「サビは声が本当に砕け散るようなイメージで」富田美憂、秋アニメ「無能なナナ」OPテーマ「Broken Sky」インタビュー
声優、そして昨年末からはアーティストとしても活躍している富田美憂さん。オフィシャルサイト掲載のインタビューなどを見ても、さまざまなことを考えながら活動をしていることがわかると思う。
今回のインタビューでは、TVアニメ「無能なナナ」のOPテーマである3rdシングル「Broken Sky」についての話を聞きつつ、普段彼女がどんなことを考えながら。アーティスト活動をしているのかも聞いた。
自分らしさをいかに出して発信できるか──それをどう見つけてもらうかが課題
ーー2020年10月18日には「EJ ANIME MUSIC FESTIVAL 2020」(以下、EJAMフェス)に出演されましたが、ライブをしてみていかがでしたか?
富田 私、いつもそこまで緊張しないタイプなんですけど、この日はオンラインライブだし、「Broken Sky」も初披露で、久々にソロアーティスト名義で歌うということもあって、ずっと緊張していたんです。でも、実際にステージに立ってみたら、目の前にお客さんはいなかったんですけど、ファンの皆さんの熱気が伝わってくるような気がして、アニソンの力ってすごいんだなと思いました。
鈴木愛奈さんは歳も近くて仲もいいんですけど、(ライブを見て)こんなにすごい人がいるんだなって思ったし、内田真礼さんはやっぱり圧巻のライブだったなとモニターを見てても思いました。それに、自分ひとりのライブではないということにも刺激をたくさん受けましたね。
ーー富田さんのステージでは、新曲「Broken Sky」を歌っていましたが、目線や目つきまで意識している感じがして、富田さんだからこそのパフォーマンスだったと思いました。曲ごとに表現方法を考えたりはするのですか?
富田 それは考えています。富田美憂らしさを軸に置きつつ、曲の雰囲気もそれぞれ違うので、1曲ごとに違う表情を見せられたら私も楽しいし、見ている人もきっと楽しいだろうなと思いながら歌わせていただいています。
ーー表現の仕方もすごく多彩で、とても魅力的なステージでした。「EJAMフェス」の第2回の開催が決定するなど、エンタメ業界も徐々に息を吹き返し始めた感がありますが、今後のエンタメ界について、思うことや考えたことはありますか?
富田 ライブは目の前にお客さんがいないと成り立たないと思っていたんです。ライブって自分たちだけが作るものではなく、何よりお客さんがいて成り立つものだと思っていたので。でも、「EJAMフェス」で、お客さんが目の前にいなくても熱気がこちらに伝わってくるという感覚を実際に体感しましたし、東京に来られない人もたくさんいることを考えると、オンラインライブも新しいライブの形なのかなと思いました。
しかも、オンラインライブなら誰でも最前のどセンターにいる気持ちになれるんですよね。そのメリットを考えると、今後コロナが落ち着いてライブができるようになっても、実際にお客さんを入れてのライブと、もうひとつの形として、オンラインライブというコンテンツがあってもいいのではないかと思いました。
ーーお客さんを入れて、なおかつ配信というハイブリッドもいいですよね。
富田 それもいいと思います!
ーーこれから5G時代になっていけば、画質も音もさらによくなるでしょうし、見ていてネックなのは双方向のところなので、タイムラグなども少なくなれば、さらにいいですよね。
富田 そうですね! 新しいライブの形がこの期間を経てできあがっているなぁっていうのは、やっている側も感じています。
「あっ、助けてあげたいな」と思うような危うさが、サビで出たらいい曲になる
ーー「Broken Sky」は、TVアニメ「無能なナナ」OPテーマですが、1stシングルに続くタイアップ曲になります。
富田 このタイアップが決まったのが、2ndシングル「翼と告白」よりも前だったので、デビューシングル「Present Moment」がアニメのOPテーマ(※TVアニメ「放課後さいころ倶楽部」)だったのに、こんなに早く次のタイアップをいただけたことが、まずは嬉しかったです。
OPテーマって、作品の最初に流れるものだから、そこで興味を引けるか引けないかのシビアな問題もあると思うんです。作品を知らなくても、たまたまテレビを付けて流れていたOPテーマがカッコいいから見ようと思う人も少なからずいるくらい、OPって作品の大事な要素のひとつなので、その分プレッシャーとか、完璧にやらなきゃという気持ちは自分の中にありました。
それでまず、原作を読んだんですけど、原作がとにかく面白くて! いち読者として、ファンになりました。そうやって自分の中で世界観ができあがった状態でのレコーディングだったので、じっくり楽曲を自分の中に落とし込むことができたのかなと思っています。
ーー楽曲を受け取ったときの、第一印象はいかがでしたか?
富田 歌詞は仮のものだったんですけど、これまでと色が違った楽曲でしたし、「無能なナナ」の世界観に、なんてピッタリの曲なんだ!と思いました。この素敵なオケをどうやって自分の歌声で味付けをしていこうかなと考えると、すごくワクワクしましたね。
ーー歌詞は、作品に寄り添ったものでしたね。
富田 「無能なナナ」の作品自体、ナナちゃんが無能力者なので孤立した存在なんです。歌詞を見てみると、どこか孤立感、孤独感を感じるものだったので、ナナちゃんの心情にすごく合っていると思います。
私はアフレコ前に、どういうプランで演じようかと考えることがすごく好きなんですけど、レコーディングでもそれは同じで、本番までに、楽曲について考える時間がすごく好きなんです。移動中もその曲のことをずっと考えているくらいなので、素敵な歌詞、素敵な曲をいただけて嬉しかったですし、私の歌でよくも悪くもなってしまうから、責任重大だなって思っていました。
ーー「Broken Sky」は、タイアップ曲なので、自分の心境ともまた違うものだと思いますが、どうアプローチしていったのですか?
富田 「Present Moment」や「翼と告白」は心情的なことを歌っていて、デビューに向けての気持ちや夢とか目標、あとはファンの方への気持ちというのを全面に出して歌っていたので、歌詞と自分の気持ちがリンクしているところを探す作業をしたんですけど、今回の曲に関しては、歌詞から感じた孤独感を声の端々に出すためにどうしたらいいのかをすごく考えました。その結果、少し客観的に曲を見るというか、楽曲に寄り添いすぎない感じがいいんだろうなと思いました。だから、あえて無機質に歌ってみたりはしましたね。
ーーあえて感情的になりすぎない歌い方をした?
富田 そうですね。あとタイトルに“Broken”という言葉が入っていて、サビで音が突き抜ける感じが印象的だったので、今までの曲で出してきた、伸びやかなフレッシュに弾ける感じとは違う、声が本当に砕け散るようなイメージでサビを歌ったら合うんじゃないかと思ったので、声の伸ばし方も今までとは違うアプローチをしています。
ーー〈無能な僕は 残酷〉から始まるサビ頭の表現も、すごく印象的でした。
富田 いい意味でちょっと荒々しく、雑にならない程度に。あえて台詞っぽくやってみたり、叫びっぽくやってみたりしました。すごくカッコいい曲なんですけど、聴いた人が、「あっ、助けてあげたいな」と思うような危うさが、ここで出たらいい曲になると思ったので、きれいに歌いすぎない意識はすごくありましたね。
ーーアニメのOP映像にもぴったり合っていましたね。
富田 1話のアニメの最後に流れるところとか最高でしたね! 演出がよすぎて、歌っている本人なんですけど、客観的に見て、すごくいいOPって思いました!
ーーこの曲は、すでにライブで歌っていますが、ライブとレコーディングでの歌い方の違いはありますか?
富田 この曲に限らずですが、音源は、いいところを使ってもらっているので、よくて当たり前なんです。でもライブは生でパフォーマンスをしているから、ライブで「あれ?」ってなるのはもったいないと思うんですよね。それで、どうやったらライブもいいなと思ってもらえるかを考えたときに、歌をうまく歌うことだけではないと思ったんです。
実際にいろいろなライブを見て、歌が圧倒的にうまいのも魅力的なんですけど、歌だけではなく、歌っている表情がいいとか、ユニットの仲のよさがいい!とか。テクニック的なところだけではなく、歌っている人の人間性や内側から出てくるものがライブに影響すると思ったので、きれいに歌おう、うまく歌おうという意識は、あまりしていないかもしれません。それよりもパッション、自分の中にある気持ちを音に乗せて発信することによって、聴いている側は心が動くのではないかなって思っています。
「インソムニア・マーメイド」を聴いて、本当に富田美憂か?と思っていただけたらいいなって
ーーカップリングの「インソムニア・マーメイド」はバラード曲ですが、これは自分の中でチャレンジだったのですか?
富田 ずっとバラードもチャレンジしてみたいところだったので念願かなってトライできました。作家さんもリクエストをしていて、作編曲の園田健太郎さんと作詞のこだまさおりさんは、いろいろなキャラクターソングでお世話になっている方なんです。私は、こだまさんの書く女性的な歌詞が大好きで、ソロの活動でも書いていただきたいという目標があったので、夢がかなった感じでした。
CDを出していくごとに、新しい私の表情を見せていけたら楽しいのかなと思っていて、今回の曲もびっくりしてもらえるんじゃないかなって思っています。これまでのフレッシュさとはまた違う、大人の女性らしさが出ていたらいいなと思ったので、本当に富田美憂か?と思っていただけたらいいなという野望は少しありました。
ーーキャラソンでお世話になった人に、ソロで曲を書いてもらうって素敵な流れですよね。
富田 いやぁエモかったです! しかも園田さんは、キャラソンではにぎやかでかわいらしい楽曲を作ってらっしゃるイメージがあったので意外でしたけど、めちゃくちゃ素敵な曲をいただけて嬉しかったです!
それに園田さんはレコーディングに来てくださっていて、相談をしながら、レコーディングをしていたんですけど、歌詞的に初恋が終わったマーメイドではなく、何度か恋を経験したマーメイドの歌詞だと思うから、大人っぽい表情を出したら面白いのではないかと提案していただいて、こういう形になりました。
ーー等身大というよりは、年齢的にも少し上のイメージだったのですか?
富田 気持ち的には27歳くらいのイメージで歌っています。少し背伸びをした感じも出たらいいなと思って。
ーーでは、こだまさんの歌詞のどんなところが好きなのですか?
富田 KleissisとStudyというユニットのほうでも曲を書いていただいていて、Studyの「Happy weather girl」という曲に〈スカートのプリーツが 機嫌よく並んで〉という歌詞があるのですが、それがすごく女の子っぽくて、この表現好きだな、こだまさんの歌詞好きだなと思った瞬間だったんです。Studyで一度対談をさせていただいたのですが、プロの方にこんなことを言うのはあれですけど、本当に天才だなと思いました(笑)。
ーー確かに(笑)。「インソムニア・マーメイド」の歌詞はいかがでしたか?
富田 まず、こだまさんにお願いすることになり、暫定の歌詞が届いたんですけど、マーメイドという時点で女性心をくすぐると思いましたし、このメロディにどういう世界観の歌詞が乗っかるのかと思っていたら、期待の上の上の上の上を行くような歌詞だったので、暫定の段階で「もう、ばっちりです!」と返したのを覚えています(笑)。
ーー歌詞から、映像が見えるというか。情景が見えますよね。
富田 見えますね。あとはライブ映えしそうな曲だとも思ったので、レコーディングなのにライブの想像をしていました。ヒラッとした衣装を着て、足元にめちゃスモークをたく!みたいな(笑)。
ーー幻想的な感じですしね。
富田 楽曲全体に靄(もや)がかかった感じ、ふわ~っと1枚ベールがかかった感じを想像したんですよ。だから今までの楽曲は、発音の仕方も結構パキッパキって歌っていたんですけど、ふわっとする感じで歌いました。靄がかかった感じが、いい意味で歌でも出ればなって。それは表現できたんじゃないかと思います。
自分らしさを見つけて、その自分らしさを好きになってもらうことから始めていきたい
ーー先程、27歳くらいの年齢感とおっしゃっていましたが、富田さんは、まだ20歳なんですよね。
富田 はい、実は……。
ーー受け答えを聞いていても、全然見えないですよね。
富田 よく言われます……。昔からしっかりしているねとか、落ち着いているねって、いろんな人から言っていただいていたので。ただ、本当に素直に話すと、学生時代から達観しているところがあったんですよ(笑)。他の同級生とテンションが合わないところがあったので、だからやっと、心に年齢が追いついてきた感じがします。
ーーそれは、大人たちに囲まれて仕事をしていたからでしょうね。
富田 お仕事をしていたときは、高校生の声優さんも少なかったので、しっかりしなきゃという意識はすごくありましたね。
ーー今はもう後輩も増えたそうですね?
富田 現場に制服の子がいたりするとびっくりするんです(笑)。で、先輩声優に「先輩! 制服ですよ!」って言うと、あなたもそうだったよって言われるという(笑)。
ーー20歳にして、先輩としてふるまわなければいけないんですね。
富田 自分の周りにいい先輩が本当に多かったので、自分が先輩にやっていただいて嬉しかったことは、後輩にもしてあげようと思っています。それが、先輩方への恩返しになると思っているので。
ーーあと5年くらいは、後輩でいいと思いますけどね(笑)
富田 本当ですか? でも、出てくる女性声優さんがどんどん若くなってるんですよ! 若いのにすごいなっていつも思っちゃいます。
ーー(笑)。では、新たなシングルがリリースされましたが、今後、アーティストとしてやっていきたいことを教えてください。
富田 アーティスト活動を始めたこの1年は、自分の中で得ることが多かったですし、アーティスト活動をしていたからこそ、よりファンの方のことを考える時間もできたと思っているので。それによって、こういう歌を歌いたいとか、こういうライブをしてみたいという意欲や目標がすごく出てきたので、それをアルバムという形で残したいなと思っています。
ーーまだまだやってみたいことはたくさんありそうですね。
富田 いっぱいあります。作詞にも興味があるので、やってみたいですね。作家さんみたくおしゃれな言葉は書けないですけど、書けないなりに、ストレートな言葉選びができるんじゃないかなと思っているので、ファンの方への気持ちを、自分の言葉で曲にしてみたいと思っています。
ーーいろいろなことを考えている方だという印象を受けたのですが、先の先までビジョンが描けている感じなのですか?
富田 小学生低学年の頃からこの仕事をに就きたいと思って続けてきていた分、こういうところでライブをしたい、こういうパフォーマンスがしたいとか、地方に行ってお客さんに会いたいとか、5年先までやっていきたいことは、自分の頭の中にはあるほうなのかなとは思います。
その中で、最初は自分が憧れていたアーティストさんみたいになりたいという思いがあったんですけど、今こうやって声優とアーティストのお仕事をやらせていただくようになってからは、こういう風になりたいというよりは、自分らしさを出していくことが大事なのかなと思っています。こういう風になりたいだと真似になってしまうので。なので、自分らしさを存分に出して、その富田美憂を好きになってもらうことから始めていきたいですね。
(取材・文/塚越淳一)
【CD情報】
■Broken Sky/富田美憂
・発売中
・価格:【初回限定版】CD+DVD 1,800円(税別)、【通常盤】CD 1,200円
<CD 収録内容>
1.Broken Sky
2.インソムニア・マーメイド
3.Broken Sky(Instrumental)
4.インソムニア・マーメイド(Instrumental)
<DVD 収録内容>
Broken Sky Music Video
Making Movie
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