【インタビュー】アベレージを狙うより全話数ホームランを狙う──「Sonny Boy」夏目真悟監督が語る作画や音楽へのこだわり
2021年夏放送開始アニメの中で、個人的に特に気になっていた作品が「Sonny Boy(サニーボーイ)」だ。
本作はこれまでに「スペース☆ダンディ」「ワンパンマン」「ACCA13区監察課」「ブギーポップは笑わない」などを手がけ、監督として着実に評価を高め続けている夏目真悟監督によるオリジナルアニメ作品だ。
取材中「制作の士気が高くて、みんな能動的に作品に対して取り組んでくれているからありがたかった」と語っていたように、トリッキーな要素が多く、一見クールにも見える挑戦的なアニメだが、その実、ものすごい熱量が内包されている「アツい」アニメなのである。
今回、アキバ総研は夏目監督にインタビューを敢行。さまざまなフックを持つ本作の秘密に迫った。
ーー主題歌は“銀杏BOYZ”の「少年少女」ですが、第1話のラストでイントロが流れた瞬間のみずみずしさにやられてしまいました。監督がずっと銀杏BOYZのファンであることは、オフィシャルサイトのインタビューでも語られていましたが、その他にも多くのアーティストの楽曲を起用しています。これは音楽アドバイザーとしてクレジットされている渡辺信一郎さん(※「カウボーイビバップ」「坂道のアポロン」などの監督。「スペース☆ダンディ」では、夏目さんが監督で渡辺さんが総監督)に紹介してもらったのですか?
夏目 そうですね。「どんな音楽が好きなの?」と聞かれて、銀杏BOYZさんやミツメさん、toeさんの名前をあげたら、そこから「こういうの好きでしょ」と、どんどん教えてくれて。実際に参加してもらった方以外の名前もたくさん出してもらったんですけど、聴く曲聴く曲ドンピシャで、さすがミュージックアドバイザー!って思いました(笑)。
ーーなんだかソムリエみたいですね(笑)。
夏目 渡辺さんは、演歌以外は全部聴くとおっしゃっていたので、あらゆるジャンル・年代の音楽に詳しいんですよね。
ーー音楽って、どうしても学生の頃に衝撃を受けたアーティストが中心というか、自分が好きなアーティストを聴き続けてしまうところがあるので、ずっと探求し続けていることがすごいし、難しいことだなとも思います。
夏目 確かに、途中でパッタリ止まってしまうことはありますよね。
ーー個人的には、最近、藤井風さんなどを聴くようになりましたが、彼の音楽からは何となく90年代のポップスの匂いもして、時代は巡るのかなって思ったりもします。
夏目 それはあるかもしれないですね。自分も新しいけど、昔の流れを汲んでいる人に引っかかったりします。もともと“ゆらゆら帝国”が好きなんですけど、最近は“踊ってばかりの国”というバンドがすごくよくて、もう少し早く知っておけばよかったと思いました(笑)。サブスクとかが近いジャンルをオススメしてくれるのもいいですよね。たまにドンピシャなものがあったりするので。
ーーすごくいいですけど、それにあらがいたくなる気持ちもありますけどね(苦笑)。
夏目 確かに(笑)。なんだか操作されている気もしますからね。
ーーそれでいうと、アニメは新しい音楽を知る窓口にもなると思うんです。自分の場合、最近では“Official 髭男 dism”をアニメ「火ノ丸相撲」がきっかけで知りましたし、「カウボーイビバップ」「坂道のアポロン」でジャズに興味を持ったりもしたので。
夏目 公開中の「サイダーのように言葉が湧き上がる」の主題歌を歌っている“never young beach”とかも、そうかも知れないですね。定期的に新しい音楽を使っているところはあるかもしれない。親和性というか、相性がいいんでしょうね。
ーーそういう意味では「Sonny Boy」も、知らない音楽の扉を開けてくれるアニメ作品になるのだろうなと思いました。音楽の話は後半でもじっくりうかがいたいと思いますが、まずはオリジナルアニメを作ることになった経緯を教えてください。
夏目 今作の製作プロデューサーさんとは、「スペース☆ダンディ」のときに初めてご一緒して、そのときもすごくよくしていただいたんですけど、そのプロデューサーさんから「一緒にやりませんか」と言われたことがスタートでした。
プロデューサーが話を持ってくるときは「こういうものが作りたい」という青写真的なものがあることが普通なのですが、本作のプロデューサーさんは「夏目さんが好きなものでいいですよ」と、ほぼ白紙の企画だったんです。そういうことってなかなかあるものではないし、人生に一度あるかないかの機会を与えていただけたので、それだったら自分の好きだったもの、好きなものをストレートにやりたいなと思いました。
ーー視聴者が求めるものは何かというより、自分がやりたいものを作ろう、という感じだったのですか?
夏目 もともと自分の性格的に、いろいろな人に褒めてもらいたいという人間なので、表現したいものはそういうところにあって、人の目をずっと気にしながら作っているというのが素直なところです。
そうやって人の目、人の意見は気にしつつ、意見を聞いたうえで、あえて聞かなかったり、面白いと思ったものは取り入れたり、オリジナリティを損なわない程度に作っていったつもりなんですけど、企画自体が「エッジの効いたものを作りたい」というところから始まっていたので、そこのバランスは考えていきました。
視聴者を置いてきぼりにしたくないなと思いつつ、今この感じにはなっているのですが……(笑)。
ーーエッジが効きまくっている自覚はあったんですね(笑)。
夏目 でも、自分的にはバランスは取っているつもりではあるんですよ! きっと喜んでくれるはず、わかってくれるだろうと思いながら作っているんです。
ーー第1話を拝見したのですが(取材は第1話放送後)、エッジが効いてる作品だと思いながらも、SNSなどで視聴者の反応を見ると、先の展開が気になっている方も多い印象でした。確かに、全貌はよくわからないけど、すごく続きが見たくなるなと思いました。
夏目 最近の視聴者って、映像的なリテラシーは実は高いと思っているんです。自分としても、よくわからないけど何か気になるというのは正解だと思っていて、何となくひと言で言い表せない作品が作りたかったんです。
深みという言い方はカッコつけ過ぎかもしれないですが、言葉にないようなものを入れ込みたいと思っていました。
ーー映像的なリテラシーの高さは、これまで作ってきた作品の反応を見て感じていたことでもあるのですか?
夏目 それはあります。「スペース☆ダンディ」は海外のウケも狙って極力わかりやすく作ったし、「ワンパンマン」もテンポ感よくヌケの気持ちよさを目指しました。「ACCA13区監察課」や「ブギーポップは笑わない」では少し説明過多になったと反省するところもありますが……。
ーー「スペース☆ダンディ」は映像的な面白さ優先で、難しいところもあったのですが、考えるな感じろ!精神で、勢いで見ていました。
夏目 今って、アニメを早送りで見る(1.2倍か1.5倍速で見ること)とか言われていますけど、あれはすごいなと思っていますね。逆に言えば早送りで見てあらすじが何となくわかるくらいの雰囲気でいいと思うんです。もちろん「Sonny Boy」はちゃんとつじつまが合うように作っていますし、最近の視聴者はそこも汲み取ってくれている感覚がすごくあるんですけど。
これまで関わった作品のエゴサをすると、的確にとらえている人が思っていた以上にたくさんいて、スタッフ以上に作品を理解してくれているんですよね。そういうところにも期待しているというか。
ーー情報収集のしやすさがSNSのよさでもありますけど、ハッシュタグを追っていると、シーンごとにいろいろな人の感想・解釈が入ってくるから、理解度という意味ではかなり上がるんですよね。
夏目 それが自分の意図していない流れに行ったりすることもあるのですが、それはそれで、そういうことなんだろうなと思っています。世に出た以上は流れに任せるしかないと思うので。でも、みんなすごく的確なんですよ。ちゃんとわかってくれているんだなと、ドキッとすることはあります。
ーー江口寿史さんのキャラクター原案を懐かしいと感じる人もいると思いますが、今のアニメファンにはどう響いていそうですか?
夏目 江口さんの絵の印象も人それぞれですよね。懐かしいと思う方は、一度出会ってしまったからなんですけど、若い人が見たら意外と新しく感じてもらえるのかなと自分は思っています。最近のイラストとはまったく別の流れを汲んでいるので。
グラデーションはあまり付けていないし、光学的な処理、デジタル的な処理も入れずにイラストとして成立している。自分が、江口さんの絵が好きということもあってお願いしたので、懐かしいという反応もあると思いますが、若い世代に新鮮味を感じてもらえたらなという欲もあります。
ーー作品全体の色味に関しては、江口さんのキャラクターをベースに落とし込んでいったのでしょうか?
夏目 自分的にはオリジナリティがある感じにしたいと思っていました。背景(美術)はスタジオPabloさんという手描きスタジオの藤野真里さんと相談しながら作り込んでいったのですが、いかにきれいな色を使うかであったり、力強さも質感ではなく色味で表現したいと思っていたんです。そうすると必然的にシンプルな、ストレートに絵の具の色、たとえば青色を見せる、というものになっていったんです。
レイアウトの取り方も空間で取るというよりは面積で取る方法をとっています。画面に対して青がどのくらい入っているのかを気にしながら作るスタイルだったので、こういう色味になったというところもあります。
ただ、それも湯浅政明さん(※「夜は短し歩けよ乙女」「映像研には手を出すな!」などの監督)がやってきていたことで、自分もその影響を多分に受けていたので、こういう奇抜な画面構成になったのかなと思います。
ーーあの黒の表現もすごいと思いました。怖さというのか、本当に何もない空間なんだなというのがわかる表現で。
夏目 黒も、ゼロ黒を目指していたんですよ。普通のアニメでは使わない表現なんですけど。
ーーRGBの数値が全部0ということですか?
夏目 そうです。データ変換をするときに数値が少し乗ってしまったりはしたんですけど、限りなく0を目指しました。このゼロ黒は5秒以上放送すると放送事故になる色と言われているのですが、そのくらい割り切って黒を表現したかったんです。意図としては、未知のもの・観測できないものとして、宇宙論的なアプローチとして黒があるということなのですが、この黒は可能性に満ちていて、それに挑んでいくという構図で考えていました。そうやって、ひとつひとつの要素に必ず自分たちの意図というか、言い訳というか、そういうものは込めて作っています。
ーーでは、キャラクターを中学生にした理由を教えていただけますか? 中学生とは思えないようなキャラクターもいましたが。
夏目 ラジダニは異常に頭がいいし、キャップはおじさんだったりしますからね(笑)。
中学生というのは、自分の中でなんとなく多感だった年代が中学3年生だったからです。進路選択を控えて、自分がどうなっていくのかという不安を感じた時期で、そういう子供を描きたいなと思いました。もちろん若い世代に見てもらいたい思いはあるのですが、それを経験した大人にも見てもらいたいなと思っています。あと、もともとこの作品が漂流モノで、子供の頃に読んだ「十五少年漂流記」のイメージもあったから、というのもあります。
ーーということは、この先、各キャラクターの成長も楽しめそうですね。
夏目 そうですね。それを描きたかったとも言えます。
ーー主人公の長良は成長しがいがあるキャラクターですからね。
夏目 彼は伸びしろしかないですから(笑)。希は、その逆だったりしますけど。通過儀礼みたいなものを作りたいんでしょうね。
ーーそして音楽の話になりますが、第1話を見たとき、BGMがないというのが斬新というか、アニメではほとんど見たことがない演出だと思いました。
夏目 確かにそうかもしれないですね。基本的に今回劇伴は作っていなくて、挿入歌という形でアーティストに作っていただいた楽曲を毎話使っています。簡単に言えばキャラクターの心情が変化するシーンで挿入歌を流すという仕組みになっているんです。
ーーでは音楽が流れたときはキャラにとって大事なシーンだよ、という合図でもある?
夏目 そうです。で、今回はすべてのアーティストと打ち合わせをさせてもらって、こういうシーンで使うのでこういう曲を作ってくださいと発注したんです。やはりアーティストさんは感受性が高いというか。自分があまりうまく説明できていなかったと思ったときも、上がってきた楽曲はど真ん中を突いてくるんですよね。
後半は歌モノも流れるのですが、その歌詞も、ちょうどいいバランスでキャラクターの心情を直接的な言葉ではなくうまいあんばいで表現してくれていたので、すごく助かりました。それもあって、音楽が流れるシーンは逆にセリフを削っていく作業をしています。本当に音楽の力は大きかったです。
ーー逆に音楽が流れていないからこそ、流れたときのインパクトがありました。
夏目 やっぱり何もないときのほうが音って際立つんです。しかも今回は効果音もかなり生っぽくしてもらっていて、海の音も、ただただリアルに海で録ったものを置いていただいています。なのでヘッドホンをして聞いてもらうと、より楽しめるかもしれません。
ーートイレの音もリアルでしたけどね(笑)。
夏目 そうでしたね……(笑)。
ーー声優さんの演技も生々しくていいと思いました。
夏目 そこも極力自然に、ナチュラルにということはお願いしましたし、そういうキャストを選ばせていただいたので、非常にスムーズでした。
ーーこれは「ブギーポップは笑わない」からの流れも大きかったですか?
夏目 キャストを選ぶ際に考えたのは、今まで一緒に仕事をしてきた中で、キャラクターに合うと思った人にお願いしようということでした。結果的に「ブギーポップ」からが多くなりましたが、あの作品もナチュラルなものを目指していたから、というのもあります。
ーーすごくリアルな感じがしましたし、長良に関しては、本当に何を考えているのかわからなくて、気になる存在です。
夏目 今作では、モノローグを使っていないというのもあるかもしれないです。視聴者は、そのキャラクターの行動や言葉からでしか心情を図ることができないという作りになっています。でも今後は長良の行動自体が変化していったりするので、そこに注目してもらえたらと思います。
ーー話数が進むにつれて、このキャラはこういう子なんだなというのがわかっていくのも楽しいですしね。そのほかに、ここは見てもらいたいというところはありますか?
夏目 構成面は気を使いました。オリジナル作品なので、見続けてもらうために毎回切り口を変えていくというのは意識しています。
ーー何度も見たら新しい発見があったりするのですか?
夏目 それもあります。一度通して見たあとに俯瞰で見直すと、違った発見があると思います。
毎回切り口を変えると言いながらも、後半は同じことを続けていたりすることもあるので、ランダム感、予想させない感じの構成になっていると思います。先ほどモノローグを使っていないと言いましたが、後半にモノローグ主体の話数もあったりするので、厳しい縛りを作った中での裏切りみたいなものも楽しめるのではないかなと思っています。
あと、プロデューサーからも「なるべく毎回引きを作ってください」と言われていたので、前半は毎回引きを作ることを意識しました。
ーー個人的には明星(ほし)くんが怪しすぎました。急に声が変わったりするし、何をするんだろうとヒヤヒヤしています。
夏目 彼は怪しさしかないですよね(笑)。
ーーちなみにサブタイトルは、今後も何かから持ってきたりしているのですか? たとえば第2話「エイリアンズ」は“キリンジ”の曲名ですが・
夏目 これは自分の好みですね。内容とドンピシャではなくとも、好きな本や楽曲のタイトルだったり、それにかすっていたりするサブタイトルにしています。
ーーでは最後に、今後の見どころを教えてください。
夏目 第3話から少し雰囲気が変わり、第6話で物語的な山場があります。子どもたちがぶつかったりしてギスギスすることもあるので、その行く末を見守ってほしいなと思います。そして第6話から第7話にかけてもガラッと雰囲気が変わって、第2部が始まるような感じになるので、そこにも期待してほしいです。キャストさんも「1週飛んだ?」って、とまどっていたくらいの切り替えがあるので(笑)。
最後に、今作では総作画監督制を取っていないんです。この作品に関しては、話数ごとの個性が出ていいと思っていたし、アベレージを狙うより全話数ホームランを狙っていきたいなと思ったので、三振でもいいからフルスイングをしているんです。その結果、後半はしっかりホームランを打てたかなと思っているので、そこは信じて見続けていただければと思います。
(取材・文・写真/塚越淳一)
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