【最終話目前】「AIも人間も、触れ合うことって大事なんでしょうね」──話題の2021春アニメ「Vivy -Fluorite Eye’s Song-」第3~4話登場のエステラ役・日笠陽子インタビュー!
WIT STUDIOがアニメーション制作、長月達平さんと梅原英司さんがシリーズ構成・脚本を務めるオリジナルTVアニメ「Vivy -Fluorite Eye’s Song-」(以下、「Vivy」)。
「ヴィヴィとともに歴史を修正し、100年後に起こるAIと人間との戦争を止めること」を使命としたAI・マツモトと、AIの「歌姫」ヴィヴィの百年にわたる長き旅も、いよいよ佳境。大きな謎も明らかとなり、どんな結末となるのか目が離せない展開となっている。
いよいよ迫る最終回放送を目前に控え、今回は第3話「A Tender Moon Tempo -星たちとの歓談-」、第4話「Ensemble for Polaris -私たちの約束-」に登場した、宇宙ホテル“サンライズ”で働くAIスタッフ・エステラ役の日笠陽子さんにインタビュー。作品の魅力や、エステラとエリザベスのことなどいろいろお話をうかがった。
エステラとエリザベスのラストシーンは、使命を全うできた瞬間だったと思います
――アキバ総研では、その作品にどのぐらい興味を持っているかアクセス数を指標にした「アニメランキング」を出しているのですが、2021年5月のランキングでは「Vivy」が1位でした。
日笠 そうなんですね! 嬉しいです!
――同席しているスタッフさんも、日笠さん以上に喜んでいますね。
日笠 みんながハッピーになれるのって、結局そういうことですよね(笑)。
――そんな注目度の高い「Vivy」ですが、台本を読んだ時の印象はいかがでしたか?
日笠 最初に読んだのはエステラが登場した第3話の台本なのですが、第1話と第2話の内容を知らなかったので、どんなことが起こっていたのか想像するのが楽しかったです。
――その第3話と第4話が、日笠さん演じるエステラと妹であるエリザベス(ベス)を中心としたエピソードでした。演じる際は、どのようなことを意識したのでしょうか?
日笠 第3話でエステラがヴィヴィと対面した時に、品のよさ、品格のある印象を受けたんですね。これから人の心を知っていく、赤ちゃんのようなAIだったヴィヴィはとは対照的といいますか。エステラは(宇宙ホテルの前の)オーナーと出会い、人と人との関わりを知っているし、仕事とはどういうものかを理解しています。なので、仕事を全うしようとする意思や、信念のある部分をしっかり出したいと思いました。
あと、AIを演じるうえでみんながぶつかるのが息問題ですよね。私も息をどの程度入れるのか、入れないのか、結構考えました。第3話の収録時には(種﨑さんが第1話、第2話で)ヴィヴィをどう演じたのかわからなかったので、逆にちょっと人間っぽく、人間なのかAIなのか視聴者がわからなくなる感じにしたいと思って演じたんです。その後、エリザベス役の内山夕実ちゃんが、台本にはなかった息をアドリブで入れていたのを聴いて、見解が一緒だなと思って。
――そういうところは、アフレコで初めて知ったわけですね。
日笠 アニメのアフレコの難しいけど面白いところってそこですよね。その話数のテストをやって初めて、こういう感じだと知るんです。そこでの瞬発力や、短時間の中でお互いを理解しようとする気持ちがすごく大事だなと改めて思いました。
――エステラとエリザベスについては、どう感じましたか?
日笠 ベスはエステラの双子の妹として造られた存在。エステラは妹を守りたい、妹と一緒にいたい気持ちがあったのに、そうできなかった過去があるわけなんです。そこで大きく傷ついた心の穴を、きっとオーナーが埋めてくれたと思うんですよ。オーナーと出会ったからこそ、誰かになにかを伝えられる人(AI)になったのかなって。だから、ベスと会っていなかった期間よりももっともっと彼女のことを大切にして、最後を迎えられたのかなと思います。
――第4話の2人のラストシーンは、とても印象的でした。
日笠 2人で(コントロールパネルを)操作するシーン、あれってきっとエステラとベスじゃなかったらできなかったことだろうし、それをやるために造られた部分がある気がします。ようやく出会って、ようやく“2人でひとつのことをやる”という使命を全うできた瞬間だったなって。それに、お客様を笑顔にすることはエステラのオーナーとの約束であり使命でもあったので、切なかったですけど見ていてすごく幸せでした。
福山さんの演技は、同じ役者として悔しいぐらいすごいです
――エステラにとって“笑顔”はポイントとなっていますよね。ヴィヴィの顔をむにゅっとして笑顔を作らせるシーンもありましたし。そんな笑顔に関してどう感じましたか?
日笠 エステラは、お客様を笑顔にするためには自分も笑顔じゃなきゃいけないと、わかっていたと思うんです。その根幹にあるのって、ベスと2人で実験されている時に「せめてほほえもうよ、姉さん。泣けないならせめてさ」とベスに言われて、涙は出ないんだけど無理やり笑う――その時の約束だと思うんです。
悲しい時もがんばって笑っていると楽しくなってくるし、誰かが笑っているとほかの人も笑顔になりますよね。笑顔にはそんなパワーがあるんです。だから、悲しそうに笑うシーンも、本当に笑うシーンも、エステラはすごく笑顔が印象的だなと思いましたね。
――AIだから涙は出なくても、やはり笑顔でいるところを演じる時は感情がのるというか、意識は違ってくるものですか?
日笠 そうですね。(アフレコの時点で)映像はできていないですけど、きっとエステラはこうだろうなって想像する顔を、演じている時の自分もしていると思うんです。実際に演じている時の顔を見たことはないですけど、たぶん(笑顔のシーンなら)口角が上がっているだろうし、悲しい顔をしている時は自分の眉毛も下がっているだろうなって。
――ほかにアフレコで大変だったことや、思い出深いことがあれば教えてください。
日笠 コロナ禍ということで、アフレコは3人ぐらい入れる大きなブースと、隔離された小さなブースを使って行いました。第4話は私がその小部屋のほうだったのですが、なんだか寂しくなっちゃって。テストが終わるたびに、みんな〜、お〜い! と言っていましたね(笑)。
ある意味、エステラとベスがそれぞれの部屋で実験されていた感覚というか、ヘッドホンを通して声は聴こえるけど姿が見えないんです。でも、それってみんなと一緒にいる感覚を知っているからこその寂しさなんだろうなって。きっとエステラも、オーナーやヴィヴィたちに出会った今だからこそ、寂しくて孤独を感じるのかなと思ったりしました。
――先ほど、第1話や第2話のことを想像したと話していましたが、実際の内容は現場で誰かに聞いたりしたのでしょうか?
日笠 監督(エザキシンペイさん)や、マツモト役の福山潤さんにいろいろ聞きました。福山さんはマツモトを演じるために生まれてきたというか、当て書きなんじゃないかと思うぐらいピッタリで。その時もマツモトの口調でばーっと言われたんですよ(笑)。(一緒にいた)種﨑ちゃんもゆっくりな人だし、私も頭の回転がそんなに早いわけじゃないから、途中から2人とも空を見だす感じでした。福山さんは本当に人を超えたAIなのでは? と思ってしまうぐらい頭の回転が早くて、福山さんの話のあとに種﨑ちゃんが噛み砕いたものを聞くという、一連の流れができていましたね。
――福山さんは同じプロの声優から見ても、やはりすごいのですね。
日笠 すごいです。福山さんとは昔から結構共演することがあって、「福山さんがわーっとしゃべって、私が理解できなくてキレる」という定番のネタがあるんですよ(笑)。犬猿の仲みたいな。そういう目線で福山さんを見ていたので、「Vivy」で福山さんの意気込み、その技術が遺憾なく発揮されるのを見て、同じ役者・声優である身としては悔しいというか。マツモトのセリフの尺はもともとタイトに作られているんですけど、だんだんとマツモトがパワーアップして、逆に尺が余っちゃうこともあったらしくて。本当にすごいと思います。
エステラが求めていたのは、きっとエリザベスと2人で歌うこと
――エステラの登場話数以外はいち視聴者としてオンエアを楽しんでいるとのことなので、日笠さんが感じる「Vivy」の魅力はどういうところか、お聞かせください。
日笠 この作品はオムニバス形式で、それぞれ時代が違うこともあって、同じ作品ですけど別世界に迷い込んでしまったような不思議な感覚があると思います。演じている時にはわからなかったのですが、オンエアを見ると「視聴者に考えてもらいたいのかな?」と感じるところもあって。「AIの心のありかはどこなんだろう?」「AIは心を持つのか、持たないのか?」「AIの感情はどこから来ているんだろう?」とかいろいろ考えちゃうんですよね。
あくまで私の見解ですけど、やっぱりAIも“ふれあい”がポイントになるんじゃないかなと思っているんです。エステラだったら、オーナーやベス、(部屋にいた)小鳥もそうですけど、誰かと関わることで生まれたものが絶対にあるんじゃないかな。たとえば、第2話でヴィヴィとマツモトが「これからよろしく」という感じに握手するシーンがありますし、第4話の最後はエステラとベスの繋いだ手のアップで終わるんです。そういうところに、私は意味を見出しています。時代や人種(人間とAI)を超えて、触れ合うことって大事なんでしょうね。
――考えさせられるいっぽうで、めちゃくちゃきれいな映像や歌も印象的ですよね。映像や歌に関しては、どのように感じましたか?
日笠 収録の時は線画だったんですけど、実際に完成した映像、PVを見た時は衝撃でした。「なんじゃこりゃ! どこに力を入れているんだ!」って(笑)。特に目ですね。目を描く気合が本当にすごくて、すごく衝撃を受けたのを覚えています。(PVを見てから)オンエアで映像を見るのがすごく楽しみで。(物語が)AIの世界であることはわかっていたんですけど、自分が思い描いたAIの世界観を超えてきたイメージでした。
そして歌ですよね。演じる声優さんがそのまま歌うのはよくありますが、今回はあえて演じる人と歌う人を分けているんです。プロフェッショナルとして、それぞれのいいところを遺憾なく発揮できるのがすごく素敵だなと思います。しかも、演じる人と歌う人の声が似ているんですよ。私もエステラの歌唱をしている方(六花さん)と声が似ていると、いろいろな人に言われました。おそらく、役者が先に決まっていて、その声に近い方を探したんだと思いますが、気合の入り方や本気度をスタッフさんから感じましたね。
――歌に関しては、同じ曲「Ensemble for Polaris」を第3話はエステラ(Vo.六花)ひとりで、第4話ではエステラとエリザベス(Vo. 乃藍)の2人で歌う演出も胸に来るものがありました。
日笠 あの演出はずるいです(笑)。エステラひとりで歌っているのもすごく美しくて素敵でしたけど、2人で一緒に歌っているのを聴いたら、この曲の完成形はこれなんだと思いましたね。エステラが求めていたのは、きっと2人で歌うことだったと思いますし、2人でひとつ、2つでひとつという感じがして。本当によかったですね。
日笠さんがAIに与えたい使命とは……?
――作品にちなんだこともお聞きします。作中ではAIに“使命”が与えられます。もし、ヴィヴィやエステラのようなAIが現実になり、日笠さんが自分専用のAIに“使命”を与えられるとしたら、どんなことがいいですか?
日笠 言われてみると、身近にも増えましたよね。私は全然使いこなせていないですけど、たとえばAlexaとか、声をかけたら音楽を止めてくれたりするんですよね。本当にすごい世界だなって思います。
――すごいですよね。その中で、AIにどんな使命を与えましょうか?
日笠 そうですね……、お金を生み出してもらったら偽造ですよね(笑)。
――それはさすがに(笑)。というか、AIの使命どうのこうのじゃない気が……。
日笠 ヤバいですね。全然「Vivy」の世界観にも合っていないし、お前はそれしかないのか! って言われそう(笑)。そうだなぁ、やっぱりヴィヴィみたいに歌ってほしいですね。
先日、セリフとは別に歌も送るオーディションがあって、事務所で録ると回数や時間が限られてしまうから、自宅でトライしてみたんですね。そしたら、だんだん楽しくなっちゃって、ひとりで夜中の2時ぐらいまで歌っていたんです(笑)。歌うことってすごく幸せでストレス発散になりますし、改めてすごいパワーを持っているなと思ったので、AIがいたらエステラとベスみたいに一緒に歌ってくれたら嬉しいです。あと、本当に音程が覚えられないので、音程を一瞬で覚えられるようにしてほしいですね(笑)。ピッとやったら一瞬で覚えられるシステムがあったらいいなって。
――なんかもう「自分がAIになりたい」みたいな話ですね。一瞬でインストールされるとか。
日笠 ヴィヴィが戦闘プログラムを入れたみたいに、AIだったら歌もすぐ覚えられると思うので、うらやましいです(笑)。
――そんな未来も期待しつつ、物語のクライマックスに向けて日笠さん自身が楽しみにしているところをお聞かせください。
日笠 エステラの出番が終わってからはシナリオを読んでいないので、私も視聴者と同じ目線で作品を楽しんでいます。人生は旅だなと思うんですけど、ヴィヴィは誰と出会い、どうやって歩いていくのか……。
最後がどうなるかは、みんな絶対に教えてくれないんですよ。でも、本当に悪いこと、完全な悪ってあるのかな? と思っちゃうんですよね。ヴィヴィを追っていた垣谷(ユウゴ)たちも、世界をよくしようとしていたんだろうな、という部分がありますし、ヴィヴィにはヴィヴィの、マツモトにはマツモトの正義があるわけで。私も皆さんと時を同じくして驚きたいので、エステラのように皆さんのお供ができたらなと思います。
(取材・文/千葉研一)
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