アニメーション監督・神保昌登 ロングインタビュー!(アニメ・ゲームの“中の人” 第45回)

ライターcrepuscularの連載第45回は、合同会社PartsCraft(パーツクラフト)代表社員で、アニメーション監督の神保昌登さん。監督デビュー作となった「Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ」シリーズは圧倒的なクオリティを誇り、今でも根強い人気がある。その後も「俺がお嬢様学校に『庶民サンプル』としてゲッツされた件」、「CHAOS;CHILD」、「異世界食堂」、「川柳少女」、「へやキャン△」、「白猫プロジェクト ZERO CHRONICLE」、「ド級編隊エグゼロス」と、話題作を立て続けに発表してきた。2021年も、「アズールレーン びそくぜんしんっ!」や「盾の勇者の成り上がり シーズン2」で、アニメ業界を盛り上げてくれそうだ。本記事ではそんな神保さんのキャリア、演出論、スタッフィング・キャスティング、転機になった仕事、今後の挑戦等についてうかがった。神保さんはみずからシリーズ構成・脚本を手がけることでも有名だが、監督が全話数の脚本を書くことで、作品にどんなメリットがもたらされるのか。実際の映像にはどんな特徴があらわれるのか。今回も“中の人”を通じて、アニメづくりの魅力と奥深さをたっぷりと感じていただきたい。

「キャラクターに寄り添う」アニメ監督


─年末ご多忙の折、本当にありがとうございます。早速ですが、神保さんがアニメーションの監督や演出家としてやりがいを感じるのは、どのような時でしょうか?


神保昌登(以下、神保) 自分がオーダーしたものとは違うものが来たんだけれども、それが自分の想定を凌駕していた時に、「この仕事をしていてよかったな」と感じますね。


─画づくりでこだわっていることや、お得意な映像表現はありますか? 個人的には、「Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ」の第2~4期(2014~16)の美遊、「CHAOS;CHILD」(2017)の拓留、「川柳少女」(2019)の七々子、「白猫プロジェクト ZERO CHRONICLE」(2020)のファイオスやシーマなど、登場人物の心の闇や内に秘めた思いが映像で表現される時に、神保さんのスタイルを感じます。


神保 「得意な表現」というのはありません。ですが、キャラクターの心情はいつもていねいに描いていきたい、と思っています。


─ツイッターには、「キャラクターに寄り添う演出」というキーワードがありました。


神保 自分は派手な演出よりも、キャラクターを理解することのほうが大事だと思っていて、「この時、キャラクターはどういうふうに考えているんですか?」と質問があった時に、「わからないですね」と終わることだけはしないようにしています。そのキャラがどういう時代を生きたのか、どういう境遇にいるのか、ということについて理解が薄いと、アニメでも薄っぺらい、厚みのないキャラクター像になってしまうから、それだけは避けたいと思っています。


─「異世界食堂」(2017)は群像劇なので登場人物が多く、ご理解も大変だったのでは?


神保 そうですね……ただ、「異世界食堂」はキャラの造形が各世界ごとにはっきりしていたので、それほど苦労は感じていなかったですね。それにアニメの場合は、作りながらキャラクター像がしっかりしていくというのもあるので、キャラクターデザインができあがって、声が入って、「あ、性格はこうなったんだね」というのがおもしろかったりするんですよ。


─エログロ表現に関しても、神保監督作品は躊躇ありませんね。たとえば、神保さんご自身で脚本・絵コンテ・演出をされた「CHAOS;CHILD」第7話のラストシーンは、トラウマになるくらい過激な映像でしたし、「ド級編隊エグゼロス」(2020)は、主人公の烈人やヒロインたちが技を使うたびに、スッポンポンになっていました。これらの作品のプリプロダクションでは、表現をぼかすなど、代案を検討したことはあったのでしょうか?


神保 覚悟を完了してやっているので、迷ったことはないですね。やっちゃいけないと決まっているならやらないですけど、私はまだ深夜アニメの監督しかやっていませんし、そこだと大人の視聴者も多いので、割とぶっ飛んだ表現でも理解してもらえると思っています。


─監督の中には、原作のコマ割りや挿絵をできるだけ使うように心がけている方もおられるようですが、神保さんはいかがでしょうか?


神保 作品ごとに変わると思います。映像媒体寄りの考え方で描かれているマンガの場合は参考にしたほうがいいかもしれないし、マンガは写実的に描かれているけれど、「今の時代に合うようにアウトプットしてくれ」と言われたら、コミカルにしたほうがいいこともあると思います。

アニメ脚本におけるナレーション・モノローグ


─監督作品では脚本を全話数書かれることも多いようですが、これはやはり「映像の設計図」と言われる脚本から関わっていきたい、ということでしょうか?


神保 そうですね。監督のみだと不自由なことが多いので、脚本からやらせてもらったほうが、いろいろとやりやすいんです。


─神保さんが書かれる脚本は、ナレーションとモノローグが比較的多い印象があります。これはどういったお考えによるものでしょうか?


神保 ナレーションとモノローグの多用は、リアルベースの映像作品だと禁則事項に近い、ということは理解しています。ただ、ナレーションをふんだんに使うことで作画カロリーを抑えられたり、モノローグを使うことによって画で伝えるよりも音声でダイレクトに伝えられるといった、メリットもあるんですよ。なので、強制的に伝えなきゃいけないことは、セリフにするようにしています。特に今は、アニメの視聴スタイルも変わっていて、テレビにかじりついてというより、スマホを片手に、ながら観をしている人も多いので、その点から言っても、ナレーションとモノローグは有効なのでは、と思っています。


─なるほど。私はもう少し思うところがりまして、神保さんによるナレーションとモノローグの使用は、作画と音声が見事にからみ合い、心を揺さぶる映像に仕上がっているなと感じました。とりわけ、「モノローグと色を抜いたキャラクター作画」を使うタイミングが、すばらしいと思います。たとえば、「プリズマ☆イリヤ ツヴァイ ヘルツ!」第10話の闇の中から助け出される美遊、「CHAOS;CHILD」第7話の伊藤にさらわれた結衣を懸命に探す拓留、「川柳少女」第十二句の「これだけは直接会って言いたいの」と公園の桜の木に走っていく菜々子、などが印象に残っています。


神保 ここら辺は基本的な演出表現でして、私らの世代は先輩方から伝承されたものを、現代版の技術でアレンジしているに過ぎません。出﨑統さんの「3回パン」とか、有名じゃないですか。アニメには先駆者たちが作り出してきた演出表現というのがめちゃくちゃあって、それを私たちが作品を観てインプットして使っている。そうしたスタンダードにあるものを、「自分だったらどのようにアレンジするか?」という中で、「色が抜かれる」という表現が出てきたんだと思います。


─一般的に群像劇は脚本制作が難しいそうですが、「異世界食堂」は本当におもしろかったです。構成は、マンガとは少々異なっていましたね。


神保 アニメの脚本は小説ベースで書いていて、エピソードの構成は、毎話数の見どころになる料理で選ばせてもらっていました。原作小説では、主人公の店主があまりしゃべらず、ト書きでの世界観説明が多かったので、アニメではそれをキャラクターにしゃべらせるようにしています。


─登場する料理は日本人にとってはなじみのあるものばかりですが、異世界から来た客たちにとっては初めて食べるものなので、食べ方や反応がユニークで、観ていて新鮮でした。料理の感想は多くがモノローグで、声優さんたちが感情豊かに演じておられました。第12話もおもしろくて、トレジャーハンターのサラが豚汁で母のスープを思い出し、リザードマンのガガンポは長い舌でチロチロなめるように豚汁を味わっていました。


神保 ありがとうございます。もうちょっとうまいこと表現できればよかったかな……と思うところもありますが(苦笑)。

解釈の難しいコンテは、監督みずから演出


─監督作品ではほかの監督と比べて、絵コンテの数が若干少ないように感じましたが、これについてはいかがでしょうか?


神保 これはスケジュールの都合がかなりあります。「脚本もコンテも演出も、自分で全部やりたい!」という気持ちはあるんですけど、特にコンテは時間がかかるんですよ……。発注から納品まで短時間の作品が多いので、どうしても知り合いの方にお願いすることが多くなってしまいますね。


─「異世界食堂」第11話のカルパッチョとカレーパンや、「白猫プロジェクト ZERO CHRONICLE」第5話のバール戦などは、ほかのコンテマンが描いたコンテを、監督ご自身で演出されていますね。


神保 コンテの良し悪しとは関係ない話ですが、解釈が固まっていないコンテは、演出家がしっかりしていないと破綻しちゃうんですよ。最近は、カチカチに決まったコンテが多いので、若手の演出さんにはさばきづらい。そういう難しいコンテの場合は、自分でやるようにしています。私は「灼眼のシャナ」(2005~12)とか「スレイヤーズREVOLUTION」(2008)とか「緋弾のアリア」(2011)とか、渡部高志さんのコンテで何年も演出をやらせてもらっていたので、「異世界食堂」11話も、自分でやりました。

ジャンルを問わず、「映像化してみたい」作品に参加


─創作活動を行うにあたり、一番影響を受けた作品は?


神保 テレビドラマ版の「白夜行」です。東野圭吾さんの原作小説とは全然違うアプローチでドラマ化されていて、原作は刑事視点で書かれているんですけど、ドラマだと犯人たち視点で描かれていたりとか、「映像でここまで変えて、作品として仕上がっているのはすごいな!」と今でも思います。カメラワークはいたってシンプルなんですけど、人間の心情をていねいに描いているところもいいですね。


─アニメじゃないんですね! ちなみに、アニメでお好きな作品はありますか?


神保 ないですね……悔しいので(笑)。でも最近は子どもの影響で、「おさるのジョージ」(2006~)を観ています。


─作品参加の基準はありますか?


神保 監督依頼だと、基本、原作付きの作品なので、原作を拝見して「おもしろいな」と思ったら、お受けしています。


─どういった作品を「おもしろい」と感じるのでしょうか? フィルモグラフィーを拝見しますと、美少女ものが比較的多いようですが……。


神保 自分はジャンルで物事を見ていなくて、結構いろいろな作品をおもしろいと感じる瞬間があります。自分の感情が動いて、「ここを映像化してみたいな」と思うところがあれば、挑戦させていただく感じです。

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