を切り替えながら物語を進めていく。



物語はミッションごとに分かれている。ミッション中、各ステージを移動できる場所は決まっていて、プレイヤーは決められた道を行き来しつつ、さまざまな敵を倒したり、謎を解いたりしていく。敵として現れる「笑う顔(ヘヴンスマイル)」は、人をベースにした生体兵器で、透明であり、人間を見つけると近寄り自爆する。

厄介ではあるが、一定の距離内にいるヘヴンスマイルは、右クリックを押すことで索敵・視覚化することができる。視認できるようになったヘヴンスマイルには必ず黄色い腫瘍のようなものが浮かび上がり、そこを攻撃すると一撃で倒せる。なお、本作には「敢闘」と「死闘」と呼ばれる難易度があり、「敢闘」モードであれば、右クリックを押した際に近くにいるヘヴンスマイルの弱点に自動で照準を合わせてくれるので、とてもやりやすい。



ヘヴンスマイルを生み出している男、クン・ラン。神の化身であり、ハーマン・スミスにとっての宿敵。2人は敵対するいっぽうで、なごやかに会話したり、チェスに興じる一幕も


仮に外しても、右クリックを押し直せば再び照準を合わせられるので、左クリックによる銃撃と、右クリックによる自動照準を交互にやれば、ほとんど苦戦することはないだろう。

弱点を攻撃すれば自身の回復やステータスの強化に欠かせない「血」も手に入り、一石二鳥だ。各種ステージには謎解きのギミックも用意されているが、ヒントをくれるお助けキャラもいるので、詰まることもない。戦闘も謎解きも遊びやすさを考慮されている。作風は硬派だが、その作りはとてもやさしい。


画面左上の目は体力ゲージを表している


操作している人格が倒されると、現場に生首が残り、人格は自動でガルシアン・スミスに変更される。生首を回収すれば、対象を復活させられる。実質無限にリトライできるわけだが、ガルシアンがやられるとゲームオーバーになるため、そこは注意しなくてはならない。



前例のない独創的な世界観



「killer7」の真髄(しんずい)は、その物語や世界観にある。多層人格を持つハーマン・スミスとは何者なのか? スミス同盟とは何なのか? クン・ランはなぜヘヴンスマイルを生み出し、ハーマンと敵対するのか? 本作を遊んでいくと、さまざまな疑問が浮かんでくる。

高校生のときに本作のゲームキューブ版に触れて以来、Steam版で最近配信されたと聞いて私もさっそく遊んでみたものの……全容はさっぱりわからない。大人になって少なからず知見が広まったために、考えなくてはならない要素が昔より増えた気さえする。やはりと言うべきか、難解と名高い本作の物語は、テレビアニメで言うなら1話完結型、小説で言う連作短編集なのだ。


ハーマン・スミスの忠実な下僕、イワザル。プレイヤーに攻略のヒントなどをくれる。拘束具に赤の全身タイツ、おまけに猿轡(さるぐつわ)をくわえている。縫い留められた両目も痛々しいが、あまりに衝撃的な姿のせいで忘れがち


プロローグ「天使」では、ハーマン・スミス率いるスミス同盟のことや、彼らが対峙するクン・ラン、ヘヴンスマイルなどが明らかになる。「殺(と)る」などに代表される独特のふり仮名や、暗示や比喩が込められた言い回しなどのケレン味たっぷりの演出を見て、プレイヤーは「かっこいいな」、「なんだか壮大な戦いみたいだ」などと思う。

だが、続く第一話「落日」では、日本に突如として放たれた200発もの弾道ミサイルを合衆国が迎撃するべきかという話が出てくる。日本と合衆国は安全保障条約を結んでいるが、戦後復興を成し遂げた日本は、今や支援国家というには過ぎた力を持ち、さらにトオル・フクシマ総裁率いる与党・国連会は合衆国に対して強硬策を持ち出している。条約に従い日本を守るか、あるいは見捨てて脅威を排除するか。政治的駆け引きが水面下で行われる中、「killer7」は合衆国政府の依頼で、トオル・フクシマ総裁を暗殺する……すべて作中の内容だ。

第二話「雲男」では起業家を名乗る男、アンドレイ・ウルメイダが自分を殺すよう「killer7」を挑発する。軽口を叩くウルメイダの人格や、道中に登場する敵にはコメディ的な要素が多く、第一話とは対照的だ。第三話「邂逅」ではスミス同盟の構成員であるダン・スミスに焦点を置き、彼の師匠との対決が描かれるほか、一般人の虐殺や子どもの誘拐、臓器売買といった過酷な描写も確認できる。


第二話「雲男」。筆者がいちばん好きな章だ


物語のネタバレを多少なりとも書いたはずだが、果たしてネタバレになっているのか怪しい。回収される伏線もあるが、物語で重要な要素のほとんどは最後まで曖昧なままだ。導入の「天使」→政治的要素の強い「落日」→コメディタッチな「雲男」→師弟の因縁や残虐描写を描く「邂逅」という例があるように、構成される話には明確なテーマが確立されていて、直接的なつながりは薄い。「killer7」というひとつの作品の中には、各話が多層人格のように重なっている。それらを、現実をモチーフにした世界や、ハーマンたち「スミス同盟」がつないでいるのだ。プレイヤーはその世界に触れても、ほとんどを自身の推理や考察で補う必要がある。だが後の展開を知ったうえで2周目を遊ぶと、解き明かすよりも浮き出る疑問のほうが多い。当然疑問は尽きず、2歩進んだはずが、3歩戻っていたこともある。だがそこが本作の醍醐味だ。好みは分かれるだろうが、気に入れば病みつきになる。



思い返せば、2019年には、ゲームであれば効率化されるはずの「移動」という要素に焦点をあてた「デス・ストランディング」や、後出しじゃんけんになりがちな「死にゲー」に自分から攻め立てる意味を与えた「SEKIRO: SHADOWS DIE TWICE」といった傑作が登場した。両作品のみならず、多くのタイトルは、「オープンワールド」や「アクション」といった大きなジャンルの流れを汲み、派生していく。ビデオゲームが生まれて半世紀以上が経つ現在でも、発売されるソフトの源流を遡っていけば、「テトリス」や「スーパーマリオブラザーズ」、「ドンキーコング」といった大元に辿り着くはずだ。だが「killer7」には大元が見当たらない。ビデオゲームの歴史に、点として存在している。類を見ない作家性の塊を、いったい何と比べられるのだろうか。



「killer7」の脚本やデザイン、ディレクターを務めた須田剛一さんいわく、本作は自分が用意した脚本の3分の1しか使われなかったという。カルト的人気を誇る作品として紹介されることも多いが、それは全体像が見えていないだけで、本来の「killer7」は王道ものなのかもしれない。そして、須田さんは、すべての脚本を取り入れた完全版「killer7」の開発についても言及している。本作の権利はカプコンが保有しているため実現するかはわからないが、ひとりのゲーマーとして気長に待ちたい。


(文・夏無内好)


【作品情報】

■killer7

ジャンル:多層人格アクションアドベンチャー

対応機種:Steam

価格:2,525円(税込)

配信日:現在配信中

開発:グラスホッパー・マニファクチュア

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