やまなしフィルム・コミッションマネージャーが語る! 山梨県・身延町が『ゆるキャン△』で活気のある観光エリアに変身するまで【コラボのゲンバ第16回】

アニメや声優などのサブカルチャーとさまざまな業界のコラボレーションが活発化する今日この頃、「おっ!やってくれるな」「何?そうきたか!」とファンの心を刺激してくる商品、コラボ企画が続々と登場している。
そこで、アキバ総研的に気になる「コラボ」の企画現場に伺い、企画の魅力やおもしろエピソード、苦労話などの制作裏話を、あれこれうかがっていこう!という連載が「コラボのゲンバ」だ。

第16回に登場するのは、現在最新作が好評放送中のTVアニメ『ゆるキャン△』と山梨県とのコラボ企画。思うように外に遊びに行けない状況が続く中、オープンエアで楽しめるキャンプ人気は爆上がり。アニメはもちろん、バラエティ番組などでもソロキャン特集などキャンプへの注目度はますます高まっている。

今回お話をうかがったのは、富士の国やまなしフィルム・コミッションの担当・武川清志朗さん。山梨県で生まれ育ち、地元の大学を卒業後、東京で映像制作に携わった後、3.11をきっかけに地元・山梨県に戻り、現職で活躍している武川さん。実は学生時代に現在の富士の国やまなしフィルム・コミッションの立ち上げに携わったという。

山梨県を知り尽くす武川さんに、『ゆるキャン△』とのコラボ誕生の経緯や立ち上げ時の裏話、ファンや地元の方のコラボ企画への反応や、今後の展望などをたっぷりと語ってもらった。

—— 『ゆるキャン△』とのコラボ企画の経緯を教えてください。

武川 私が所属するやまなしフィルム・コミッションには、県内でのロケのお問い合わせが年間500から600件あります。実際にその中で150から170本くらいの数の依頼を受け入れ、日数にすると年間で300~360日ほど撮影を行っている状況です。映画、ドラマ、MV、CMなどさまざまなジャンルの依頼を受け入れています。

ーー 1年中フル稼働状態ですね。では、フィルム・コミッションさん発で「うちで撮影しませんか?」というオファーはしないのでしょうか?

武川 ありがたいことに、フィルム・コミッションができてからこれまで、常に満員御礼状態なので、こちらからオファーをしたことはあまり多くありません。依頼を受けるという形で対応しています。

ーー 地域活性のためにフィルム・コミッションから作品や制作サイドを誘致することが多い中、山梨県にオファーが集中する理由はどこにあると思いますか?

武川 まずは立地条件です。たとえば23時半新宿戻りの場合でも、21時まで撮影が可能です。都心から少し離れるだけで、富士山も見えるし、四季が感じられる風景がたくさんあります。小旅行のシーンが登場する作品は、意外と多いので、ドラマなどにも重宝されるのだと思います。ただ、どこかの田舎町という設定で使われることが多く、たくさんロケを行っていますが、作品内で山梨県を山梨県として描いているものがほとんどないんです。

ーー そこで『ゆるキャン△』の登場ですね。

武川 ハマりました。DeNAの堀田将市プロデューサーがお話を持ってきてくださったのが、1巻が発売後、2巻の発売前の頃でした。漫画を読んだときに「おもしろい」と感じると同時に、作品の舞台が身延町のある峡南エリアが登場していることに驚きました。

これまで、食や文化などでさまざまな観光誘致を図ってきたエリアですが、特に冬の誘客には頭を悩ませる観光の難所でした。ハンコや和紙の生産が盛んで、一番有名なのは日蓮宗の総本山、身延山久遠寺(みのぶさん くおんじ。以下、身延山久遠寺)です。春にはたくさんの方が訪れますが、冬の観光は難しい。でも、実は、街並みは美しいし、ハンコや和紙の生産にも歴史があるので、身延山久遠寺だけではなく、周辺の街を目的に訪れてほしいとは思っていました。

ーー 一通り手段を講じたけどうまくいかなかった中で、アニメとのコラボに躊躇はなかったのでしょうか?

武川 やらないという選択肢はなかったですね。やったことがないジャンルでしたので、やってみてからどうなるか判断したいと思いました。県庁の観光部の方たちに、誘致活動ができる可能性を訴えるべく、まずは作品を読み、理解してもらうことから始めました。観光担当には、行政の中でも新しいアイデアを受け入れてくれる柔軟な方、ちょっと尖った考えの方も多くいます。作品を読んで「おもしろい」という声を多くいただいたので、今度は、地元の方に作品をどう受け入れてもらうのか、そこへの注力にシフトしました。

ーー いきなり「アニメとコラボします」と言われても、「何をやるの?」となりますよね。

武川 実際にその場所に訪れるファンの方と交流するのは地元の方になります。そこの理解がなければ「聖地化」には繋がりません。お土産や食事、サービスの話はその先の話。まずは、住んでいる地域住民の皆さん、年齢層も高い身延町の方に、アニメを知ってもらうことから始めました。

ーー どんな方法で進めたのでしょうか?

武川 地元の役場職員、商工会議所など若手の方に協力を仰ぎ、町長と住民の意見交換会におじゃましたり、回覧板などを使ってアニメの放送日をお知らせするところからのスタートです。どういう理由で、ファンの方がモデル地・身延町を訪れたいのかをしっかりと理解いただいたうえで、協議・誘致活動をしていきました。大切にしたのは人と人とのコミュニケーションなので、何度も足を運び、直接お話をすることを心がけました。当事者として参加してもらい、経験してもらうことを大切にしました。失敗も成功も体験しないと次に繋がりません。失敗は生かせるし、成功すれば、成功体験を積み重ねることで向上心が生まれ、イベントのクオリティ向上に繋がります。結果として、地域がどんどん元気になっていきます。『ゆるキャン△』に限らず、私自身がプロデュースに関わる際に意識していることでもあります。

ーー 大変だったことはありますか?

武川 最初はなんでも大変ですよね。今回は、山梨県が舞台のアニメとコラボするのも初めてでしたし、失敗しても「初めてだから!」って言えるくらいの気持ちでおもしろがって取り組みました(笑)。それが、気づけば、ショートアニメ『へやキャン△』も挟んで『ゆるキャン△ SEASON2』も放送、さらに実写もできて。映画も制作決定で。メディアミックスで全部がうまくいっている成功例になった気がします。本当に原作のあfろ先生には頭が上がりません。

ーー イベント「第一回本栖高校学園祭」も地元発信でしたよね。

武川 今は公式イベントとして音楽祭を実施されていますが、最初の音楽イベント立ち上げは我々で行いました。劇伴もすばらしく、自然豊かな身延町の学校の校庭でやること、初めての公式イベントを地元でやることに意味があると考え、運営は地元の有志で。自分たちの力でやることはインパクトにもなるし、ファンの人たちに『ゆるキャン△』の聖地を知ってもらうよい機会だと思いました。そこで考えたのが、メディアが注目したくなるような“人”のプロデュースです。

ーー 五条ヶ丘活性化推進協議会の会長さんですね。

武川 本職がお坊さんという深山光信さんです(笑)。地元の有志の方に声をかけてもらい、毎晩お寺で情報共有をしていただきました。お寺はもともと地域の人たちの拠り所です。寺子屋が存在した時代には、特にそういう機能があった場所なので、とても自然な流れで進みました。地域の方から信頼されているお坊さんが指揮をとってくれる。すごくおもしろいと思ったし、説得力を感じました。深山さんの存在は本当に大きかったです。今では、キャンプイベントをやると100~200組ほどのキャンパーが集まります。地元ではお店屋さんがお客さんにお茶を振る舞う、そんなサービスが自然と生まれたのも、よい流れでした。観光地ではなかった小さな町に活気が生まれたのを実感しています。

ーー いい意味で派手じゃない感じが作品のテイストに合っていると思います。

武川 “『ゆるキャン△』のモデル地でイベントやりますよ、皆さん集まって!”という感じじゃないのは、作品の世界観にも合っていますよね。原作もアニメもヒットするかどうかはわからないという状態で企画がスタートしたので、「一気に加熱するのではなく、卵をかえすように温めていきましょう」と当時、堀田プロデューサーと話をしていました。そういう姿勢も作品、町のテイストに合った気がします。

ーー ファンの反応はいかがでしたか?

武川 リアルイベントに参加しているので、生の声は現地で聞いています(笑)。あとはSNSですね。私はフィルム・コミッションの立場なので、地元の方とファンの方の関わりには特に気を遣っています。作品に登場するような魅力的な地域、環境を作っているのは、そこに住み、守ってくれる人がいたからです。だからロケ地、そして聖地が存在します。ファンの方はもちろんですが、地元の方には最大のリスペクトを心がけています。SNSではたまにネガティブなコメントも見かけたりしていますが、それが事実ではない場合も多く……。いろいろな作品に関わっているからこそわかるのですが、『ゆるキャン△』に関しては、ファンの方のマナーもすごくよくて、地元の方とのトラブルも山梨県内ではほとんど聞かないですね。

ーー それは素晴らしいですね。

武川 公式サイト、山梨県のHPにも、聖地を訪れる際の注意点やお願いを記載しています。

ファン同士でマナー注意を呼びかけたり、キャンプ場の情報などをフォローしてくださることもよくあります。そのためにも、私がやるべきこととして、地元の方と定期的にコミュニケーションをとり、そこから得た情報を作品の広報担当、プロデューサーなど、各所と共有することを心がけています。

ーー 情報の共有がされているので企画がいろいろと誕生しているというわけですね。先日はハローキティともコラボしていましたよね。

武川 サンリオさんと『ゆるキャン△』のコラボがありました。サンリオさんと山梨県は昔からお付き合いがあり、ハローキティが山梨県の観光ナビゲーターです。私も、コラボグッズやロケなどで参加しています。我々フィルム・コミッションはロケ地側の人間ですが、どの企画でも撮影がスムーズに回ることを意識して携わっています。

ーー 今後の目標を教えてください。

武川 現在放送中の『ゆるキャン△ SEASON2』では静岡県もたくさん登場してきます。山梨県、長野県、静岡県の広域連携は現在の大きな目標です。

ファンの皆さんがモデル地を楽しく快適に巡れるように、県の垣根を超えた協力ができたらなと思っています。

ーー 山梨県の観光サイトを見たときに、山梨県なのに長野県が紹介されている、ありがたいって思いました。

武川 やまなしフィルム・コミッションが加盟しているジャパン・フィルムコミッション(JFC)は全国組織なので、せっかくなら連携してみんなで作品を盛り上げられたほうがいいですよね。作品の世界観を大事にしながら、作品そしてモデル地を広げていく。ファンの方たちを受け入れて、楽しいことをやっていきたいと思っています。

ーー 山梨県を知り尽くす武川さんの冬のイチオシスポットを教えてください。

武川 冬の富士山は格別です。空気のかすみがなく、すごくきれいな富士山を見ることができます。『ゆるキャン△』の中でも、富士山はたくさん登場するので、さまざまな表情を楽しんでほしいです。

(取材・文/タナカシノブ)

【アニメ情報】

■TVアニメーション『ゆるキャン△ SEASON2』

<放送情報>

AT-X 毎週木曜23時00分~

TOKYO MX 毎週木曜23時30分~

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KBS京都 毎週木曜25時00分~

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北海道テレビ 毎週月曜25時20分~

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dアニメストア 毎週木曜23時30分~

ABEMA 毎週木曜23時30分~

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