【絶賛上映中!】6月4日公開、「劇場版 少女☆歌劇 レヴュースタァライト」たぶん最速観劇レビュー──幸せなガチョウ、かく語りき。
完全新作劇場アニメ「劇場版 少女☆歌劇 レヴュースタァライト」が2021年6月4日、全国の劇場で公開されました。
昨今の状況により映画館のオープンにも制約がある状況が続いていますが、各方面の努力もあって6月1日には東京・大阪での映画上映が発表され、「劇場版 少女☆歌劇 レヴュースタァライト」も舞台挨拶を含めた上映スケジュールが急ピッチで決まっていっています。待ちに待った作品の幕があがる、ファンにとってこれ以上に嬉しいことはありません。
実は先ほど、近隣の劇場の初回上映を見てきました。幸いにもレビュー記事公開の許可をいただけましたので、今から「劇場版 少女☆歌劇 レヴュースタァライト」初回鑑賞後の熱を観劇レビューとして吐き出していきたいと思います。
劇場版の物語を逐一書き起こすような不粋をするつもりはないのですが、物語を見て感じた衝撃や感想を記すことそのものが最も避けるべきネタバレだと考える人も多いと思います。
わかります。
ですからこの記事は、“「劇場版 少女☆歌劇 レヴュースタァライト」のネタバレしか書いてありません”と事前に但し書きしたいと思います。ネタバレの有無が気になるぐらい「スタァライト」が好きな人は、今すぐ劇場に走っても後悔しないことを保証します。これも、ネタバレになってしまうのかもしれませんが。
ヤバいと思ったときには、もう遅い
「劇場版 少女☆歌劇 レヴュースタァライト」を見終わっての感想というか、上映開始後推定40分ほどでまず思ったのは、あ、今自分、フォアグラにされているガチョウだな、ということでした。
物語体験と「スタァライト」に飢えた身体に、冒頭から繰り出され続ける物語と少女たちの関係性は大変に甘美なものでした。ですが上映30分を過ぎたあたりで、不摂生な身体は血糖値の上昇を感知します。どんなに糖度が高くておいしいトマトも、食べ過ぎると身体には毒です。ですが、本作の作り手たちは一切の手加減というものを知りません。次々と至上の美食が流しこまれてくるのです。
思えば、TVアニメ「少女☆歌劇 レヴュースタァライト」は、考察や深読みといった行為に喜びを見出す種類のオタクたちに、とても甘美な時間を与えてくれました。30分の映像に出会い、考え、見返し、格闘するための期間は、次回の放送を迎える一週間の間にたっぷりとありました。しかし……一度流れ始めた劇場映画を、止めることはできません。
Show Must Go On.
「劇場版 少女☆歌劇 レヴュースタァライト」という名の特急列車は、一度走り出せば終着駅まで突き進むのみです。
“今のシーンに、どんな意味があったのか?”
“あの時、あの子はどんな表情をしていた?”
そんな疑問が頭を繰り返しよぎっても、物語は続きます。続いてしまうのです。過ぎた快楽は身体に毒だ……と悟った後は、こうなったら物語の作り手との根気比べ、体力比べです。ですから──ひょっとしたらもう手遅れかもしれませんが──明日に、週末にこの作品を見に行こうと思っている人は、前夜はたっぷりと眠ってください。当日は体力勝負ですし、その日の夜は眠れなかったり、形容しがたい夢と踊ることになるでしょうから。
この劇場作品は何だったんだろうと、考えます。絶賛、今、考えています。今はまだ陳腐な答しか出てきませんが、これは少女たちと作り手の忘れ物を探す旅だったのだと思います。敗れ去り、最後は観客席からレヴューを見守ることになった舞台少女たちは、本当にその結果を受け入れることができたのか。幼なじみを一歩後ろから見守ってきた少女は、その位置をこれからも良しとするのか。誰よりも大切な女の子を、横から突然あらわれた幼なじみにかっさらわれた少女は。薄氷の舞台を斬って斬って斬り抜け続けて、永遠に続く舞台を廻し続けてきたやさしい少女は。そして、たったひとつしかないポジションゼロの高みを、運命の相手とともに目指すユメを選んでしまった少女は。
TVアニメ「少女☆歌劇 レヴュースタァライト」は、愛城華恋の物語でした。ですから複雑に入り組んだ物語の糸は、最終的には愛城華恋と神楽ひかりの物語に収束していきます。ですが、9人の舞台少女は、いえ、すべての舞台少女と、舞台を愛する人たちは、それぞれの人生の舞台の主役のはずです。人生の数だけ存在するはずの物語に、この劇場版は愚直なまでにまっすぐに向き合っていきます。
華恋たち聖翔音楽学園99期生は、3年生になりました。かわいい新入生たちに学園を案内して、聖翔音楽学園とはなんたるかを伝え、指導するのも華恋たちの仕事です。
舞台少女であっても、高校3年生が持つ悩みに変わりはありません。卒業後の進路をどうするか。学生時代に何かを残せるのか。卒業したら、大好きな友だちと離れ離れになるかもしれない。それは傍から見ればささやかな悩みかもしれませんが、渦中の少女たちにとっては人生を揺るがす一大事。舞台で命を燃やし、親友と斬り結ぶ理由には十分すぎるほどです。
彼女たちも思春期ですから、グレてしまう子もいます。みんなを幸せにすることを考えて、人知れず努力して、お菓子も焼いてあげて、勝ち抜いて。自分を削りながら舞台の準備をしてきたのに、ぽっと出の子にその手をはねつけられて。なかったことになって。それでも気を取り直して日常に帰ろうとがんばっていたら、望んで自分の道を歩み始めたはずの少女たちは、なんだか暗い顔でグチグチ言っているではないですか。そりゃあ温厚な女の子でも怒りますよね。すいません、ネタバレでした。
物語の終盤、ひとつのレヴューを終えた華恋は、ある台詞を口にします。それは、僕には作り手の、監督の古川知宏さんの叫びでもあるような気がしました。3ヶ月1クールという単位で進むアニメーション制作の現場において、ひとつの作品の終わりは別の作品のはじまりを意味します。新しい列車に乗って、次の駅を目指し続けて悪戦苦闘し続けるのがアニメーション制作なのです。次の列車にすぐに気持ちを切り替えられるタイプの作家もいるでしょう。プロフェッショナルとは元来きっとそういうものです。
古川監督に何度かインタビューをさせていただいた際、古川監督を形作る重要なピースのひとつとして、庵野秀明監督への憧れを語ってくれました。といっても庵野監督から想起されやすい衒学的な一面というよりは、映像的な快楽、気持ちよさの面に対するリスペクトが強かったようですが。
そして、古川監督は「少女革命ウテナ」や「美少女戦士セーラームーン」を手掛けた幾原邦彦監督からアニメーション制作のオモテウラを学んだ右腕・愛弟子的存在でもあります。本作でもイクニイズムを感じる描写はありましたが(駅のアレとかね)、アレはむしろこういうのがほしいんだろ? と笑いながらファンサービスをしてくれた結果な気がします。脱線しました。
ともあれ、庵野秀明と幾原邦彦の因子を持った現役バリバリのクリエイターが、少女たちの関係性の描写を戦いに託した作品を手がけている。そりゃあ自分が惹きつけられるはずだと大いに納得したのを覚えています。そして、僕から見た古川監督は、自分のはらわたをぶちまけて、血を流しながら作品を作るタイプの、クラシカルで魅力的な作家でした。だから、あの華恋の台詞に、勝手に古川監督の心情を見てしまったのかもしれません。
そんな古川監督にとって幸運だったのは、彼の中にある世界を丹念に聞き取って、語り合いながら脚本のフォーマットに落としこんでくれる職人・樋口達人さん(脚本)との出会いがあったこと。そして、作詞の参考になれば……と軽い気持ちでシナリオ打ち合わせの見学に来たのが、「スタァライト」の世界観を形作るもうひとりの柱となる中村彼方さん(戯曲脚本・劇中歌作詞)という才女であったこと。“歌劇”というテーマを描くために不可欠な音楽を作る現場に、野島鉄平さん(音楽プロデューサー)という理解者がいたこと。そのほかにもいくつもの出会いがあって、古川知宏という天才が作品にすべてを注げる環境が生まれました。
「劇場版 少女☆歌劇 レヴュースタァライト」という作品についてひとつ大きなネタバレをすることが許されるなら、9人の舞台少女とキリンをめぐるレヴューの物語は、この作品がきっと本当に最後だろうと言うことです。ひょっとしたら、華恋たちが海に行ったり、旅行をしたり、キャンプに行ったり。あるいは、聖翔音楽学園の面々が、別の学校の舞台少女たちとの物語に巻きこまれるようなifなら、成立するのかもしれません。
それでも、華恋とひかりと東京タワーからはじまった舞台少女たちの物語は、きっとこれでひとつのおしまいを迎えます。それぐらい、全てを込めて描ききった作品です。でした。
さて、あまりネタバレになっていないネタバレはこれぐらいにして。そろそろ眠りに落ちて、舞台少女たちの夢を見たいと思います。明日の上映時間は、何時からだったかな……?
PS.作詞は全部中村彼方さんでした。
(取材・文/中里キリ)
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