【特別対談企画】今年も出口博之×鮫島一六三が大いに語る! これが2020年のBESTアニメソングだ!

早くも2020年が終わろうとしています。ということで、アキバ総研の年末恒例企画となりつつある、出口博之さんと鮫島一六三さんによる、アニソン語りが今年も開催!

今年は新型コロナウイルスに世界中が振り回された1年と言っても過言ではなく、その影響はアニメ、アニメソングの世界にも及んでいます。

放送されるアニメの本数が減少したり、再放送、放送延期となった作品が増えたりと、イレギュラーな事態が多発した2020年のアニメソングシーンは、はたしてどんな1年だったのでしょうか?

語り合うのは、ベーシストにしてアニソンDJとしても活躍する出口博之さん、お笑いコンビ・BANBANBANのツッコミ担当にしてアニソンDJイベント「アニソンディスコ」を主催する鮫島一六三さんのお2人。

例年通り、2020年冬クールから秋クールまでの各シーズンに放送されたアニメからセレクトしたBEST3に加え、アニメ映画使用曲からBEST3をチョイスし、思う存分アニメソングについて語っていただきました。

なお今回の対談は、2020年12月1日、東京・ネイキッドロフトで開催されたトークライブイベント『アキバ総研 presents 出口博之×鮫島一六三 劇場版「これが今年のBESTアニメソングだ2020!全集中・独断と偏見の呼吸2020ノ型」』にて繰り広げられた内容をもとに構成されています。

──まずは今年の振り返りからお願いします。

鮫島 今年は新型コロナウイルスの影響で2月くらいから6月あたりまで自粛期間があって、その後も仕事がまばらにあって……という状況で、コロナに振り回されてしまった1年でしたね。その期間の成果としては体重を10キロ落としたことですね。コロナ禍でダイエットに成功しました。コロナの影響で規則正しい生活を送るようになり、外食もしなくなったということで、それまでいかに悪い生活をしていたかということですよね。

出口 そういう方、けっこう多いみたいですね。

鮫島一六三さん

──鮫島さんは、この期間にいろんな人に会うという企画をスタートしましたよね。

鮫島 そうですね。8月から「鮫島一六三を誘ってください」っていう企画をやっていて、100人とお茶をしようと思っています。お2人(出口さんと聞き役の編集部・有田)ともやらせていただいて1時間くらいお話しさせていただきました。今日来てくださった方の中にもお会いした方がいらっしゃいます。

──会う相手は関係者、知り合いのみならずファンの方も対象なんですね。

鮫島 もう分け隔てなく。いろんな人にお会いすることで、自分の考えがどんどん更新されていくような気がしています。自分が知らないことをお話していただくので、日々新しい情報が入ってきて、テレビやSNSを見てるよりもずっと面白いですね。今64人の方とお話してるんですよね。正直会う前は「この人と会うのか」ってあんまりテンションが上がらない時もあったんですが、実際に会って1時間お話するともう好きになっちゃってるんですよ。めちゃくちゃ面白いです。

出口 今、人と気軽に会えないから余計に面白いよね。僕もお話させていただいた時、久々に人と会って話したから。仕事の連絡とかで話すことはしてるけれども、話すという行為だけに時間を使うっていうことがしばらくなかったから。

僕も鮫島さんと一緒で、コロナで仕事がどんどんなくなっていくというのを目の当たりにして、生活も一変しました。確かに大変だったというのはあるんですが、自分に向き合うというか自己研鑽する期間にもなりました。1年かけてこれからのことをたくさん考えたという点では。この状況はよくないけれども、有意義に使えた部分もあったと思います。

鮫島 めちゃめちゃベース弾いてたじゃないですか。

出口 すごい練習した。何も練習しないと怖くなるから。恐怖との戦いみたいなところはありました。だって明日どうなるかわからないから。それに状況をよくしようとがんばってもどうにもならないから。誰が悪いわけでもないし、怒ってもお金を払ってもコロナがなくなるわけじゃないですか。だからやりようがないというのと、ものすごく怖いし逃げるしかない! だから現実逃避に近いですね。何かしていないと潰れていくなっていう。

鮫島 腕前はめちゃくちゃ上がったんですか?

出口 うん。やったらやった分うまくなるね。もっとちゃんとやっとけばよかったと思うくらい。そんな感じで自分と向き合った1年でしたね。

出口博之さん



2020年冬アニメ

──そんな2020年でしたが、さてアニソンはどうだったでしょうか。まず冬クール(1月~3月)から行ってみましょう。最初にアキバ総研のユーザー投票の結果から見てみましょう。

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──そしてお2人の結果がこちら。

<出口>

・「Easy Breezy」 chelmico (「映像研には手を出すな!」OP)

・「ありがとうはこっちの言葉」森山直太朗(「ソマリと森の神様」OP)

・「ムズイ」22/7(「22/7」OP)

<鮫島>

・「PHOENIX」BURNOUT SYNDROMES(「ハイキュー!! TO THE TOP」OP)

・「イこうぜ☆パラダイス」スタンク・ゼル・クリムヴェール(「異種族レビュアーズ」OP)

・「KING & ASHLEY」MY FIRST STORY(「ケンガンアシュラ」OP)

出口 まずは「Easy Breezy」かな。この頃はコロナの影響がまだ少なくて、中国で流行病が出てるみたいだぞという程度で、まだ普通にアニソンのDJイベントとかもやっていたんですよね。この時、「Easy Breezy」はめちゃめちゃかかっていた気がします。楽曲自体は目新しいジャンルではなくて、我々世代だと’90年代を感じさせる部分が多くてちょっと時代を感じるなって思うけど、若い子がこういう感じのサンプリングを主体としたオールドスクールなヒップホップの手法に注目するのが新しい感覚というか、逆に若いという感じがした。どこまで狙って計算しているのかわからないけれども、「ミュージシャンズミュージシャン」というか、90年代を過ごした人や音楽をやっている人には特に刺さるのかな。

鮫島 アニクラだと、この曲をどうかけるのかというところで技量を問われる部分はありますよね。この後にかけるとしたら何だろう。もう「ココロオドル」とかかな。難しいので、僕はかけたことがないです。

出口 あとは「ソマリ」の「ありがとうはこっちの言葉」。そして「ムズイ」。どちらの曲もテーマ性というか、大きな柱がドカーンとあるので楽曲の強度、貫通力がとても強い印象です。それがアニメ作品としっかり結びついていて、しっかりアニメソングとしての働きも完璧という。

鮫島 私はMY FIRST STORYの「KING & ASHLEY」。僕の今年のキーワードとして「おじさん」というのがあって、「ケンガンアシュラ」も主人公のヒーロー的なやつ(十鬼蛇王馬)がいるんですけど、それに対するもうひとりの主人公としておじさん(山下一夫)がいるんです。OP映像の中で、その主人公とおじさんの対比がめちゃくちゃよくできていて、曲がカッコイイのはもちろん、その映像も込みでここに入れています。

あと、「イこうぜ☆パラダイス」。今年一番バカだったなって(笑)。完全にビレッジピープルです。



出口 アニクラでもけっこうかかっていたイメージがある。

鮫島 アニソンディスコではめちゃめちゃかけてて、サビでは「はっぱ隊」の振り付けで踊ってました(笑)。アニメも裸っぽいシーンが多かったし。ただいい曲でもありました。

そして「ハイキュー」の「PHOENIX」。僕は音楽的な観点だとわからないことが多いので歌詞を読みこむんですけど、この前テレビで甲本ヒロトが「最近の連中は歌詞を聴きすぎるんだよな」って言ってまして、それを聞いて歌詞で説明するのが恥ずかしくなっちゃいました(苦笑)。なんかダサいのかなって思ったりもするんですが、僕は2番の歌詞が好きなんですね。このシーズンは全国大会に行く前の練習試合とかが多いストーリーだったんです。この曲には「好き以上得意未満どんな夢もそこがスタート」っていう歌詞があって「なるほどな」って。みんなすごくバレーが好きなんだけど、俺には才能がない、向いてないって辞めていく連中もたくさんいるんですよ。そういうストーリーと2番の歌詞があいまって、グッと来たのでここに入れてます。

──作品のタイトルを叫ぶ代わりに、ものすごく作品のストーリーや世界観を歌詞で表現するっていうのがここ最近のアニソンのトレンドじゃないですか。そういう意味では、今のアニソンの流儀にのっとっている王道の曲ですね。

鮫島 そうなんです。作品を匂わせるというか、「静まり返る烏合」っていう歌詞があるんですが、そこも「烏野高校」のことかなと思って感心したり、「オレンジの光」とかもユニホームのカラーのことなのかなと思いながら聞いてましたね。この曲を聞いて、BURNOUT SYNDROMESさんは次のSPYAIRみたいな存在になっていくのかなと思いました。

出口 基本的にアニメの世界観とかモチーフを入れてますよね。2000年より前のアニソンは良くも悪くも曲は曲としてあったりして、それほど作品にリンクしてない曲も多かったけど、ちゃんと歌詞に作品の要素があるというか、曲が作品とリンクしてるっていうのはもっと注目すべきところですよね。

鮫島 このシーズンはほかの曲だと、地縛少年バンドもかっこよかったですよね。

出口 あとはflipSideもかっこよかった。

鮫島 「推し武道」(「推しが武道館いってくれたら死ぬ」)の曲もよかった。まだコロナ前なので、その気持ちも加味されますね。「イこうぜ☆パラダイス」をみんなで踊ってたなって。ここから雲行きが怪しくなってきた。

出口 正直なことを言うとこの頃の記憶がすごく薄くて。この後が本当に激動だったから、1月ってあったっけ?っていう感覚。

2020年春アニメ

鮫島 続いて春クールですね。

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──個人的には、春のアニメってこんなに前だったかって衝撃を受けました。今年は完全に季節感が失われていたなと。

出口 時期的にはもう軒並みイベントが中止になってしまった時期ですよね。

──この時期から、新型コロナウイルスの影響がアニメ業界でも顕在化してきて、制作の遅れから放送が中断したり、延び延びになったりし始めました。次の夏クールに仕切り直して放送を再スタートした作品もあるので、一部タイトルが春と夏でかぶっていますね。

その中でお2人が選んだ曲がこちらです。

<出口>

・「DADDY! DADDY! DO!」鈴木雅之(feat. 鈴木愛理)(「かぐや様は告らせたい?~天才たちの恋愛頭脳戦~」OP)

・「君は天然色」大瀧詠一(「かくしごと」ED)

・「サテスハクション」奥田民生(「ハクション大魔王2020」OP)

<鮫島>

・「見上げてごらん夜の星を」坂本九(「波よ聞いてくれ」最終話挿入歌)

・「君は天然色」大瀧詠一(「かくしごと」ED)

・「I got it!」Mia REGINA.(「天晴爛漫」OP)

出口 大瀧詠一、これは選ぶよね。

鮫島 まさかアニソンになるとは。

出口 このシーズンは、おじさん好みなチョイスですよね(笑)。渋いですね。

鮫島 僕はまず「天晴爛漫」の「I got it!」。スウィンギンなジャズで、これは真面目にかっこよかった。「君は天然色」の「かくしごと」は親子もののアニメ。自分はこの作品にやられてしまいましたね。ギャグテイストな流れの中で、1話あたり8%くらい泣かせにくるじゃないですか。毎回そんな感じで最後にこの曲が流れてきて、淡い色あいの中に女の子たちがいるっていうのが素敵でした。無理やり引っ張ってきたんじゃなくて、ちゃんとアニメにあっているから使っているだろうな感じました。

今期でいうと「体操ザムライ」が面白くて、6、7話あたりから泣き始めています(笑)。このすさんだ状況の中で清涼感がある作品というのは、コロナに疲れた心を癒してくれる存在だと思います。

──「見上げてごらん夜の星を」が入っているのが意外というか。

鮫島 「波よ聞いてくれ」最終回の挿入歌ですね。このアニメは北海道のコミュニティFMのラジオジョッキーさんになってしまった女性の話で、主人公のミナレは素人のまま、ラジオのDJを始めてしまって、なぜか評価されてスタジオにいるキャラなんです。彼女が深夜ラジオの放送が始まってしばらくすると地震が起こって、彼女は彼女なりにDJとして状況を乗り越えていくわけです。でも途中でプロの先輩DJが来て、ミナレは「変わったほうがいいんじゃないの」って言うんですけど、プロデューサーは「お前、いつまで素人ぶってるんだ」ってメモを出すんです。それでミナレははっと意識が変わって、朝までずっとラジオを続けるんです。

そこで街の情景になるんですけど、次々停電していく札幌の街並みが描かれて、次に夜空の星がばっと浮かんでくるんです。それを見て、僕も「めっちゃ星がきれいじゃん」って思ってたんです。その後、先輩DJがミナレと交代して「きっと皆さんこんなことを思ったんじゃないでしょうか。不謹慎かもしれませんが聞いてください」って流したのが「見上げてごらん夜の星を」なんですよ。その流れが「ああ、きれいだなあ」って。自分の気持ちを代弁されちゃったんですよね。曲の使われ方が素晴らしかったので入れました。

──出口さんはどうですか? 

鮫島 鈴木雅之、僕も入れるか悩みました。

出口 去年、大型新人として出てきた鈴木雅之さんですが、大御所が新しい名義とかプロジェクトで新人の顔をしてやってくるという一番面倒くさいパターンですね(笑)。前の曲「ラブ・ドラマティック feat. 伊原六花」に比べるとすごくバランスがいいというか、大人の余裕というか、曲としてすごくいい。

──そして鈴木愛理さんのコーラスもいいですよね。

出口 とてもいいですね。一歩引いた感じのコーラスで、「メインを食ってやろう!」というバトルみたいな立ち位置じゃなくて、きちんと鈴木雅之を立てている。きちんと中心が鈴木雅之だっていうその辺のバランスがすごくいいと思いました。

そして、やっぱり大瀧詠一の曲は入れなきゃなって。これはサメさんがおっしゃっていたことと一緒です。

奥田民生の「サテスハクション」もよかった。元ネタがローリングストーンズの「サティスファクション」で、完全にタイトルのダジャレで作ったなっていうところが奥田民生らしいというか、安心感があるというか。こういったネタは、バンドマン特有の遊び心だと思います。今年1年、特にコロナ以降に自分がピックアップしたアニソンって、バンドものが多かった気がするんですよ。「サテスハクション」も肩の力を抜いているのかなと思いきや、アレンジなどやっていることはけっこうマニアックで、’70年代のロックをモチーフにしているのに、印象としては古臭くなりすぎず今の音になっている。

これはすごく不思議な感じで、ネタとしてはちょっと古い、これ趣味だよねっていう曲でも今の感覚で再構築されて新しい手触りの曲が出てくる。我々からすると懐かしいことをやってるんだけど、それがすごく新鮮に聴こえるというのが「サテスハクション」にもあるなと。

鮫島 音楽の聴かれ方が今と昔で変わってきてて、今はアルバムごとにアーティストを聴くんじゃなくて、サブスクリプションでおススメされる曲を聴くじゃないですか。そうなってくると今の若い子って、’70年代だろうが’90年代だろうが「今聴いた曲が新曲」になるんですよ。DJやってると若い子と接することが多いので、そのノリを感じるんですけど、時々ついていけないことがりますね(笑)。この曲のあとにこの曲がくるんだって。

──TikTokで、突然昔の曲がブレイクしたりすることもありますよね。

出口 その感覚が面白いですよね。「サテスハクション」も「これってローリングストーンズだよね」ってニヤニヤしてるおじさんとは違うベクトルで若い子が楽しんでいる気がします。

鮫島 「ハクション大魔王2020」って子供向けの番組ですよね。昔「キテレツ大百科」の主題歌で昭和歌謡みたいな曲がたくさんあったじゃないですか。子どもの時は何気なく聴いてたんですけど、大人になって聴くと「子供にこんな歌を聴かせていたのか」と驚きました。

出口 「キテレツ大百科」はポップスとしてもクオリティの高い名曲が多いですよね。

鮫島 だから今の子供たちも大人になった時に、こういう曲を子供の時に聴いていたのかと気づくことが往々にしてあると思いますね。子供だましで曲を作ってない。

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