ロボットの“目”を本物のカメラで表現する――「装甲騎兵ボトムズ」第1話に隠された強靭な意思の力【懐かしアニメ回顧録第79回】

高橋良輔監督の「太陽の牙ダグラム」が40周年を迎え、新プロジェクトも動き出したようだ。以前、本コーナーでは「ダグラム」最終回について論じたので、今回は後番組である「装甲騎兵ボトムズ」(1983年)の第1話「終戦」をついて書こう。
主人公キリコ・キュービィーは宇宙戦争の末期、目的を知らされない謎の作戦に参加させられ、小惑星基地の中で“素体”と呼ばれる謎の裸女を目撃してしまい、軍隊や秘密結社から追われる身となる。キリコが素体を目撃する――、この「見る」演出が、第1話「終戦」では徹底されている。具体的に見ていこう。

ロボットの顔面カメラのみで進行する会話劇


敵の攻撃によって、キリコの部隊が潜入した小惑星基地の壁に穴があく。キリコの乗ったロボット“スコープドッグ”は、その穴の奥に進み、素体の収められたカプセルを前にする。

・スコープドッグのコクピット内、カプセルを見るキリコ(その目はヘルメットのゴーグルに隠れている)
・キリコの主観カット。カプセルの周囲に、ゴーグル内に投射されたゲージなどが重なる。
・キリコの乗ったスコープドッグのカメラ部分。ターレットが回転して、レンズがズーミングして伸びる。
・コクピット内のキリコ、左右を見る。

この一連のカットで示されたように、素体を前にしたキリコの視界はヘルメットのゴーグルと、スコープドッグのカメラを介したものだ。キリコはスコープドッグを着地させ、カプセルの前まで歩く。ここでゴーグルを上に跳ね上げ、はじめてキリコの目が見える――主人公なのに、丸10分間もの間、顔が見えなかったわけだ。
さて、カプセルのカバーをうっかり開いてしまったキリコは、全裸の“素体”に驚いてカプセルから離れる。しかし、銃を抜いてカプセルの近くへと戻る。

・カプセルを見るキリコのアップ。まず、画面右側へ視線を走らせる。
・素体の足だけが見える。
・画面右から左へと、じっくりと視線を移動させるキリコ。
・カプセル内に寝ている素体を、左→右へとPANでとらえる。

素体を間近に見るシーンでは、驚愕するキリコの目が入念に作画されている。すなわち、「肉眼によって見る」演技が強調されている。逆に言えば、それまで肉眼の芝居は乏しく、ことごとスコープドッグのカメラを使って「見る」演出が繰り返されているのだ。


物語の外部からセルアニメの世界を見つめる「本物のカメラレンズ」


キリコが素体を目撃する前のシーンである。小惑星基地に潜入したキリコの部隊は、敵を撃退する。円陣を組んだ数機のスコープドッグに、キリコのスコープドッグも合流する。

・「キリコか、よくやった」と隊長が声をかける。しかし、映っているのは隊長の顔ではなく、スコープドッグの顔面カメラである。
・「隊長、作戦の目的を教えてください」とキリコは言うが、キリコではなく、スコープドッグの全身のみが映っている。
・隊長のスコープドッグが、こちらを向く。「後で教えてやる」と、隊長の声。
・キリコのスコープドッグの顔面。「なぜ味方を襲うんです?」
・隊長機ほか、数機のスコープドッグが、無言のまま一斉にキリコ機を見る。
・「わけを、わけを教えてください」と詰め寄るキリコのアップ(顔はゴーグルで隠れている)。
・隊長のスコープドッグのアップ、カメラが回転する。「貴様、俺の言っていることがわからんのか」と、隊長の声。
・再び、キリコのアップ。「し、しかし!」と、キリコの台詞。
・「ここを動くな、命令だぞ」と隊長。画面にはスコープドッグのカメラがアップで映っている。

なんと、ほとんどスコープドッグの顔面のみで会話劇が進行している。しかも、最後のカットは実物のレンズがズームする様子を撮影して、セルと合成しているようだ。
この実物のカメラは、第1話「終戦」の終盤にも登場する。軍に捕らわれたキリコが航空機で脱出した直後、彼を追うロッチナ大尉が「メルキア全域監視ステーションおよび、衛星監視システム作動」と命じる。すると、軌道上の監視衛星が動き、そのカメラ部分がアップになる。キリコを探す監視衛星のカメラが、やはり実写のレンズを合成したものなのだ。

セルアニメーションに侵入する、本物のカメラ。当時のテレビアニメは16mmカメラで撮影されていたので、実物のカメラは「物語の外からの視線」ともいえる。
「装甲騎兵ボトムズ」は、キリコが徹底的に監視され、執拗に追われつづける物語だ。キリコを冷たく見つめる第1話の「本物のカメラ」は、物語すべてを厳然と見通している、見渡している――とも言えるのではないだろうか。


(文/廣田恵介)

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