天高くアニメファンも肥ゆる秋……? 思わずお腹がグ~と鳴る「飯テロアニメ」まとめ6選!【アキバ総研ライターが選ぶ、アニメ三昧セレクション 第7回】
今回のテーマは「料理アニメ」である。コロナ禍が少しずつ落ち着いてきた「風」に見えてはいても、東京ではいまだ新規陽性者が毎日100も200も報告され、予断を許さない状況ということで、諸手をあげては外食を楽しめない。だったらせめてアニメの中では思う存分舌鼓を打とう、アニメと食事という二大快楽を味わうことで欝々とした空気を吹き飛ばそう、という思いをこのテーマに込めたい。
というよりも「食欲の秋」なので。「天高く馬肥ゆる秋」、あるいは「秋刀魚が出ると按摩が引っ込む」、あるいは「柿が赤くなると医者が青くなる」と言われるほどに、秋は滋養に満ちた美食が出てくる季節。この時期にふさわしいテーマはこれであろう。数々の料理と、それらが登場するさまざまなアニメを振り返りつつ、究極かつ至高となる料理アニメを紹介したい。
2020年秋期の放映アニメを見ると、残念ながら「料理」がテーマとなったアニメ作品はほとんどない。数少ない中から紹介するひとつが、タイトルに「駄菓子」と入った「ふしぎ駄菓子屋 銭天堂」だ。
原作は児童文学の人気作で、ふしぎなふしぎな駄菓子屋へ幸運にも迷い込んだ少年少女が、そこで出会った駄菓子によってさらにふしぎな体験をするという話。食べると人魚のように泳げる「片ぬき人魚グミ」、箱から出すと動き出す「猛獣ビスケット」、半分だけ食べると家におばけが出る「ホーンテッドアイス」と、どれも非常に魅力的な商品であり、また、子供向けアニメのイメージが強い東映アニメーションらしく、登場人物たちもふしぎな食べ物をおいしそうに口にする。老若男女問わず、ぜひ見てほしい作品ではあるが、「料理」という少し主旨から異なってくるので今回はここまで。
2020秋アニメの中でもうひとつ、食事がキーポイントとなっている作品が「ゴールデンカムイ」だ。今期、唯一「グルメ」をキャッチコピーに謳っている作品でもある。グルメの前に「狩猟」と付き、ほかに「冒険」「歴史」「文化」「浪漫」などもキャッチコピーに並ぶ、「和風闇鍋ウエスタン」作品ではあるが。
また、本作で食欲が刺激されるかというと微妙なところで、ジビエや山菜が中心なだけに、のどには唾液とともに苦みも浮かんでくる。特に、リスやウサギの脳みそ、シカの肝臓を生で食べるところはどうも……。
また食事シーンはギャグをともなう物語の「アクセント」となっていることが多く、精緻に料理が描き込まれている原作とは違い、アニメの描写は肉汁多め、やわらかめでこってりとしたジブリ系の作画とも言える。
とはいえ、登場キャラクターたちにとってアイヌ料理の通過儀礼となっている「チタタプ」(たたき)や、食の宝庫である北海道が舞台らしくさまざまな食材で作られるそれぞれの「オハウ」(汁、鍋)は見ているだけで体が温まりそうだ。「釣りキチ三平」でその名を知らしめたイトウも登場し、肉厚な身、焼くとやわらかくなるという皮は味わってはみたい(が、両手で持つほどの目玉を生でしゃぶるのは勘弁)。ちなみに、「ゴールデンカムイ」の食事シーンといえば、「ラッコ鍋」で名高い第二十話を取り上げたくなるが、グルメ回ではないので割愛する。ただし、小林親弘さん(杉元佐一役)、伊藤健太郎さん(白石由竹役)、細谷佳正さん(谷垣源次郎役)、津田健次郎さん(尾形百之助役)、てらそままさきさん(キロランケ役)による、むせかえるような漢(おとこ)臭たっぷりの演技が必聴な話数ではある。
第3期となる今期で描かれるのは原作の「樺太編」以降で、実は料理シーンがグッと減ってしまう。それでも、樺太に住むウイルタ民族によるシロ(山トナカイ)料理や、ボルシチといったロシア料理など、普段見聞きすることのない北方の地方料理が登場するので、描写には大いに期待したい。
前述のように、残念ながら2020秋アニメのラインアップに「料理アニメ」は名を連ねなかったが、近年、料理アニメ・グルメアニメは人気ジャンルと化している。
その流れをたどれば、青年漫画系列での「孤独のグルメ」「深夜食堂」、少女漫画系列での「花のズボラ飯」「きのう何食べた?」「いつかティファニーで朝食を」といった作品のヒットがあげられる。これらの作品からグルメ・料理が漫画シーンにおいて隆盛になり、そののち、この流れを受けてアニメ作品でもグルメ・料理を題材とした作品が次々と登場した。その中でもターニングポイントとなった作品をひとつあげるとするならば、2015年冬にアニメ化された「幸腹グラフィティ」であろう。
本作では、シリーズ全体で描かれる料理のクオリティを安定化させるため、「メシデザイン/メシ作監」という役職が用意された。担当は、それまでもシャフトで料理シーンを多く担当していた伊藤良明さん。「幸腹グラフィティ」は毎話さまざまな料理が登場するため、現場スタッフによる個性をならすために設置されたという。
本作では、色が違う部分ごとにレイヤーを作り、それぞれで処理を施してもいた。そのため、伊藤さんがメシ作監として設定を起こし、作画のリードは取っていても、「幸腹グラフィティ」の料理は、色彩設計や撮影監督とも多くの試行錯誤によるものではあり、その結果、新房昭之監督からも評価を得られた、深みや奥行きのある料理であった。その蓄積が同じシャフト制作の「3月のライオン」などでも発揮されている。
料理専門の作画監督も増え、近年では料理アニメに限らずとも、アニメ内の料理シーンで作画レベルが高くなっている。アニメ自体のクオリティアップに比べ、料理や食事シーンの描写は特に注力されていると感じることも多いだろう。
ただし、アニメである以上、彩度の高い、照りのある表現になる傾向はある。宣伝写真や食品サンプルも同様であるが、五感で味わう料理を視覚と聴覚のみで表現しなければならないため、鮮やかな色合いになっている。また、液体に関しても粘度が高くなりがちだ。その色味という点で、他作品と一線を画しているのが「衛宮さんちの今日のごはん」ではないだろうか。
「Fate」シリーズの一作であり、「stay night」「Zero」などで描かれた「冬木市」を舞台とし、見知った登場人物たちで描かれる本作。
主人公である衛宮士郎が調理した料理を通じてセイバーや、凛や桜たちが交流を深めていく……という内容で、ゆったりとした、日常アニメ感あふれる作品であるが、BG(背景美術)の色味が抑えられ、作品世界が全体的に淡く渋い印象を与えている。彩度の高いアニメ作品が多い中で、非常に穏やかな空気感をまとった作品であると強く印象付けられる。これは同時に、他の「Fate」シリーズ作品が持つ、ダークで血生臭いイメージとの大きなギャップも生み、本作の独特のポジションを確立することにも寄与している。
逆に、士郎による調理やその料理がポイントとなる作品だけに、料理のカラーから全体の色彩設計が決定された可能性もあるが、料理にリアルな質感を求めることが作品の世界観と一致したことで、前述したような誇張された料理ではない表現が可能となった。
登場する料理は、ランサーが働く魚屋でお得にゲットした鮭を使った「鮭のホイル焼き」や、亀裂を入れてから2、3度揚げるという意外なポイントが印象的な「冷めてもおいしいから揚げ」など、庶民的な献立ばかりなので、視聴後の幸福感が心地いい作品となっている。
精緻な作画でも鮮やかな色合いではない例をほかにも探れば、日本食らしい色味を持って料理が画面に溶け込んでいる細田守監督作品があげられる。そちらは、最新作「未来のミライ」で確かめてもらいたい。
画面上で「おいしさ」を表現する方法として、料理自体の作画や色彩ではなく、演出を駆使する方法もある。「異世界居酒屋~古都アイテーリアの居酒屋のぶ~」では、食事する際の擬音に細工を施した。
まず、食事中の擬音が画面上に表される際に、その文字表現と料理を合わせてみた。ビールの「シュワー」という文字の中には発泡を描き、お通しの枝豆をほおばる際の「ぷちっ」が緑で丸みを帯びた文字に。そして、きゅうりの一本漬けを食べる擬音の文字はふち取りを濃い緑に、内側には薄緑の模様を描いた。デザイン的な発想で、むしろ料理を誇張して表現する方法である。
料理に合わせて作られた擬音を見て、おいしさが伝わってくるわけではないが、視覚と聴覚を同時に刺激する、面白い演出方法である。また、料理シーンを見ても、唐揚げにレモンの果汁をかけるとき、レモンの皮を下にしているなど、料理アニメとしても細やかな面が見られる。
ただ、料理を表現する手段、という意味では、料理の描写だけではなく、調理や食材の紹介、そして食事シーンを含め、どういった人物が、どういった場所、どういった心境の中で食べるか……。料理のおいしさを表すためには、料理が登場するシーン全体で考える必要があるのは言うまでもない。
たとえば、「まんが日本昔ばなし」や世界名作劇場シリーズといった作品で描かれる食事シーンは、簡素な作画や描写ではあっても、キャラクターの食べ方や表情という点で繊細な演出が施されており、その料理は視聴者を惹きつけてやまなかった。近作を見ても、「ヴァイオレット・エヴァーガーデン」はもちろん料理アニメではないが、食事シーンがしばしば登場し、そこではヴァイオレットや登場人物の内面をうかがわせる表現のひとつになっていて、キャラクター造形に定評のある京都アニメーションがその手腕を発揮していた。
そもそも、生活のごく一部が切り取られるアニメにおいて、「食事」は「日常」を表現する代表的な手段である。宇宙で戦闘したり、魔界で冒険したり、はたまた、社会の中で乗り越えるべき障害に直面したり、非日常を生きるキャラクターたちを、血の通った共感できる存在まで落とし込むために、食事や入浴、睡眠といった日常シーンは有効である。
そういった、「非」非日常シーンの中でも特にキャラクターが素の顔を出す場として描かれるのが食事シーンである。
そのため、食事シーンをていねいに描くことはキャラクターをていねいに描くことであり、それによって食事シーンも深みを帯びてくる。その点では、料理アニメとしては究極かつ至高の存在こそが「ミスター味っ子」であった。
この作品は原作コミックが1986年、「週刊少年マガジン」(講談社)にて連載を開始し、1983年に連載開始の「美味しんぼ」、1985年に連載を開始した「ザ・シェフ」や「クッキングパパ」と同じく、料理漫画勃興期の作品のひとつ。
アニメ化は、「美味しんぼ」(1988年)よりもひと足早い1987年に実現。1990年には、「アニメディア」(学研)、「ジ・アニメ」(近代映画社)、「マイアニメ」(秋田書店)、「月刊OUT」(みのり書房)、「アニメック」(ラポート)などの5アニメ誌が共同主催し、手塚治虫が実行委員長を務めた日本アニメ大賞の、TVアニメーションにおける最優秀賞であるアトム賞を受賞している。美味であることを表現する際の、ファンタジックな描写で今も伝説的な作品であるが、このように、アニメとしても評価の高い佳作であった。
では、なぜ「ミスター味っ子」が究極かつ至高の料理アニメであるか。本作は当初全25話で放映終了予定だったが、25話単位での放送延長を3度受け、最終的に99話まで放送されることとなった。そのため、アニメでは原作と異なるエンディングが用意されたのだが、全99話の総決算として、「料理」とは?、「おいしい」とは?、という問いかけに、ある本質を突いてもいる。
「ミスター味っ子」の登場人物で、作品の象徴ともいえるのが、料理のおいしさをもっとも派手に表現してみせる村田源二郎──通称「味皇」だ。彼は、美食を追求する料理人の会「味皇料理会」を束ねる存在で、味への真摯な態度や、料理に対する深い愛情が、美味に出会ったときの過度な表現につながっていた。そんな味皇だが、アニメではある事件をきっかけに記憶を喪失してしまい、最終回近くの数話は、味皇の記憶を取り戻そうと周囲の人々が料理を作っては食べさせるストーリーとなっていた。
最終的に、味皇に記憶を取り戻させたのは、味皇料理会の一流料理人たちではなく、やはり、主人公である味吉陽一の「ある料理」だったわけだが、その最終話付近の数話は、まさに料理の神髄をとらえたものだった。それは、料理の作画や、シーンの演出だけで言及するものではなく、99話という話数を重ねてきた物語の締めくくりとして、「おいしい料理」を描き切るというものだった。
そこには、「おいしさ」とは、食べる人それぞれの背景に由来せざるを得ず、絶対的な基準で語りえるものだろうか、主観でこそ語られるものではないか、という問いかけがあり、料理アニメにおけるおいしさの表現にも通じる。この、感動的かつ意味深なフィナーレを導いたのが、鬼才・今川泰宏監督であるが、実は放映にあたって削ったものの、当初は次のようなセリフを味吉陽一の母・法子に用意していたという。
「母さんもむかし、熱を出した時におバアちゃんに料理を作ってもらったことがあるのよ。その時の味はよく覚えていないけれど、本当においしかったの。母さん、いまでもあの時の料理を食べてみたいと思うことがあるのよ」(「ミスター味っ子 うまいぞーBOOK」より引用)
「原作」となるコミックをアニメ化するうえで、脚本でアニメならではの物語を、演出でアニメならではの表現を盛り込み、料理漫画をヒューマンドラマへと昇華させた「ミスター味っ子」は、原作つき作品の「アニメ化」の意義を示した作品であるが、料理アニメにおけるひとつの回答を見せてくれた作品でもあった。
(文/清水耕司)
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