アニメ、ライブ、YouTuber、V Tuber……今っぽいメディア展開で注目を集めた2021冬アニメ「アイドールズ!」中野翔太監督インタビュー!
好評放送中の2021年冬アニメ「アイドールズ!」は、売れないアイドルグループ「アイドールズ!」が、100人収容のライブハウス“ほいほいホール”を満席にするために奮闘する、モーションキャプチャーアニメだ。
シュールな世界観やじわじわくるギャグだけでなく、WebではメインキャストがYouTube Liveおよびニコニコ生放送で動画配信を行ったり、バーチャルYouTuberとして配信を行ったりと、非常に「今っぽい」取り組みでひそかに話題を呼んでいる本作。
今回は、そんな一風変わった話題作「アイドールズ!」を手がける中野翔太監督にお話をうかがってきた!
これまで実写畑を中心に活動してきた中野監督にとって、本作は初のアニメ監督作品。未知の現場ではどんな苦労が、そしてどんな挑戦があったのだろうか……?
――最初に「アイドールズ!」の監督のオファーを聞いたときの感想をお願いします。
中野 正直な話をすると……最初は断ろうと思っていたんです。
――それはなぜですか?
中野 理由はいろいろとありましたが、一番は「これまでやったことのないジャンルの仕事だった」ということです。最初にプロジェクトの内容を聞いて「えっ、アイドルアニメ?」と、とまどいはありました。
――現在の作品の評判はどのようにとらえられていますか?
中野 メインキャストがVTuberをするなど、要素が多いうえ、そもそも本作を「アイドルアニメ」と呼んでいいのかどうか、作り手側としても疑問がありますからね(笑)。最初から「既成概念にとらわれない作り方をしよう」と思っていましたので、そういう意味では予想通りの反応をしていただいているかもしれません。
置物役・神尾晋一郎さんは自分の役どころをすぐに理解してくださったので、心強かったです。
――「アイドルたちがライブハウスを満員にするため、あの手この手でチケットを売ろうとする」、というストーリーは、どのように作られていったのでしょう?
中野 脚本の宮本武史さんが作ったシナリオをもとに作っていったのですが、実は最初は4人の成長を描いた「ちゃんとしたアイドルもの」だったんです。でもそれだと僕が作る意味があまりなくなってしまうかな?と思ったので、そこにいろいろと提案させていただき、改めて宮本武史さんとシュールなストーリーを構成していきました。
――10分アニメというフォーマットは作劇に影響はありましたか?
中野 長編映画の場合は物語やキャラクターたちのことが少しずつ明らかになっていく……というじっくりと作っていく手法を取れるのですが、「10分×1クール(3か月)」、本編実質5分という形だとキャラクターの性格をすぐに理解させないといけないので、わかりやすい王道キャラクターにして、ストーリーのほうを変なものにしました。
――メインの4人を演じたキャストは「『ニコ生』などの配信で、リスナーさんがコメントでツッコんでくれるところまでが『アイドールズ!』です」と話していました。
中野 みなさん、ちゃんとコメントを打ちながら観てくださるんですよね。視聴者がリアルタイムでメッセージを送れる『ニコ生』のようなサイトとの親和性を感じました。
――毎週チケットが少しずつ売れていく……という展開は、初期からあったのでしょうか?
中野 方向性が固まり、「置物」が登場することになったタイミングと同時で、この設定を考えました。10話を10日間にしたためです。
――「置物」は、最初は登場する予定がなかったとか?
中野 そうなんです。最初は「4人のアイドルが売れっ子になるためにがんばる」というシンプルな話だったのですが、再構築する際に、「彼女たちの示唆役的な謎の存在を作りたい」と思い、登場させました。
――「置物」の存在も、いいスパイスになっていますよね。
中野 (「置物」役の)神尾晋一郎さんはアニメ以外のお仕事もたくさんされていますし、「置物」がどんな役割を担っているのかわかってくださっていたのが心強かったです。神尾さんが先陣を切ってアドリブをしてくださり、彼女たちがそれを倣う……ということもありましたし。
――「サルバトーレ玉井」という謎の人物も登場しました。
中野 これは、宮本さんが生み出したキャラクターですね。全然関係ないのですが、僕が学生の頃にやっていたSNSのハンドルネームが「ガードレール柏田」だったんです。そういうセンスが被ったのが宮本さんにシンパシーを感じました(笑)。そのほか、本作ならではの面白さとしては、僕が普段作っている実写CMでは、「競合メーカーの名前を出さないように」など、縛りがあるのですが、今回は割と自由に描けました。あいなが「(エア)たばこ」を吸うシーンなんて、普通はできませんから。
オープニングとエンディングの編集作業は本当に大変でした……。
――モーションキャプチャーの監修で苦労した点は?
中野 全部です(笑)。舞台と一緒で芝居にカットはせず、ワンカット撮影しました。何度も稽古をして芝居を覚えてもらい、撮影に望みました。また、普段声優さんは動きの芝居はしないので、いちから芝居をつけていくのは大変でした。モーションキャプチャー特有の苦労は360°カメラを配置するのですが、人が重なるとデータが収録できなかったり、座ると足のデータが飛んでしまい、うまくアニメーションに反映されなくなってしまうことです。全体的にヘビーでした (笑)。
――編集作業も苦労されたそうですね。
中野 宮本さんの脚本を生かすため、そのままのところと、大いに変更したところと、トライアンドエラーを繰り返しました。作品をご覧いただくとわかると思いますが、「間」を結構大事にしているんです。10分アニメでもそこは生かしていきたいということで、あえて尺を取るということをしています。
――ほかに、撮影を通じて感じたことは?
中野 全話観なおしていただくと、第1話から回を進むにつれて、スタッフ、キャストともに「アイドールズ!」ワールドに慣れてきたので、その空気感が出てくるのがわかると思います。キャストも演じているキャラクターにあわせてアドリブを出していったり。
第3話くらいからだんだんと「アイドールズ!」ワールドが本格展開していくところを感じていただけるとうれしいですね。なので、ぜひ「1話切り」をしないでいただきたいです(笑)。
――オープニング、エンディング映像に関して、なにか思い出はありますか?
中野 これは本当に大変でした。ヘタすると本編よりも苦労したかもしれません(苦笑)。ダンスの振り付けは新垣寿子さんに監修いただきました。振り付けを先に決めていただき、それに合わせたカメラワークを編集でつけています。カメラワークは自分が決めています。普段はコンテを描いて、それ通りに撮影していきますが、今回は後から編集で作り上げていったのでとても時間がかかりました。でも、そのおかげで納得のいくカメラワークになっています。
――やっていることが、もはや「総合演出」ですね。
中野 そうですね。やっていくうちに「もうちょっとこうしたい」というのが出てきた結果、とんでもない時間がかかりました……。本編の収録自体は終わっているのですが、まだまだ絶賛作業中です(笑)。※インタビューはDay9放送前
――そして最終回には泣かされましたが、この展開は最初から考えてらっしゃったのですか?
中野 実は、第10話は脚本から構成を大きく変えていて、感動回にしています。撮影の時とも違う展開になっているので、もしかしたらアイドールズ!の4人も大変だったことを思い出して、感慨深くなったんじゃないかな(笑)。最後は「やっぱりシンエイ動画作品だな」と思ってもらえたと思います(笑)。
――ちなみにまたアニメ作品を手がけるとしたら?
中野 今回得たノウハウを活かして、今回よりはもう少し効率的に制作できると思います。キャスト陣とも「先生と生徒」のような関係を築くことができたと思っていますし、次に生かせると思います。
――最後に、読者に向けてメッセージをお願いします。
中野 では、改めまして……。ご視聴いただき、ありがとうございます。人生は、うまくいくことばかりではなく、辛いこと、悲しいことが多々あります。なにもかも、うまくいかない。でもそんなとき、「アイドールズ!」を観てみてください。おそらく、なんの助けにもならないと思います(笑)。ないしは、その10分間(実質8分間)でほかになにかできたかもしれません。でも、ひとつ言えるのは、4人の新人声優も大きな壁にぶち当たっていました。この「アイドールズ!」という物語の本質は、アイドルでもなく、ギャグでもなく、「夢」を追っている、ということです。(※1)
素晴らしい声優さんを始め、実力のあるスタッフの方々と作品を作れたことに感謝致します。これからも、「アイドールズ!」をどうぞ、よろしくお願い致します。
(※1)「アイドールズ!」はギャグアニメです(笑)。
中野翔太
(取材・文・撮影/佐伯敦史)
【プロフィール】
中野翔太(なかのしょうた)
CM/MVディレクター
2013年株式会社レイ入社。現在CRAZY所属(株式会社クレイ)。
エモーショナルでフィルムルックなトーン且つ、シュールな演出を得意とする。
TVCM/WEB/6秒バンパー/MVなど、幅広いジャンルの映像作品を手掛ける。
「その人の魅力をリアルに映すのがモットーです。」
株式会社レイ: https://www.ray.co.jp
株式会社クレイ: #
CRAZY: #crazy/
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