harmoe、小倉唯、斉藤朱夏、上田麗奈、高槻かなこ、i☆Ris──今月は声優が作詞した楽曲に注目!【月刊声優アーティスト速報 2021年8月】

当月リリースの声優アーティスト作品をレビューする本連載。近年は、楽曲の作詞を自身で担当する声優アーティストも増えてきたが、“詞を書く”という行為はある種、本人を映す鏡のようなものといえる。

もちろん、協力する人々に形作られた楽曲にシンガーとして寄り添い、その世界観を引き出すことも魅力的だ。しかし同時に、自身がひとりのクリエイターとしても制作に参加し、その趣向や思想、キャラクターを演じた経験が現れるほか、時には不器用なまでに強い想いが“味”としてにじみ出るなど、自作詞曲にはそれだけの楽しみ方がある。特にフルレングスのアルバムであれば、当人をよく知る作家からの提供曲と、いかにして全体的なバランスを取るかというのも注目ポイントだろう。

本連載の2021年8月号は、岩田陽葵さんと小泉萌香さんによる声優ユニット「harmoe(ハルモエ)」の新曲「マイペースにマーメイド」のレビューからスタート。彼女たちをよく知る先輩声優・レーベルメイトである三森すずこさんが作詞を手がけた同曲を導入に、“声優アーティストの作詞曲”という切り口で、全6作品について考えていこう。

▼harmoe 2ndシングル「マイペースにマーメイド」(8月18日)

「音楽と物語はいっしょに歩く」をキャッチコピーに、おとぎ話をモチーフとしたダンスポップミュージックを届けるharmoe。新曲「マイペースにマーメイド」は「リトル・マーメイド」を題材に、サウンドプロデューサーのTomggg氏が手がけた、ふわっとゆるりなサマーチューンに仕上がっている。フューチャーベース〜ディープハウスに由来する、海底からぼこぼこと水泡が浮かび上がってくるような質感の低音が特徴的で、特にAメロでは音数をぐっと絞り、岩田さんと小泉さんの声優としての“声のよさ”や、瑞々しいハーモニーを純粋に前面に押し出すという、非常に耳がうれしくなる構成だ。

前述の通り、この曲で作詞を担当したのは、あの三森すずこさん。これまで、自身の歌う大名曲「恋はイリュージョン」をはじめ、DIALOGUE+に「パジャマdeパーティー」を提供するなど、その作詞技術は折り紙つきだ。

「マイペースにマーメイド」でも〈バタ足して進む日々〉や〈浮かんだり沈んだり 気持ちは無重力〉などのフレーズから読み取れる通り、経験を重ねた女性の気品を漂わせつつも、日々の健闘模様が想像できて共感を誘われる歌詞は、彼女の得意とするスタイルである。

それでいて、〈抜け出そうよルンルン エンジンをかけてブルンブルン〉など、くすっとするキャッチーな韻や、〈私たち史上最高の夏が始まるよ〉という最上級の比較表現を用いた言葉選びにも、彼女のエンターテイナーな性格がよく現れている。

何より、声優デビュー以前には舞台女優としてのキャリアを持ち、現在は再びステージ上での活動を活発にしている三森さん。ミュージカル的な世界観の作詞を得意とするのもうなづける。それがよく伝わるのが、〈ほら 魔女も 王子もいらないわ ただ 海に包まれたい〉という、“魔女”や“王子”といったメルヘンな存在すら脇に退けることで、リゾートに漂う時間の流れがどれほどゆったりしているのかを表現した部分。この楽曲を聴くだけで、今にも“絶景 スペース ビーチ”で旅の目的地を検索したくなってしまうに違いない。

▼小倉唯 14thシングル「Fightin☆Pose」(8月11日発売)

小倉唯さんの新曲「Fightin☆Pose」は、TVアニメ「ジャヒー様はくじけない!」第1クールオープニングテーマ。小倉さんは同曲で、タイトルの“Fightin☆Pose”を考案したKIKUE氏と共作する形で作詞を担当。具体的にどの部分が小倉さんの執筆部分であるかは明言されていないものの、歌詞コンペを行なった際にはみずからワンコーラスを作詞し、ペンネームにて応募したといったエピソードも明かされている。

また、キャッチーな歌詞とトラックに耳を惹かれてしまいがちだが、その内容はとにかく図太い。この楽曲で小倉さんは〈完全無敵の存在感〉だと思っていたものの、時に〈空回るジブン〉をさらしてしまう。だが、〈凹んでるタイムは問題外〉と指南し、〈七転八起してくだけ〉と努力を重ねるなど、何が起きてもくじけないスタンスをぶつけてくるのだ。

失礼ながら、「休んで“超回復”をする暇があるなら、鍛えながら超回復をすれば一石二鳥じゃない?」とあの天使のような笑顔で、悪魔のようにヘビーなダンベルを渡してくる彼女の姿を筆者は想像してしまった。何が起きてもくじけない小倉さんのストイックぶりは、普段からパフォーマンススキルを磨き続け、実際にそれがステージにも反映されているあたり、改めて“どの口が何を言うかが肝心”だと痛感させられる。

加えて、今回の聴きどころは、Aメロに挿入される通称“オグラップ”。他ガールズユニットの楽曲を研究し、独自で3パターンほどを考案したという小倉さんのフロウはなかなかに早回しで、ハイテンポなダンスと両立させるのも難しいだろう。みずからにハードルを課して、パフォーマーとしての限界を追求するあたり、歴代でも有数な“小倉唯らしさ”を備えた楽曲と言える。楽曲のテーマと本人のメンタリティにおける親和性が高かったこともあり、ここまで歌い手とシンクロする歌詞になったのではないだろうか。

▼斉藤朱夏 1stフルアルバム「パッチワーク」(8月18日発売)

自身を構成するさまざまな要素を“ツギハギ”に縫い合わせるという意味で、喜怒哀楽の感情や過去・現在・未来のすべてを1枚にパッケージ。とにかく笑って、泣いて、感情の動きが忙しい“斉藤朱夏”が詰まったフルアルバム「パッチワーク」は、今日で2021年が終わっても満足してしまいそうになるほどの大名盤だった。

本作において、斉藤さんが初の作詞に挑戦したのが、「ワンピース」と「よく笑う理由」。どちらも、サウンドプロデューサーを務めるハヤシケイ氏との共作であり、彼女が歌詞のすべてを書き上げた後、ハヤシ氏が細かな部分を調整したとのことだ。

「ワンピース」は、“ステージに立ちたい”という夢を持って走り続けてきた、斉藤さんの人生そのものを描いた1曲。自身をあくまで〈天才なんかじゃないし 才能もないし〉と歌いながらも、“もう無理、でも走る”と、彼女らしいがむしゃらさや芯の強さを見せる姿は、リスナーに対して改めて〈大胆不敵〉な存在だと驚きを与えてくれるに違いない。また、〈ワンピース揺らし コンバース鳴らし〉のフレーズには、彼女の音楽活動におけるアイコンことスニーカーも登場。まるで路上(=ストリート)すら芸術のキャンバスだと言わんばかりに、表現者として“走り続ける”意志を示す、活力みなぎるパワーチューンだ。

そして、屈託ない笑顔が何よりのチャームポイントな斉藤さんが「よく笑う理由」と掲げたもう1曲は、アコースティック調のバラードに。思えばかつての彼女は、いつどんな場面でも笑顔を崩さず、まるで天真爛漫な“斉藤朱夏”というひとりのキャラクターを演じるかのようだった。だからこそ、彼女の音楽活動は心にある弱さをそっと露わにしていくような性質を持ち、自身のまとう鎧を現在進行形で剥がしていくような過程とさえ思えてくるのだ。

そうした性質にからめてみると、「よく笑う理由」に登場するワンフレーズ〈ここにいていいんだね 照れくさいけど こんな僕を 君は笑うかなあ〉は、同じく“君が僕を笑う”という描写が登場する、ハヤシ氏が作詞した過去曲「ことばの魔法」「誰よりも弱い人でかまわない」を自然と思い起こさせる。彼女はこれまで、自身の心のもろい部分を提示しないようにごまかし、多くの場面で気丈に振る舞ってきてくれた。

ここまで書けば、斉藤さんの“よく笑う理由”を少しは思い浮かべていただけるだろうか。彼女にはもっと、ふいに誰かに笑顔を向けられるような、隙のある人に成長していくのだと思う。その上で、斉藤さんと一人の人間として心のやりとりを交わし、信頼関係を築いていく上での大切なコミュニケーションツールに、この1曲はなってくれるはずだ。なぜなら、彼女が自分自身の本心と向き合い、向き合い続けた末に書き上げた、まるで自分との交換日記のように素敵な言葉が並んでいる歌詞なのだから。

▼上田麗奈 新アルバム「Nebula」(8月18日発売)

上田麗奈さんの新作「Nebula」は、過去に経験した挫折から“逆境をチャンスに変える”というストーリーを作り上げた、コンセプトアルバムのような1枚だ。その内容は、全体的にダウナーな空気感で統一されたサウンドの独自性などから、総じて、前述した「パッチワーク」と同様、2021年の声優アーティストシーンにおける金字塔を打ち立てた快作と評しても過言ではないだろう。


収録された10曲すべてが新曲という力作のなかで、上田さんみずからが作詞を手がけたのが、7曲目「プランクトン」。アルバムの幕開けから心が徐々に鬱屈とし、時にすさんだ表情を見せながらも、そこから“再起する”重要なポジションに配置されたのが、この楽曲だ。

その歌詞では、大海原でただ流されるだけのプランクトンに自身の存在をなぞらえる。海という途方もなく大きな存在を前に、ちっぽけなモノとして波に流されながら、自身がなぜ生きているのか、その価値はどこにあるのかを、自問自答や諦念を抱いているかのように問いかけるプランクトン。それでも最後には〈わたしにも行ける場所まで (大丈夫) 進みたいの〉と、V字回復への微かな心の動きを読み取れるようになる。

聴いているうちに、まるで体の力を抜いてただ海の上に浮いているような虚しさを感じさせられるが、本人いわく、ネオシティポップ調のゆったりとしたトラックには、ひとつひとつの音符に対して言葉を当てはめるのが非常に難しかったとのこと。その上で、他楽曲に比べて短い文字数の歌詞ながら、その世界観がしっかりと伝わる素晴らしいものだったと思う。

ほかに注目すべき収録曲として、日本からBillie Eilishへの回答こと「scapesheep」(作詞・作編曲はTECHNOBOYS PULCRAFT GREEN-FUND)にも触れたいところだが、原稿の文字数にあまり余裕がないことから、そちらはまたの機会としたい。

▼高槻かなこ 2ndシングル「Subversive」(8月11日発売)

高槻かなこさんは、2ndシングル「Subversive」にて、収録された3曲すべての作詞を担当。


TVアニメ「100万の命の上に俺は立っている」第2クールエンディングテーマとして、“命の価値”をテーマにした表題曲のほか、自身が作曲も担当したカップリング曲「soda」では、“20代の休日感”や“とある夏の日”のグッドバイブスを爽やかに歌い上げてくれた。コンビニで買った手持ち花火に、二日酔いへの向かい酒、キャンプやフェスなど、登場するキーワードがいちいち“夏色”で、心地よく淡い色彩のギターポップにもよく映える。

振り返れば、高槻さんの楽曲は前作シングル収録曲「I wanna be a STAR」もそうだったが、等身大の本人を描いた歌詞や言葉選びが、アーバンなトラックと抜群のマッチングを見せてくれるものばかり。今後のリリース作品にも、そうした観点で注目をしていきたい。

▼i☆Ris 20thシングル「Summer Dude」(8月18日発売)

i☆Risが贈る2年ぶりのシングルは、2021年3月の澁谷梓希さん卒業以降の、5人体制初の1枚に。


今作で、リーダーの山北早紀さんが作詞を務めたのが、ユニット初の“自己紹介ソング”こと「5STAR☆(仮)」。自己紹介ソングといえば、アイドルにとって鉄板といえる大切な楽曲。ファンとのコール&レスポンスを想定した部分もありながら、山北さんのグループに対する愛情を感じられるメッセージソングとしても響くような内容だ。

たとえば、芹澤優さんには彼女が掲げるキャッチコピー〈Seriko is NO.1〉に対して、〈無理すんな!〉と手痛いツッコミ。茜屋日海夏さんのパートでは、新作動画を公開するたびにコメント欄やSNSのタイムラインを騒がせているYouTube活動をイジったりと、全員が平等にちょっとずつ身を削る(あるいは山北さんが削らせている)あたり、活動10年目を迎えたメンバー間での仲のよさが十二分に伝わってくる。

また、その愛情にはファンにも向けられ、グッズや遠征費に懐が寂しいだろうと内情をおもんぱかりつつ、〈すごいじゃん! 尊いじゃん!〉〈エモいじゃん!〉と、飾らないストレートな言葉で彼らを肯定。山北さん自身、そしてi☆Risがキャリアを重ねて“イイ女”への階段を上りながらも、こうして真正面から向き合ってくれる姿勢にはいつだって脱帽してしまう。

(文/一条皓太)

おすすめ記事