アニメライターが振り返る、2020年注目アニメ映画レビュー
アニメーション映画をいっぱい見ているライターが、2020年公開作を振り返り! 京都アニメーション制作の「劇場版ヴァイオレット・エヴァーガーデン」、大橋裕之のマンガをアニメ化した「音楽」、「ポケモン」映画23作目「劇場版ポケットモンスター ココ」、ピクサー制作の「2分の1の魔法」、あの名作がアトラクション映画になった「機動警察パトレイバー the Movie 4DX」をピックアップしました。
地面に残った2本の轍(わだち)を追いかけるカットから始まる本作。ここで重要なのは轍が持つメタファーなどではなく、轍を作った車輪が映されない事実にある。物理的な痕跡を頼りに、かつて紛れもなく存在していたものを追うこと。それはデイジーと呼ばれる少女が、曾祖母の手紙を代筆した女性について調べるという物語に繋がっていく。
そしてデイジーはある島を訪れ、そこで女性が暮らしていた過去を知る。彼女が代筆業として果たした功績は、もはや本人にたどり着けなくても、彼女自身が手紙と結びついたイコンになっていることでわかるだろう。インデックスから始まりイコンで終わるという、記号をめぐるストーリーの巧みさに誰もが胸を打たれるはずだ。
だからこそエンドロール後、唐突に映されるイラストにとまどってしまう。たしかに我々はこれを望んでいたはずなのだが、はたして劇中で誰も到達できなかった光景を覗き見してしまっていいのだろうかと。「リズと青い鳥」で主人公が最後に浮かべた表情の理由が描かれなかったのとは対照的なラストである。
岩井澤健治監督が7年に及ぶ制作期間を経て完成させたロックアニメ。楽器初心者の不良高校生たちが思い付きでバンドを結成し、野外ロックフェスに出場するまでを描く。制作にあたっては実写映像の動きをトレースするロトスコープの手法を用いた。ロトスコの場合、実写に近いキャラクターデザインにすることが多いが、本作では線の少ないシンプルなデザインを採用。そのため、どう見てもマンガの絵なのにリアルな存在感があるという独特の世界観が生じている。
そのカオスな面白さは、まったく微動だにしない主人公・研二と、呼吸による体の上下まで描かれた不良たちを、交互に切り返す序盤から炸裂。ただ絵が動いているだけなのに、なぜか目が離せなくなるというアニメーションの醍醐味を楽しめる。キャストには俳優やミュージシャンを多数起用。アニメファンとしては竹中直人さんをキャスティングしているのもうれしい。2020年は「人体のサバイバル!」、「君は彼方」も含めて、竹中直人の出演作を満喫できる1年でもあった。
「ポケモン」シリーズ最新作は、ポケモンに育てられた少年・ココをめぐるストーリー。ココ役は上白石萌歌さんが担当。人間の言葉がわからないため、主人公・サトシと話すときはたどたどしいしゃべり方になるという難しい役柄を演じた。「未来のミライ」に続いて男性キャラクター役であるところもポイント。ココのかわいらしいビジュアルと相まって、どこか揺れ動いた声色にユニークな魅力が備わっている。それは人間とポケモンの狭間にいて、どちらにも留まることのないココというキャラクターを象徴しているのだろう。
もちろんアクションシーンも盛りだくさん。ココの育ての親・ザルードの蔓(つる)を使ったバトルは横長のスクリーンに映える。ピカチュウも、代名詞の10まんボルトだけでなく、はがねと化した尻尾で敵を裂くアイアンテールのカッコよさにしびれてしまう。
亡くなった父親を魔法の力で半分だけ復活させてしまった主人公が、兄と一緒に不死鳥の石を探し出し、完全に蘇らせようとする冒険ファンタジー。「鋼の錬金術師」を例に出すまでもなく、死者を復活させるというストーリーがあっていいはずがない。ゆえに主人公が蘇った父親と再会できないという結末は、映画を見なくても予想が付く確定事項だが、それでもラストは不思議と感動してしまう。
巨大な石によって行く手を遮られた主人公は、蘇った父親に近付けず、わずかにある石の隙間から様子をうかがうことしかできない。そこからの眺めは、ピクサーが過去作において多用してきたフレーム内フレームの技法によって、まるで映画のスクリーンを見ているかのように描かれ、主人公と観客は等しい存在になる。そして魔法が解ける時間になり、父親がキラキラとした光になって消えていく表現も、2人の間にある物理的な距離のため望遠でしか映されないという制約のおかげで凡庸さからまぬがれている。
近年は「4DX」や「MX4D」といった体感型の映画上映システムを用いたリバイバル上映が目立つ。2019年公開の「機動戦士ガンダム 逆襲のシャア 4DX」は、無重力下におけるモビルスーツの姿勢制御やサイコフレームの温かみまで表現する充実の内容だったが、宇宙が舞台のため水しぶきの出るシーンが少なかったことだけが心残りだった(クェス・パラヤが唾を吐きかけるシーンで水を飛ばさなかったのは凡ミスでは許されない!)。
その点、「機動警察パトレイバー the Movie」は、クライマックスが台風下の東京湾のため、水に困ることはない。ミストで顔をしっとりと濡らして、気分は決戦に臨む第二小隊だ。アクションが少ない中盤、主人公が事件の核心をつかむ重要なカットでは、急速にカメラが横に動くクイックPANに合わせて座席が動き、演出を補完するというギミックも興味深く、もし続編の「パト2」を4DX化したらどうなるのか想像がふくらむ。アトラクション型シアターの可能性を追求した一作。
(文・高橋克則)
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