【ラジオ話】「ミューコミプラス」から新番組「ミューコミVR」へ! 「ラジオ」と「VR」が組むと何が生まれる……!? 吉田尚記アナウンサー(ニッポン放送)インタビュー
関東のラジオ局・ニッポン放送にて、前番組をあわせると約15年続いてきた老舗ラジオ番組「ミューコミプラス」が2021年3月末を持って終了した。
イベントの司会やアニソンDJ、声優、はたまたバーチャルアナウンサー・一翔剣の「中の人」など、さまざまな顔を持ち、サブカル業界では「知らない人はモグリ」と言われるほどの知名度を誇る吉田尚記アナウンサーがパーソナリティーを務める同番組は、クセが強くて魅力的なアシスタントやバラエティに富んだゲスト、興味深い企画で平日の夜を彩ってきた。
そして、4月4日(日)からは、吉田アナ自身のやりたいことを詰め込んだ「ミューコミVR」が放送開始! 長年「ミューコミプラス」の顔を務めてきた吉田アナに、番組の過去、そして次なる野望を語ってもらった。
後継番組が決まっていたからこそ「ミューコミプラス」をていねいにたたむことができた
――「ミューコミプラス」が終わるという発表には、多くのリスナーが衝撃を受けたと思います。吉田さん自身は、どのような状況で番組終了を知ったのでしょうか?
吉田 ラジオ局内で番組の編成を行なう部署があるのですが、そこの部長から「時間を作ってくれないか?」と言われまして、「また何かやっちゃったかな……」と思いながら向かったところ、「3月で終わりです」と伝えられました。番組が終わるときなんて、そんなものですので、とくにイレギュラーなことではないんですけどね(笑)。
番組の終了をラジオで伝えたところ、リスナーをはじめ、多くの方から「ビックリしました」という反応をいただいたのですが、僕は正直なところあまり驚かなかったんです。
――それはなぜですか?
吉田 ある大物男性アイドルの言葉をお借りすると、「ライブやコンサートが終わると、みんな『やり切ったね』という達成感がある。いっぽう、テレビやラジオのバラエティ番組が終わるときは数字が下がったから終わるわけで、残念な気持ちになる」そうなんです。今回の場合は後者の気持ちになるところなのですが……私は達成感のほうが勝っていました。それは「次が決まっていた」からだと思います。
――後継番組の「ミューコミVR」ですね。
吉田 はい。それに、番組終了の日があらかじめ決まっていたので、そこから逆算して番組をていねいにたたむことができましたし、そういう意味ではすごく幸せな番組だったと思います。
インタビューを受けている現在は、番組を支えてくださったゲストと一緒に「ミューコミプラス」を振り返りながら、僕自身は「ミューコミVR」に向けて連日忙しく準備しています(笑)。
――4月からは、いままで「ミューコミプラス」を放送していた枠で「オールナイトニッポンX (クロス)」が始まります。
吉田 いまをときめく、ENHYPENやYOASOBI、(YouTuberの)フワちゃんや(お笑い芸人の)ぺこぱがパーソナリティーですからね……。「そりゃ、会社員がしゃべっている場合じゃないだろ」、と(笑)。
――ともあれ、吉田さんの番組が続くことを聞いて、いちリスナーとして安心しました(笑)。改めて「ミューコミプラス」を振り返ってみていかがですか?
吉田 「ミューコミプラス」が始まったのは12年前で、さらにさかのぼること3年、「ミューコミ」という番組がそもそものルーツになります。その間にも「銀河に吠えろ!宇宙GメンTAKUYA EX」という番組内にも出演していましたし、そう考えると15年間ずっと同じ枠で番組をやり続けてきたんですよね。
話は少しズレますが、僕の娘が「ミューコミ」が始まる、ちょうど前の週に生まれているんです。だから彼女には、僕のことを「『ミューコミ』をやっている人」という認識しかないと思います(笑)。
――番組開始当初のことをお聞かせいただけますか?
吉田 そもそも最初は、上層部からの「アイツにも何かやらせてあげないと」ということで始まった番組だったと思います。いまでこそやりたい放題な感じですが(笑)、当初は私の意向はまったく入っていませんでした。タワーレコードの売り上げランキングを紹介していたときは、番組の企画として、首都圏の店舗を転々とバイトする、ということをしたりしてました(笑)。
僕はもともと、大学の落語研究会に所属していたので、店員さんに「落語CDのポップを書いていいですか?」と聞いたら「ぜひ書いてよ!」とお願いされたりして。
――音楽も落語も大好きだったことが、いい方向に進んだということですね。
吉田 番組を通してずっと思っていたのが「好きなものは多いほうがいいじゃん」ということです。よく「推しはひとつじゃなきゃダメ」という人がいると思うのですが、僕はもっぱら「DD(だれでも大好き)」推進派ですね。
なにしろ、うちの番組には声優から宇宙飛行士まで来ていますから。ここまでくると、まさに「混沌」ですよね(笑)。
「雑食こそオタク」を強く提唱していきたい
――「ミューコミプラス」は、いわゆる「アニラジ」にカテゴライズされる番組ではないように思います。
吉田 そうですね。純然たるアニラジにならなかったことによって、うまくバランスが取れたのかな、と思います。僕はあくまで局アナウンサーですからね。北京オリンピックのときは現地から1か月生放送をしたこともありました。
そのときは僕と生年月日がまったく同じという射撃の松田知幸選手をフィーチャーし、ゲストにもお呼びしました。メダルを期待できたのもあって、「これは追いかけないわけにはいかないな!」と思いまして。
北京にはスタッフが同行せず、いわゆる「ワンオペ」状態で番組を回していたのですが、CMの合間に松田さんがFAXを取ってくださる……なんてこともありましたね(笑)。ADじゃないんだからって(笑)。
――ラジオならではの出来事かもしれません。
吉田 以前、「とんねるずのオールナイトニッポン」のディレクターが「ラジオは何とでも組める特殊媒体だ」とおっしゃっていましたが、ラジオって雑誌やゲーム、なんならテレビとも組めたりするんですよ。それが本当に面白くて。
今回、「ミューコミVR」として生まれ変わるにあたり、番組スポンサーが全部降りても仕方ないと思っていたら、なんとほぼすべて残ってくれたんです。聴取率が抜群によかった訳ではないけれど、大人数にただ届けばいい、という時代ではなくなっていることを改めて感じさせてもらっています。
――それに、スポンサーさんは「吉田イズム」に賛同されているんでしょうね。
吉田 僕みたいな者が熱を持ってしゃべっている、ということをわかってくださるのはありがたいですし「ラジオ番組って、最終的にこういう場所(量よりも質)に落ち着くだろうな」と思っていたのですが、そのとおりになりましたね。
スポンサーさんも決して声優やアニメ、マンガ等に特化した分野だけではなく、僕の大好きなガジェットを提供するメーカーさんがあったり、バラエティに富んでいるんですよね。
――ネットを使いこなす今のスタイルの「オタク」と呼ばれている人たちが誕生した、「黎明期」を生きてきた吉田さんを支持する方が多いのは、私もうれしいです。
吉田 昔のオタクは、アニメも観ているけどクレイジーキャッツ(昭和時代に活躍したタレントグループ)にも詳しい……みたいな「幅広い分野に知識を持った人」が多かったのですが、いまのオタクってすごく細分化されていると思うんです。
自分の好きなジャンルの作品だけを見るだけでもSNS等を通じてたくさんの情報が入ってくるので、ある程度満足できるのはわかります。でも、それってもったいないな、と。「雑食こそオタク」というのを強く提唱していきたいですね。
どこからでも放送できるラジオの強みを生かしていくことが必要
――「ミューコミVR」の内容をちょっとだけ教えてもらってもよろしいですか?
吉田 「ミューコミプラス」でアシスタントを務めてきてくれたZOCの西井万理那ちゃんとCUBERSの9ちゃん(末吉9太郎)のVRアバターをスクウェア・エニックスのGEMSCOMPANYチームに作ってもらって、番組に出演してもらいます。
実は「ミューコミプラス」の終了が決まる前から、2人のアバターを水面下で作っていたのですが、番組がなくなってしまうと聞いて、どうしよう、と。でもここで発想を変えて、「いっそのこと、2人をバーチャル女子アイドル二人組として新番組のために活動させてしまおう!」という考えに至りました。
ちなみに9ちゃんは小さいころ「ハロプロ」(女性アイドルが多く所属する事務所「ハロー!プロジェクト」)に入りたかったらしいのですが、VRの世界だとその夢がかなう、というのが、特にアツい、と私は思っています。
――ラジオとVRが「組む」ことによって、どのようなことが生まれると思いますか?
吉田 まず、「ラジオは想像力の世界だ」という言葉が僕はあまり好きではないんです。最初に言った方はいいとしても、それ以降もずっと変わらない表現を続けるのって、すでに考えることを放棄しているんじゃないかと思うんですね。三谷幸喜の「ラジオの時間」という映画にも、そういうくだりが出てくるのですが、「ここは宇宙だ」と言えばそこが宇宙になる。VRでは同じように、宇宙にいる、と決めたら、宇宙から放送することができる。何のコストもかけずに、奇跡が起こせるんです。
かつて、生放送の中継コーナーで銭湯から全裸で湯船に浸かりながら生放送をしたことがありますが、これは、フットワークが軽いラジオだからできること。大所帯のテレビでは出来ません。だから、ラジオ屋はもっと今の時代の可能性を活かすことを考えないといけないと思います。これだけデバイスが発達した時代、どこからでも放送できるんだから。
毎回たくさんのおたよりやネタを送ってくれる「ハガキ職人」……いまは「メール職人」も越えて「ツイッター職人」かな? こういう人たちが活躍しているのはひとつのラジオ文化ですし、それはそれでとてもいいことなのですが、そこにおんぶに抱っこじゃダメだと思うんですよね。このラジオを活かす発想は、「願えば叶う」VRの世界でも生きるはずです。
ニッポン放送の最終面接でアナウンサーの専門学校の存在を知りました
――ここからは番組から少し離れて、吉田さんのルーツについてお聞かせいただければと思います。まずはアナウンサーを目指したきっかけを教えていただけますか?
吉田 実は最初からアナウンサーを目指していたわけではないんです。もともとガジェット(これまでにない道具や機器など)が好きだったので、コンピューター雑誌の編集者になりたかったのですが、面接試験でなかなか先に進めなかったんです。
そんな中、なぜか最終面接まで進めたのがニッポン放送でした。とはいえ、それまでアナウンサーの勉強などまったくしていませんでした。面接で一緒になった人たち同士が知り合いだったのが気になって、聞いてみたら「同じアナウンス学校に通っている」ということを耳にして、そこで初めて「アナウンサーになるための学校があるんだ」というのを知ったほどです(笑)。
――ほかの人とは少し違った形でアナウンサーになられたんですね。入社後はどのようなアナウンサー生活を送られてきたのでしょう?
吉田 オリンピックの現地取材に行ったり、国政選挙のときは投票所や立候補者の事務所にリポートに行きましたし、いわゆる「アナウンサーらしいこと」はちゃんとしていました(笑)。
そして、番組を持たせていただくことになり、自分のなかである程度自由がきくようになってからは、世の中の動きに合わせた施策をいろいろと考えるようになったんです。
「ブログ」がはやり始めたころ「トラックバック」という、リンクを逆にたどれるシステムが新鮮だったので、それを活用した企画を提案したところ「何を書かれるかわからないからダメ」と言われましたね。「mixi」が出てきたときにも企画書を提出したんですが、やはりダメ出しされました。次に「ツイッター」がきたとき、会社の規約を読んだら「ツイッター禁止」という項目がなかったので、じゃあ「ミューコミプラス」でアカウントを作ろう、と勝手に始めました。
――みずから切り開いてきた道がすごいですね。
吉田 切り開いた……というよりも、自分が「面白い」と思っていることを実行してきた結果、たまたま世の中の流れに乗った、ということかもしれません(笑)。
――最近出てきた新しいものというと、「Clubhouse」がありますが、使ってみたことはありますか?
吉田 新しいものは常に触れていないと気がすまないので、リリース直後にアクセスしてみました。そしたらどこの座組でも「あ、吉田さんだ、ちょっと仕切ってもらえない?」と呼ばれるんですね。そこで思ったのが「司会の需要が高いな」ということです。「ロフトプラスワン(※首都圏にあるトークライブハウス)」で開催されているイベントにおじゃますると、その場のノリで大体ステージに上げられるんですが(笑)、その状況と似ているな、とも思いました。
上記の出来事を経て、「モデレーション(※読者が投稿したコメント等をブログ運営者がチェックすることに起因。多人数のトークを、場の流れを読みながらコントロールすること)」するための人材は常に求められているな、というのを感じました。
ラジオでゲストに対し「このシチュエーションではどういう質問を投げかけるのがいいのか?」と考えたうえでインタビューすることが、「モデレーション」にあたるのかな、と。これまでのSNSは「自説の開陳」だったのが、それが変わってきているのを感じます。
それと今回「コミュニケーションツールっていろいろあるけど、ぶっちゃけ、音だけでいいんじゃない?」と気づいた人がたくさんいると思うんです。2021年は音とネットの関係が変わる年になります。「モデレーション」が嫌いな人はいないですからね。
――ところで、吉田さんはラジオ局のアナウンサーの枠を超え、イベントの司会もたくさんこなされてますよね。
吉田 声優の田中理恵さんと「東京キャラクターショーRADIO」というアニラジをやっていたのですが、アニメが好きな局アナがしゃべっているのが珍しかったらしく田中理恵さんが出演していた「ローゼンメイデン」というアニメのイベントの司会、してみない? とオファーをいただいたんです。僕としては、アニメのことを知らない人が司会をしているイベントに対し「これってどういうことなんだろう?」とずっと疑問に思っていたので、「ぜひやります!」と。そこから司会のお話をいただくようになりました。いま思い返すと、これが僕にとってのターニングポイントでした。
「寛容」であることは普段から強く意識しています
――昨年はアニメ「D4DJ」の声優にも抜擢されました。
吉田 断る理由もないですし、むしろDJ役をやらせてもらえるなんて光栄でしたので、よろこんでお引き受けしました。
――吉田さんがDJにハマッた理由は?
吉田 「DJは寛容の呼びかけだから」というのが大きかったと思います。「あの曲もいいけど、この曲もいいよね!」という気持ちがDJには大切なんです。逆に「この曲はいいけど、あの曲はよくない」みたいな気持ちだと、DJ現場は成り立ちません。この「対立をあおらない」ということが自分が普段から意識していることで、僕は「ミューコミ」「ミューコミプラス」をやってきた15年間、番組内で一度も何かを「敵だ、嫌いだ」みたいな否定的発言はしていないという自信があります。
「人が発する一番強いメッセージは何か?」というと、実は「言ってないこと」なんですよね。「あんなことを言っていた」よりも「あの人は、一度もあのようなことを言わなかったな」というのが大事だと思うんです。「ミューコミ」、「ミューコミプラス」を通じて、僕が一度も言わなかったことが一番のメッセージだと思ってもらえるとありがたいです。
ちなみに、「D4DJ」で監督をされている水島精二さんをアニソンDJの世界に引き込んだのは、実は僕なんです。さまざまなジャンル・作品の楽曲をつなぐことによって「いろいろなものの境界線を超えちゃえ!」という楽しみができることに惹かれまして、知り合いの水島さんをお誘いした、という流れです。
直接的ではないにせよ、僕の声優の仕事につながってくるなんて、面白いですよね(笑)。
リスナーに気軽に楽しんでもらえるよう、これからも面倒くさいことをやり続けます!
――多岐に渡るお話、ありがとうございました。最後に、吉田さんにとって、ラジオとはどういうメディアだと思いますか?
吉田 2つポイントがあると思います。まずは「人とつながりたい者の集まる場所」です。
たまに「いまやっている放送は生ですか?」という質問の電話がラジオ局にはかかってくるんですが、「生です」と答えると、必ずと言っていいほどよろこばれるんですね。逆に、「録音ですか、やった!」って言う人はいません。
たとえば、最近の音楽界はサブスクリプションが全盛になってきていますが、それでもラジオで好きな曲が流れるとうれしいじゃないですか。人間は、無意識のうちに「自分がひとりか、誰かと繋がっているか」を判断する生き物だと思うんです。ラジオで曲が流れてきたということは、そこにパーソナリティー、ディレクターや作家をはじめとしたスタッフの意志を感じ取るんですよね。「人が集まれる場所」として大きな役割を担っていると思います。
――もうひとつのポイントは?
吉田 「寂しいのはイヤだけど、わずらわしいのもイヤ」だってことですね。
寂しいのはイヤだ、というのは上にあげた、人とつながりたい気持ちのこと。でもそれを満たすのは、めんどくさいし、わずらわしい。僕ら制作者側は、わずらわしい部分は引き受けて、「寂しいのはイヤだけど、わずらわしいのもイヤ」という人に届けることで、仕事にさせていただいている。なので、ラジオには手間は絶対にかけなくちゃいけないんです。リスナーが円滑に楽しむことができる場所を作っていかなくてはならない。
新しい企画を考えて実行するのは、とてもわずらわしいので、若手の番組スタッフからよく「吉田さん、なんでわざわざやらなくてもいいようなことまでするんですか?」と聞かれるのですが……そう言えば、上からもずっと言われてたかな(笑)?
でも、そんな、余計な手間をかけ続けたからこそ、15年間続けてこられたんじゃないかと、いまでは思います。
――これからも面倒くさいことをやり続けていくと。
吉田 VRって、なんだかんだで面倒くさい部類に入るじゃないですか(笑)。僕らは、リスナーに手軽にVRの面白さ、真髄を味わってもらえるよう、まい進していきます。4月からもよろしくお願いします!
(取材・文/佐伯敦史)
【番組情報】
■ミューコミVR
・毎週日曜 23:30~24:30 ニッポン放送にて放送中
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