【映画「純烈ジャー」公開記念インタビュー第2弾!】ご町内ヒーローから本格的ヒーロー作品へ──スーパー戦隊&仮面ライダーシリーズの特撮監督・佛田洋が挑む、初の長編作品「純烈ジャー」

長年スーパー戦隊&仮面ライダーシリーズの特撮監督を務めて来た佛田洋さん。現在放送中の「機界戦隊ゼンカイジャー」&「仮面ライダーセイバー」でも数々の特撮シーンで腕を振っている佛田監督が満を持して、初の長編作品「純烈ジャー」のメガホンを取った。

スーパー戦隊では時折、本編監督を務める機会もあるが、長編の映画は本作が初。その驚きのオファーから純烈との撮影エピソードまで、「佛田節」を炸裂させて「純烈ジャー」の魅力を語り明かす!
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ご町内ヒーローものから本格的なヒーロー映画へ

――普段は特撮専門の佛田監督ですが、どういった経緯で本作の監督を務めることになったのでしょうか?

佛田 僕がオファーを受けたのは、東映ビデオの中野剛プロデューサーからですね。「純烈主演の映画企画」とすでに決まっていて、メンバーの酒井一圭くんが「“佛田監督に撮ってもらいたい”と言っています」と聞いたのが最初です。

――指名だったんですか!?

佛田 俺はそう受け取ってる。もしかしたらほかの誰かが断って、回ってきたのかもしれないけど(笑)。まぁ、それは冗談として、最初はやっぱり「えええっ!?」と驚いたよね。これまで特撮はずっとやってきたけど、今回はドラマも含めて全て撮ってほしいという話だったからね。それで、まずは中野くんと会って全容を聞いて、「まぁやってみるかな」と。そこからスタートした感じかな。

――現在の形に落ち着くまでに変遷はあったのでしょうか?

佛田 酒井くんたち3人は過去にヒーロー経験があるでしょ。後上くんだけ経験がなかったから、最初は酒井くんから「ぜひ後上くんを変身させたい」という話だったの。だから後上くんをヒーローにして、後の3人はすでに引退しているヒーローみたいな設定にすれば成立するかなって。そもそも4人全員変身するとなると大変だからね。実情を話せば、造形物が必要になるわけだし。

――そこは長年の培ってきたキャリアがあるからこそわかる部分で。

佛田 ええ。まともにやると、敵組織なんかも大規模になるから、あまり世界観を広げずに、「ご町内ヒーロー」にするつもりだったの。それもスーパーパワーで変身するわけじゃなくて、「スパイダーマン」よろしく、お手製の衣裳で変身して、夜な夜な温泉街を荒らしまわる泥棒を退治するとか。最初はそれくらいの規模で話を進めていたんだけど、何回か打ち合わせをしている内に、酒井くんが「全員変身するんだ!」「いや、したいんだ!」と言い出して(笑)。こっちは「ええ、全員!?」って。さらに「強大な敵も登場させたい!」って。

――どんどんスケールが大きくなって (笑)。

佛田 そうなると大変なんですよ。実際大変だったし(笑)。だけど、プロデューサー陣もそっちのほうが面白いからと方向性が変わってきて。ほら、酒井くんは口がうまいでしょう。彼が面白おかしくしゃべると、みんな乗せられてしまうんだよね。僕はむしろ、止める側だったんだけど、結果、ああなっちゃいました(笑)。

――敵といえば、ラスボスとして、演歌の大御所・小林幸子さんの起用も話題になっていますね。

佛田 普段、僕らがやっている作品だと、ラスボスはスーツのすごい怪人が出るじゃない。だけど、純烈ジャーもスーツだし、同じスーツ同士だと、絵面が同じで代わり映えしないかなって。それで提案したのよ。たとえば、巨大な小林幸子さんみたいな人が、紅白の衣裳を身にまとって、歌いながら攻撃するとか。それくらいやったほうが面白いじゃない。そうしたら酒井くんが「聞いてきます!」って。

――え、それでホントに実現しちゃったんですか!?

佛田 これはある意味、捨て案のつもりだったのよ。ネットでは前々から「ラスボス」と言われていたでしょう。だから「もしも本当にそこまでできたらすごいよね」と。そしたら、その1週間後くらいに、プロデューサーにも話を通していたと思うけど、酒井くんから「小林幸子さんの出演OKです!」とメールが来て。それで俺も「これはやるしかないな」と腹をくくりました(笑)。

 



佛田監督、一番の思い出!?

――監督として、実際に純烈の4人を演出されるうえではいかがでしたか?

佛田 まずは後上くんね。最初に酒井くんから「後上は全く演技ができません」と聞かされたけど、ただ、こっちとしてはできないと言われてもねぇ(笑)。俺自身、特撮は得意だけど、ドラマの演出はそんなにベテランってわけじゃないから、全くできないということでは困る。そこは後上くん本人とも話してがんばってもらったけど、その辺りを考慮した結果、相手役に小林綾子さんに出てもらうことが決まったの。それで「後上くんは新人なので鍛えてあげてください」と。

――これもまたすごいキャスティングが実現しましたね。

佛田 そこも「聞いてみましょう」って、実際、聞いてもらったら出ていただけました(笑)。

やっぱり後上くんが新人だから、こっちも新人、あっちも新人だと収拾がつかなくなるでしょう。そこはさすが経験豊富な小林綾子さんだけあって、うまく引き出してもらえたと思っています。 

――話を戻して残る3人のメンバーについては?

佛田 リーダーの酒井くんはしゃべりなれているし、4人の場面では彼がリーダーシップを取って、全体をまとめてくれたので、そこはもう安心して演出に専念できました。小田井くんはアドリブをどんどん入れてくれて、かけ合いが面白かったですね。それから白川くんは、今も精悍な顔つきで、4人の中では一番ヒーローっぽいでしょう。しかも彼はアクションが得意だから、素面のアクションシーンを設けて、存分にやってもらいました。今回、4人とも変身するけど、日常の場面では純烈役でそこは普段のまんまだし、おのおの楽しそうに演じてくれましたね。

――ヒーローとしての純烈ジャーについては?

佛田 俺は最初、「お風呂ヒーロー」にしようと思ってたのよ。たとえば頭に洗面器が乗ってるとか、腰には必ずタオルを巻いてるとか(笑)。そうしないとお風呂ヒーローに見えないじゃない。デザインは元バンダイの野中剛さんが描いてくれたんだけど、野中さんが描くとやっぱりカッコいいのよ。それで今度はみんなそっちに引っ張られちゃって(笑)。俺は「それだと普通のヒーローじゃない?」と思っていたけど、Twitterを見ると、仮面ライダーゾルダやガオブラックやカブトライジャーのオマージュが入ってるとか、グリーンの顔のバッテンはなんだ?とか、みんないろいろと考察してくれていて、特撮ファンには喜んでもらえたみたい。なので、結果的にはその方向性でよかったかな。俺の名残りはグリーンの腕に付いている蛇口くらい。あれだけは付けさせてくれって(笑)。

――あの蛇口がアクションに生かされていましたが、おのおののアクションもかなりひねりが効いていましたね。王道のヒーロー作品とはまた違った見応えがありました。

佛田 敵との立ち回りは、アクション監督の竹田道弘さんとアイデアを出し合いながら、楽しくやりましたね。ブルーのガンアクションは松田優作イメージ。あれは竹田さんが好きなの。まぁ、昭和っぽいのはほとんど竹田さんだね(笑)。バイオレットはマイクスタンド型の槍だけど、あれも竹田さんのアイデア。ロウリュって熱く熱した石を置いたサウナがあるでしょ。本当は最後、ロウリュ(※熱した石に水をかけて蒸気を発生させるサウナの入浴法のひとつ)を出して熱風を浴びせる技も撮ったんだけど、そこは尺の問題でカットしてしまって。あれは残念だったな。

それと、レッドは立ち回りの際に「桃太郎侍」よろしく口上を言わせたんだけど、竹田さんってギリギリまで手の内を明かさないのよ(笑)。現場でスーツアクターの縄田雄哉くんに「ひとーつ、ナントカ」と言わせようとするんだけど、縄田くんくらいになると、もう世代的に知らないんだよね。それでポカーンとしている縄田くんに「とにかく言えばいいんだよ!」とやってる、その2人のかけ合いを観ているのが面白かった(笑)。

――設定面でも、それぞれ温泉の女神(=オフロディーテ)と交わることで変身可能になるあたりも、何気にこだわっている印象です。

佛田 出会いの場面は理屈としてはよくわからないけど(笑)、そこは省略して純烈の歌に乗せてみたら、楽しい場面になったね。設定自体は塚田(英明)くんのアイデア。僕はさっき話した通り、ご町内ヒーローでいくつもりだったし、途中までそのアイデアはなかったの。それが酒井くんの意見で方向性がガーッとファンタジーへと舵を切った後の、脚本打合せで塚田くんが「ジョジョのスタンドじゃないけど、相棒が何かいたほうがいい」と。それでまた俺はビックリしちゃってね。「え、4人もキャスティングするの!?」って(笑)。

――それこそ、青のオフロディーテの中島ゆたかさんなどは、千葉真一さん主演の「激突! 殺人拳」とか「トラック野郎 御意見無用」とか、佛田さんがかなり好きそうな映画に出演されていましたが(笑)。

佛田 あれも女神のキャスティングが始まったら、4人もいるわけだから、妖艶な人、面白い人とか差別化を図らないといけないじゃない。それで「ああ、中島ゆたかさんやってくれないかな」と思って話したら、「聞いてみます!」と決めてくれたの。現場は忙しかったからあまりお話する機会はなかったけど、アフレコの合間に当時のお話をいろいろとしてくださって、それが一番の思い出になりました(笑)。



自前衣裳でラスボスとして降臨した小林幸子

――佛田さんが手がけるだけあって、随所に特撮シーンも盛り込まれていますね。まさかメカまで登場するとは思いませんでした(笑)。

佛田 確か、最初にあれを撮ったんだよね。たまたま昔使った全然違う作品のミニチュアが残っていて、それに水道の蛇口とかシャンプーボトルとか何でもいいから付けろって(笑)。これはデザイナーの野中さんが参加する前だったから、俺がシャカシャカッと簡単に描いたんだけど、それを美術の松浦芳くんに渡して、全部100均で調達してもらって(笑)。

――冒頭もオープン撮影したビル街のミニチュアがつかみになっていました。

佛田 あれはもともと、「敏いとうとハッピー&ブルー」さんの「星降る街角」を純烈がカバーしていて、歌謡ショーで盛り上がるんだと聞いていたんですよ。それで夜のビル街のミニチュアをバックに、巨大な純烈が「星降る街角」を歌っていて、そこに降って来た隕石を巨大な純烈が回し蹴りで蹴とばすと(笑)。最初はそんなネタを考えていたの。要は途中に特撮っぽい見せ場が欲しかったわけ。ただ、ほかにもどんどんやることが増えてきちゃって、最終的に冒頭で「愛をください~Don't you cry~」を歌う際のイメージ的なシーンに落ち着きました。

――歌謡シーンといえば、ミュージカル風の場面もありますね。

佛田 後上くんと占い師役の出口亜梨沙さんね。この2人がどうなるか……といった場面で、わざわざそのために専用の歌も作ってくれたんですよ。イメージ的にメンバーの3人にも入ってもらえたし、かけ合いも面白く撮ることができました。それと、あそこはもうひとつのテーマとして大森坂を使いたかったのよ。大森坂って、注釈を入れないと分からないかもしれないけど(笑)。

――大森坂といえば、大泉の東映東京撮影所内の名所ですね。遡れば昭和30年代の劇映画にも映っていますし、村上弘明さんの「次週はこれだ!」の「仮面ライダー(新)」の予告編とか、現在に至るまで数々の特撮作品に登場しているおなじみの場所です。

佛田 そう。あそこで純烈を撮ることに意義がある(笑)。それでナイトシーンにして、ライティングしてミュージカルっぽく撮ってみたんだけど、撮影の際には昔のプロデューサーや監督たちが見にきてくれて、酒井くんたちと一緒に「懐かしいなぁ」って盛り上がったんだよ。いや、あれは実現できてよかった場面のひとつです。純烈は歌い手なので、今話した以外にも歌うシーンはいろいろとこだわりました。そこは僕らが普段やっているヒーロー作品ではできない部分だし、楽しみにしていてもらえればと思いますね。

――あとはYouTubeで一部動画が公開されていますが、巨大化した小林幸子さんについての撮影エピソードはぜひお聞かせください。

佛田 ネットで出演が解禁された時の、記事で小林さんが「これ、ただの妖怪じゃん。断ろうかと思った」と話してらっしゃったけど(笑)、俺はそれ知らなかったの。出演が決まって最初に事務所にご挨拶にうかがった際には「巨大化すればいいんですよね」「そうです」「大丈夫です!」と、その時点では何でもやりますモードになっていて。要は覚悟をお決めになった後だったわけ。現場でも「はい、ここで手からビームを出してもいいですか?」「出しまーす!」ってすごくサバサバしていてね。だからすごくやりやすかったんですよ。考えてみれば、子役から活躍されているでしょう。

――それこそ、東映では「キカイダー01」のゲスト(※第35話)とか、最近……でもないですけど、佛田さんが特撮監督を手がけられた実写版の「デビルマン」にも(笑)。

佛田 その辺は有名だけど、大映の「座頭市」(※「座頭市二段斬り」/64年)にも出ているんだよね。勝新(勝新太郎)さんとも共演しているわけだから、それはビックリした。そうそう、現場で、幸子さんから「監督、どういうワルにします?」と聞かれたから、「東映でいうとヘドリアン女王というか……曽我町子さん」と言ったら、やっぱり知ってらっしゃるんだよね。「ああ、曽我さんね。お亡くなりになられて残念だったわよねぇ」なんて話をしたんだけど、ちゃんと曽我さんテイストで芝居をしてくださって、さすが芸歴が長いだけあって、振り幅の大きさを感じました。それと、ドレスや冠は御自前の衣裳を借りて撮影したから、それも含めてすごく豪華なイメージを出すことができました。

――大物ゲストでは、歌謡界の大御所としてもうひとり、前川清さんも出演されていますね。

佛田 あの方の役は、戦隊には欠かせない役目なんです。わかります?

――たとえば「バトルフィーバーJ」の東千代之介さんとか、「超力戦隊オーレンジャー」の宮内洋さんみたいな枠ですよね?

佛田 そうそう。俺の中でイメージしていたのは「太陽戦隊サンバルカン」で岸田森さんが演じた嵐山長官だけど(笑)。それも「前川清さんはどう?」「じゃあ聞いてみます」って。

――ことごとくイメージ通りのキャスティングが実現していますが、なかなかないですよね。

佛田 いや、キャスティングに関しては、本当に恵まれました。前川さんにはかなりヘンな芝居をお願いしちゃって、台本にはスーパー銭湯のカウンターで「うたたねしている」と書いてあったところを、それだけじゃ面白くないから、「煎餅をかじったまま、白目剥いて死んだフリをしてください」って(笑)。でも、そこもこちらの意図を汲んでいただけて、ありがたい限りでしたね。



真面目にふざけたことをやった映画です!

――いよいよ公開されましたが、監督としての手応えはいかがでしょうか?

佛田 公開に先立って行われた関係者試写では、上映後にみんなニコニコしながらロビーに出てきて、感想を言い合っていたので、まぁ、楽しんでもらえたのかなと、まずは安心しました。お話自体、難しい内容じゃないし、純烈の魅力とゲストにも恵まれ、初めて撮った長編としては、それなりにうまくまとまったと思うし、豪華で見応えある作品になったんじゃないかな。そうだ、まだ四天王の話をしてなかった(笑)。

――では、せっかくなのでお願いします。四天王は仮面ライダーバースの岩永洋昭さん、仮面ライダースナイプの松本享恭さん、仮面ライダー黒影の白又敦さんと、4人中、3人を元ライダーで固めていますね。

佛田 小田井くんもそうだけど、ライダーの俳優さんとは後処理のCG作業が多いから現場で会ってないのよ。戦隊もそんなに会う機会はないけど、それでも変身バンクの撮影で一緒になるからね。ただ、打ち上げで壇上に上がって挨拶する機会もあったから、向こうは俺のことを知っててくれたんだよね。岩永くんなんか、ムキムキをネタにして悪かったけど(笑)、みんなノリノリでやってくれたし、今回ガッツリやれたのはよかったですね。

――では、改めまして、最後にアキバ総研の読者に向けて作品のアピールをお願いします。

佛田 昔からやってきた俺とか竹田さんとかベテラン陣が純烈を迎えて、真面目にふざけて撮った映画です。お、この「真面目にふざけてやった」って、なかなかいいキャッチフレーズだね(笑)。まさにそういう映画なので楽しんでもらえればと思います!

(取材・文/トヨタトモヒサ)

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