Liella!、水瀬いのり、愛美、高野麻里佳──話題の夏アニメ主題歌を徹底レビュー!【月刊声優アーティスト速報 2021年7月】

当月リリースの声優アーティスト作品を紹介する本連載。2021年7月号のテーマは、絶賛放送中の“夏アニメ”主題歌だ。

どの楽曲を聴いてもアニメに寄り添いながら、同時に各アーティストらしさをあらゆる角度から打ち出したものとなっている。全4枚のシングル作品をじっくりとご堪能あれ。

◆Liella! シングルSTART!! True dreams(721日発売

人気シリーズの第4作目として誕生した「ラブライブ!スーパースター!!」。本作のオープニングテーマ「START!! True dreams」は、デビューシングル曲「始まりは君の空」から引き続き、バンドサウンドを主体としたものになっている。


以前にも増して疾走感に心躍るトラックだが、イントロの2ループ目の直前、階段を駆け上がるようなイメージを与えるブリッジや、アウトロ手前でスキップするような軽快さで先行するキーボードをはじめとする、小洒落たギミックも非常に心地よい。

また、Liella!は「ラブライブ!」シリーズ初の5人編成ユニットということで、2人1組で担当する歌割りなども新鮮に感じられるだろう。彼女たちの楽曲は、とにかく生ドラムがアグレッシブなのだが、それに負けないくらいに凛としたきらめきを放つユニゾンの力強さは、Liella!がデビュー間もない現時点で早くも備えているストロングポイントと言える。

そんな中でリリースされた「START!! True dreams」では、オンエア第2話終了時点でアニメのエッセンスが余すことなく凝縮されていることを実感できる。たとえば、唐可可(CV:Liyuu)が「好きなことをがんばることに、おしまいなんてあるんですか?」と、考えうるうえで最高純度の「ラブライブ!」性を煮詰めたパンチラインを放っていたが、これは言わずもがな、本楽曲にも通ずるところ。

澁谷かのん(CV:伊達さゆり)についても、もし当初の希望進路だった音楽科に入学がかなっていたとしても、“人前で緊張して歌えない”というトラウマは、劇中のようなすっきりとした形で解消されてはいないかもしれない。歌詞のフレーズを借りるに、彼女の〈本当の願い〉は可可(クク)なしでかなわなかったのではしれない。

とすると、まだ未加入のメンバー3名においても、その〈出会い〉と結束までの道のりが気になるところ。いずれにせよ、「ラブライブ!」シリーズへの圧倒的な理解度を持つ畑亜貴氏の作詞曲となれば、その未来を肯定的に捉えていて間違いはないはず。今後のオンエアがますます楽しみになってくる。

◆水瀬いのり 10thシングル「HELLO HORIZON」(7月21日)

水瀬いのりさんの新曲「HELLO HORIZON」は、TVアニメ「現実主義勇者の王国再建記」オープニングテーマとして番組を盛り上げている。現代日本を生きる主人公、ソーマ・カズヤ(CV:小林裕介)が異世界に召喚され、あくまで“ローリスク”な選択肢を選ぶ“現実主義”を念頭に、現代知識を用いて王国改革をしていく。アニメには、水瀬さん自身もヒロインのリーシア・エルフリーデン役として出演中だ。

今回の楽曲で作編曲を担当したのは、4thシングル「アイマイモコ」の編曲などを手がけた白戸佑輔氏。いわゆる“不協和音”的な要素を含むイントロに始まり、転調を多用した進行が印象的な、歌いこなすのが難しいトラックだ。また、作詞を務めた岩里祐穂氏は、これまでに2ndアルバムのタイトルチューン「BLUE COMPASS」など、ここぞという場面で水瀬さんの楽曲に命を吹き込んできた人物。今回も、サビの〈世界に求められる僕なんて/どこにもいないと思ってたのに/信じること 信じたとき/ありのままの自分がいた〉というフレーズなど、どこから切り取ってもアニメのストーリーに寄り添った一級品となっている。

また、過去にレビューした際の内容と重複してしまい恐縮ではありつつも、やはりここで言及しておきたいのだが、水瀬さんの音楽活動に対する右肩上がりに前向きな心境の変化は、まさに前述したワンフレーズが代弁するようにも聴こえる(参考:月刊声優アーティスト 2020年12月号)。自身の音楽活動はもちろん、水瀬さんがここまで築き上げてきた音楽活動での文脈をもって、「現実主義勇者の王国再建記」の登場キャラクターにエールを贈るかのような構図は、彼女だからこそ成せる“タイアップ”の仕方とは思えないだろうか。ソーマ・カズヤが自分を認められる時、水瀬さんの楽曲もいっそう奥深く響くことだろう。

◆愛美 2ndシングル「カザニア」(7月28日発売)

水瀬さんと同じTVアニメ「現実主義勇者の王国再建記」にて、リーシアの親友、カルラ・バルガスを演じている愛美さん。アニメのエンディングテーマに起用されているのが、愛美さんの新曲「カザニア」だ。“あなたを誇りに思う”という花言葉を持つガザニアの花に、爽やかな「風」と「近く(=Near)」をかけ合わせた造語をひっかけた楽曲タイトルとなっており、「大切な人に寄り添う風のような存在でありたい」と歌う1曲になっている。

楽曲プロデュースは、“たるとP”の名でも活躍する作家、タルタノリキ氏が担当。全体に流れる異国情緒あふれるサウンドは、作品の“異世界感”を表現するためだろうか。どこか北欧……具体的にはケルト~アイリッシュの風を感じられ、特に笛とコーラスが織りなす2番Dメロがその象徴たる部分と言える。

またイントロでも、ピアノのリフレインはまるで、何かが始まるサインのように、これからの歌の物語への期待感を心地よく運んでくる。このリフレインはその後、ギターにパスされた後に楽曲の終わりまで響き続けるのだが、一般的なロックチューンで見られるよりも、やや短い2小節程度でのフレーズだ。「カザニア」から受けるこうしたどこか“不思議”さを纏った印象は、楽曲展開にもその理由がある。

というのも、この楽曲はA・Bメロの後にサビ……という展開を2回繰り返した後に落ち~大サビが展開、というスタンダード的な作りから外れたものとなっているからだ。特に2番以降は、前述した2番Dメロを挟んだり、ボーカルラインにも1番から大きな変化を加えた歌い回しで壮大さを演出しながら、ようやく2回目のサビに突入。1番に比べて倍近い長さの時間をかける複雑かつドラマチックな構成をもって、そのまま大団円を迎えるのだ。

だからこそ、楽曲全体でどのように抑揚をつけるか、そのバランス配分が難しいところ。そうした難易度の高い作品を歌い上げるのみならず、今回は前シングル「ReSTARTING!!」の頃よりもハスキーがかった部分を抑えて少し歌声のトーンを上げることで、芯のある歌声を披露している。ボーカリスト「愛美」は、こうした凛々しい表情を歌声で表現するのにも長けている印象だ。

また、彼女といえば王道のロックチューンが似合うイメージがあったが、「カザニア」のような楽曲にもその歌声と存在が映えるとなると、今後の音楽活動もますます楽しみになってくる。今年の声優アーティスト楽曲の名作を振り返る場面で、「カザニア」の名前をあげるリスナーも多いのではないだろうか。

◆高野麻里佳 2ndシングル「New story」(7月14日発売)

今年2月に発表したアーティストデビュー作「夢みたい、でも夢じゃない」から一転。“シリアス”な方向に振り切ったのが、高野麻里佳さんの2ndシングル「New story」だ。表題曲は、TVアニメ「精霊幻想記」オープニングテーマとして、前月号でも名前があがったhisakuni氏がプロデュースを担当。アニメの主人公であるリオ(CV:松岡禎丞)の心の“二面性”を描いた1曲になっている。

この“二面性”を、ここでは“緊張感”と“透明感”と言い換えたい。というのも「New story」の歌詞や、シンフォニックロックを基調とするトラックからは、リオが心に影を落とすような経験をしたまま、異世界に転生した暗い状況を想起させられると同時に、彼が次第に澄んだ心を取り戻し、前を向くような姿も思い浮かんでくるからだ。そうしたポジティブな方向に移りつつある心情理解をうながすように、高野さんの歌声も、持ち味である輪郭のハッキリとしたシャープかつやさしい響きをたたえつつ、ストレートにリスナーの心を打つ。

また歌い方の幅を感じられるカップリング曲「さよなら星空」は、本人いわく、大西亜玖璃さんが歌う「精霊幻想記」エンディングテーマ「Elder flower」に捧げるような想いで制作した1曲となっている。そもそも今回のシングル自体も、「精霊幻想記」コンセプトシングルとして、表題曲とカップリング曲で大きく雰囲気を変えないことで、作品の全体的な空気感を統一することを目指したという。その理由は、高野さんのファンのみならず、「精霊幻想記」視聴者にとっても手に取りやすいシングルとするため。こうした心遣いには、彼女のアニメ作品に対する真摯な向き合い方が、大きく反映されていると言える。


(文/一条皓太)

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