【コラム】読めば「鬼滅」がより深く楽しめる! 大ヒット中の『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』を手がけるアニメーション制作会社「ufotable」のこれまでを振り返る!

2020年10月16日に劇場公開され、最初の週末に342万人を動員する記録的な初動となった『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』。その制作を担当したのがアニメーション制作会社・ufotableだ。

ufotableは2019年のTVアニメ「鬼滅の刃」でもアニメーション制作を担当。そのTVアニメのラストから直接つながる原作屈指の人気エピソードが、今回公開された劇場版で描かれる「無限列車編」だ。本作でも圧倒的なクオリティを見せるufotableとはどんな会社なのか、今回はこれまでの歩みを振り返ってみよう。

ufotableの起ち上げとターニングポイント

ufotableは2000年に設立。2003年にはTVアニメ「住めば都のコスモス荘 すっとこ大戦ドッコイダー」で、初の元受け制作を担当、2005年のTVアニメ「フタコイ オルタナティブ」や2007年放送のオリジナル企画TVアニメ「がくえんゆーとぴあ まなびストレート!」が初期代表作とされることが多い。比較的ライトでコミカルな作風が多かった時期だ。

転機のきっかけとなったのが2005年放送の「フタコイ オルタナティブ」だ。「双恋(フタコイ)」シリーズは、6組の双子との恋愛模様を描く「電撃G's magazine」の読者参加企画「双恋」が原作。前年(2004年)にテレコム・アニメーションフィルムが制作したTVアニメ第1弾「双恋」が、原作の内容に比較的忠実な双子ラブコメ作品だったのに対し、TVアニメ企画第2弾となる「フタコイ オルタナティブ」では、6組の双子から白鐘姉妹を大きくフィーチャー。主人公に21歳の探偵を据え、スラップスティックで無軌道なオリジナル色の強い作品を作り上げた。同作のオープニング映像では6組の双子が圧巻のバトルアクションを繰り広げるが、この映像が本編とはほぼ関係ない遊びでしかないのが本作のありようを端的に示している。

第9回文化庁メディア芸術祭で審査委員会推薦作品となった「フタコイ オルタナティブ」。この作品に目を止めたのが、後にufotableとタッグを組むアニプレックスの岩上敦宏プロデューサー(現株式会社アニプレックス代表取締役執行役員社長)だった。岩上氏の提案により、「TYPE-MOON× ufotable プロジェクト」が始動。その第1弾となったのが劇場版「空の境界」シリーズだ。

「空の境界」は、「月姫」「Fate/stay night」シリーズの原作者・TYPE-MOONの奈須きのこが1998年にWEBサイトに掲載した小説が原作。映画版は全7章に及ぶ長編伝奇小説を、7本+終章、8本の劇場長編アニメーション作品に仕上げるという途方もないプロジェクトだ。この難題に、ufotableは8本の劇場版アニメのすべてに別の監督をたてるという鬼策を講じる。

制作会社としてのufotableは、撮影・CGを担当するデジタル映像部や、企画や制作進行・シナリオ制作を担当する制作部など、映像制作に携わるほぼすべてのパートを社内に持っているのが大きな特徴だ。脚本、演出、作画、背景、3DCGなどの工程を社内で連携しながら完結させることができる体制だからこそ、独立した作品として分割した「空の境界」シリーズを別ラインで動かしながら、ひとつの壮大なシリーズ作品として結実させることができたといえるだろう。「空の境界」シリーズで撮影監督を務めた寺尾優一氏は、「鬼滅の刃」シリーズにも撮影監督として参加。TVアニメ「鬼滅の刃」終盤、全てをCGで構成した「無限城」を縦横無尽に駆け回る超絶シーンは、寺尾氏が絵コンテから参加することで実現されている。

劇場版「空の境界」連作は、2010年12月18日公開の「終章/空の境界」をもって無事完結した(2013年には「俯瞰風景3D」「未来福音」が新たに制作されている )。

忘れてならないのは劇場版アニメ「空の境界」の主題歌プロジェクトのために結成されたユニットがKalafinaであり、音楽を担当したのが梶浦由記だったことだ。「鬼滅の刃」では梶浦氏と、「桜の温度」「テイルズ オブ ゼスティリア」シリーズ、「ゴッドイーター」シリーズなどでufotable作品に参加した椎名豪が連名で音楽を担当している。「鬼滅の刃」は音楽の面でもufotableが紡いできた作品の歴史の集大成と言えるだろう。

ufotableはバンダイナムコゲームス作品にも深く関わっており、ゲーム「ゴッドイーター」シリーズやゲーム「テイルズ オブ」シリーズの作中アニメーション制作を手がけたほか、2007年~2011年にリリースされたOVA「テイルズ オブ シンフォニア THE ANIMATION」シリーズ、2015年~2016年に放送されたTVアニメ「GOD EATER」、2016年~2017年に放送されたTVアニメ「テイルズ オブ ゼスティリア ザ クロス」でもアニメーション制作を担当している。

アニメ「鬼滅の刃」シリーズでは、「テイルズ オブ」シリーズを一貫して手がけてきた外崎春雄監督とキャラクターデザイン・松島晃がコンビを組んでいる。

「TYPE-MOON× ufotable プロジェクト」から「鬼滅」への道程

2011年、「TYPE-MOON× ufotable プロジェクト」第2弾として制作されたもうひとつの運命の作品が、TVアニメ「Fate/Zero」だった。同作はTYPE-MOONの代表作である「Fate/stay night」の前日譚、10年前の世界をニトロプラスの鬼才・虚淵玄がスピンオフ小説として書き下ろした作品。血と硝煙の臭いが濃厚なハードなテイストが特徴だ。TVアニメ版は2011年10月から12月、2012年4月から6月までの分割2クールで制作された。

「Fate/Zero」の監督は『劇場版 空の境界「俯瞰風景」』のあおきえいが担当。音楽・梶浦由記、アニメーション制作・ufotableで「空の境界」の制作体制を引き継いだ形だ。そして「Fate/Zero」でオープニング主題歌「oath sign」を歌唱して大ブレイクしたのがLiSAであり、「oath sign」は彼女のソロ名義でのファーストシングルとなった。現在のLiSAが国民的シンガーのひとりとなり、「鬼滅の刃」主題歌「紅蓮華」「炎」で記録的なヒットを飛ばしていることはもはや説明不要だろう。

「Fate/Zero」の大ヒット後、ufotableはTVアニメ「Fate/stay night[Unlimited Blade Works]」(「TYPE-MOON× ufotable プロジェクト」第3弾)、そして劇場アニメ「劇場版 Fate/stay night [Heaven's Feel]」三部作(「TYPE-MOON× ufotable プロジェクト」第4弾)の制作を担当している。いずれの作品もファンの圧倒的な支持を受けており、劇場アニメ「劇場版 Fate/stay night [Heaven's Feel]」三部作は、全3章の累計興行収入が50億円を突破している。

「空の境界」からはじまる「TYPE-MOON× ufotable プロジェクト」に共通しているのは、原作が持つ壮大で緻密な世界観と超常的な戦いの描写、時に血なまぐさく昏い(くらい)空気感といった小説ならではの要素、映像化不可能と思われた作品の数々をアニメーションならではの映像として現出させてきたことだ。

ufotableといえばTYPE-MOON作品というイメージが強かっただけに、週刊少年ジャンプの看板作品である「鬼滅の刃」のアニメーション制作を手がけることには当初驚きもあった。しかし、作品の物語や魅力に寄り添ってこだわり抜いた映像を作り出す姿勢や、3DCGを効果的に用いたバトルアクションといった同社の強みが「鬼滅の刃」にぴったりであったことはもはや説明不要だろう。社内での一貫した制作体制と連携のノウハウを蓄積し、不可能を可能にしてきたufotableという会社が、「鬼滅の刃」という映像化困難な、時代を代表する作品の制作に携わったことは、必然と言えるかもしれない。

今回公開された劇場版で描かれる「無限列車編」は原作屈指の人気エピソードであり、鬼殺隊の中でもトップクラスの実力を誇る炎柱・煉獄杏寿郎のかっこよさや生き様が鮮烈に描かれる。列車という閉鎖空間の中で、炭治郎たちがどんな激闘を繰り広げるのか。TVアニメ「鬼滅の刃」を最高のクオリティで作り上げたアニメ制作チームが、劇場アニメというフィールドでどんな作品を提示したのか、ぜひ劇場で見届けてもらいたい。

(文/中里キリ)

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