「ゲームギアミクロ」発売記念! セガ愛とこだわりが詰まった珠玉のアイテム誕生秘話! コンテンツ統括・奥成洋輔氏ロングインタビュー!
昨年発売され、大きな反響を呼んだ「メガドライブミニ」に続いて、一体どんなミニゲームハードが出てくるのか──そんなゲームファンの予想が渦巻く中、セガより発表されたのが「ゲームギアミクロ」であった。
メガドライブと同時期に展開したセガ唯一の携帯ハードとして愛された、1990年発売のハード「ゲームギア」がミクロ化。その開発経緯を、「メガドライブミニ」企画にも携わり、本商品のキーパーソンでもある、セガの奥成洋輔さんにお話をうかがった。
「ゲームギアミクロ」開発のために部署も異動!
──まずはゲームギアミクロの企画立ち上げのきっかけから教えてください。
奥成 2020年はセガ設立60周年にあたるということで「GO SEGA」というキャッチコピーの元でいろいろな企画を展開しています。そこで各部署がセガの60周年をどう祝うかアイデアを出し合っていた中で、イベントやセガストアで販売する商品の企画・制作をしている営業部の物販チームで出た企画が「ゲームギアミクロ」になります。
──ゲームハードを開発する部署というよりかは、グッズ制作をしている部署で立ち上がった企画だったんですね。
奥成 そうですね。ちなみにゲームギアは1990年に発売されたので2020年は30周年にあたるんです。ということでセガの60周年にゲームギアの30周年をお祝いするにはどんな企画がいいだろうということになり、普段のグッズ的なものでありながら実際に遊べるミニチュア的なマスコットを作ったらどうかということになったんです。
特に「メガドライブミニ」がセガファンの方に好評だったのもあって、「ゲームギアミクロ」というミニチュア企画も受け入れてくれるのではないかな、ということで企画がスタートしました。
──しかし、奥成さんは「ゲームギアミクロ」の企画が立ちあがった「営業部」の所属ではなかったそうですが……。
奥成 そうなんです。ちなみにメガドライブミニは私にとってはイレギュラーな業務だったんですが、それが終わって元の部署に戻って仕事をしていたところに「ゲームギアミクロの企画が立ち上がっているので、また奥成の知恵を拝借したい」と言われて、「そういった企画であればノリノリでやりますよ!」と返事をしていたのですが、気がついたら「奥成、4月から営業部に異動ね」と言われまして、本格的に関わることになったんです(笑)。
──ゲームギアミクロに関わるために、部署異動までしたんですか!
奥成 とは言え、異動前から作業は始まっていましたけど。ゲームギアミクロの開発自体は、2019年から進んでいまして、発表した時点ではすでに開発は終わっていましたしね。やはり、製造に半年近くはかかるので。開発当時は「PCエンジンmini」(コナミ)の情報を横目にゲームギアミクロの準備を進めていました(笑)。
──そういえば以前、奥成さんは「今後、セガがミニハードを作る予定はありません」って言ってましたね。
奥成 そう言いながらも「ミニじゃなくてゲームギア“ミクロ”なら作っているし、アストロシティミニをセガトイズは開発しているんだけどね……」なんて思っていました(笑)。
──さて、ちょっと話が逸れるのですが奥成さんといえば、メガドライブ好きという印象を持っているセガファンも多いと思うのですが、そこへきてゲームギアとの関わりはどうなんだろうという興味があります。ユーザー時代の、ゲームギアとの関わりについてお聞きしたいです。
奥成 ゲームギアがリリースされた時、僕は大学生だったんですけど、当時の家庭用ハードではメガドライブをメインに遊んでいて、ゲームギア自体には実はほとんど触れたことがなかったんです。ちゃんとゲームギアに触れたのは、その後、大学を卒業して1994年にセガに入社した時です。
──それは意外です!
奥成 ちょうどそれと前後する頃に「シャイニング・フォース」シリーズの続きがプレイできるならゲームギアも遊びたいな、とは思っていたんですよ。ただ、やっぱりゲームギアって主にメガドライブよりも低年齢層がターゲットのハードだったので、積極的に遊ぼうとは思いませんでしたね。それに学生の頃って使えるお金も限られているし、どのハードに注力するかってなった時に、僕が選んだのはメガドライブだったんですよ。社員になってから遅れた分を取り返すようにプレイしました。
RPGの文字が読めるならこの画面サイズでもOKとなった
──ゲームギアミクロの実物を見て思ったのは「予想以上に小さい!」でした。そのサイズ感から、いろいろな試行錯誤があったとうかがえました。
奥成 さきほどの話にあったように、ゲームギアミクロってゲームハードというよりはグッズとしての企画コンセプトなんですね。サイズに関しては小さくしようと思えばまだまだ小さくすることができると思うのですが、実際に遊ぶことができる操作性やゲーム画面のサイズをギリギリまで追求した結果、今のサイズに落ち着きました。ちなみにハード開発は「メガドライブミニ」と同じセガトイズが担当し、セガが監修しています。
──先ほど遊ばせてもらいましたが、小さいながらもゲームのプレイを始めてしまえば没入してしまって、あまりサイズ感が気にならなくなりました。
奥成 ありがとうございます。ハード設計に関しては完全なミニチュアにしてしまうと、本当ならば各種ボタンなどはもっと小さくあるべきなんです。でも遊ぶことを優先した結果、ボタンは大きくしデフォルメしてあります。
──奥成さんが、初めて決定版サイズのゲームギアミクロを遊んでみた時の感想はどうでしたか?
奥成 当初は開発中のハード内にテストプログラムとして「ドラゴンクリスタル」の画面を表示させてみたんですが、「普通に読めるじゃん!」って思いましたね。RPGなど文字を読む必要があるゲームだとどうだろうという話は出ていたのですが、「この画面サイズで『ドラゴンクリスタル』の文字が読めるのなら、ほかのRPGを入れても大丈夫だね」ってなったんです。
──「ラストバイブル」も「シャイニング・フォース外伝」も、しっかり文字が読めました。
奥成 「ビッグウィンドーミクロ」(後述する4色同時購入特典)を付ければ、さらに読みやすくなりますよ(笑)。
──ハード構成の面で、奥成さんの要望にはどのようなものがありましたか?
奥成 まずオリジナルにもあったヘッドホン端子は当初の計画になかったので絶対付けてほしいと指示しましたね。それからACアダプターの代わりにUSBでの電源供給を可能にしてほしいとうことですね。部屋で電源付けっ放しのまま遊びたいって方もいると思いますし。
──ちなみにゲームギアミクロは単4電池を2本入れることで電源不要で使用できるようになっていますが、電池だけで何時間くらい連続使用できるのでしょうか。
奥成 これが、実際のゲームギアとほぼ同じか少し長い約3時間くらいなんです(笑)。
一同 (爆笑)
奥成 ただ、温度やサウンドボリュームの大きさ、輝度の高さなどで多少時間が変わると思います。「電池で動く」っていうゲームギアらしさを残したかったというのはあります。
「アウトラン」プレイ動画
「ソニック&テイルス」プレイ動画
二転三転した収録タイトルと収録構成
──収録ソフトの選定についてなんですが、これはどのように決めていったのでしょうか。
奥成 企画初期段階では1台に1タイトルのみ収録される仕様だったんです。たとえば「ソニック・ザ・ヘッジホッグ」が入ったものだったら、電源を入れると「ソニック」が立ち上がるという。で、たくさん集めてコレクションしてねっていう趣向だったんです。
──まさにゲームグッズというか、アクセサリー的なアイテムという考え方ですね。
奥成 そうなんです。それらをたくさん集めてコレクションするのは楽しいと思うのですが、価格が4,980円前後くらいになることがわかってからは、その価格でゲーム1本しか遊べないとなると、一般のゲームファンの方はせいぜい1台しか買わないんじゃないかなと思ったんです。それで何タイトル入っていたら複数台買ってもらえるかな、と考えた時に4タイトル入っていれば納得してもらえるんじゃないかということで、最終的に決まりました。
──収録タイトルが決まるまでも、いろいろと変更があったんだろうなぁというのがうかがえます。
奥成 もちろん、いろいろと試行錯誤があったんですが、初期は「ソニック」シリーズだけを入れたブルー、「ぷよぷよ」シリーズだけを入れたブラック、みたいにシリーズでまとめるアイデアもあったんです。でもそれだと、たとえば電車で「ソニック」を遊んでいて、ほかのゲームをやりたいってなった時に、カバンから別色のミクロを出して電池も入れ替えてってなるとちょっと面倒ですよね。そうならないように1台にいろいろなジャンルのゲームを入れたほうがいいのでは、ということで最終的な収録タイトルが決まりました。
──とは言え、イエローの収録タイトルだけがちょっと特殊に感じます。
奥成 イエローに収録している「シャイニング・フォース外伝」に関しては「シャイニング・フォース外伝 ~遠征・邪神の国へ~」と「シャイニング・フォース外伝II ~邪神の覚醒~」が前後編になっていることもあり、「シャイニング・フォース外伝 ファイナルコンフリクト」を含む3部作を1台にまとめました。実は4タイトル収録が決まる前に、1台に3作収録という段階があって、その時はこの3タイトルのみだったんです。
でも、ギリギリ4タイトル収録できるってなった時に改めてタイトルをシャッフルしたりして、「シャイニング・フォース外伝」シリーズの入ったイエローには箸休め的に遊べる「なぞぷよ アルルのルー」を入れるのがいいかな、ということでこの4タイトルに決まりました。……それにイエローといえばカレーかなって(笑)。
──戦隊モノで黄色担当はカレーが好きっていう定番ネタもありますしね(笑)。
奥成 アラフィフ以上じゃないとわからないネタが(笑)。ちなみに収録タイトルを決める時は、アーケード移植タイトルで組むかとか、当時の人気タイトルや、「ニンテンドー3DS」のバーチャルコンソールで配信したタイトルの人気タイトルとか、さまざまなデータを多角的に判断して選びました。それこそ過去と現在と世間的な評判を加味していって決めています。
──そうした中で収録したかったものの、実現できなかったタイトルもあったかと思うのですが……。
奥成 もちろん悩ましいタイトルは多数ありましたが、その中で特に残念だったのは「ペンゴ」ですね。「ペンゴ」はゲームギアのロンチタイトルだったので、記念碑的な意味でも入れたかったのですが、メインBGMに使用している「ポップコーン」(ガーション・キングスレイが1969年に発表した楽曲。シンセサイザーを使った電子音楽の先駆けとして知られる)の使用許諾が取れなかったんです。BGMを差し替えるという案もあったのですが、それだと「ペンゴ」の美学に反するかなと思いまして。海外版ゲームギアの「ペンゴ」だと別のBGMが鳴っているのでそっちを収録するかという話も出たんですが、僕個人としては「ペンゴ」では「ポップコーン」が鳴っていてほしいな、ということもあり、今回は泣く泣く収録から外しました。
──「ペンゴ」は確かに収録されたら嬉しいユーザーは多かったかもしれませんが、BGMはオリジナルのほうが嬉しいですし、そこが変わるくらいなら……っていうのは多くのファンも共感する部分かもしれませんね。
一部のゲームではミクロ用に作った新仕様も搭載
──今回、収録されているタイトルはほとんどセガのタイトルのみになっていますが、他社さんのタイトルを収録するというアイデアはなかったのでしょうか。
奥成 今回はあくまでセガ60周年企画の一環での企画だったので、それはなかったですね。今回の展開がいったん終わった後で、別企画として、例えばタイトーさんやナムコさんのタイトルだけを収録したゲームギアミクロの企画ができたらいいなあ、と個人的には思っています。
──そういう意味で言うとアトラスさんの「女神転生外伝 ラストバイブル」と「女神転生外伝 ラストバイブルスペシャル」の2本はちょっと異色のタイトルになりますね。
奥成 確かにそう思われると思います。しかしアトラスさんはセガの60周年の歴史を語るうえで、大事なメーカーでもあります。そこで、今回の機会に収録してみたいと思っていたタイトルなんです。ゲームギア版ソフトの開発や発売自体は当時セガがやっていましたし。実はニンテンドー3DSのバーチャルコンソールでゲームギア版の「ラストバイブル」を出したいって思っていたことがあるのですが、その時は実現できずに終わってしまったんです。あの時実現できなかったことを今回実現できた、という意味もあります。
──そうだったんですか。一般的には「ラストバイブル」はゲームボーイ版でプレイした方が多いと思うので今回ゲームギア版の「ラストバイブル」が収録されるというのは意外な選定だな、と思いました。
奥成 実は今回の「ラストバイブル」の2本にはこだわりがあるんです。オリジナル版は今遊ぶとなかなか難易度が高いこともあり、「ラストバイブル」は経験値とお金が通常の3倍入り、「ラストバイブルスペシャル」は、それぞれ2倍入る仕様になっている「イージーバージョン」を搭載しました。今、昔の難易度の高いRPGを時間かけて遊ぶのは辛いと思う人も多いだろうということで、サクサク進んでもらって手軽に遊んでほしいと思い、オリジナル版とは別ソフトというかたちで収録されています。
──これは嬉しい仕様ですね。自分も買ったらイージーモードで遊ぼうと思います(笑)。ちなみにほかのRPG&SLG系タイトルでは「シルヴァンテイル」と「ロイアル・ストーン~開かれし時の扉~」の2本は、なかなか通好みのタイトルだなと感じました。
奥成 ニンテンドー3DSのバーチャルコンソールで「シャダムクルセイダー」と「アーリエル」をリリースしたのですが、2本とも思ったよりも反響が薄かったんです。当時、反響がよければ「シルヴァンテイル」と「ロイアル・ストーン」もバーチャルコンソールでリリースしたかったタイトルだったのですが、実現することができなくて。ということで、「ラストバイブル」同様に当時実現できなかったことをゲームギアミクロで実現できたタイトルということになりますね。
「ロイアル・ストーン」プレイ動画
──過去の実績などがあったうえで、いろいろなものが繋がって選定されたタイトルだったんですね。
奥成 そうなんです。ちなみに「ロイアル・ストーン」は今回の収録タイトルの中では知名度が低いのですが、実は当時の専門誌である「BEEP!メガドライブ」から「SEGA SATURN MAGAZINE」にかけて掲載していた、ゲームギアの人気タイトルに点数を付ける「読者レース」という企画がありまして、その企画の最終回で1位を取ったタイトルだったんです。というエピソードもあり、当時のゲームギアユーザーが最後に1位に選んだタイトルを、ゲームギアの色で最も知られているブラックに入れようということにしました。
(編注……「BEEP!メガドライブ」は1989年に、前身の雑誌「Beep」からリニューアルする形で創刊したメガドライブ専門誌。全タイトルを読者に採点させ、平均点のランキングを掲載する「BEメガ読者レース」は雑誌の看板企画として好評を博した。1994年にセガサターン専門誌「SEGA SATURN MAGAZINE」にリニューアル。その後、「Dreamcast Magazine」「ドリマガ」「ゲーマガ」とリニューアルを続け、2012年に休刊する。出版社はSBクリエイティブ)
──「ラストバイブル」以外にオリジナルのものに手を加えた例というのはありますか?
奥成 他には「ぷよぷよ通」かな。オリジナル版は通信対戦ができたんですが、今回のミクロ版ではできなくなってるんです。モードを選ぶ画面がもともとは4種だったので4分割だったのですが、今回対戦ができないということでモードが2つ減ってしまうんですね。それだと寂しいということで、モードを2種の仕様で画面を新規に作り直しています。
さらにその時にデータを解析していたら、使われていないカーバンクルの「目パチ」グラフィックが入っているということがわかり、それを復活させて使用しています。
なので、「ぷよぷよ通」のメニュー画面はコンパイルさんが当時作ろうとしていたものなんだけど、実際に公開されるのは今回が初めてになります。
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