2021年にふさわしい現代的なガンダム作品『閃光のハサウェイ』、超絶クオリティの理由を小形尚弘プロデューサーに聞いてみた【アニメ業界ウォッチング第78回】

映画『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』が、今月公開される。『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』(1988年)の世界観を継ぐ作品として書かれた富野由悠季氏による同名小説の映像化となり、アニメーターでもある村瀬修功氏が監督を務めている。
「30年以上前に書かれた“宇宙世紀シリーズ”の小説を、なぜ今ごろ映像化?」と疑問に思うかもしれないが、現代的な緊迫感に満ちた2020年代らしい映画に仕上がっている。ガンダム作品でありながら、どうしてこんなに斬新なフィルムになったのだろう――?
『機動戦士ガンダムUC』(2010~14年)、『機動戦士ガンダム サンダーボルト』(2015年)などを手がけてきた小形尚弘プロデューサーに、『閃光のハサウェイ』のスタッフィング、独特の制作プロセスについてお聞きした。

【お詫び】(7/2修正)
※初掲時、「日本のアニメーションでは初めてドルビーアトモスのネイティブとして設計したので」と記載しておりましたが、正しくは「ドルビーシネマでの上映を前提とした音響設計ですので」でした。お詫びして訂正いたします。

『閃光のハサウェイ』の監督が、村瀬修功氏である理由とは?


──まず、『閃光のハサウェイ』は村瀬修功さんが監督を務めていることが大きいと思うのですが?

小形 村瀬さんには『機動戦士ガンダムUC』の中盤~終わりにかけて、印象的なシーンの原画をお願いしていました。episode 4でミネバがダイナーに立ち寄るシーン、episode 7でシリーズ1作目となる『機動戦士ガンダム』を回想するシーン、またepisode 3とepisode 5も手伝ってもらっています。村瀬さんご自身は『機動戦士ガンダムF91』(1991年)に作画監督として参加し、『新機動戦記ガンダムW』ではキャラクターデザインを担当しています。ただ、 『ガンダムW』はキャラデのみで、本編には若干しか関わっていません。『ガンダム』に対してまだ思い残したことがあるのではと考え、監督をお願いしました。村瀬さんが『虐殺器官』(2017年)の監督を行う前ぐらいです。たくさんの人物が出てくる群像劇よりも、少ない人物の内面を掘り下げた作品のほうが村瀬さんには合っていると思います。『虐殺器官』もまさにそういうテイストの作品でした。


──監督としては、なかなか厳しい人だと聞いています。

小形 はい、クオリティに関しては厳しいです。村瀬さんの意図するビジュアルイメージを実現するには、スタッフも厳選されてきます。キャラクターデザインはpablo uchidaさんですが、『Gのレコンギスタ』(2014~15年)のとき、メカニカルデザインの安田朗さんに「とても上手いイラストレーターがいる」と紹介されたのが最初です。uchidaさんには、多くのイメージボードを描いてもらいました。イメージボードは、絵コンテにも大いに役立っています。レーンが見上げているペーネロペーの格納庫のシーンはイメージボードそのままです。村瀬さんはハワイで制作された3DCG映画『ファイナルファンタジー』(2001年)にも参加していて、uchidaさんもゲーム業界の出身ですから、方向性ふくめて相性がいいのでしょう。

──総作画監督は、恩田尚之さんですね。

小形 はい、恩田さんには『ガンダムUC』にも参加していただいています。村瀬さんの監督作だから作監を引き受けてくれたという面も大きいのではないでしょうか。恩田さんは湖川友謙さんのビーボォー出身ですから、人体や骨格をしっかり捉えたリアルタッチの作画ですね。村瀬さんの抱いているイメージを具体化できたのは、uchidaさんと恩田さんの力が大きかったです。


──今までのガンダム作品とは、かなりキャラクターの雰囲気が違いますね。

小形 『機動戦士ガンダムNT(ナラティブ)』(2018年)は金世俊さんのキャラクターデザインで、『ガンダムUC』の高橋久美子さんのデザインから、少しテイストが変わりました。作品によって、雰囲気が変わっていいと思っています。見せたい方向性によって、キャラクターデザインは変わっていくと思います。

──絵コンテに、渡辺信一郎さんが参加していて驚きました。

小形 私個人は渡辺さんの『マクロスプラス』が好きで、渡辺さんとは一度、お仕事してみたいと思っていました。村瀬さんはもともと、渡辺さんと仲がよかったこともあり、村瀬さんひとりでは絵コンテが終わりそうもないとわかった時点で、渡辺さんに声をかけさせてもらいました。渡辺さんの『キャロル&チューズデイ』(2019年)が、ちょうど終わったタイミングでした。
その前に、『ブレードランナー ブラックアウト2022』(2017年)では、渡辺さんが監督を務めて、村瀬さんがキャラクターデザイン・作画監督を担当しました。そのあたりの事情もあったのだと思います。

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