【映画レビュー】ネタバレなしで語ります! アキバ総研編集者が見てきた「シン・エヴァンゲリオン劇場版」!
ついにこの日がやってきた!
前作「Q」から8年の時を経て、新型コロナウイルスの影響から2度にわたる公開延期を乗り越えて、「シン・エヴァンゲリオン劇場版」が2021年3月8日(月)に全国公開された。
改めて語るまでもないが、「シン・エヴァンゲリオン劇場版」は「ヱヴァンゲリヲン新劇場版」全4部作の第4作目にして、「エヴァンゲリオン」シリーズの完結編に位置づけられる最新作である。
前々作「破」で見せた熱い展開から一転、前作「Q」では1995年放送のTVシリーズ「新世紀エヴァンゲリオン」終盤のような陰鬱とした物語と、誰もが予想しえなかった方向に振り切った急転直下の世界観が提示され、多くの観客に衝撃を与えた。
ある人は「これがエヴァだ!」と肯定し、ある人は「明るいエヴァが見たかった!」と批判。またある人は「意味がわからない」と理解を拒絶したりなど、賛否両論。そして最後には誰もが「これ、本当に次で終わるの?」と口にした。
自分もそのひとりである。
だもんで、「エヴァ」がどんな完結を迎えるのかをその目で確かめるべく、3月8日、公開初日の朝っぱらから劇場に足を運んで鑑賞してきた。
もちろんこれは取材である。遊びで見ているわけじゃないぞ。ということで、ポップコーンセットを購入&ご紹介。こういうコラボ商品も売ってるので、ぜひ映画鑑賞のお供にお買い上げいただきたい。また、パンフレットはひとり1冊まで! 買い占めて転売しようだなんて悪いことは考えないように!
それにしても月曜日の午前だというのに、ほぼ劇場は満席である。君たち、仕事はどうしたのかね! と心の中でツッコミを入れるが、まあ自分もそんな「君たち」のひとりなのでお互い様。むしろ、万難を排して初日に集ったもの同士、もはや戦友と言ったところか。
さて、その「シン・エヴァンゲリオン劇場版」の感想を語る前に、ちょっとばかり自分のエヴァ遍歴を語らせていただきたい。題して「ぼくとエヴァンゲリオン」だ。
「新世紀エヴァンゲリオン」TV放送が始まった1995年秋、筆者こと有田少年は高校受験を控えた中学3年生。漠然とした将来への不安や部活動での人間関係構築の失敗などで、いろいろとくすぶっていた時期だった。また、多感な時期に阪神淡路大震災や地下鉄サリン事件といった大事件を(テレビや新聞の報道越しではあるものの)目の当たりにし、ひたひたと近づいてくる「世紀末」の気配に当てられ、世をはかなんだりもしていた……。今にして思えば、かっこつけの中二病だったんだろうけど。
そんな「あの時代、どこにでもいた」自分が情熱を注げるものといったら、アニメを観ることくらいだった。いい年してアニメを観るなんて、ちょっと恥ずかしい……。まだまだそんな空気のある時代だった。
そこにすい星のごとく登場したのが「新世紀エヴァンゲリオン」である。「エヴァ」は15歳の少年にとっては、すべてが新しく、刺激的だった。自分とほぼ同い年の少年少女が巨大兵器に乗り込み人類のために戦う、という王道のストーリーは、やがて衒学的(げんがくてき)かつ破滅的なストーリーに変容していき、暴走列車が自壊しながら駆け抜けるように迎えた最終回はご存じの通り。当時、ブラウン管の前で「俺、やばいもの見ちゃった……!」と、いけない何かを見てしまったような背徳感と得体のしれない高揚感に震えたものである。
翌日から自分を含むオタク仲間は大騒ぎである。最終回を録画したビデオを回覧して、乏しい知識で「ああでもない」「こうでもない」と謎について語りあい、アニメ雑誌のバックナンバーをあさってインタビュー記事を読んだり、漫画が連載されていた「少年エース」をスクラップしたり。
その後、自分は高校入学と同時に同人活動を開始し、下手な「エヴァ」のイラストを描いたり、稚拙な評論めいたものを書いたり、即売会で知り合った同好の士との交流を深めたり……。
そして1996年春先には、翌年「エヴァ」完結編および新作映画が公開されるということが発表され、マジで泣いて喜んだものである。結局、新作映画企画はなかったことになり、1997年春の「シト新生」と夏の「Air/まごころを君に」でいったん「エヴァ」の物語は幕を下ろすことになる。
「Air/まごころを君に」公開前は、まさに日本全国がエヴァ一色に染まっていたと言っても過言ではない。当時、クオリティペーパーとして圧倒的な部数を誇っていた朝日新聞では見開きで特集が組まれ各界の著名人が寄稿していたし、アニメ誌だけでなく一般誌もこぞってエヴァ記事を掲載。書店に行けば、なんだかよくわからないけど「エヴァ」について語られている本が、山ほど並んでいたものだ。
テレビを点ければ、あのタモさんもエヴァの物まねをして笑いをとるくらいには社会に浸透していたし、福山雅治もラジオで「エヴァ」について語ってたなあ。当時の熱気は、今の「鬼滅の刃」と同じくらい──いや、もしかするとそれ以上だったかもしれない。
自分の周辺だと、今で言うリア充集団のサッカー部のクラスメートが、我々オタク集団に「エヴァのビデオ持ってるんだって? 貸してよ!」と頼んできて、後日、放課後の教室でオタクもそうでない連中も巻き込んで「エヴァ」談議で盛り上がるなんてこともあった。
それまで「アニメなんてダサい」だの「アニメオタクは気持ち悪い」だの、迫害されていた自分からすると、衝撃的な展開である。俺たちの大好きな「エヴァ」が、アニメが認められるということは、自分たちも認められることなのかも!
……まあ、そんな淡い期待も「Air/まごころを君に」を見終えた頃には雲散霧消していたんですけどね。
あれ? これが俺の観たかった「エヴァ」だったのか? 「エヴァ」って面白いアニメだったのに、なんでこんなに虚しいんだろう。そもそも「エヴァ」って何だったんだ?
「エヴァ」の終劇とともに、いったん自分のアニメ熱も急速に冷めて、その後の大学進学とともに、今度はバンド活動に熱を入れるようになる有田少年だったのであった……。
しかしながら「三つ子の魂百まで」とはよく言ったもので、数年後にはアニメの世界に舞い戻り、今に至るわけなんだけど、やっぱり「エヴァ」という作品はトラウマになっていて、仲間と謎解きに熱狂した楽しい日々も、アニメを通じてスクールカーストを越えて級友と繋がれた夢のような時間も、そしてそんな自分たちを待っていた「Air/まごころを君に」の衝撃も、すべてケリがつかないまま、ほっぽり出したまま、20余年が過ぎてしまったような気がする。
そう、まさに「Q」で描かれた碇シンジであり、式波アスカ・ラングレーである。「エヴァ」チルドレンである自分は、まだ「14歳」のまま、大人になれぬまま、「エヴァ」の世界にとらわれていたのである。
結論から言うと「シン・エヴァンゲリオン劇場版」は、そんな過去の自分を全肯定してくれたし、受け止めてくれたうえに、力強く背中を押してくれるような映画だった。
劇中、印象的に繰り返されていたフレーズがある。それが「落とし前」である。
まさしく24年前に「ああいうラスト」を迎えてしまった「エヴァ」という作品に、そしてそこから先に進めなかった「エヴァ」チルドレンである我々に、これ以上ない落とし前を付ける作品となっていた。
それでいて、最初のTVシリーズから、「エヴァ」という作品を通じて庵野秀明総監督が語っていたメッセージは、何ひとつブレていなかったことにも改めて気づかされ、震えた。
もちろん長い月日がもたらした、表現やキャラクター性の変化、新たなメッセージの存在もある。が、やはり26年間「エヴァ」の呪縛にとらわれてきた身からすると、傲慢な言い方かもしれないけど、最後まで逃げることなく、全力で戦い抜いてくれた全スタッフに感動すると同時に感謝するしかない。
と同時に、やっぱり庵野作品らしい小ネタ、特撮ネタ、セルフパロディも散りばめられており、燃えたり、泣いたり、笑ったりと大忙し。やっぱり「エヴァ」は、最高に面白いアニメだったよ!
2時間半におよぶ本編の後、スタッフロールが流れ、「終劇」というテロップが出た時に胸に去来したフレーズはもちろん、「父にありがとう。母にさようなら。そしてすべての子供達におめでとう」だ。
もう僕らに「エヴァ」は必要ない。
お父さん、お母さん。ようやく僕は「エヴァ」から卒業できました。
(アキバ総研編集部・有田)
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