「このダグラムは……僕のぜんぶだ!」 主人公とロボットの深すぎる信頼関係を「太陽の牙ダグラム」から読みとる【懐かしアニメ回顧録第71回】
筆者の連載企画【80年代B級アニメプラモ博物誌】では今月、1981年から1年半にわたって放送された「太陽の牙ダグラム」のプラモデルを取り上げている。そこでこのコーナーでは、アニメ番組としての「ダグラム」の魅力を語ってみたい。
「ダグラム」には、“コンバットアーマー”と呼ばれるロボット兵器が多数登場する。タイトルになっている「ダグラム」は反政府ゲリラのコンバットアーマーで、主人公クリンが乗り込む。政府軍の新型コンバットアーマーが次々と登場してはダグラムに挑み、苦戦しつつもダグラムが勝利する……と、ロボットアニメ物のパターンを踏襲してはいるが、そのストーリー構造は独特だ。毎回、ダグラムと敵のコンバットアーマーが戦いを繰り広げる裏で、主人公クリンの父親ドナン・カシム(地球連邦評議会の議長)をはじめとする大人たちの政略が同時進行で描かれるのだ。
「ストーリーが難解で、映像的には地味で泥臭い」という評価が多いような気がするが、はたして本当にそうなのだろうか? 最終回付近のドラマ展開を見てみよう。
無言のクリンの顔に落ちる、ダグラムの巨大な“影”
第70話「武装解除」で、地球連邦政府と植民惑星デロイアのあいだで協定が結ばれ、デロイアは地球からの独立を果たす。主人公クリンの所属するゲリラ組織“太陽の牙”は独立派なので、もう彼らが戦いつづける理由はない。クリンの目の前で、武装解除したダグラムは新政府軍によって運び去られる。
続く第71話「粉飾の凱旋パレード」で、ダグラムはデロイア独立記念パレードに借り出され、勇ましいポーズをとったまま、トレーラーで大通りを運ばれる。カメラがダグラムにズームインすると、誰も座っていないコクピットが映される。操縦者であったクリンは、沿道で人々に混じって、無人のダグラムを見つめている。パレードを見ていた子どもが「ダグラムー!」と駆け寄ろうとするが、子どもは警備兵に止められる。クリンは思わず身を乗り出すが、“太陽の牙”のリーダー、ロッキーがクリンを引き戻す。「クリン。ダグラムはもう、俺たちから遠く離れていっちまったような気がするな……」。クリンは、目の前を過ぎるダグラムを無言で見上げる。クリンの顔のアップに、ダグラムの巨体が影を落とす。
メンバーたちは「(ダグラムは)しょせんは機械なのね」「私は単なる機械とは思いませんよ」と感想を述べ合うが、クリンはハリボテのように扱われているダグラムについて、何も言わない。しかし、ダグラムの巨体は、まるで問いかけるようにクリンの顔に大きな影を落とした。クリンは、愛機であるダグラムをどう思っているのだろう? その沈黙の答えは、最終回(第75話)「燃えつきたあとに」で聞くことができる。
クリンに落ちたダグラムの“影”が、今度は仲間たちみんなを包む
クリンたち“太陽の牙”は、惑星デロイアの独立が表面的なもので、世論をごまかすために新政府がダグラムを議事堂前に飾ろうとしていると聞いて、戦闘の継続を決意する。ダグラムを奪い返した“太陽の牙”だが、地球連邦軍の大部隊を相手に少人数で戦わねばならず、独立運動の指導者であるサマリン博士を失って、追いつめられる。
ところが、事態は一転する。デロイア新政府が地球連邦の内政干渉に激怒し、治安軍を出動させて戦闘を止めたのだ。その政治的判断の結果、あわや壊滅と思われた“太陽の牙”は命拾いして、今度こそ本当に戦闘は終わった。
「終わったな」「終わったんですね、何もかも」と、7人のメンバーたちは自分の持っていた銃を地面に捨てる。すると、どこか煮え切らない態度の彼らのうえに、ダグラムの巨大な影が落ちる。第71話で、ダグラムの影が落ちたのはクリンただひとりだった。今度は、“太陽の牙”全員が、ダグラムの影に包み込まれるのである。いわばダグラムは、クリンだけでなく、仲間たちみんなに問いを投げかけている。
ダグラムのコクピットから顔を出したクリンは、「僕はイヤだ!」と意外なことを叫ぶ。「ダグラムを渡すのはイヤだ」という、呼びかけとも宣言ともつかないクリンの言葉に、リーダーのロッキーはとまどう。少し長くなるが、クリンの台詞を以下に引用しよう。
「ダグラムをこのまま渡すのだけはイヤだ。このダグラムは……、このダグラムは……、僕のぜんぶだ! 僕の体で、僕の牙で、僕の心で……、一緒に泣いて、一緒に走って、一緒に歩いてきた。デロイアでの僕のすべてなんだ! ダグラムをこのまま渡しちゃったら、この先、一歩も進めない。僕は、この手でダグラムと別れる」。
そこまで言うと、クリンはダグラムのコクピットに戻って、砂漠の向こうへダグラムを歩かせる。ロッキーは「クリンの言うとおりだ。自分の落とし前ぐらい、自分でつけようぜ」と仲間に呼びかける。クリンはみずからの意志でダグラムを破壊し、その炎の中に“太陽の牙”の面々は自分の銃を投げ捨てる。彼らを監視していた自治軍の兵士たちは、燃え落ちるダグラムの勇姿に敬礼する。
クリンの長い台詞のあいだ、「僕のぜんぶだ」「僕の体で」「僕の牙で」「僕の心で」「一緒に泣いて」「一緒に走って」「一緒に歩いてきた」、カメラはひと言ずつ別々のアングルからクリンの顔をとらえる。長い長い戦いの中でのクリンの喜怒哀楽を限られた台詞の間に焼きつけようとするなら、たくさんのアングルから撮らざるを得ない。激しいカットワークが、クリンの煮えたぎるような想いをストレートに伝える。そして、この熱い台詞こそが、第71話での「しょせんは機械なのね」「私は単なる機械とは思いませんよ」というやりとりへの、クリンからの回答だ。
有名な“朽ち果てたダグラム”の姿が、最終回でガラリと趣きを変える
「ダグラム」第1話は、主役ロボットであるダグラムが砂漠の中で残骸と化している、衝撃的なビジュアルで幕をあけた。最終話も、やはり同じようにダグラムの残骸で終わる。オープニングとエンディングを呼応させる作劇を「ブックエンド方式」と呼ぶが、同じシーンに見えて、実はナレーションが決定的に違っている。最終話のナレーションは、こうだ。
「鉄の腕では萎え、鉄の足は力を失い、埋もれた砲は二度と火を噴くことはない。狼も死んだ。獅子も死んだ。
だが、砂漠の太陽にさらされながら、巨人は確信していた。若者は今日も生き、若者は今日も走っている、と。(“太陽の牙”メンバーたちが互いの名前を呼び合う声) 巨人は、若者の声を聞いた。吹きわたる砂漠の風の中に、確かに聞いた」。
第1話のナレーションから「鉄の戦士は死んだのだ」「心に牙を持つものは、すべていってしまった」など、ネガティブな言葉が消えている。代わりに、クリンが「僕のすべて」と呼んだダグラム自身が彼らのことをどう感じていたのか、物語の最後に書き加えられているのである。ダグラムだけでなく、1年半をかけて製作者たちもクリンたちの声を「確かに聞いた」からだろう。
(文/廣田恵介)
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