「ライブへの渇望」&「今の音楽の聴き方」がわかる! 今聴くべき最新アニソン10選! 出口博之の「いいから黙ってアニソン聴け! in 2021冬」

全国1千万人のアニメソングファンの皆様こんにちは。流浪のベーシスト、アニメソング・特撮楽曲DJの出口博之です。季節の変わり目、新クールのアニメ作品が放送されてほどなくしてやってくる、主観がすぎるコラムこと「いいから黙ってアニソン聴け!」の時間がやってまいりました。

新型コロナウイルスによって世界が一変してしまってから、およそ1年が経ちました。

昨年は春から新型コロナの影響でアニメに限らずおおよそすべての業界が大打撃を受けました。アニメ業界では制作が立ち行かなくなり一時は放送される本数が激減するなどしましたが、現在は例年と変わらない作品数が放送されるようになりました。新しい生活様式、というものになんとなく慣れてきて、それを踏まえたうえで「今まで通り」の生活を取り戻し始めている空気になっていますが、厳しい制約が今も続いていることが一点あります。それは各種イベントです。

店頭での即売会、声優によるトークイベント、主題歌を担当するアーティストのライブ、インストアイベントなど、今まで通りの開催は難しい状況にあります。政府のガイドラインを遵守し、感染予防対策も徹底して開催されるイベントもありますが、ライブならではの「近くに感じられる空気」は残念ながらありません。

そういった「ライブ」への渇望感がある中で、今期は「ステージにあがる人たちのアニメ」が多かったように思います。ざっとタイトルをあげるだけでも「アイカツプラネット!」「アイ★チュウ」「IDOLY PRIDE」「アイドールズ!」「WIXOSS DIVA(A)LIVE」「ゲキドル」「SHOW BY ROCK!!STARS!!」、パフォーマンスという観点から「スケートリーディング☆スターズ」も入れるべきか。エンタメ業界がこれまで経験したこのない強烈な逆風の時代に、エンタメのど真ん中であるアイドルなどのような「演者として人前に、ステージに立つ人たち」の物語が多いというのも、偶然かもしれませんが何かの巡り合わせを感じずにはいられません。

1日でも早く、今まで通りライブやイベントに足を運べる日がくることを願っています。

私としましては……

「満員のライブハウスでライブしてぇなおい!」

とにかくこのひと言に尽きます。

そんな感じで(どんな感じなのかわかりませんが)今期アニメ作品から10曲を選びます!

これが今期の10曲だ!

・アイドールズ!

ED「夢みてさめても/アイドールズ!」

・俺だけ入れる隠しダンジョン

ED「ネモフィラ/コアラモード.」

・蜘蛛ですが、なにか?

ED「がんばれ!蜘蛛子さん/私(CV.悠木碧)」

・天地創造デザイン部

OP「Give It Up?/96猫」

・2.43 清陰高校男子バレー部

OP「麻痺/yama」

・はたらく細胞BLACK

OP「走れ! withヤマサキセイヤ(キュウソネコカミ)/POLYSICS」

・BEASTARS(第2期)

OP「怪物/YOASOBI」

・プレイタの傷

ED「BUSTLING SHOW/Ryosuke Kojima」

・ホリミヤ

OP「色香水/神山羊」

・闇芝居(第8期)

ED「Twilight feat.Pecori/imai」

OP、EDがおよそ半々となりました。毎度のことながら「この曲好きだ!」と思う曲はすぐに決まるんですが、じゃあ10曲に絞ろうとするとものすごい時間がかかってしまいます。

断腸の思い、と言うと言い過ぎですが、どの曲にも面白い、かっこいいといったポイントが必ずあって、もう全部いいじゃん! 全部載せよう!となるんですよね。

まあ、そうなったらそうなったで、全部の曲について書くのが辛いので、やっぱり10曲程度が収まりいいんですが、とにかく今回も悩みました。最終的には「楽器がかっこいい」とか「音像がかっこいい」とか、とても直感的な部分が決め手となっているので、そういったことも踏まえて読んでいただけると幸いです。

アイドールズ! ED
「夢みてさめても/アイドールズ!」


冒頭でアイドルのアニメ作品について書いたので、最初は「アイドールズ!」ED曲「夢みてさめても」から。

これまでのアイドルアニメ作品の楽曲は「元気」「明るい」「疾走感」が主題となっている場合が多かったのですが、ここ最近では疾走感の部分が「かわいさ」であるとか「切なさ」であるとか、疾走感に代わる作品の個性を強く意識する楽曲が増えてきたように思います。特にEDはそういった作品ごとの個性が強く表れていて、「夢みてさめても」では「一生懸命さ」みたいなものが表現されています。

作品自体は全体的にゆるい空気感が漂っていますが、「結成記念のライブの動員が一桁」という最底辺の状況であったり、動員を増やすために地道な活動を真正面から扱ったりと、華やかなステージで大規模な活動を主とするほかのアイドルアニメ作品にはない硬派な「現実主義」が感じられます。

アイドルとしては厳しい状況でも動員100人を目指し一生懸命に活動する彼女らの姿と、Bメロ中盤からサビ以降のスネアが泊の頭になる「アタマ打ち」の軽快なドラムパターンが完全にシンクロしていて非常にいい。すごくいい。

もしかすると一生懸命さは「けなげさ」というところに近いかもしれませんが、まっすぐにがんばっている人をこちらも一生懸命応援したくなる気持ちになる曲。

あと、鐘が抜群にいい仕事しているのでとても勉強になります(アレンジにおいて鐘の使い方が下手くそミュージシャンこと俺談)。

プレイタの傷 ED
「BUSTLING SHOW/Ryosuke Kojima」

歌が入っていないインスト楽曲になります。ジャンルとしてはジャズになりますが、ジャズをベースにさまざまな音楽を飲み込んだ懐の深い高度なアレンジが光る、ハイブロウなジャズ・ロックと言えるでしょうか。私たちの世代(アラフォー世代)にとってのジャズのインストアニソン楽曲といえば「カウボーイビバップ」のOP曲「Tank!」が印象深いですが、同カテゴリーの金字塔はなんと言っても、大野雄二さんによる「ルパン三世のテーマ」でしょう。

ジャズをベースにしたアニメソングのほとんどは「ルパン三世のテーマ」の影響下にある、というのは過言かもしれませんが、ピカレスクロマン的な手触りのアニメ作品のほとんどの音楽はジャズであることも確か。厳密には1930年から1950年代くらいのギャング映画やフィルム・ノワール(ハンフリー・ボガードが出てる大体の映画)を始祖とするのが妥当と思われます。そういった文脈の先にある「ルパン三世」が後世に影響を与え、時代が巡って2021年「BUSTLING SHOW」につながる、ということでしょうか。

俺だけ入れる隠しダンジョン ED
「ネモフィラ/コアラモード.」

一聴すると「アニメ作品のED曲の王道」ど真ん中の、安心して聴ける曲といった印象を受けます。しかし、注意して聴くと個性の塊というか、いい意味で「いびつな存在感」が強烈にある曲です。声も音像も歌詞も爽やかで透明感があってポップなのに、どことなく不穏な影、みたいなものがうっすら張り付くような。

その要因はおそらくメロディにあります。抑揚やラインが特徴的な独特なメロディなのに、耳に入りやすい。耳に入りやすいけれども、ある意味では難解とも言えるメロディなので、たとえばいっしょに歌おうとしてもメロディが端から逃げていってしまう。メロディが見えるのに追いかけられず実態がつかめない、というのが不穏さの正体です。

これは1970年代あたりの「四畳半フォーク」の雰囲気に通じるように感じます。フォークソングの正当的な後継者(と私が勝手に申しておりますご容赦ください)が2021年にアニメソングを歌う。

なかなか、面白いことだとは思いませんか?(フォークってことで引用元・井上陽水)

2.43 清陰高校男子バレー部 OP
「麻痺/yama」

歌い出しの圧倒的な求心力、訴求力は今期、いや、もしかしたら今年一番かもしれません。聴いた瞬間に「あ、これ間違いなくかっこいい曲だ」と思わせる説得力と、その直後にこちらの予想を大きく上回るかっこよさがバチーン!と炸裂するのっけからオーバーキル気味な楽曲。めちゃくちゃかっこいい。

曲冒頭のやわらかいエレピとソウルフルなボーカルの組み合わせもおしゃれだし、バンド入ったらいきなり疾走するしで素晴らしい。音楽的な部分で言えば、コード進行はメジャーセブンスを多用しており、全体の響きに独特の余韻を与えています。簡単に言えば「おしゃれな響き」ということで、わかりやすい曲だと椎名林檎の「丸の内サディスティック」のあの感じ。もう少し突っ込んだところで言えば、グローヴァー・ワシントンJr.の「Just the Two of Us」の響き。

なぜメジャーセブンスの響きが独特なのか。なぜメジャーセブンスの響きはおしゃれなのか。

超簡単に説明すると、メジャーコード(明るい雰囲気を持ったコード)に、マイナーコード(暗い雰囲気を持ったコード)を乗っける、それがメジャーセブンスです。つまり、明るい基盤のうえに暗い響きがある和音。アンニュイというか、どこか影があるというか、とにかく複雑な響きで独特な余韻があるので、このコードが入ると非常におしゃれな雰囲気になります。

おしゃれな響きなのにアンサンブルが超攻撃的。ハイブリッドな感覚でまとめられた楽曲だと思います。

はたらく細胞BLACK OP
「走れ! withヤマサキセイヤ(キュウソネコカミ)/POLYSICS」

POLYSICSらしい、パンキッシュで鋭角的なグルーヴと、ある意味ではいつものPOLYSICSとは違った印象を与えるポップなメロディラインのバランスが非常にスリリングでかっこいい。

これまでにないエネルギッシュでポップな楽曲になった理由は、ゲストボーカルにキュウソネコカミのボーカル・ヤマサキセイヤ(Vo/Gt)を迎えたことと、「アニメ主題歌」という部分にこだわって作った(ハヤシヒロユキ本人によるライナーより)ため、作品とのつながりが強固になり、結果として相乗効果で貫通力の高い楽曲に仕上がったのではないでしょうか。

ニューウェーブの正統的な後継者であるPOLYSICSはニューウェーブの遺伝子を正統に受け継いだバンドであり、そのバンドがオリジナルから受け継いだ遺伝子を時代の先に向かうように進化させたのが、この曲なのです。体の中の遺伝子や細胞が絶えず同じことを繰り返しているようで実は進化し続けているように、音楽、バンドも日々進化しているのです。

昨年に結成20周年を迎えたPOLYSICSがここにきて最大のポップネスを手に入れたのはなんとも怪物じみていて、バンドって最高だな!と思います。あぁ、はやくこの曲をライブとかフェスで聴きたいですね。

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