ぎりぎりまで手づくりにこだわったアニメ「サザエさん」の制作姿勢に、エイケン50年の歴史を垣間見る【アニメ業界ウォッチング第75回】
「サザエさん」の制作で知られるエイケンが、2021年3月27日(土)より「アニメサザエさんとともに50年-エイケン制作アニメーションの世界-」を開催している。(於:丹波市立植野記念美術館)
エイケンは前身であるTCJ動画センター時代より、モノクロからカラーへと移行するテレビアニメ創成期を生き抜き、さらにアニメ制作がアナログからデジタルへ劇的に変化する荒波にももまれた。それでも、同社が50年も生き残ってこられた理由とは……?
エイケン営業管理部の中邨(なかむら)太さん、営業部の三井洋子さんにお話をうかがった。
「これからはテレビの時代」、そして同じ年に3か月連続でテレビアニメが放送開始
──まず、社名の由来を聞かせてください。
三井 創業者の村田英憲の名前からです。もともと愛称で「エイケン」と呼ばれていて、そのまま社名に使ったそうです。
──別に「映像研究」といった意味が含まれているわけではないんですね?
中邨 FAXでやりとりしていた時代は、「映研様」と、宛名を間違って送られてくることがありました(笑)。そんなに深い意味はないんです。
──会社の成り立ちを、教えてください。
三井 輸入車販売で有名なヤナセさんが、1960年代に映画部をつくったことが発端です。
中邨 ヤナセさんが、「これからはテレビの時代だ」と、街頭用テレビの輸入販売にも着手して、日本テレビジョン(TCJ)という会社を設立しました。テレビといえば広告がつきものですから、早々にCМ映像の制作に着手しました。またアニメーションによるトリス、桃屋、シチズンなどのCMを制作して、かなりのシェアを占めていたようです。しばらくして、連続テレビアニメーション番組の制作を行うため映画部を設け、1963年元旦に日本初のテレビアニメ「鉄腕アトム」が放送された同じ年に、TCJ映画部にて「仙人部落」、「鉄人28号」、「エイトマン」を制作しました。
三井 「仙人部落」が1963年9月、「鉄人」が10月、「エイトマン」が11月の放送です。
中邨 そのTCJ映画部が、弊社の前身です。
──3か月連続で3本もテレビアニメをスタートさせて、さぞかし大変だったのではないでしょうか?
中邨 はい。大きな公会堂に志望者をたくさん集めて、アニメーターの採用試験をして人員増強したそうです。
三井 「スーパージェッター」(1965年)のころはCM部門を含め4チーム、300人ほどのスタッフが働いていました。社名が「日本テレビジョン」ということで、テレビ局の日本テレビさんと間違えて、そのまま入社した人もいます(笑)。日本テレビさんは「日本テレビ放送網」ですから、旧社名はまぎらわしかったようです。
──まだ、テレビアニメをつくるノウハウが乏しい時期だったと思うのですが?
中邨 はい、アニメーターの大西清さんがチームの室長になったり、CM部門からも人材が流れてきたそうです。「仙人部落」「鉄人28号」などのCX系、「エイトマン」のTBS系、この2つの放送局が主でした。当時の路線はヒーロー物で、スポンサーは子ども向けのガムやチョコレートをつくる製菓会社さん。「エイトマン」なら、ふりかけの丸美屋さんですね。「鉄人」は江崎グリコさん、グリコ乳業さんがスポンサーで、主題歌にも「グリコ」の名前がうたわれていました。
──初期の3作品は、いずれも漫画原作ですね。
中邨 はい、オリジナル作品は「スーパージェッター」からです。「エイトマン」を放送したTBSさんが独自にマーチャンダイジングを展開できるオリジナル作品を志向して、半村良さん、豊田有恒さん、筒井康隆さん、眉村卓さんら、そうそうたるSF作家を集めてシナリオ開発を行いました。
──その後もしばらく、「宇宙少年ソラン」(1965年)、「遊星少年パピイ」(1965年)や「遊星仮面」(1966年)などのSFヒーロー路線が続きますね。スポンサーの意向でしょうか?
中邨 スポンサーの意向もあったと思いますが、テレビアニメを見る視聴者の意識も、少しずつ変わっていったのではないでしょうか。たとえば、「サザエさん」(1969年)のスポンサーは電機メーカーの東芝さんでした。前番組の「忍風カムイ外伝」(1969年)も、東芝さんがスポンサーでした。原作の「カムイ外伝」は、青年向け漫画雑誌に連載されていました。当時は東芝さんがラジカセを売り出した時期なので、若い人にアピールしたかったのかもしれません。後番組が「サザエさん」ということは、スポンサー側に「もっと視聴者層を広げたい」意向があったように思います。
三井 ちょうど、「サザエさん」がスタートした年にテイ・シー・ジェー動画センターとして、日本テレビジョンから独立しました。品川から南千住へ、200人で移動しました。「サザエさん」の第1話はネット配信で視聴できますが、まだエイケンという名前ではなく、テイ・シー・ジェー動画センターとなっています。エイケンに社名変更するのは1973年で、少し時間が空いているためです。
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