「feel.らしく、いい意味で力を抜いて」2020秋アニメを盛り上げた「おちこぼれフルーツタルト」川口敬一郎監督インタビュー!

好評のうちに放送終了した2020年の秋アニメ「おちこぼれフルーツタルト」(通称「おちフル」)。

本作は、おちこぼれアイドル「フルーツタルト」(桜衣乃、関野ロコ、貫井はゆ、前原仁菜、緑へも)が、売れっ子アイドルを目指して奮闘する、東京・小金井市を舞台に個性的なキャラクターたちが繰り広げるドタバタコメディだ。

今回は「おちフル」の魅力的な物語を指揮した、川口敬一郎監督を直撃! 制作時のエピソードを、裏話を交えながら語っていただいた。

ロコには随所で助けられました

――まずは、オンエアを終えての感想をお聞かせください。

川口 「おちフル」は大きなくくりでいうと「アイドルもの」かもしれませんが、「ギャグアニメ」としても楽しんでいただけたのではないかと思います。SNSなどで視聴者の感想を見て「作り手側が願っていた楽しみ方をしていただけた」、という手ごたえはありましたね。

――川口監督のなかでの「アイドル観」はどのようなものでしょう?

川口 言い方はちょっとキツイですけど、「メンバー間でドロドロしたものがあったりするのかな?」というイメージはあります。「おちフル」に登場するアイドルたちには、そのあたりはほぼないですけど(笑)。

――本作は、マネージャーの梶野穂歩の無茶ぶりがきっかけで物語が進んでいく……という流れになっています。

川口 そうですね、穂歩を始めとした「フルーツタルト」メンバーの脇を固めるキャラクターたちに、そういうドロドロしたところは被せたと思います(笑)。

――「フルーツタルト」のメンバーの中では、キャスト陣からも「ロコが動かしやすかったのでは?」という声がありましたが、実際はどうでした?

川口 確かに、「フルーツタルト」のメンバーは、いわゆる“ボケ”が多くて、ロコだけが唯一と言っていいほどツッコメる存在だったですからね。ライバルグループ「クリームあんみつ」のロコの妹・関野チコ、中町ぬあ、るあ姉妹とのからみなど、彼女には随所で助けられました。

――「フルーツタルト」の衣乃とロコ、仁菜は地方から出てきた、いわゆる「おのぼりさん」ですが、彼女たちの地元エピソードは描きたかったですか?

川口 今回は尺の関係もありましたし、舞台となる東小金井を盛り上げることに注力したかったということもありますので、特に力を入れるというのはなかったです。ただ、衣乃の母親に関してはもう少し掘り下げたかったですけれど。

――親御さんに関するエピソードでは、はゆの母親が終盤を盛り上げました。

川口 彼女にはぜひ活躍してもらいたかったですからね。それと、もし13話まであったら、最後のライブステージの場面はもっと掘り下げたかったなあ、と。やりたかったことは結構ありますね。

――アイドル衣装に関して、制作上のエピソードはありましたか?

川口 「貼りこみ」という手法で描かせていただいたのですが、ライブシーンに比べて、駅前で衣装姿でビラを配ったりしているシーンなどは、挙動がおかしくならないようにかなり気を遣いました。

キャラクターたちのイメージカラーが設定されていることに関しては、主にギャグシーンで、キャラクターがSD化する(身体が三角形のようになる)ことがあるのですが、そのおかげで描きやすかったですね。

――作品の構成で言いますと、サブタイトルがすごく攻めている印象がありました。

川口 東小金井・武蔵小金井の地元のみなさんは、プロモーションやコラボ企画などで、すごくご協力いただいているので、正直「このサブタイトルでいいのかな?」という葛藤はありました(笑)。

――次回予告の、某国民的アニメっぽさも話題になりましたね。

川口 もともと予告と(毎回違うキャラクターが自己紹介をする)アイキャッチは長めにとっていたんです。最初は「バンク」という形で、最初に録ったものを最後まで使う予定だったのですが、結果的に「(穂歩役の)日笠陽子さんに面白く料理してもらおう」ということになりました(笑)。

ライブシーンは、昔ながらのアナログ感ある手法で制作

――ライブシーンに関してのこだわりを教えていただけますか?

川口 本作のコンセプトがあまり「本気のアイドルもの」という感じではないのですが、ライブシーンに関してはある程度しっかり描きたいと考えていました。

昔ながらの手法で撮らせていただいたことで、いい意味で「アナログ感があっていいな」と思える出来になりました。いっぽうで、制作に関してはかなりのカロリーが必要となり、ライブパートは完成までに時間を要するシーンとなりましたが、制作スタッフの尽力で乗り切ることができました。

――振り付けと言えば、「ネズミ戦隊ネズレンジャー」、「ブロ子の歌」といった劇中歌の動きは、どのように考えられたのでしょう?

川口 登場する曲に関しては、全部振り付け師の方に考えていただきました。尺の関係もあり、アニメ本編中ですべて披露することはできませんでしたが、もしライブやイベントなどがありましたら、(キャストの練習次第で)フルでご覧いただけると思います。私もぜひ生でパフォーマンスを見たいです。

ちなみに「クリームあんみつ」のステージに関しては、売れっ子アイドルらしく「フルーツタルト」に比べてかなりキレのある動きでパフォーマンスを見せられるように意識しました。

――物語のクライマックスで、2つのグループが一緒になって歌唱するシーンには胸が熱くなりました。

川口 ラストは一緒に歌わせようと最初から決めていましたので、そう言っていただけるとありがたいですね。

feel.らしく、いい意味で力を抜いて楽しく制作

――登場キャラクターの中で、特にお気に入りはいますか?

川口 やっぱり穂歩ですね。次回予告もそうですが、オープニングムービーでもあれだけ激しく動かすことができましたし、制作側としては本当に助かりました。

――本作はコロナ禍での収録となりましたが、特に大変だったことは?

川口 幸い途中までは通常通り、大勢でかけ合いができるような状況でアフレコができたのが、いま思うとすごく大きかったです。最初に「ある程度、自由にやっていいよ」というスタンスで入ったので、そこでキャストさんが演じる「型」や「雰囲気」ができ上がっていたのはよかったですね。

――大勢が参加する「ガヤ録り」は、どこの現場でも難しいと聞いています。

川口 はい、「おちフル」の現場でも例外ではなく、何度かに分けて録り直しました。ステージのシーンが最終回に向けて多くなりましたし、そこは大変でしたね。まだ制作終了を記念した打ち上げもできていませんし、状況が収まったらぜひやりたいです。

――「おちフル」制作について、改めて総括してください。

川口 最近は制作に力のいる作品が多かったので、「feel.らしく、いい意味で力を抜いて楽しくやろうぜ」という共通意識で制作をしました。かといって、ただの手抜き作品にならないところがfeel.のストロングポイントだと思いますので、そこを評価していただけたらうれしいです。

みなさんの“応援”によって、また続きが生まれてくるかもしれないので……。

――作中で「フルーツタルト」の面々が売れ残ったCDを必死で売りさばくシーンもありましたからね。

川口 もしかしたら、(作中で「フルーツタルト」メンバーがやっていたように)キャストさんが作ったカレーを同梱したら、関連商品を買ってくれる人が増えるのかな……(笑)? ともあれ、今後も「おちフル」をよろしくお願いします!



(取材・文/佐伯敦史)

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