グッスマ20年目の新生、その狙いは?オンラインイベント「WONDERFUL HOBBY LIFE FOR YOU!! 32」開催記念、取締役・秋山拓郎ロングインタビュー・後編!

フィギュア、プラモデル、アニメ、グッズ、ゲームなど日本が誇るあらゆるポップカルチャーの最先端を突き進むグッドスマイルカンパニーが、2021年5月に創業20周年を迎える。

そんなアニバーサリーイヤーの2021年2月11日から23日にかけて、オンラインイベント「WONDERFUL HOBBY LIFE FOR YOU!! 32(通称・ワンホビ32)」が開催される。

本イベントは、本来は2021年2月7日に開催予定だった「ワンダーフェスティバル2021[冬]」内で展開予定だったが、新型コロナウイルス感染拡大にともない緊急事態宣言を受けての中止を受けて、グッドスマイルカンパニー(以下、グッスマ)独自で開催されることが決定した。

本イベントではオンライン上でグッスマの新商品や新情報が公開されるほか、オンライン上でイベント限定グッズの販売、生配信番組などリアルイベントに負けず劣らず充実の内容で世界中のホビーファンを楽しませてくれる予定だ。

今回、アキバ総研ではそんなワンホビ32開催に先駆けて、グッスマとともに歩んできた同社取締役・秋山拓郎さんにインタビューを敢行。20年に及ぶグッスマの歴史と、これからのグッスマについてたっぷり2時間にわたって語っていただいた。

前編に続いて、後編もたっぷりお楽しみいただきたい。

企業として一つ上のステージに上がった2012年

──2012年には新卒採用が始まりました。新卒採用が始まるというと、会社としてもう一つ上のステージに上がる感じがありますね。

秋山 会社も大きくなりましたね。それまではやりたいことがあるんだけど仲間が足りない、というところにパッチを当てるように経験者を募集したり知り合いを紹介してもらって、その任に当たってもらうという具合に即戦力のチームづくりをしてきたんです。ただ、この頃になるとメーカーとして機能はそろったし、新卒の人に入ってもらってグッスマ流というか、グッスマの考えをしっかり身に着けた人たちに活躍してもらおう、という考えです。より自由にチャレンジングに会社の機能を使ってやりたいことをやってもらうということを始めています。

どうしても専門的に同じことをずっと続けると考えが固くなってしまうこともあると思います。

──2013年には、北米市場に向けて「ULTRA TOKYO CONNECTION, LLC」が設立されました。中国に続いてアメリカ市場にも乗り出した。

秋山 もともとグッドスマイルカンパニーは非常に海外志向の強い会社ではあったんですが、具体的に対応していくためにはどうしても日本からだと遠いということで、現地に会社を作って、しっかりと現地の人との会話を増やして販売をしていくということをやっています。

──このあたりになると、さまざまなシリーズが出そろい、それをどう世界に展開していくかという感じでしょうか。

秋山 そうですね。グッスマの取り扱い商品を含め日本発のグッズを欲しい人って世界に点在しているんです。でも、例えば中国に行くと、中国で生まれた現地の作品があって、今の中国の若い人たちの中には、小さな頃から中国のアニメしか見ていないという人も増えてきているんです。

アメリカもしかり。アメリカなんてもっとたくさんの作品があるので、日本の作品が好きな人ってどちらかというとニッチです。アメリカには現地の映画もあるし、カートゥーンもあるし、ゲームもある。最初、僕らは日本のキャラクターをかわいく楽しく美しく商品化して、世界中のあまねく人たちにそれを届けたいと思ってましたが、徐々に僕らの考え方、作る能力、きれいに量産する力を、他の国の作品でもしっかり機能させて、各作品のファンに届けるということをすると、もっとグッスマのファンを作れるんじゃないか、喜んでもらえるんじゃないかなと思ってきています。なので2018年に、中国のコンテンツや人材の発掘を目的としたメーカー「グッドスマイルアーツ上海」を中国に設立しました。そこで作っているのは、ほぼ中国の作品のフィギュアです。

ねんどろいど アイアンマン マーク42 ヒーローズ・エディション+ホール・オブ・アーマーセット

──確かに近年は中国作品やマーベル作品など、海外コンテンツのアイテムが増えてきていますね。

秋山 はい。何なら、もう「ねんどろいど」という形で展開しなくてもいいかなと思っています。僕らは「ねんどろいど」で成長した会社なので、それを知ってもらいたいという気持ちもあるんですが、現地の人が喜んでもらえるような企画やデザインがあれば、無邪気にそれをやりたいと思います。

──各国の人気キャラを立体化させていくとか。

秋山 それもミッションだと思っていて、たまに「これ売れるんですか?」というキャラもやります(笑)。

──だから「日本国内でこれは売れるの?」みたいな謎の商品が時々出くるんですね(笑)。そこが企業としての懐の深さですよね。この機会に聞いてみたいのですが、最近のグッドスマイルカンパニーの商品化がマニアックすぎて、「さすがにこれは商品化できないよね」というラインがわからなくなってきています。秋山さんの考える、商品化のNGラインを教えていただけますか?

秋山 それは……ほぼないですね。ただ同じチャレンジ枠で商品を作ったとしても、片方はやる気満々。もう片方はチャレンジ枠でやれって言われたからやりましたっていうパターンだと、熱意のない方はOKを出しません。だって得るものが何もないじゃないですか。同じ赤字という結果だったとしても、強い思いがあればその担当者にも得るものがあると思います。

がんばって売ろうと思うと、いろんなことを考えて試そうとするじゃないですか。すると成功すればもちろん、たとえ失敗に終わっても、何かしら蓄積するものがあると思います。

「ねんどろいど 哪吒 DX Ver.」。中国劇場版アニメ『哪吒之魔童降世』のキャラクターだ。

予想外だった女性ユーザーの増加

──そして2014年には、「ねんどろいど」500番が発売されます。

秋山 まだ500番ですか。この頃、ちょうど鳥取に楽月工場ができました。そこで製造したのが「ねんどろいど 桜ミク Bloomed in Japan」でした。

「ねんどろいど」500番を飾った「ねんどろいど 桜ミク Bloomed in Japan」

──2015年にはメカフィギュアシリーズ「GOOD SMILE ARMS」第1弾の「チェインバー」が出たほか、男性キャラクター専門ブランド「オランジュ・ルージュ」が発足しました。

秋山 「オランジュ・ルージュ」は男性キャラクターに特化したブランドで、女性ユーザーの比率が高いブランドです。

──個人的な印象ですが、それまでのフィギュア市場は男性向けの美少女フィギュアが主流という感じだったんですけど、女性を主なターゲットにしたブランドが出てきたことに、「ついにそんな時代になったのか」と驚かされました。

秋山 僕も驚きました。『刀剣乱舞-ONLINE-』の三日月宗近が特に売れまして、女性がフィギュアを買ってくれるようになったという純粋な驚きがありました。

オランジュ・ルージュより2021年5月発売予定の「POP UP PARADE 芥川龍之介」。

──特に女性ユーザーが増えたという実感を得たのは、どんな時でしたか?

秋山 やはり『刀剣乱舞-ONLINE-』ですね。この「ねんどろいど」とスケールフィギュアを出した時に、本当に増えてるんだと実感しました。

当時、僕はフィギュアを買う人が国内で減ってきていると思っていたんです。なぜかというとソシャゲ全盛期で、特に高校生から20代の男性がガチャにお金を使うようになってきていた、フィギュア業界の規模は横ばいのように見えるけれど、商品価格もじわじわと上がってきていたので、販売個数が減ってきたとしてもバランスを取っているように感じていたんです。

でも、実は売り上げを支えてくれていたのが、新しくフィギュアを買うようになってくれた女性のファンの皆さんだったんです。それがはっきりわかってきたのが『刀剣乱舞-ONLINE-』やオランジュ・ルージュの販売を見た時です。

それまでも好きな美少女キャラのフィギュアを買う女性のファンもいらっしゃいました。しかし、それとは違う層がフィギュアユーザーになってきたなと思います。この時期に女性のフィギュア市場が一気に拡大したと思います。

※ねんどろいど10周年特設サイトより引用

──2016年は、本社が現在地に移転。そして幕張イベントホールで「ねんどろいど」10周年イベント「Nendoroid 10th Anniversary LIVE」秋葉原で「グッドスマイルカンパニー15周年記念展示会」といったアニバーサリー的なイベントが行われました。そしてついにスマートフォン用RPG『グランドサマナーズ(グラサマ)』でゲームに参入しました。

秋山 出してしまいました。そしてローンチしてすぐに200位圏外になってしまいました(苦笑)。普通の会社なら、そこで諦めるところをグッドスマイルカンパニーは1年半にわたってアップデートとメンテナンスを繰り返し、今はちゃんと固定ファンもつき、海外でもある程度人気を獲得しております。

──それがすごいですよね。転んでもただでは起きない。

秋山 今でも社内で関わっているスタッフは数人なんですが、その時は安藝と岩佐という役員と1人のゲーム好きスタッフの3人だけで、開発運営会社のNextNinja(ネクストニンジャ)さんと一緒にやっていました。で、ずっとゲームをしながらTwitterでユーザーの会話を追いかけて、ずーっと改善点の話をしてるんですよ。打ち合わせの時も脇にスマホを置いて、ずっと「グラサマ」を動かしてました。

──大きな会社になっても、その地道な姿勢を止めない辺りがさすがですよね。

秋山 やっぱり知りたいんですよね。どんな結果が出たって、そこに至る理由や過程が必ずあるわけじゃないですか。それを知ることで、「次、こうしたらこうなる」という仮説が生まれる、そしたら今度はそれを試してみたい。数字もしっかり見るんですが、それだけでなくユーザーのエモーショナルな面にもフォーカスして、両面を追いながら探っていくのが僕らが好むやり方ですね。

──特にファンの目線に立って考えるというのは、どんな時代、コンテンツでも変わらないグッドスマイルカンパニーの姿勢ですね。

秋山 全員そうなっていればいいなと思います。僕もイベントに参加するとお客さんがまずどこに走っていくのかとかを必ず見て、でも理由がわからないからそれがなぜ人気なのかを周りに聞いて、そうやって社内の会話が増えているのかもしれないですね。

プラスチックモデル、合金トイとさらに広がるグッスマのラインアップ

──2017年11月にアキバCOギャラリーがオープンしました。

秋山 そこで「Fate/Grand Orderフィギュアギャラリー」というイベントをやって、業界の20数社に声をかけて各社の『Fate/Grand Order』フィギュアを展示させていただきました。

これは僕が勝手に企画したのですが、コミケとかに行くと若い子が「知ってる?『Fate』ってもともとPCのノベルゲーム(『Fate/stay night』は2004年にPC用の伝奇活劇ビジュアルノベルとして発売された)だったんだぜ」って話をしていて、僕からすると「そりゃそうでしょう」って思うんですが、その若い子たちの興味の対象が「FGO」だけだったんですよ。ソシャゲとしてしか『Fate』を知らない。そこに対して「もっとこんな商品もあるんだよ」「フィギュアもあるよ」っていうことを知ってほしかったので、版元さん、メーカー各社にも協力していただいて開催しました。結果的に1か月で1万人くらい来てくださったのかな。

──アニメーション作品のプロデュース会社「グッドスマイルフィルム」も設立されました。

秋山 グループに制作を担うウルトラスーパーピクチャーズと傘下のスタジオもありますし、今後より深くアニメ製作にもかかわっていこうという時期でもあり、近しい志をもったプロデューサー陣と会話をする機会が増えていく中で、「じゃあ一緒にやりませんか」ということで設立に至りました。

──12月にはドールブランド「Harmonia bloom」がスタートしました。

秋山 そうですね。ドールも前から興味があったんですが、すごくドール好きな社員が新卒で入ってきて、すごく情熱があったので、それならやろうということになりました。ドールってやっぱりすごく高価だし、フィギュアを含めたキャラクターマーチャンダイジングの中でも特にピーキーなカテゴリーで大変だとは思います。ただ、200~300円のカプセルトイから5~6万円のドールまで幅広くやるというのが、僕ら強みなのかなとも思ってます。

Harmonia bloom バラ

──ここ数年でドール人口も増えてきた印象があります。

秋山 増えたと思ってますし、ドールという言葉自体が使われる場面が多くなりました。今までのドールのイベントとかドールファンの世界ってクローズドな印象があったんですが、それがインターネットを通じて写真が載る、それがシェアされる、SNSで会話が生まれる、という風にコミュニティが醸成されていった結果、認知度が大きく上がってきたという印象があります。

──ロボットなどのプラキットシリーズ「MODEROID」もスタートしました。

秋山 もともとバンダイで玩具の開発などをしていた田中ヒロというプロデューサーが仲間になってくれて、プラモがグッドスマイルカンパニーから出るようになりました。メカものってよくわからないので好きにやってもらっていたら、どんどん面白いものが出てきまして。

──このシリーズは、次に何が出るんだろうと毎回ザワザワしています。

秋山 そうなんですよ。面白いのはヒロさんの好きな範囲がちょうどユーザーのターゲット層である40代~50代にばっちりはまっていることです。作り手とユーザーが同じ原体験を共有しているのと、ちょっとゲリラ的なんですけど大手のメーカーがやってないラインアップもやるというところがポイントなのかな。大手の会社だと通らないような個数設定や売上の商品も、グッスマだと商品化できます。逆に好きな人は一定数はいるけど商品化に恵まれていないキャラクターをMODEROIDでやり始めて、「えっ、これが出るの」って驚くと同時に喜んでいただけてるんだと思います。

ただ、ゲームの『スーパーロボット大戦』にしか出てこない「グレートゼオライマー」までいくと、僕はあれはちょっとやりすぎかなと思ったんですけど(笑)。

MODEROID グレートゼオライマー

──「グレートゼオライマー」を見て、やはりグッドスマイルカンパニーのNGの基準は何なんだろうと思ってしまいました。

秋山 僕らはよく商品化希望アンケートとかやるんですよ。年齢層とかユーザーのセグメントとか、何となく肌感覚で分かっている中でアンケートの数字を見ると「こことここがつながってるんだ」とわかって、それを商品化発表すると必ず反応がある。すると「あ、やっぱりか」みたいな。「じゃあこういう関係性があるなら、この時代のコレもいいんじゃない?」みたいな広がり方をしています。

──HAGANE WORKSのような合金トイも出てきて、現在のグッドスマイルカンパニーはフィギュアメーカーというよりも、総合ホビーメーカーのような印象があります。

秋山 そうですね。フィギュアは我々の主事業なんですけど、ホビーメーカーとしていろんなものを展開するイメージは強くなってきていると思います。

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