アニメ「ゲッターロボ アーク」はあえて泥臭いキャラで! ベテランアニメーター本橋秀之が、ロボット物の熱い息吹を令和の今に伝える【アニメ業界ウォッチング第81回】
漫画家・石川賢が永井豪と合作したシリーズ《ゲッターロボサーガ》の最終作「ゲッターロボ アーク」 がテレビアニメ化され、先月から放送されている。
《ゲッターロボサーガ》はアニメーションでも独自の展開を見せており、多数の作品が混在しているが、最新作「ゲッターロボ アーク」のキャラクターデザインを手がけるのは、かつて「戦国魔神ゴーショーグン」(1981年)や「六神合体ゴッドマーズ」(1981年)、「超電動ロボ 鉄人28号FX」(1992年)でもキャラクターデザインを担当した大ベテラン、本橋秀之さんだ。
ロボットアニメのもっとも熱かった時代を生き抜いた敏腕アニメーターは、今のアニメ業界をどんな目で見ているのだろう? お話をうかがうと、今は失われた現場の熱い気骨が浮かび上がってきた。
70年代スーパーロボットブームの真っただ中へ、新人アニメーターとして参戦
──今回の「ゲッターロボ アーク」は、スーパーロボット物らしい荒々しいタッチが魅力ですね。
本橋 いい意味で、泥臭いキャラクターデザインにしたかったんです。それは本橋のキャラではなく、原作の石川賢先生の匂いを強く出したいということです。東映動画(当時)が最初にアニメ化した「ゲッターロボ」(1974年)以降、実にいろいろな形で《ゲッターロボサーガ》がアニメ作品になりました。ですから、石川先生のテイストを出すことに対しても、賛否両論あるでしょう。「今風のアニメ絵にしてほしい」という意見もわかります。ただ、今回に関しては石川先生の魅力を生かして、このキャラ表となりました。僕は過去に、「虚無戦史MIROKU」(1989年)や「魔獣戦線」(1990年)など、石川先生の原作をアニメ化するときにキャラデをやらせてもらった経験があります。この「ゲッターロボ アーク」は、石川先生の魅力をもっとも生かせる企画だと思いました。
──今のアニメキャラとして、線は多いのでしょうか?
本橋 いえ、線は少ないです。最近の他作品のほうが、はるかに線は多いでしょう。ただ、ほかのアニメ作品と同じキャラクターにしても意味がありません。いろいろなご意見があることを承知したうえで、石川先生のファンの皆さんが喜んでくれそうな絵柄を狙いました。石川先生が原作の場合、「こういう絵柄にしたい」ことよりも「こういうアニメ作品をつくりたい」という視点になります。最近のアニメはヒューマンドラマが多いのですが、「ゲッターロボ アーク」は骨太な人間ドラマをやりたいんです。
──作画監督もされているのですか?
本橋 作監は、第1話とOPだけです。ほかの話数でも、ちょっとずつ手伝っています(本橋氏は総作画監督としてクレジット)。
──ロボットが3DCGだったので、驚きました。
本橋 ロボットは最初、自分の手で描いてみました。ところが、どこがどうなっているのか形の把握が難しいんです。「六神合体ゴッドマーズ」のロボットは手で描いていましたが、あっちのほうが楽でした。ですから、「ゲッターロボ アーク」のロボット描写は3DCGのスタッフにお任せです。
──「六神合体ゴッドマーズ」といえば、本橋さんのデザインした美少年キャラクターたちは女性に大人気で、一時代を築きましたね。
本橋 それは絵柄よりも、声優さんの人気のおかげでしょう。「ゴッドマーズ」も「超電動ロボ 鉄人28号FX」も、キャラクターについては監督が好きに描かせて下さったんです。僕も若くて、作品に関わっているうちに、どんどん成長できる年齢でした。「あれもやりたい」「これもやりたい」という気持ちがあふれ出てしまうのが、「ゴッドマーズ」や「鉄人28号FX」の時期でしたね。
──本橋さんは、荒木伸吾さんがキャラデを担当していた「UFOロボ グレンダイザー」(1975年)で、アニメーターとしてデビューしたそうですが?
本橋 正直に言うと、業界に入るまで荒木さんの名前は知りませんでした。アニメーターという言葉すら滅多に聞かれないような時代で、高校卒業で就職するころに、知り合いから「荒木プロという会社が募集しているみたいだよ、一緒に受けてみない?」と誘われて、たまたま受かってしまったというだけなんです。
だけど、ロボットアニメには強い興味がありました。「ゲッターロボ」はもちろん、「マジンガーZ」(1972年)や「グレートマジンガー」(1974年)、「勇者ライディーン」(1975年)が好きでした。ライディーンは、超合金まで買いました。
──すると、ロボットを描くことには困らなかったわけですね?
本橋 それが、「大空魔竜ガイキング」(1976年)の金田伊功さんの原画を見て、驚きました。形ではなく、動きがすごいんです。「一体どうやって描いているんだ?」と、東映動画まで行ってタイムシートを見せてもらいました。映像だけ見ていてもダメで、シートを見ないとタイミングがわからないからです。「何だ、この6コマ→1コマってのは!」と、驚きました。見た人の印象に残る、普通ではないコマ打ちだったんです。
──なんとなくカッコいい動きではなく、コマ打ちを理解してないと描けないわけですね?
本橋 「おれは鉄兵」(1977年)で、作品の注意事項として言われたのは「1コマと3コマのみで動かせ、2コマは使うな」。竹刀でパーンと打つ動きは、メリハリをつけるのが効果的という意味です。つまり、自然に見えるかどうかよりも、人間の視覚に残るように効果的に動かす。なるほど、そういう考え方がアニメなんだと勉強になりました。「自分なら、こうしよう」「ああしたい」という気持ちが、「ゴッドマーズ」のころに何となく形としてまとまっていったんです。
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