発売から年が明け、いま、思うこと……『Ghost of Tsushima』レビュー【ネタバレ注意!】

2020年7月17日、オープンワールド時代劇アクションアドベンチャーであるPlayStation®4 用ソフトウェア『Ghost of Tsushima』(ゴースト・オブ・ツシマ)が発売された。違和感なく再現された山村や人々、けれん味ある殺陣、蒙古との壮絶な戦いは、それまで海外でよく描かれてきた典型的な「ニホン」ではなく、私たち日本人が遊んでも自然に受け入れられる等身大の「日本」だった。本作の発売から約半年。世界で500万本以上を売り上げた『Ghost of Tsushima』の魅力を今一度振り返ってみたい。なお、今回のレビューでは個々の要素をかいつまむのではなく、『Ghost of Tsushima』全体を俯瞰したうえでの、総合的な内容となる。ネタバレ満載なため、本編を遊んでいない人は要注意。また、本作の基本的なレビューは過去に掲載しているので、ぜひ読んでみてほしい。

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ゲームと時代劇



本作を開発した「サッカーパンチ・プロダクション」のプロデューサーが、自身が強い影響を受けた黒澤映画をリスペクトした要素を入れたという話は、発売以前から知っていた。おかげで、設定画面を開いて初めて「黒澤モード」を見たとき、説明文を読むまでもなかった。画面は白黒になってノイズが走り、音声はステレオ風になり、映画を直接操作しているような気分になれる。すべて白黒で表現されるためアイテムや人を探しにくく、剣戟(けんげき)もやや操作しにくくなるが、自分が黒澤映画に出演していると思えるだけでうれしく感じる。



蒙古兵との戦いにしても、時代劇へのリスペクトが見て取れる。大将のコトゥン・ハーンをはじめ、合理的であるはずの敵が、たったひとりの主人公と一騎討ちをし、ひとりずつ襲いかかり、仁が戦っているあいだに不意打ちをしてくることもほとんどない。4つの型の切り替えや、防御、弾きを駆使した「チャンバラ」を全面に押し出しながら、プレイヤーが理不尽と受け取るような状況に陥らないよう配慮している。



斬られた敵が傷口を押さえながらゆっくり倒れる姿は、まさに映画的


本作では複数の防具が手に入るが、なかには鎌倉時代より後に存在するはずの道具があると、発売当時話題になった。私は専門的な知識を持っているわけではないが、序盤に手に入る「武家の鎧」は源平合戦を題材にしたマンガで見たものとそっくりで、中盤で入手可能な「境井家の鎧」と比べると、作りはもちろん堅牢さも違うのはわかる。だが、せっかく侍となって世界を動き回れるなら、かっこいい姿でさまざまなことがしたい。幸い、本作の防具は基本的に防御力がない代わりに護符などを装備して補うため、カスタマイズの自由度も高い。時代考証以前にゲームは娯楽であり、楽しめればそれでいい。


筆者が一時期愛用していた、境井家の鎧(赤備えver.)



『Ghost of Tsushima』の下地には、黒澤映画に代表される時代劇がある。時代劇とは、特定の時代を題材にした「劇」を指す。劇は創作であり、創作はデフォルメするということだ。そういう意味では、構想を人が遊び楽しめるように変えるゲームとの相性はよいと言える。海外のゲームは、現実をいかに再現するかというリアリティが重視されやすく、デフォルメが盛んな日本のゲームとは雰囲気が違う。そういったこともあって、私はあまり「洋ゲー」は遊ばない。それでも本作に100時間以上熱中したのは、舞台が日本である以前に、作品に日本的な雰囲気を見出したからなのかもしれない。


仁之道、プレイヤーの道



侍か、冥人(くろうど)か、どちらを選ぶのかというのが、本作の物語における核だ。地頭である志村氏の甥でありひとりの武士である仁は、最初こそ正々堂々戦うが、蒙古との戦いが厳しくなるにつれ、闇討ちや夜襲、道具を使った戦法を取るようになる。これはプレイヤー側も同じで、序盤は相手にする敵も少ないので力押しが通用するものの、後半で出てくる拠点では大勢と戦わねばならず、さらに火槍やてつはうといった兵器による攻撃も激しい。正面突破でどうにかなる話ではない。必然的に、理想的な武士道から、現実的な冥人に変わらざるを得なくなる。物語とゲームプレイが密接に関わり、理想と現実に揺れる仁にプレイヤーは感情移入していく。



対馬のいたるところで蒙古兵と戦えるようになっているのも、物語の演出にひと役買っている。オープンワールドの醍醐味は探索と寄り道だが、あまりに本筋と関係ないものが多いと、物語の流れを忘れがちだ。『Ghost of Tsushima』の場合、そこに蒙古兵との戦いをからめることで、プレイヤーは対馬のどこにいようが侍と冥人の戦い方を考える。侍は理想で、冥人は現実だ。物語とゲームプレイを通して仁とプレイヤーの戦い方が変わっていく流れは、むしろやり込み要素に熱中するほど理解できる。名を捨て実を取る生き方は、良くも悪くも創作を通して「侍」や「武士道」を知りがちな海外の人にこそ衝撃的だったのかもしれない。



最期の選択、どちらを取るか



仁が冥人として戦う覚悟を決めたのは、鑓川での戦い、冥人の型が使えるようになってからだろう。物語後半、彼は志村城奪還戦で敵に毒を盛る。誉を重んじる志村氏との確執は決定的となり、敵対しながらも仁は対馬のために蒙古を追い詰め、ついにコトゥン・ハーンを倒す。物語はそこで終わらず、境井家の墓を前に志村氏との果し合いになる。勝利した仁に、自身を殺すよう頼む志村。ここで、プレイヤーは彼を生かすか殺すか、選択を迫られる。



志村の誉れを尊重するか、冥人の生き方を貫くのか。本作を遊んだ人によって、選択は変わるはずだ。志村を生かすというのは、誉れを捨てた冥人らしい合理的な判断で、対馬にはびこる蒙古の残党を掃討するための力になってくれるだろう。なにより、仁にとって唯一の身内なのだから、助けるのは当然だ。だが、志村の思いを裏切ることになる。戦いの手柄をほとんど冥人に取られ、地頭としてだけでなく武士の面目を潰されたあげく、冥人に情けをかけられたという屈辱にさいなまれ続ける。殺せば、志村は武士としての誉れを守り、冥人に果敢に挑んで散った武人として名を残せる。志村家は断絶するが、誹謗も中傷も受けることはない。これまで誉れに背いてきた仁は、父の最期の思いに応えることもできる。だが、志村は死ぬ。



この選択は、『Ghost of Tsushima』の総決算なのだ。誉れを捨てて冥人になった仁(プレイヤー)が、最後にどちらを選ぶのか。800年以上前の日本で、死と隣り合わせだった当時を通してプレイヤーは何を思い、どのような選択を下すのか。対馬を巡ったのも、人々を助けたことも、蒙古と戦ったのも、すべてはこのため。イベントシーンを眺めているだけではわからない、ゲームだからこそできる演出だろう。生かした人も、殺した人も、それぞれの正しさがある。



時間を開けて再び遊んだ『Ghost of Tsushima』だが、当時の熱が冷めてから触れ直すことで、秘められた魅力を改めて理解できたように思う。鎌倉時代の対馬を忠実に描くこと、時代劇を基に、プレイヤーがチャンバラを楽しめるようにアクションを構築すること。開発陣は、リアリティとエンタメの線引きを完璧に理解していたと思う。2020年の「The Game Awards」では「Game Of The Year」こそ逃したが、本作はその年でもっとも面白かったゲームタイトルを一般人の投票で決める賞「Player’s Voice Award」を受賞した。公にではなく、一般人に支持されて賞に輝くとは、いかにも冥人らしい話ではないだろうか。



(文・夏無内好)

【作品情報】
■『Ghost of Tsushima』(ゴースト・オブ・ツシマ)
ジャンル:オープンワールド時代劇アクションアドベンチャー
対応機種:PlayStation 4、PlayStation 4 Pro
発売日:2020年7月17日(金)
価格:
・通常版:7,590円(税別)※パッケージ、ダウンロード版共通
・デジタルデラックスエディション:8,690円(税込) CERO:Z(18歳以上対象)
発売元:ソニー・インタラクティブエンタテインメント

©2020 Sony Interactive Entertainment LLC.

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