【本日発売】Switch版「イースIX」をレビュー! 各種要素がかみ合った上質なクオリティで、怪人たちの物語や手軽かつド派手なバトルも楽しめるアクションRPG
2021年9月9日(木)に発売予定のSwitch版「イースIX -Monstrum NOX-」(以下、イース9)は、日本ファルコムが手がける人気RPG「イース」シリーズの最新作であり、2019年にPS4で発売されたタイトルの移植にあたる。PS4版との違いはダウンロードコンテンツ関連のみで、PS4向けに配信された過去のコンテンツが、Switch版では標準で追加されている。
今回は本作を発売日前に遊ぶ機会を得たので、クリアまでプレイした。そのうえで、「イース9」の特徴や魅力をお届けしよう。
監獄都市を舞台に描かれる怪人たちの物語
主人公のアドル・クリスティンと彼の相棒ドギは、ロムン帝国によって統治されている属州グリアの主要拠点、監獄都市バルドゥークを訪れる。だが都市に入ろうとした矢先、アドルが「ロムン艦隊消失事件」の重要参考人としてロムン兵に拘束されてしまう。
監獄にとらわれ尋問を受け続けていた彼は、ある時脱獄を試みる。その道中で出会ったアプリリスという女性の放つ魔弾に撃ち抜かれたことでアドルは「怪人」になり、「異能」という力を手に入れたことで、物語が大きく動き出す。
アドルのほかにも5人の怪人がおり、彼らの存在も物語の重要なカギとなる。「グリムワルドの夜」と呼ばれる戦いでバルドゥークにはびこる敵を退けるという、その1点で彼らは集まっているものの、協力しているとは言いがたい。富裕層から盗んだ金品を貧民に分け与える「白猫」や、戦いを好みバルドゥーク中で辻斬りをしている「鷹」など、怪人たちは基本好き勝手に行動していて、出自や素性もまるで異なる。
「白猫」と「鷹」
「人形」と「猛牛」
「背教者」
章ごとにひとりずつ焦点が当てられていき、怪人たちの理解が深められるとともに物語の謎がひも解かれ、全容が徐々に明らかになっていく過程は巧妙だ。とくにアドルと「赤の王」の関係は大きな謎で、先が気になる構造が、プレイヤーを物語に引き込んでいってくれる。怪人とはなんなのか、アプリリスは何者なのか、バルドゥークの監獄にはなにがあるのか、疑問は残らず明かされるので、達成感もひとしおだった。
脱獄後、怪人となったアドルは「赤の王」として、バルドゥークの事件に巻き込まれていく。そのいっぽうで、監獄内にはもうひとりのアドルと思しき人物もいて……?
ちなみに、「イース」シリーズの物語は基本的に1作で完結している。主人公のアドルと相棒のドギがいるとだけ知っていれば、予備知識もとくに要らず、どの作品から入っても楽しめるのも魅力だろう。
簡単操作でコンボをつなげる爽快なバトル
本作のバトルは、アクションを採用している。フィールド上にいる敵に近づき、通常攻撃やスキルを組み合わせたコンボで戦う。キャラクターごとにスキルは4つまで設定でき、SP(スキルポイント)を消費して発動可能だ。
大量の「邪霊(ラルヴァ)」を迎え撃つ「グリムワルドの夜」。「スフェン」と呼ばれる柱を守りながら戦うため、ただ敵を倒せばいいのではなく、相手とスフェンの位置を考えるのがキモとなる
攻撃を当てていくことで「ブーストゲージ」が上昇していき、半分以上たまると「ブースト」状態に移行できる。効果中は攻撃力や防御力の上昇、連続攻撃回数の増加など、さまざまな恩恵を受けられる。本作のバトルは全体的なスピードが速く、通常攻撃もスキルも高速でくり出せるため、ブーストゲージもたまりやすく、結果的にブーストも使いやすい。必殺技というよりはキャラクターのいち強化要素といったくらいで、手軽に使っていける。
ボスはなかなかの強さだが、雑魚敵は倒すのに数十秒ほどもかからず、ただ攻撃ボタンを連打しているだけでこなせるのも、初心者にとってはありがたい点だろう。筆者はNormalで遊んだが、初めから最後まで力押しでクリアできた。アクションが得意な人なら、HardやNightmareといった高難度に挑んでも問題なさそうだ。
ブースト中にもう一度ブースト発動のボタンを押すと「EXTRAスキル」が発動する。高威力かつ広範囲だが、使うとゲージの残量に関わらずブーストは強制解除されるため、コンボの締めなどに使いたい
また、怪人たちはそれぞれ固有の異能を持っている。アドルであれば、離れた場所へ瞬時に移動する「王の道(クリムゾンライン)」、白猫であれば、垂直の壁を走れる「天空散歩(ヘヴンズラン)」といった具合に、種類によって特徴や使い方も大きく異なる。説明だけ読むといずれも探索向けの能力に思えるが、クリムゾンラインで離れた敵との距離を詰めたり、ヘヴンズランで地形を乗り越えてこちらに有利な場所に移動したりと、バトルにも応用が利く。この異能が本作の核であり、後述する探索ではとくに重要となる。
敵の攻撃をギリギリでガード/回避すると、「フラッシュガード/ムーブ」が発動。どちらも効果中はプレイヤーが無敵になるほか、フラッシュガード中はすべての攻撃がクリティカルになり、フラッシュムーブ中は一定時間移動速度が上昇する
異能が増えるにつれて楽しくなるバルドゥーク探索
プレイヤーは「ダンデリオン」という酒場を拠点に物語を進めていくのだが、バルドゥークは非常に広い。都市の外にはフィールドもいくつか広がっている。地続きの世界をほぼロードなしで動ける「オープンワールド」とまではいかないが、ひとつの都市を拠点にするような「箱庭」よりは規模が大きい。
バルドゥークはダンジョンや野外のフィールドに移動するときを除いてロードが一切なく、同時に物語の大半はバルドゥーク内で完結している。オープンワールドと箱庭の特徴を併せ持つ本作は、その中間的な立ち位置にあると言えるだろう。
都市内部には住民はもちろん、露店や宝箱が散在しており、バルドゥークの街並みを巡るだけでもやりごたえは十分。仲間がいない最序盤では、アドルの異能であるクリムゾンラインしか使えないが、白猫が加入してからは一転、ヘヴンズランが使えるようになると高所も含めた三次元的な探索が楽になる。鷹が加入すれば、長距離を滑空する「猛禽の翼(ハンターグライド)」が、人形が仲間になると、隠されたギミックのほか、各地の宝箱やアイテムなどを可視化する「第三の瞳(ザ・サードアイ)」が解放されていき、探索の楽しみも増えていく。
マップを開けば、1度行った施設などへのファストトラベルができるため、効率よく動くこともできる。取り逃した宝箱はアイコンで表示され、さらに各位域での探索率もわかるので、目標も立てやすい。物語の進捗やクエストの達成によってダンデリオンの内部も充実していき、最終的には買い物や調薬といった用事のほとんどをこの拠点だけで済ませることも可能になる。プレイヤーにとって便利な機能が多数盛り込まれている。
いっぽうで、フレームレートが不安定なのは気になった。本作のフレームレートは体感30ほどで、大量の建物や人のグラフィック描写にともなう処理の負荷が原因なのか、バルドゥークを探索しているとフレームレートがそれ以下になってしまい、移動がぎこちなくなることが多かった。
探索ほどではないが、バトルでもフレームレートの低下はよく見られた。移動するだけであれば、テンポはやや落ちる程度で我慢もできる。いっぽう、バトルでフレームレートの低下が発生した場合、描写の数が減るだけ敵の動きが省略され、結果的に速くなってしまうため、攻撃に対処できなかったり、フラッシュガードやフラッシュムーブを狙いにくくなったりと弊害もあった。可能であれば、今後アップデートなどで対処してほしいところ。
要素がかみ合いやり込みも楽しく
プレイヤーの努力に対する見返りなどがしっかり用意されているのも、本作のポイントと言える。ダンデリオンに届いたクエストを達成する、フィールドに存在する「黒い柱」に触れ、現れたラルヴァを倒す、この2つのどちらかをこなすと「NOXゲージ」が上昇し、100%になると特定の場所に「瘴気の渦」が出現。これに触れるとグリムワルドの夜が始まり、クリアすると行ける場所が増えて物語が進む。本作はそういった流れをくり返していく。
手当たり次第にクエストをこなしていった筆者だが、確認できた40個の中でも「必須」と書かれたものは4つしかなかった。つまり、黒い柱を巡ってラルヴァを倒すのであれば、クエストはほぼ無視してもいいということだ。
だが、ラルヴァを倒して得られるNOXゲージは5%で、クエストの場合は20%ほど。時間はややかかるが、クエストをこなしたほうが効率はいい。街やフィールドに出て施設を利用したりロケーションを見つけたり(観光スポットのようなもの)、あるいは人と話したりすれば、ファストトラベルの機能を活用できるだけでなく、ダンデリオンの一員になってくれる人も増える。また、世界観への理解も深めることにもつながる。
だが、黒い柱を攻略しているとまれに出現する「小さい匣(はこ)」からは、レベルを直接上げられる「修験者の秘薬」や、使ったキャラクターのステータスを上げられる「呪薬」系といった貴重なアイテムが手に入ることも。黒い柱は街のそこらじゅうにあるので、このためだけにラルヴァを倒し続ける意味もある。
「蒼い花びら」の収集と「落書き」の発見。こちらもやり込み要素だが、マップ画面やザ・サードアイで探し出せるため非常に簡単
「グリムワルドの夜」に挑むと代わりにNOXゲージを100%失ってしまうが、ゲージ自体は200%までためられる。物語の章が進む際に余ったゲージは、残量の分と同じ数の「宵闇の欠片」に変換され、後にダンデリオン内にあるカンテラを調べることでさまざまな素材を引き換えることが可能。残ったゲージが無駄になることはない。
物語を進めるうえで必要なNOXゲージをためる方法はいずれにも長所と短所が存在し、仮にゲージが余っても素材の交換に充てられる。ゲームの進行に欠かせない部分に、プレイヤーの努力に見合うだけの見返りがしっかり用意されている点は、遊んでいる最中のモチベーションにつながったのでありがたかった。
出会いと別れをくり返し、アドルの旅は続いていく
ゲーム中で確認できなかったので正確ではないが、クリアにかかった時間は40時間前後といったところ。筆者の場合、バルドゥークを散策しながらクエストはほとんどこなしていた(2つ逃した)ので、もっと気軽に楽しもうと思えば30時間くらいで終わるだろう。
手軽さがもてはやされる昨今であれば、30~40時間でもなかなかのボリュームと言える。だが、ゲームにかけた時間とは冒険の厚みで、それはエンディングで達成感となってプレイヤーに返ってくる。軽ければそれだけ軽く、厚ければそのぶん厚くなる。
クエストに書かれている「期間」の長さが具体的にどれほどなのかで頭を悩ませたり、好感度を上げるプレゼントを求めて街中の店を1軒ずつ訪ねたり、宝箱ひとつのために水路に落ちまくったこともあったが、やがてそれも思い出になってストーリーを盛り上げてくれる。クエストは数こそ控えめだが、内容のほとんどは仲間たちの掘り下げがメインとなっており、主要人物の怪人たちだけでなく、サブキャラクターたちもバックグラウンドがしっかりと描かれている。また、前述のようにクエストの達成がNOXゲージの上昇、そして瘴気の渦の発生とグリムワルドの夜への挑戦につながっているため、物語を進めるうえで自然と触れるような仕組みになっていたのも大きいだろう。
本稿のストーリーの項目でも書いたが、「イース」シリーズは基本1作完結で、前作の知識はほぼ必要ない。ということは、次回作のため、いずれ「前作の知識」となる本作の仲間とは、避けられない別れがある。時間をかけて「イース9」を遊んだおかげで、私は彼らとの別れを存分に悲しむことができた。「軌跡」シリーズを長く遊んでいる身としてはボリューム面はあっさりめに感じたが、その物足りなさがかえってキャラクターたちへの思い入れの強さにつながっているのかもしれない。
34年続くRPGシリーズの最新作として、伝統的なRPGの姿を貫きながらも、ファストトラベルが序盤から使えるほか、プレイ次第では街中の機能をプレイヤーの拠点に集約させるといった現代的な計らいも多く盛り込まれている。フレームレートの問題こそあるものの、ゲーム部分のクオリティはそれを補ってあまりある。
本作は「イース」シリーズの最新作であり、時系列的にももっとも新しい。「イース9」のアドルは24歳だが、設定によれば彼は63歳まで冒険を続けたという。1987年の第1作から始まったアドルの冒険は、まだ道半ば。初心者がいま本シリーズに触れても、遅すぎることはないだろう。
(文・夏無内好)
【作品情報】
■イースIX -Monstrum NOX-
ジャンル:アクションRPG
対応機種:Switch
プレイ人数:1人
価格:7,678円
発売日:2021年9月9日(木)
CERO:B(12才以上対象)
開発:日本ファルコム
販売:日本一ソフトウェア
(C)2019-2021 Nihon Falcom Corporation. All rights reserved. Licensed to NIS America, Inc., Sub-Licensed to and published by Nippon Ichi Software, Inc.
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