硬質で重厚な歴史if物というブシロード作品の新機軸。「擾乱 THE PRINCESS OF SNOW AND BLOOD」大松裕プロデューサー×木谷高明会長インタビュー
2021年4月よりTVアニメ「擾乱 THE PRINCESS OF SNOW AND BLOOD」が放送される。
「擾乱(じょうらん)」はオリジナルアニメーション新作で、徳川幕府最後の将軍・徳川慶喜が健在のまま“明治64年”を迎えたら?というパラレルな世界が舞台になっている。「反体制派組織・クチナワ」「闇の処刑人組織・鵺」といった物騒な単語からは、かなりヘビーかつ重厚な雰囲気が漂う。
アニメーション制作はBAKKEN RECORDが手がける。BAKKEN RECORDは老舗・タツノコプロが立ち上げた新スタジオで、伝統を継承しつつ新たな挑戦を続けることをコンセプトとしている。今回はBAKKEN RECORDの大松裕プロデューサー、本作品の製作委員会からブシロードの木谷高明会長にインタビューを行なった。
アニメと両輪の舞台は明治座で上演予定
──「擾乱」はかなり重厚な設定の完全オリジナル新作アニメです。制作の経緯から教えてください。
大松 最初はうちの社内の企画コンペから始まりました。そこで出した企画が、日本テレビさんが新しいビジョンを持ってアニメをやっていこうという声が上がっていたタイミングにハマった感じです。当時の(タツノコプロ)社長の桑原の、ちょっと毛色の違う球を当てたいという意向もありました。一斉に動き出したというよりは、脚本の準備を進めながらパートナーさんにお声がけしていった感じです。
木谷 うちは日本テレビさんからこういう作品をやりたいんだとお話をいただきまして、面白そうだったのでやりましょうと。日本テレビさんから企画をうかがった時の温度感からも、これはクオリティの高いものができるんじゃないかと感じました。企画とPVを見てこれは舞台にも向いているんじゃないかと思ったので、実は今年舞台をやることも決まっています。場所は作品のカラーにも合わせて明治座です。アニメと舞台をセットで、二次元も三次元も両方楽しめる作品にしていければと思っています。
──キャストにも三森すずこさん、蒼井翔太さん、Raychellさん、伊藤彩沙さん、小林親弘さんなど舞台経験のある実力派が並んでいます。
木谷 声のキャスティングも舞台を意識しています。立体的に楽しめる作品になるんじゃないかと思います。Raychellさんは「RAISE A SUILEN」(以下、RAS)としてオープニング主題歌とエンディングテーマを担当してくれています。PVにオープニング主題歌を合わせたものを見ましたが、作品のイメージによく合ってるんじゃないかと思います。
──最近のブシロード作品とは少し毛色が違う印象があります。
木谷 うちでは珍しく男女半々ぐらいで出てくる作品です。男性っぽさと女性っぽさ、両方表現できればと思います。
大松 日本テレビさんを通してパートナー企業を探してもらったのですが、実はブシロードさんが興味を持ってくれるとは思っていなかったです。「まけるな!! あくのぐんだん!」という作品に関わっていた関係でブシロードさんには何度かおじゃましていて、いろいろ作品も見ていました。僕が作るタイプの作品とはカラーが違うことが多いので、化学変化を期待していただいたのかなと思っています。自分はProduction I.G出身で少し作品主義的すぎるところがあるので、プロジェクトとしてたくさんの人に受け入れてもらえるようになればなと思っていました。その意味で言うと、今回RASさんにオープンエンドを歌ってもらったことで、作品にメジャー感が出たんじゃないかと思います。
木谷 方向性のバランスがちょうどいいんじゃないかと思ってるんですよ。作品には作家性とエンターテインメント性という2つの軸があると思うんですが、うちの作品ってエンタメ寄りが非常に多いんですよ(笑)。だからたまに作家性が強い作品もやりたいなとは思いました。今回はタツノコさんから出てきた作家性を生かした作品ということで、ご一緒できて嬉しいと思っています。
大松 ブシロードさんの作品は「バンドリ!」「少女☆歌劇 レヴュースタァライト」「D4DJ」とすごく華やかなイメージがあります。最近だと「アサルトリリィ」がありましたが、1話でいろんな女の子がばーっと集まってきて青春の1ページを開いていくような。アニメとしてあるべき姿のひとつだなとずっと思っています。ただ僕はそういうことはやっていなかったので、そういうエンタメに強い会社さんに興味を持っていただいたのは驚いたし、ありがたい話だなと思います。
──製作委員会の中でのブシロードが担う役割はどんな感じになるんでしょうか。
木谷 一番の役割はこの作品を広く知ってもらう広報的な部分ですね。それと舞台化の部分を担当しています。あとはグッズなど、違った形で作品の魅力を伝えるお手伝いもできればと思っています。
──大松さん的にはブシロードがパートナーになることでどういう広がりを期待していますか?
大松 舞台に関してはお任せする感じになると思うのですが、どうなるのかと純粋に楽しみにしています。「擾乱」は海外展開も視野に入れているのですが、RASさんは海外での知名度も高いと認識しているので、そういった場でも作品を背負ってもらうこともあるのかなと思います。
木谷 RASは「バンドリ!」発のアーティストでもあるんですが、一番オープンに開かれた存在だと思います。あとは「擾乱」に声優としても参加しているRaychellさんの圧倒的なボーカル力ですね。「擾乱」の映像をバックに歌ったらライブも盛り上がると思いますよ。
大松 主題歌についてはRASさんの世界観を大事にしてほしいとお伝えしてお任せしたんですが、作品のことを考えて和楽器を加えていただいたりして、とても素晴らしいテイストで世界観にあった楽曲に仕上げてくださいました。エンディングテーマもとても素晴らしいので、作品のどこかで長い尺でかけられないかなと悩んでいるところです。楽曲やライブなども含めて作品の裾野を広げるというか、舞台を見る方がアニメを見ていただくような、そういった広がりを期待しています。日本だけでなく世界を含めたいろいろな方に届いてほしいですね。
木谷 海外受けはしそうな気がしますね。
大松 そうですね、和物なので、海外の方にも興味を持ってもらえたら嬉しいなと思います。
木谷 アニメを見ないで舞台を見に来る人はまずいないと思うので。だから舞台もある程度アニメの脚本を前提にしたものがいいんじゃないかと個人的には思っています。主役クラスは当然アニメと同じキャストでの舞台になる予定です。
木谷高明会長(左)と大松裕プロデューサー
明治64年という歴史のifを緻密に構築する
──大松さんから見た作品の見どころを教えてください。
大松 作品を構築する要素って、大きく分ければお話とキャラクターと世界観だと思うんです。その中で優先順位をどうつけるかという部分で、一般的にアニメではキャラクターから入ることが多いのではないかと思います。今回「擾乱」ではお話をしっかり描こうという部分を最先端のコンセプトに据えました。あとは脚本のスピード感を大事にしたいと思っていました。今は作品と物語があふれている時代なので、大体4話に1回は最終回が来るような、スピード感のあるテンポで仕上げています。あとはメインどころの登場人物も少なくしました。限られた人数で濃厚なドラマをやりたいと思っています。
──世界観に関しても、「明治64年」「徳川慶喜、健在」といったフレーズにはそそられるものがあります。
大松 世界観に関しても裏設定はいろいろありまして、歴史が好きな方にはニヤッとしてもらえる要素もあるのではないかと思います。キャラクターに関しても声優さんの声の演技を聴いてこれは行けそうかなという手ごたえもあったので、最終的には(ストーリー、世界観、キャラクターの)全方位で楽しんでいただければと思います。
木谷 舞台でも見る人が明治64年の世界にいると感じられるぐらい作りこみたいですね。明治64年というのは現実だとどれぐらいになるの?
大松 1932年ぐらいですね。昭和5年から6年頃をイメージしています。架空の歴史にはなりますが、時代劇としてきちんと作りこみたいと思っています。
木谷 現実の昭和5年頃も決して明るい時代ではないよね。
大松 そうですね、1931年が満州事変の年で、大正時代が終わって少し暗い世相の中、戦争に向かっていくような時代になります。この世界では徳川幕府がまだ残っているので、革命前夜のような雰囲気は大事にしたいと思っています。あ、幕藩体制ではないので、徳川政府と言ったほうが正確かもしれません。
木谷 明治維新の時に構想されていた、徳川慶喜を中心とした政府の再構築に近い感じなのかな。
大松 そうですね。そのあたりいろいろと裏設定はあるのですが(笑)。
木谷 単に荒唐無稽な偽史だと歴史好きには抵抗があると思うのですが、本当にあったかもしれない選択肢のifなので、面白いんじゃないかと思います。
大松 徳川慶喜って大河ドラマにもよく登場しますが、作品によって描き方がすごく違うんです。個人的には面白いキーパーソンだと思っています。
木谷 時代によっても歴史の評価は変わりますからね。
──違う歴史をたどった結果、作品世界の技術レベルはどんな感じなんでしょうか。
木谷 近代化は進んでるんですね。
大松 進んでいます。現実の技術に加えて、“龍脈”と呼ばれる架空のエネルギーが存在する設定です。徳川政府が龍脈を牛耳っているイメージで、「ジャイアントロボ」のシズマドライブのようなものです(笑)。エネルギー関係では現実に大きな嘘をひとつ、入れている感じです。
──作品テーマのひとつに「復讐劇」があるとうかがいました。このテーマを選んだ理由や想いをうかがえますか?
大松 僕が大学を卒業したのが2000年なんです。その頃は就職の超氷河期で就職するのがとても厳しい時代でした、その後もリーマンショックだ、派遣切りだとありまして、自分たちが子供の頃に思い描いた未来とは違う時代がずっと続いているようなモヤモヤがずっとありました。アニメ業界に入って会社の床に段ボールを敷いて寝ながら、これは何か違うぞと、なんで自分はこんな目にあっているんだろうという鬱屈した想いを表現したいという衝動はずっとあったんです。そのあたりが体制に向かっていく個人を描きたいというテーマにつながっていると思います。木谷さんは1960年生まれですよね。
木谷 (就職した直後は)バブルの時代が来て、しかも証券マンをやっていましたね。
大松 僕と木谷さんは15歳違うんですが、やはり木谷さんが手がけられる作品には華やかな時代に生きた経験が反映されているのかなと思ったんですが、いかがですか?
木谷 作品性という部分では、小中学校時代の経験のほうが反映されているかもしれません。スポ根世代なんですよ。仲間と一緒に成長して何かを成し遂げる話が好きなんですよ。だから全部そのパターンで、そればかりはよくないなとも思っているんですが(笑)。暗い話が作れないんですよね。ただ、とにかく変化のない日々が苦手な性分なので、たまにはこういう企画に乗りたいと思ったんだと思います。あとはやはりトレーディングカードゲーム(以下、TCG)を作る会社でもあるので、TCGにすることを考えるとキャラクターが多くないと困る、という部分も確実にあります(笑)。
──「擾乱」のクリエイティブの根っこには大松さんの経験や作家性がかなり入っているように感じましたが、原案原作、世界観の構築などはどういったチームで行なっているのでしょうか。
大松 まず僕が企画書を書きます。今回シリーズ構成をやってもらっているのが脚本家の根津理香さんという方で、基本的に、実写畑の方です。根津さんとは僕がA-1 Picturesにいた頃から一緒に企画やりたいなと思っていたんです(※根津理香氏はA-1 Pictures制作のアニメ「聖☆おにいさん」で脚本を担当している)。基本的には根津さん、僕、工藤進監督が中心になって、時々日本テレビさんが入ったりしながら0から1にする作業を行ないました。
木谷 本当にゼロイチで作っているんですね。大変でしょう。
大松 僕自身歴史が好きなので、その時代に詳しい人に話を聞きに行ったり、文献を読んだり、取材は重ねています。ifを含んだ時代物って企画の宝庫で、しかも時代を変えることでちょっとした異世界感も出るじゃないですか。そういうのが好きな、自分の趣味のようなものです(笑)。
木谷 オリジナル作品を作るのって、それぞれの中にあるイメージをすり合わせるのが本当に大変で負荷が高いんです。だから大松さんのようなコアになる人がガッと決められるといいと思います。プロデューサーがクリエイターを兼ねているのが本当は一番なんです。
──大松さんは脚本も書かれるプロデューサーというイメージなんですが、本作では?
大松 今回は書きません。根津さんが本当に脚本家として馬力がある方で、小柄で華奢な方なんですけど書くものはすごくパワフルなんです。本物の脚本家と仕事をしているんだと感じているところで、今回は根津さんにお任せしたほうがいいと判断しました。
──工藤進監督をパートナーに選んだ経緯や、大松さんから見たクリエイターとしての強みを教えてください。
大松 工藤監督には「まじっく快斗 1412」で監督をやっていただいていて、古くは「BLOOD+」(2005)から一緒に仕事をさせていただいています。大人の演出ができる方だという印象がすごく強くて、大人の男と女が織りなす物語を描く引き出しを持っている方だと思っていました。あとは彼が描くコンテがすごく好きで、コンテにいいリズム感があるんですよ。どこか音楽的なセンスを感じるんです。
──最近タツノコさんはデジタル化に力を入れているイメージがありますし、最近のブシロード作品では3DCGを活用したものも多いです。「擾乱」ではそのあたりはどうなりますか?
大松 PVの中に筆で描いたような効果があったと思うんですが、ここはデジタルで動画までやっています。アクションシーンでは線の感じを変えたいなと思っているところです。
木谷 PVの映像はデジタルで作っているんですか。普通の作画に見えますね。
大松 そうですね、動画までデジタルで完結しているカットも結構あります。アニメって線の印象がすごく大事でいろいろなスタジオが試行錯誤しているんです。今回デジタルでやっている筆のような描線はすごく手間はかかるんですが、今回の課題のひとつに掲げてやっています。
──最後にメッセージをお願いします。
木谷 繰り返しになりますが、「擾乱」という素晴らしい作品に関われたことを嬉しく思います。まずはアニメという映像を中心にした展開になりますので、「擾乱」という世界観を隅々まで味わってもらいたいと思います。
大松 オリジナル企画は2、3人から始まって、パートナーと仲間が増えることで輪郭が定まっていきます。僕が考えていたよりもはるかにエンターテインメントとしての強度があって、訴求力のあるコンテンツになりそうだと実感しています。歴史好きの方、アニメ好きな方、RAISE A SUILENが好きな方、いろいろな方に楽しんでいただける作品になっていると思うので、見ていただきたいなと思っています。
(取材・文/中里キリ)
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