【インタビュー】スーパーカブで走る日常を音楽に。TVアニメ「スーパーカブ」Blu-ray BOXで聴ける劇中音楽を、作曲者・石川智久&ZAQが語る!

高校2年生の春にスーパーカブと出会った小熊。淡々と過ぎていた彼女の日常が、色鮮やかなものに変わっていく……。全12話の放送を終え、2021年8月25日にBlu-ray BOXがリリースされたTVアニメ「スーパーカブ」。繊細な作画や美しい美術とともに、作品を彩っていたのが音楽だ。
Blu-ray BOXには劇中音楽とエンディングテーマ「春への伝言」の音源がダウンロードできるDLカードの封入が決定。アニメ本編とは離れた形で、音楽単体を楽しめるようになっている。
劇中音楽を担当したのは、石川智久とZAQ。特にZAQは、映像作品の劇中音楽を手がけるのは今回が初。いったいどのような制作になったのか? 2人にたっぷり語ってもらった。

小熊たちがスーパーカブで走っている風景を意識して、作曲しました


──いつ頃、どのような形で、「スーパーカブ」の劇伴(劇中音楽)を依頼されたのでしょうか?

石川 去年(2020年)の初めですね。バンダイナムコアーツから劇伴を担当してほしいという話が来ました。

ZAQ 私は今まで歌モノしか作ったことがなくて、劇伴は未経験だったんです。右も左もわからない状態だったので、石川先生についていけ、と(笑)。

石川 「先生」はやめて(笑)。

──お2人は同じレーベルで仕事をされていて、旧知の間柄ですよね(笑)。藤井俊郎監督や音響監督の矢野さとしさんら、アニメ制作サイドとの打ち合わせが最初にあったと思いますが、どのような説明を受けたのでしょうか?

ZAQ 「スーパーカブ」はただただ日常が過ぎていくような作品なので、劇伴もドラマチックにならないようにしてほしいというお話が、最初にあったと思います。


石川 そのころすでにでき上がっていた背景美術を見せていただいて、この世界観に合うようにと。

ZAQ それからクラシックの名曲を、各話の要所で使いたいという話がありました。

──今回ダウンロードできる楽曲の中には入っていないのですが、ドビュッシーの「亜麻色の髪の乙女」とか、シューマンの「トロイメライ」とか、サティの「ジムノペディ」とか、クラシックの名曲が毎回必ず使われていましたね。

石川 それらの曲はすべて、藤井監督が選んだものです。劇中で使うサイズに合わせて、どの曲も新たにレコーディングしました。

ZAQ クラシックの曲の制作は石川さんにお任せで、ピアノもすべて石川さんが弾いています。私は音大のピアノ科を出ていて、この作品で使われたクラシックの曲は、実はかつて授業でバンバン弾いていたんです。でも今はピアノを離れてしまったので、このことは言わないでおこうと思いました(笑)。

石川 ピアノ科卒だったの? 今、初めて知った。弾いてもらえばよかった。オレ、けっこう練習したんだぞ(笑)。

ZAQ 石川さんのピアノ、美しいなと思いながら聴かせていただきました(笑)。

──オリジナルの劇伴については、どのように制作していったんですか?

石川 音楽メニューをいただいて、それに沿って曲を作っていくという従来通りの流れです。日常がテーマの曲だったら、日常A、日常Bとだいたい2パターンずつあったので、こっちは私がやるから、そっちはZAQがやって、という感じで振り分けていきました。ギターが入る曲はZAQが得意としているところなのでやってもらって、逆にローテンポ曲は私がやったほうがいいだろうと。

──メニューを振り分けてからは、完全な個人作業になっていったんですか?

石川 そうですね。でも、ウチのフジムラ(TECHNOBOYS PULCRAFT GREEN-FUNDのリーダー、フジムラトヲル)に劇伴の統括をやってもらって、間をつないでもらいました。

ZAQ 私が劇伴初挑戦ということで、石川さんが先行して制作を進め、フジムラさんを通して、こんなふうに作っているよ、と教えてもらいました。それによって、石川さんが「スーパーカブ」という作品に対してどういうイメージをいだいているかがわかって、私はそこに気持ちを合わせていきました。

──石川さんがいだいていた作品のイメージとは、どんなものだったんですか?

石川 まず原作を読んで、ストーリーやキャラクターについて把握しましたが、音楽を作るにあたっては、特に風景について意識しました。どのような景色の中の道を、どのくらいのスピードで走っているのか、風は彼女たちにどんなふうに当たっているのかというのを想像しながら、作曲していったという感じですね。


ZAQ この作品において風景は重要ですよね。打ち合わせの際には、藤井監督もロケハンに行った話を楽しそうにされていました。

石川 富士山のブルドーザー道のロケハンだけは、辛かったらしいけど(笑)。

ZAQ 最終話の12話に鹿児島の佐多岬が出てくるじゃないですか。私は実家が鹿児島なので、佐多岬に自主ロケハンに行ってきました。まだ、そのころはコロナ禍が広がっていなかったんですよね。

──佐多岬は九州最南端にあるんですよね。

ZAQ 鹿児島で育っていながら、今まで行ったことがなかったんです。坂が多くて大変な道なのにバイカーが多くてびっくりしました。小熊たちはここを走ったんだなって。


石川 えらいね。私は家に閉じこもって、どこにも行かずに作曲しました(笑)。

──ZAQさんは、初めての劇伴制作を振り返っていかがですか?

ZAQ 石川さんの曲を聴いたうえで、私も日常系の曲から作り始めていったんですけど、最初は苦心しました。石川さんの風景に溶け込みつつ、しっかりとテーマがある劇伴とは違って、私の曲はテーマが立ちすぎて、歌みたいな旋律になってしまうんです。劇伴って、こんなに難しいんだと思いました。

石川 それだけ歌もの書けてたら難しくないのに(笑)。

ZAQ そう言うんですけどね(笑)。それでいつもよりも音数を意識的に減らして、シンプルにシンプルに作ることを心がけました。また、カットして使われることを念頭に置く必要もあって、それも勉強になりましたね。石川さんからは最初に、(曲中での)転調はダメだぞと言われていたんですが、その理由がわかりました。

石川 転調が入っていたりすると、いざ映像に付けようと編集したときに合わなくなっちゃうんですよね。

──全22曲がダウンロードできますが、「スーパーカブ」の劇伴はこれで全曲なのでしょうか?

石川 そうですね、これで全部です。

──ほかにクラシックの曲があるとは言え、1クールのTVアニメとしては少なめですよね。確かに音楽がかからないシーンが多い作品ではありましたが。

石川 最初から静かな、音楽があまり鳴らないアニメーションになるだろうという確信がありました。それだけ音楽の意味や重要性が高くなるので作曲家として目的意識が明確になりますし、音響効果の音とともに映像作品全体の品が高まります。この作品に関われてよかったなと思います。

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