水木しげる生誕100周年に向けて……東映アニメーションのプロデューサーがこっそり明かす「ゲゲゲの鬼太郎」の秘密【アニメ業界ウォッチング第76回】
「ゲゲゲの鬼太郎」の原作者、故・水木しげる氏が、今年3月8日、生誕99年を迎えた。来年2022年には生誕100年を迎えるということで、東映アニメーションが4つの企画を発表した。展覧会やキャンペーンなどのイベントも用意されているが、気になるのは2本の新作アニメーションだ。そのうち1本は、1989年以来のアニメ化となる「悪魔くん」。もう1本は「鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎」と題された劇場用アニメだ。
特に「鬼太郎」については、2018~20年まで放送されていたテレビアニメ第6期の映画化とのことだが、どんな内容なのだろう? 東映アニメーション株式会社、企画部IP戦略室のチーフプロデューサー、永富大地さんにお話をうかがった。
新作の「鬼太郎」映画は、大人向けの怖い内容になる!?
──「悪魔くん」と「ゲゲゲの鬼太郎」新作映画、この2本のアニメ作品を永富さんがプロデュースするのですか?
永富 そうです。新作「悪魔くん」と映画「鬼太郎」は今年11月に調布市で開催される「ゲゲゲ忌2021」で詳細を発表しますので、それまでお待ちください。「鬼太郎」の映画のほうは「鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎」というタイトルです。僕がプロデュースした2018年版の「ゲゲゲの鬼太郎」と同じ世界観で、鬼太郎を沢城みゆきさん、鬼太郎の父を野沢雅子さんが演じます。過去にも東映まんがまつりや東映アニメフェアで子ども向けの「鬼太郎」映画はたくさん制作されてきましたが、「鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎」は、それらとは一線を画した大人向けの怖い映画になります。
──「鬼太郎誕生」ということは、どうやって鬼太郎が生まれてきたかを描く映画なんですね?
永富 はい。水木しげる先生の生誕100周年を記念する映画である意味を考えて、皆さんがぼんやりは知っているが詳しくはご存じない、鬼太郎の誕生の謎を真正面から描きます。目玉おやじになる前の鬼太郎の父親がどんな姿だったか、ご存知でしょうか。原作漫画では、包帯がぐるぐる巻かれたミイラ男でした。水木という男が鬼太郎の両親の家の隣に引っ越してきて、「私たちにはもうすぐ子どもが生まれるんです」と聞くあたりから話が始まっています。両親は死んでしまうのですが、墓場から赤ん坊が生まれてきます。我が子への愛情を残して死んだ父親の体から目玉だけが落ちて、それが目玉おやじになった……と、漫画ではそのように描かれています。
──「墓場鬼太郎」(2008年)というアニメでも、鬼太郎誕生は描かれていると思うのですが?
永富 確かに事象としては描かれているのですが、「墓場鬼太郎」はタイトルも違いますし、番外編的な作品という扱いです。原作漫画ではスピーディーに物語が進みすぎるため、なぜ鬼太郎の両親が死んでしまったのか、その赤ん坊がいかにして鬼太郎になったのか、きっちり描かれているわけではありません。今回の映画では、水木先生の娘さんである原口尚子さん (水木プロダクション)にもご参加いただいて原作を活かしながら、鬼太郎の誕生を正統な歴史として、しっかりと描きたいと思います。
──2018年に放送された第6期テレビシリーズの前日譚なのですか?
永富 ええ、実は第6期では夢のシーンとして、目玉おやじになる前の鬼太郎の父親が登場しています。「鬼太郎 父 イケメン」で画像検索してもらえるとわかりますが、とてもカッコいい父親として描いたため、SNSでバズりました。各社から、商品化の話も多数いただきました。しかし、一時的に受けたからといって乱発乱造はせず、「鬼太郎の父親についてはひとつのエピソードとして映画の中で描こう」と水木プロさんと話し合って決めていました。あのカッコいい父親の姿で映画に登場するかは、まだわかりません。映画のキャラクターデザインを第6期と同じにするのかどうか、まだ調整している最中です。ともあれ、テレビシリーズの第1期と第2期で初めて鬼太郎を演じた野沢雅子さんに父親を演じていだたけるのは、鬼太郎の一ファンとしてもとてもうれしいことです。
──第6期でテレビシリーズを展開するうえでも、水木プロと話し合いながら進めていたのですね。
永富 そうです。第6期で、水木プロさんにねこ娘の新しいデザインを見せに行くときは、さすがに緊張しました。結果として「ねこ姉さん」と呼ばれて好意的に受け入れていただけましたが、厳しく批判される可能性も半分はありました。だけど、いたずら心で短絡的な人気を狙って、ねこ娘を大きくしたのではありません。鬼太郎と目線を同じくする犬山まなという人間の女の子を登場させることを決めていたので、まなと同じような背格好、同じような性格のねこ娘を出すわけにいかなくなったんです。あくまで物語上の必然から、ねこ娘のデザインを決めました。新しいねこ娘のデザインを見た水木プロさんは「確かに驚いたけれど、東映アニメーションさんが『鬼太郎』に変なことをするわけがない。しっかり考えたうえでのご提案なんですよね」とおっしゃってくださいました。50年間にわたって、厚い信頼関係を築けていたおかげです。
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