【インタビュー】「自分たちの身の回りの問題に目を向けてもらえたら」。実はけっこう真面目な問題意識から生まれた、本物の革製品が手に入る地産ガチャ「猪鹿の革」裏話!

本物の猪・鹿の革が手に入るということでガチャファンを騒然とさせたカプセルトイ「猪鹿の革」。

本商品は、神奈川県相模原市のJR藤野駅前にあるコミュニティスペース「ふじの駅前ポートレード」限定商品であり、「アキバ総研」の連載コラム「ワッキー貝山の最新ガチャ探訪」でも紹介させていただいたことを記憶されている読者の方もいるだろう。

「本物の猪鹿の革」と「お墓」がカプセルトイに!? 今月のガチャは尖りまくってます!【ワッキー貝山の最新ガチャ探訪 第44回】

本商品を販売するのは、「ザリガニワークス」の武笠太郎さん。そして革を提供しているのは、藤野で農業と並行して獣革製品の製造を手がける「峰麓舎(ほうろくしゃ)」の市原亮さん・りつ子さんのご夫妻である。

今回は、「本物の革」であり、ご当地ガチャならぬ「地産ガチャ」という、世にも珍しい商品がどのようにして生まれたのか。そしてどのような思いを抱き「地産ガチャ」を展開しているのかを、武笠さん(トップ画像・右)、市原亮さんにうかがった。

──本日はよろしくお願いいたします。改めて……本当に革なんですね(笑)。まずはこのガチャガチャが生まれた経緯をお願い致します。

武笠 まず「地産ガチャ」第1弾として「炭ガチャガチャ」を出したんですが、僕が藤野の篠原地区を拠点とする『篠原の里「炭焼き部」』という炭焼きサークルの部員でして、もっと炭を知ってもらいたいと思ってガチャガチャにしたところ、けっこう反響があったんです。そこで「『地産ガチャ』って面白いな」と思って、次にガチャガチャにするものを探していたんです。

そんな時に市原君と子供の保育園の送り迎えの時に雑談をしていたら(武笠さんと市原さんのお子さんは同じ保育園に通っているそうだ)、彼が革加工をしていると。野生の動物の革を加工しているので、銃弾の痕があったりするという話を聞いて、「すげー! それちょうだい」って話になったんです(笑)。

野生動物の革は生前についた傷などが多く使えない部分が出てくるという話を聞いた時に、野生の猪や鹿の革を触る機会なんてそうそうないから、それを200円のガチャガチャに入れて気軽に触れる体験ができたらいいかなと思ったのです。そこから、端材をガチャガチャに入れることはできないかと市原君と企画を詰めていった感じです。

──市原さんは、ガチャに革が入ると聞いた時、最初はどう思いました?

市原 このお話をもらう前から炭のガチャガチャはいいなと思ってて、「だったら僕の革もガチャに使ってもらえるかも」って頭によぎってはいたんです。そしたら本当に太郎さんから話をふってもらえたので、「ぜひ!」という感じでした。

──周りの反応はいかがでしたか?

武笠 けっこう面白がってくれましたね。この街自体「アートの街」と言われていますが、いわゆるサブカルチャーみたいな分野があんまり入ってきていないというイメージなんです。だから、藤野の自然保護や里山の活動とガチャガチャという正反対の存在の組み合わせに、インパクトがあったのかなと思っています。

──地産ガチャの影響でお客さんが増えたりしましたか?

武笠 はい。革ガチャのリリースを出した翌日には、子連れのご家族がわざわざ市外から6組くらい回しに来てくれたそうです。6組とはいえ遠方からガチャガチャだけでお客さんを引っ張ってこれたのは、実はすごいことなのではと密かに思っています。

──市原さんのお話をうかがっていきたいと思います。市原さんご自身はガチャにどんな思い出がありますか?

市原 僕は子供の頃、お小遣いを自由に持たせてもらえなくて、あまり自分でガチャをやった記憶がないんです。だから、友達がやっていたガンダムのガチャガチャをもらったりとか、そんな感じなんです。

武笠 じゃあ友達がダブったものをもらったりとか。

市原 そうそう。ビックリマンシールとかカードダスとかも欲しかったんですけど、たまに友達のをもらうくらいで主体的にあまりできなかったから、正直そこまでガチャガチャにはまったことはないんです。でも娘ができて、動物園に行った時に何を買おうかって聞くと、やたらとガチャガチャをしたがるんですよね。子供って何が出るかわからない「くじ」のような体験が好きなんでしょうね。

太郎さんとも話していたんですけど、正直、大人目線で言うと、失礼かもしれないですけど(ガチャガチャって)「どうせ捨てるのに」という感覚があるんです。でも、革みたいな、何かに使えそうな有機物が出てくるのは面白いですよね。

武笠 そうそう。使えなくもない(笑)。自分で工夫して使い方を考える、そういうガチャガチャのありかたもいいかなと。

市原 自分は野菜も育てているので、最初は野菜が出てきたらいいよねっていう話もしたんですけど、やっぱり食べ物は難しいという結論になりました。

──市原さんはいろいろなことをやられているんですね。

市原 農業もやっています。僕の出自をお話すると、最初は靴を作る勉強をしたくて専門学校に入ったんです。卒業後、靴メーカーで4年くらい働いていました。妻も別の靴メーカーで働いていて、革なめしの勉強会で出会いました。途中で僕が農業をやりたくなったので、2014年くらいに転職。神奈川県の大磯町で農業にかかわる仕事を始めました。その後、藤野にある学校に娘を入れたいなと思って昨年に移住して、自分でも農業を始めたんです。

この時に革も一緒にやりたいという思いがあったんですが、自分で業者から牛革を買ってすごい商品を作りたいというわけではなくて、地域で採れるもので身の回りのものを作りたかったんです。靴メーカー時代に出向で住んでいた山形県では、近くの山や畑から採れるもので衣食住を賄う文化がまだ残っていました。材料が身近にある豊かさっていいなと思っていたんです。だから、革をやるんだったら近くで採れるものじゃなきゃやりたくなかったんです。

大磯町で働いていた頃から意識はしていましたが、藤野へ来て改めて猪や鹿や猿の獣害が深刻な問題だということを目の当たりにしました。僕が来た前年から増えたという話も聞いています。まだ自分では捕まえてはいないんですが、いずれ自分で捕獲するところからできるよう技術を付けていきたいと思っています。自分の野菜を守りながら革も利用すると。そこに自分にとって革細工をやる必然性があるわけです。

──革ガチャは市原さんの生活と密接につながっているわけですね。

市原 そうですね。今はご近所の、鉄砲で獣害駆除をされている方から、生皮をもらっています。僕の仕事場にはまだ水場がないので、その生皮についた余分な肉や脂を川のほとりで取る作業から加工が始まります。包丁の先っちょを丸く研いだもので脂を取っていくんですが、すぐに切れなくなるので川で研ぎ直して脂をそいで、を繰り返します。最初は1枚あたり2~3時間くらいかかっていました。最近は1枚1時間くらいでできるようになってきたかな。

その脂を取った生皮を、1枚単位で獣皮のなめし加工を受け入れてくれる「マタギプロジェクト」という取り組みを利用して1枚5,000円くらいでなめしてもらっています。

武笠 この過程で余った革を譲ってもらって、カプセルに入れています。

市原 普通の革って、基本的に食用の豚とか牛のような、安全に囲われている動物から取るから、傷もそんなになくてきれいなんです。でも野生の獣の皮ってすごく傷が多いし、銃弾の痕があったり虫が食って小さな穴が空いてたりして、出来のいい革にはならないんです。だから製品には使えない部分も多くなってしまいます。

武笠 最近は野生動物が人里まで下りてきて、農業をやっている人などには直接の被害が出ています。そこで問題提起を、本物の革を触ってもらうことでできたらいいのかなと。

都市部では話にも上がらないと思うんですけど、近年の山間部では獣害が急増しています。これは炭焼きにもつながってくるんですけど、山と人の問題なんですよね。なので、より多くの人に山のほうに目を向けてもらえるようなメディアとして、ガチャガチャが使えるのではないかと可能性を感じています。

──カプセルの中には革やミニブック以外に、市原さんの写真も入っていますね。

市原 これは私たち夫婦を紹介してもらってる紙です(笑)。

武笠 商品単体だけではなく、ストーリーも理解していただき、発見や驚きのある物になるといいなと思っています。「炭」シールに続き、「獣」印のシールも付けさせていただきました。

──この内容物を見ると、明らかに200円で元が取れていないですよね。

武笠 そうなんです。今、私が200円までしか設定できない古いスリムボーイの筐体しか持ってないので、泣く泣く200円で販売してるんです(笑)。完全に利益を度外視しています。

──ところでザリガニワークスさんはの本社は東京の渋谷にあるんですが、こちらに移住されたということは、武笠さんはここで創作に集中されているといったところでしょうか。

武笠 今は外出自粛傾向なので、けっこう在宅作業が多くなっているのですが、その前は週4~5日くらい渋谷に出社してました。藤野は自然豊かな環境の割には無理なくそれができる場所なので、面白いと思っています。

──そもそも藤野に移住されたのは、どういう経緯からなんでしょうか。

武笠 もともと知り合いが住んでいて、よく遊びに来ていたのですが、そこで会う人々がいちいち面白くて。子供が保育園に入るタイミングで移住先を探していたので、じゃあということで決めました。これがたとえば東京からもっと離れた地方だったら、仕事の拠点をどうしようとか、もっと迷ったのでしょうけど、藤野は東京での仕事をそのまま継続できそうだったので、そこもいいなと思いまして。

──駅から降りたらいきなり山にラブレターが鎮座していたので、びっくりしました(笑)。面白い街ですよね。今回取材をさせていただいているこのお店もおしゃれで、アートと生活が地続きなんですよね。

市原 僕もすごく面白い街だと思います。イベントやいろいろな地域づくりの取り組みも多くて人と付き合いやすいんですよね。移住者もすごく多くて、保育園に通っている方を見てみると9割方が移住されたご家庭なんですよね。

ここから都心まで仕事で通われている方もけっこう多いし、なんというか地方感があまりないんです。もうちょっと奥に行くとすぐ山で、自然が多いんですけど都会っぽい文化の話ができたり。あと食文化ですね。食材はもちろん、おいしい料理を提供してくれる人たちも多くてありがたいです。

──今後も地産ガチャを続けていくとしたら、次はどんなものをカプセルに入れたいですか?

武笠 たぶん山のものになってくると思うんですよね。考え方としては「特産物がこれだけとれるから、どのように売るか?」といった感じではなくて、自分たちが住んでいる身の回りの問題を紹介していく形になると思います。

それでいうと次は杉ヒノキとか。地元の林業の問題があるので、そこにガチャガチャで目を向けてもらうとか。商品としては藤野の杉ヒノキかもしれませんが、大きく見ると日本全国の山の問題でもあるのかなと思っています。でもガチャガチャなのであくまで楽しんでいただくための商品開発というのは忘れないよう心がけています。

──自分も今回、取材のために藤野を訪れて駅の周りを歩いてみて感じたんですが、都会に住んでいると、山間部をはじめ自然とともに生きている人が日本にはたくさんいて、そこにはその土地の人々の生活や文化、問題がそれぞれあることを忘れがちなんですよね。だからこの地産ガチャというのは、自分たちが生きている日本ってどういう国なのかを再認識するきっかけになるんじゃないかと思います。

ところで今後ガチャガチャは、どういう価値を出していけると思いますか?

武笠 ガチャガチャってカプセルに入れば何でもありですよね。さらに今までは販売価格が200~300円くらいで企画をイメージしていましたが、最近は500円まで引きあがっていますし、最新のマシンだと最大2,500円まで設定可能なものも出ています。あと電子マネーマシンも出てきていますから、価格設定の面からも解放されてきていますよね。だから中身の可能性もかなり広がってくると思うので、今はガチャガチャの改革が始まりつつある時期なのかなと思います。今後どうなっていくか、楽しみですし、その改革の一端を担えたら嬉しいですね。

──市原さんは、今後どのようなことをやってみたいですか?

市原 農業も革加工も、まだ去年から始めたばかりなんですが、個人的には都心部とのつながりっていうのがひとつのテーマなんですよね。やりたいことって、農業で野菜を売るだけでなく、「生活文化全般」を売っていくことなんです。

ちょうど昨日も鎌倉からやってきた10人くらいの小学生の里山体験の受け入れをしてて、今日お話ししたようなことを聞いてもらった後に革細工をしてもらったりしました。そうやって、都心部から来てもらった人に「山で暮らすということ」や「衣食住は土とつながっている」ということを、体験してもらったり実感してもらえる活動をしていきたいと思います。ものはだいたい土から生まれてきます。そういう感覚を覚えてもらえたら嬉しいですね。


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ふじの駅前ポートレード

・営業時間:毎週金・土曜日 12:00〜18:00

・住所 : 神奈川県相模原市緑区小渕1705 2階 (居酒屋 風里の2階)

・URL : #

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