「映画大好きポンポさん」の色彩設計・千葉絵美さんに、アニメの色を考えることの面白さを聞いてみた【アニメ業界ウォッチング第77回】

娯楽映画の制作現場を描いた漫画「映画大好きポンポさん」が、アニメーション映画化された。監督は、「劇場版 空の境界 第五章 矛盾螺旋」(2008年)や「GOD EATER」(2015年)、「魔女っこ姉妹のヨヨとネネ」(2013年)などの平尾隆之氏。今回の「ポンポさん」では、映画プロデューサーであるポンポのアシスタント、ジーン・フィニが新人監督として映画づくりに没頭するドラマを、熱烈なタッチで描いている。

いっぽうで、華やかな絵づくりも強い印象を残す。今回は、「ポンポさん」の色彩設計を担当した千葉絵美さんにお話をうかがってみた。

キャラクターが手にする小道具は、現実感のある色を使う


──アニメの色といえば、かつてはセルの裏から絵の具で塗っていましたよね。千葉さんは、そういう時代を経験していますか?

千葉 私が業界に入ったときは、アニメの制作がアナログからデジタルへ移行する過渡期で、まだセルに絵の具で彩色している会社もありました。私が新人として入社したテレコム・アニメーションフィルムはデジタル化への切り替えが早かったので、手で塗った経験はありません。

──「劇場版 空の境界」(2007~2013年)のときにもインタビューさせてもらいましたが、キャラクターの基本色を決めてから、シーンごとに微調整するそうですね。

千葉 そうです。まずキャラクターの基本色を決めて、背景が上がってきたら、背景に合わせて調整します。カット単位で色を替えるのはテレビではやりすぎだとよく言われますが、私は時間と余裕があるかぎりは「よくなるんだから、なるべくやったほうがいい」と思って、カットごとに調整するようにしています。「映画大好きポンポさん」は劇場作品なので、テレビのような制約が少なくて、自由にやらせてもらえました。自分から色のプランを提出して、監督(平尾隆之氏)から「もう少しこうしてほしい」という要望が出れば、それに応じて変えていきます。本編だけでなく、ポスターや版権イラストの色も、基本色は変えずに雰囲気にあわせて色を調整しています。


──撮影処理で、色がガラッと変わってしまうことがありますよね。撮影監督と打ち合わせしたりはするんですか?

千葉 いえ、私が撮影の打ち合わせに出ることはありません。撮影監督と平尾監督との間に、おそらく目指しているゴールがあって、色彩設計はその途中段階の素材を作っているというつもりでいます。自分独自の個性を出すよりも、作品全体がまとまっていることのほうが大事だと考えています。

──「ポンポさん」は“ニャリウッド”という架空の都市が舞台で、ファンタジーともリアルとも言い切れない不思議な世界観ですが?

千葉 とても密度の高い背景のうえに、アニメっぽいかわいいキャラクターが乗るんです。キャラクターのパーツが少ないので、色数は限られてきます。ですから、エッジやハイライトの色を工夫することで、カラフルさを出していきました。それと、キャラクターが手にする小道具の色で、現実感を出していきました。たとえば、キャラクターがPCを持っていた場合、黄色やピンクに塗ればカラフルにはなりますが、作品の世界に入っていけないと思います。ですから、キャラクターが手にする小道具は、リアルな色で塗ります。ほかの作品でも、「キャラクターがその場所にいる」と感じられるように、色を決めています。


──彩色スタッフは、どんなメンバーだったのですか?

千葉 私はフリーになって4年ぐらいなのですが、前に同じ職場で働いていた彩色スタッフもフリーになっていたりするので、いつも一緒に仕事している気心の知れた人たちにお願いしました。自宅で作業する人もいれば、他作品と並行しながら別のスタジオで作業する人もいました。いつもなら集中して2~3週間で終わらせるところですが、「ポンポさん」は部活みたいに、その日のうち2~3時間だけ作業していました。1日がっつり取り組むのではなく、放課後に少しずつ進めていく感じですね。

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