新たな地平線、メディアで紡がれる物語音楽の序曲──Sound Horizon「絵馬に願ひを!」(Prologue Edition)リリース記念! Revoインタビュー
「Sound Horizon」として「物語音楽」を生み出し続けてきたRevoさんがその進化形を世に送り出した。
今作「絵馬に願ひを!」は、リリースとしてはシングル「ヴァニシング・スターライト」(2014年10月1日)や、アルバム「Nein」(2015年4月22日)から約6年の月日が経過しており、Sound Horizon活動の根幹にして「世界」を描く「Story」作品としては「Märchen(メルヘン)」以来10年ぶりとなる。
音楽と映像という表現手段の融合作にして、Revoさんが音楽の中で示してきた人生の多様性、異なる世界線の意味を問うという行為において体現性をもたらした実験作であり、それと同時に、自身も創作者として高次に進みゆくという印象さえも受け止められる。
彼にしか生み出せない物語を作り続ける=他者とは異なる選択肢をつかむ「クリエイター・Revo」が語る一言一句に耳を傾けてもらおう。
選択することに伴う責任を感じられる
――Sound Horizon(以下、SH)としては6年ぶりのリリースとなりました。今の心境をお聞かせください。
Revo その間もLinked Horizonとしての活動はしていたので、仕事量的には減ってはいないのですが、気づいたらいつの間にか。恐ろしいですね。リリース周期が長いというのは、ビジネス的にはベターではないことが多いとは思うのですが。もしかすると、流行り廃りに左右されずに応援してくれる人達が能動的に残るという意味では、決して悪いことばかりではないのかもしれない。そこはあくまで「if」の話ですが。
――作品作りという点で時間をかけた感覚はありますか?
Revo どうでしょうね。ずっとこの作品に専念していたわけではないので。でも、確かなのは、皆さんが生きているこの地平線では、短くない月日が流れました。今回は現代日本に似た世界の話ということで、リンクしている諸問題も出てきます。なので、リリースタイミングが違っていたらどういったものになるのか、とは考えます。今回はあくまで「Prologue(プロローグ)」ということでわからないところもまだまだあるでしょうが、「Full(Edition)」を聴いてもらったときに、別の世界線ではどうなっていたんだろうという面白さは感じるかもしれませんね。
――今作にはどのようなメッセージを込められましたか?
Revo やはりそこも、今回は「Prologue」でしかないということで、伝えたいことの真意とその奥行きは後に待ち構えている気がします。でも、決して真新しいことではないでしょうね。今言うべきことがあるなら、今までなんとなく伝えていた「解釈の自由」といったところをより明確に提示した、ということかな。ただ、それはともすれば、狭い檻の中に再度リスナーを放り込んでしまうことにもつながるじゃないですか。明示される選択肢があることで、より強固な「有限性」に思考は囚われ、「固定化」という呪いから抜け出せなくなるかもしれない。でも、今までついてきてくれた人たちなら、今回の作品に触れてみて、これらを唯一の解釈と思うことはないでしょう。そういった意味では、清水さん(聞き手)も含め、僕はローラン(SHファンの愛称)を信頼しているので。「Nein(ナイン)」もそうですが、こちら側からの解釈も1個ではないということが、よりわかりやすい形で明示されただけの話なので。たとえばコンサートにしても、ビジュアル化をなすことでイマジネーションを閉じ込めることにはつながります。でも、頭の中で明示されたものとは別の選択肢を選ぶことで、その先に広がる結末にたどり着くことができるかもしれない。
――なぜ今、考察や解釈といったところを明確にしたのでしょうか?
Revo 久しぶりのリリースでもありますし、明文化しておいたほうがいいかとは思ったんです。それが選択させることへの心構えというか。でも、それが本当に「親切」かというとわかりませんね。親切な顔をしているだけの悪魔かもしれないので。作品の中で、「選ぶ」ということには責任がついて回る、とまではひと言も言ってないと思いますが、聴いた人は感じるでしょうね。自分の選択によって物語の展開が変わるわけなので。と言っても、楽曲に対するアプローチや構造が変わったわけではありません。SHらしい物語音楽作品だと思います。リスニング体験としては、今まではひとつのルートしか通れませんでしたが。簡易に別の可能性を見ることができる今作は、ある意味入門編として適しているとも言えます。「Nein」は大本の存在があり、それを改竄したような形になっているので、原典が正、「Nein」が偽という感覚に陥りがちですが、原典がない状態で選択肢を与えられれば、どちらを真実と思うかはそれぞれの人に委ねられます。その意味では、さまざまな事象の可能性、あるいは、起きたことの裏側には何があるのかというところを感じやすい作品かもしれませんね。ひるがえれば、既存の作品に関しても自分の頭の中で同じようなことをできるということでもあります。こちらからは明確に提示されないだけで。
世界に入っていこうという気持ちが聴いている音楽と結びつく
――今作は参加ミュージシャンがかなり一新された感がありました。どのような意識で選ばれたのでしょうか?
Revo 同じメンバーでやることが多くなると、新しい人とやりたいという気持ちは少なからず出てきますね。それは決して人だけの問題ではないんだけど、創作者にとってマンネリ化は永遠の敵なんだよね。レコーディング開始前に完成形が100%見えているわけではないという状況を、どういう化学変化が起こるかわからないというところを楽しんだ部分は大いにありました。どんなミュージシャンも同じですが、いろいろな音楽を広く知ってはいても、バックボーンというか開けやすい引き出しがあるので。そこも含めてその人の「らしさ」なので、そういう人達をどう集めて化学変化を起こすか。ただ、ひとつの音楽にまとめる必要がある以上、全員が新規のメンバーだとそれはかなり大変ですが。それに、歌に関しては明確なキャラクター性があるので、楽曲や登場人物の世界観を表現する点で一番しっくりくる人選か、という大前提もありますしね。
――新しいメンバーとの共同作業で印象に残っていることはありますか?
Revo なんだろうな。あるはずなんでしょうが、うーん……。ことさらインタビューとして面白いことを答えよう、という邪なことを考えちゃうからね(笑)。そうだな。清水さんが求めてる答えとは違うかもしれないけど。たとえば、歌の人はまず書類選考して、ご自身のデモを聴かせてもらい、その中から可能性を感じる人にオーディションに来ていただいてという形をとることが多いのですが。仮歌のような形で僕の曲を歌ってもらう中で、「比較的」ではありますが、最終的にお願いすることになる人は、いい意味で癖がないような気はします。どうしてもその人が生み出す音楽にはバックボーンとしての癖が存在していて、たとえばミュージカル畑でやってきた方は歌い方がやはりミュージカルなんですよね。ほかにも純粋なポップス畑の人がいたり、クラシック声楽畑のベルカント唱法の人がいたり、声優活動をされている人も、俳優の人もいる。歌唱表現とひと口に言っても、本当にさまざまな個性を持った人がいるなと強く印象に残りました。こんなにバラエティ豊かな人達がひとつのオーディションに集まるプロジェクトはなかなかないと思うよ(笑)。こちらの楽曲のジャンルも多岐に渡るし、途中で曲調が変化することも日常茶飯事なので。その人の個性を発揮しつつ、楽曲の変化に合わせて柔軟な対応をできる人にお願いすることが多いのかな。あとは、コンサートのことも想定しながらの人選になるので、声だけでは決められない部分もある。登場人物の年齢や特徴的な容姿にどれくらい寄せられるかも大事。実際、本人の努力だけではなく、衣装やメイクといったいろいろなものの力で登場人物を体現することにはなりますが。本当は、登場人物本人を連れてこれれば楽なんだけど。簡単に連れてこれない世界に住んでいる人ばっかりだし、幻想物語歌曲として表現するにあたり、登場人物本人の歌唱力のほうがふさわしいとも限らない(笑)。やっぱり、その人のために曲を書いているわけじゃないからね。そこが面白いんだけど、独特の難しさが存在するのも事実です。
――表現したい世界の一部になってもらうわけですからね。
Revo どう合わせてもらうかだけではなく、自分がその人を楽曲にどう合わせられるか、というプロデュース側の問題も大きいですね。何もせずに、その人の自然な100%と楽曲が最高のポジションで融合するということはなかなかないので。本人の意識なり、僕のディレクションなり、世界に入っていこうという気持ちが最終的には聴いている音楽と結びついてきます。だから、その人の表現や、今まで培ってきたテクニックとの化学変化をどこかで望んではいますが、個性が強力過ぎると難しい局面は多いと思います。届けてしまうのが、楽曲の世界観よりもそれとは無関係なその人の個性になってしまっては、物語音楽としては失格ですから。
多様性や世界の広がりを示すために描くべき物語
――冒頭、メニュー画面に流れる音楽はまさに日本の伝統音楽、というもので、これから始まるSH世界への期待がふくらみました。
Revo そうですね。もし、これを街中でゲリラ的に聴くことがあったとして、僕の曲だと当てられたらすごいと思うよ。かなり日本の古典音楽に寄せて作った曲なので。ただ、古典の音楽をやられている人が聴けばわかるでしょうね。「これは古典の曲じゃないな」、と。古典では絶対やらないようなアレンジも入っているので。どうしても現代の西洋音楽を通っていると、東洋音楽の古典に立ち返ったとき、耐えきれなくて何か音を入れたくなる感覚があることは自認しました。これでも相当ガマンして引き算しています(笑)。和音の薄さや間というところが、和の美しさでもあるので。その謎のフュージョン感が、似て非なる雅楽。狼欒(ろうらん)神社の儀礼音楽としてはふさわしいのではないかと。
――今回のStory作品を作るにあたり、必要になりそうなところは勉強してみたとお聞きしました。
Revo 付け焼刃ですけどね。素晴らしい伝統からすると。
――あらためて日本の古典音楽に触れてみて、どのような魅力は感じましたか?
Revo 皆さんもそうだと思うんですが、すごく落ち着く感じはありますよね。結局、日本の古典音楽=お正月というイメージはあるので、実家に帰ったような安心感というか懐かしさがあります。今はサウジにいますが、僕も日本はもう長いので、故郷の音楽といっても差し支えありません(笑)。さすがにメニュー画面の音楽はループが続くので、単体でずっと聴いているのはつらいところがありますが、おせち食べるときにはいいBGMになりますね。残念なのは、お正月にはまだ発売されていなかったということなんですが(笑)。でも、来年のお正月はエンドレスにかけながらお酒を飲んでお餅を食べて、とかいろいろエンジョイしてもらってもいいかもしれない。
――ハロウィンに続き、SH音楽が日常のお供に(笑)。そのいっぽうで、「不妊症」「不育症」というテーマを登場させることに衝撃を受けました。
Revo J-POPでは、まず出てこないワードですよね。
――ただ、「誕生」という意味では、SH楽曲には欠かせないテーマでもありますね。
Revo 僕が目指すエンタメは、ライトな共感に軸足をおいているわけではありません。どちらかというと、届けたいのは想像力です。というと語弊がありますが、想像力は皆さんの中にすでにあります。それは自分の中にないものにさえ共感できる力、他者の状況に対して思いやれる心に育てることができます。今回、そこを少し掘り下げてみたんですよ。新しいお母さん像を出したとしても、表面をなぞった精神論みたいなのばかりでは、どうしても薄くなってしまう。最新作としては、やはり、もう少し母の覚悟や大変さ、母の愛みたいなところと現実感を結びつかせて、“Around”世界観、周辺の世界観にはこういうところもあるよと。それを知ってもらえば、今までの作品を振り返ったときにも、描かれていないドラマに思いを馳せることもできるかもしれない。SHとして15年間活動させてもらって、結婚したり子供ができたり、というファンからの報告を多く受けるようになったという部分もあります。このテーマを既存の作品を知っている人達に向けたとき、より深く描こうとするならば、「命」の裏側にある問題、特に出産が高齢化した現代では重要になってくる問題のひとつとして避けては通れないとは思いました。実際、最初の絵馬、最初に通る関門として用意されているので、リスナーの皆さんが命や子供についてどうとらえているのか、そこをいきなり問われるわけです。
――ただ、10代、20代の人達にとっては身近な問題とは言いづらいですし、深く掘り下げることで非常にデリケートな領域に関わってきます。それでも考えてほしい、あるいはRevoさんにとって駆り立てられるテーマなのかと感じました。
Revo デリケートなテーマですが、親愛なるローラン達なら受け止めてくれると信じています。だから迷わず送り出せました。この痛みが、また多くのやさしさを育てると思いますが、でも、そんなに重くも深くも多分考えてはいないんですよ。今の決断がどうこうではなく、ここに至る流れという部分があるので。大きく言ってしまえば「『Roman』を出したときからそういう運命だったのかな」とは思います。イヴェールという存在を定義したならば、その15年後くらいにはここに至るんだ、というような。もちろん、違う世界線もあるかもしれませんが、あの時点でイヴェールを世に出した、まあ出ているのか出ていないのかわからない存在なんですが(笑)、皆さんに周知させた時点で、この世界線に進むことはかなりの高確率で決まっていたんじゃないですかね。作品ごとに何か新しい表現を少しでもやりたいという気持ちがあって、その最先端が「絵馬に願ひを!」でもあるんです。最先端と言いつつも、“Around”すぐ、Full Editionが登場しますが(笑)。だから、この形を一度提示し、疑問を投げかけておこうと。その答えがFullで出てくるかもしれないし、出てこないかもしれないですが、ひとつのケースとしてこういう世界を描くべき運命のようなものは感じています。
――「Nein」の「シュレディンガーの猫」に続いて「猫」というモチーフを選択したことについては?
Revo 「Nein」を踏まえてはいますが、言ってしまえば、箱の中に入っているのは猫でも狼でもいいし、今回も猫が別の動物にすり替わっていても物語は成立しますが、だけど「なぜ猫なのか?」というところは考えてもらえれば、とは思います。猫を選んだ理由はあるわけですからね。
――また、SH作品ではよく登場する「禁断の恋」も登場しますが、こちらも惹きつけられるテーマなのでしょうか?
Revo 惹きつけられるとも言えるんですが、結局、マジョリティとマイノリティという考え方は「数」のとらえ方の話なんですよね。歴史を見ると、マジョリティ側が正義となり、マイノリティ側が迫害されてきたという事実の連続ではありますが。
どちらも選択肢としては「1」でしかない。だから……、やっぱり僕は神なのかな?(笑)。
――(笑)。異性愛と同性愛、選択肢としてはどちらもひとつであるというのはわかりますが、「神」というのは?
Revo ごめん。悪い癖。思考が飛躍した瞬間をちゃんと説明しなかったので、過程がぶっ飛んで見えるよね(笑)。バグっているようだけど、平常運転です。要は、作品を作るときに、自分がどこに属しているかという考えは存在してないんですよ。どっちが多かろうが、少なかろうが関係ない。ある意味平等。神の視点で世界を見ているのかもしれないですね。むしろ、物語としては、ほかの選択肢がいくつもあるのになぜこちら側のお話ばかりやっているのか、というところですよね。多様性や世界の広がりみたいなところを示すならば、もっと描くべき物語はたくさんあるはずですよ、と。たとえば、シェフがフラットにお皿を用意しました、どちらを食べるかはあなた次第、という感じ。どちらがおいしいか、なんてシェフの先入観はいらない。音楽作品である以上、最終的には「全部食べまーす」ということになるでしょうが、「君は最初にどちらの皿を選ぶんだろうね」とは思います。
――そこでRevoさんの意図するところとしては「無」ですよね。店舗購入特典の御神籤(おみくじ)ではないですが。選択肢に正誤はない、というテーマは感じますが、と同時に「生」を後押しするようなメッセージも感じます。その点についてはどのような意識で音楽活動をされているのでしょうか?
Revo まあ、でも、いろいろな物語を作ってきてひとつ言えるのは、作品を作って世に出すことで「皆に死んでほしい」とは思っていないですよ(笑)。
――もちろん、そんなことは思っていないです(笑)。聴いた人もきっと。たとえ、悲劇的な結末が多いとしても。
Revo 「目標は人類を抹殺すること」みたいな。もしそうだったら音楽を作っている場合じゃないからね。ほかに作るべきものがあると思いますよ。××施設とか××兵器とか。だから、悲惨な物語を描いていても、聴いている皆さんには幸せになってもらいたいとは思っています。まあ、「幸せ」は一方的に誰かに与えられるものではないでしょうが。ただ、音楽作品を聴いて、湧き上がってくるようなポジティブなエネルギーがあるとしたら、それはその人の人生にとって有意義なことにつながるかな、とも思います。その心の動きは、君が生きている証でもある。
――逆に、「生きろ」と強要せず、そこを推薦する音楽でもないですよね。
Revo さすがにそこまでは責任を負うことはできないよね。死んでほしくはないけど。死んでもいいと思える何かに出逢えた人生は、幸福といえるかもしれない。出逢えなかったから死ぬというのは寂しいけど。ただ、やはり生きてるなら燃えなきゃね……。
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