各方面で大反響だった「寿司プラモ」のその後とこれからの展開を、秋東精工さんに聞いて、ついでに金型で成型させてもらった!【ホビー業界インサイド第71回】

この春、「寿司プラモ」が大変な話題となった。SNSでバズっただけでなく、ふだんはプラモデルに見向きもしない地上波テレビにも取材され、タレントが組み立てる様子まで放映された。確かに、すべてのシャリ(米)が364個もの別パーツとなっている仕様は、プラモデルに詳しくない人にも届くほどのインパクトだ。
企画・製作は東京・江戸川区にある金型メーカー、秋東精工。その創業者は、国産初のプラモデル、マルサン商店製の「原子力潜水艦ノーチラス号」の金型を製作したそうである。現在はプラモデルの金型だけでなく、ノベルティグッズを製作したり、金型による射出成型技術をさまざまなジャンルで役立てている。それにしても、「寿司プラモ」のどこがそんなに受けたのだろう? メーカーとしては、どんな意図があったのだろう? 企画を担当した藤原千誉さんに、お話をうかがった。(さらに、実際に成型機で「寿司プラモ」を成型させていただいた!)

膨大なパーツ数とラフな説明図──自由度の高さが、「寿司プラモ」のヒットの理由?


──この「寿司プラモ」は、各方面から大変な反響がありましたね。

藤原 はい、こんなにあちこちから取材や問い合わせをいただけると思ってなくて、予想外の反響にびっくりしました。ターゲットとしてはプラモデルをある程度たしなむモデラ―の方たちを想定していたので、ここまで一般の方に買っていただけるとは考えていませんでした。プラモデル用の接着剤ではなく、瞬間接着剤で組み立ててらっしゃる方もいます。

──米粒を1つひとつ接着していくのは、かなり根気がいりそうですね。

藤原 ええ、普通のプラモデル用接着剤を使って1個ずつ接着してもいいですし、ある程度、手で形を決めてから、流し込み接着剤で一気に固めてもいい。その点では、自由度の高い製品を目指しました。組み立て説明図をあえてシンプルにして、「お好みの数で握ってください」としか書いていないのも、自由度を高めるためです。

──スナップフィットにしようとは思いませんでしたか?

藤原 いいえ、プラモデルに精通した方たちを想定していたので、スナップフィットは考えませんでした。その代わり、米粒はタッチゲート式で、ニッパーを使わなくてもランナーから手で外すことができます。


──ずっと以前に秋東精工さんのホームページを見たことがあるのですが、クワガタの形をしたハサミをプラモデルとして作っていたりしますが?

藤原 はい、イベントなどに出展して、実際にハサミをお子さんたちに組み立ててもらって、プラモデルに親しんでもらっています。ほかにも野球場で配布するために、組み立て式の折り畳みスプーンなども作りました。今回の「寿司プラモ」の前に「餃子プラモ」も開発しまして、弊社としては食品や文房具などの身近なものを題材にして、プラモデルに親しんでもらいたい気持ちがあります。

──創業者の方は、かつてマルサン商店で「原子力潜水艦ノーチラス号」の金型を製作したそうですね。秋東精工さんは、今でもプラモデルの金型をつくっているんですか?

藤原 はい、創業時からプラモデルの金型開発が主な業務です。現在も、各メーカーさんからの依頼でプラモデルの金型を製造して、納める仕事をしています。

──1階の倉庫には、びっくりするほどメジャーなプラモデルの金型がありますね。プラモデルというと静岡が主な製造拠点だと思うのですが、東京でも金型を作っていたのですね。

藤原 はい、プラモデルの最盛期には、江戸川区や大田区にプラモデルの金型製造メーカーが、かなりたくさんあったと聞きます。今の東京には、弊社のほか数社しか残っていないようです。模型メーカーさんからデータで図面を送ってもらって、弊社で金型を製作して、でき上がった金型を納品します。弊社ではデータ起こしから金型製作、さらは小ロットなら社内で射出成型もできます。「寿司プラモ」の場合は、社内で生産して箱詰めまで行っています。何しろ、付属する割り箸の袋まで社員が手づくりしていたので、今後は専門業者に発注しようと考えています。

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