アニメライターによる2021年春アニメ中間レビュー【アニメコラム】

2021年春の新作アニメの中から注目の5タイトルを中間レビュー! 「角川スニーカー文庫」の小説が原作の「スーパーカブ」、「マガジンポケット」にて連載中のコミック「イジらないで、長瀞さん」、テレビ東京で放送中のオリジナル作品「オッドタクシー」、こちらも予想が付かないオリジナルの「Fairy蘭丸~あなたの心お助けします~」、そして人気絵本が原作「どすこいすしずもう」の5作品をピックアップしました。

スーパーカブ


一人暮らしの女子高生・小熊が中古のスーパーカブを買ったことで、平坦な日常が少しずつ変わっていく青春ストーリー。自転車から原付に乗り換える様子を追った第1話は劇伴がほぼ流れず、自然と効果音に注意が向かう作りとなっている。足音さえ聞こえるほど静かな小熊の部屋は彼女がひとりぼっちであることを強調しているが、スーパーカブにまたがってエンジンをかけた瞬間、大きな音が響いて世界が一瞬で色付く。自転車と原付の差がエンジンの有無であることを思い出させるシーンである。
そのいっぽうでどこか不穏な雰囲気が感じられるのもオートバイを扱った作品らしい。人を3人死なせたと語られるスーパーカブ、現実のナンバープレートには存在しない「し」の文字、灰色の作業服とほぼ同じ顔色をしたバイク屋のオヤジはまるで死神のようだ。安全運転を心がけてほしい。



イジらないで、長瀞さん


サディスティックな女子高生・長瀞さんに弄ばれるセンパイの学園生活を描いたラブコメディ。いわゆる美少女にロックオンされてグイグイ引っ張られる系の作品だが、長瀞さんのイジりの強烈さは他の追随を許さない。チクビ当てゲームに誘ったり、首筋に噛みつこうとしたりと、手に石鹸を付けて洗いっこしてきたりと、ギリギリのラインを迫ってくる。
長瀞さんのオモチャにされるセンパイはいつも汗まみれに。そしてウブなことをからかわれて、いつしか目には悔し涙が浮かんでしまう。その涙を長瀞さんが魚の刺繍が入ったハンカチで拭うシーンは、どこか背徳的な妖しさが備わっている。センパイの体液はどこまで搾り取られてしまうのか要注目だ。



オッドタクシー


無口で変わり者のタクシードライバー・小戸川が乗せるお客さんは、ネットでバズりたい大学生や売れないお笑いコンビ、指名手配中のチンピラなど、クセの強い面々ばかり。そんな一見無関係に思える登場人物たちが複雑に絡み合い、いつしか女子高生失踪事件の真相へと繋がるオリジナル群像劇だ。
キャラクターは動物の姿をしており、セイウチの小戸川を筆頭に、ゴリラ、アルパカ、イノシシ、ウマなど多種多様。愛らしいビジュアルではあるものの、婚活が上手くいかなかったり、アプリゲームに金を注ぎ込んだりと、卑近な悩みを抱えているところが妙にリアルだ。キャストは声優と芸人が務めており、プレスコによる軽快な掛け合いも独特な存在感を醸しだしている。細かく張りめぐらされた伏線も見どころで、何気なく描かれたシーンやアイテムが重要な意味を持つことも……。一瞬も気の抜けないスリリングな持ち味の一作。



Fairy蘭丸~あなたの心お助けします~


「プリティーリズム」シリーズの菱田正和監督と「おねがいマイメロディ」シリーズのスタジオコメットが手がけるオリジナルアニメ。夭聖(ようせい)と呼ばれる5人の青年たちが苦しむ人々を助けるために人間界に派遣されるストーリーで、お悩み解決ものかと思いきや後半に急展開。キャラクターが変身し、ヘブンズ空間と呼ばれる謎の世界でバトルを繰り広げていく。
注目はバトルへ向かう際に映される出陣シーン。昭和歌謡風の挿入歌が流れて、死地に赴くさまを描いた場面は一度見たら忘れない仕上がりで、「緋牡丹博徒」や「昭和残侠伝」などの任侠映画を彷彿とさせるほど。ヘブンズ空間も浮世絵風だったり、白黒だったり、懐かしいタッチの萌えキャラが暴れていたりと、エピソードごとに異なっており、今度はどんな映像が見られるのか楽しみになってくる。



どすこい すしずもう


寿司と相撲という日本の二大文化がついにコラボレーション。横綱の風格漂う「おおとろやま」、ブルーの瞳をした外国人力士「サーモンざくら」、客席に頭のいくらを撒き散らす「いくらまる」などなど、寿司ネタが力士になって相撲を取るという大胆不敵なアイデアが魅力のショートアニメ。
「たまごのさと」対「いくらまる」のたまご対決、「たこのつぼ」対「いかのしん」の軟体動物対決、「かっぱのきゅう」対「まつばがにのりゅう」食材格差対決など、思わず見たくなる好取組が連発。ふわふわたまごの弾力を利用して闘う「たまごのさと」など、ネタを生かした決まり手の数々は、まさに技のデパートと呼ぶに相応しい。本物の相撲中継でおなじみのアナウンサーと親方による解説も再現されており、ゆるい雰囲気の虜になってしまう。



(文・高橋克則)

(C) Tone Koken,hiro/ベアモータース
(C) ナナシ・講談社/「イジらないで、長瀞さん」製作委員会
(C) P.I.C.S. / 小戸川交通パートナーズ
(C) 馬谷たいが/F蘭製作委員会
(C) アンマサコ・講談社/どすこいすしずもう製作委員会

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