「何が、アニメをアニメたらしめているのか?」――「スター・ウォーズ」「ブレードランナー」「ロード・オブ・ザ・リング」など、超大作企画にもまれる神山健治監督からの問いかけ【アニメ業界ウォッチング第82回】
神山健治監督の周辺が、あわただしい。荒牧伸志氏との共同監督による3DCGアニメ「ULTRAMAN」「攻殻機動隊 SAC_2045」は、それぞれシーズン2が待機中。日本人監督と日本のアニメスタジオによる短編連作集「スター・ウォーズ:ビジョンズ」にも監督のひとりとして参加、今月からDisney+(ディズニープラス)で配信される。さらに、映画「ブレードランナー」の世界を舞台にした全13本のシリーズ「Blade Runner: Black Lotus」が、この秋からアメリカで配信される。そればかりか、超大作映画「ロード・オブ・ザ・リング」のスピンオフアニメ「The Lord of the Rings: The War of the Rohirrim」を監督することも決まった。
まだある。「永遠の831」という神山監督のオリジナル脚本によるシリーズが、WOWOWで来年1月から配信されるのだ。全部で6本ものプロジェクトが進行する中、神山監督の頭を占めていたのは、「何がアニメなのか?」という根本的な問いかけだった。
日本のアニメは無差別級。ライト級とヘビー級でボクシングしているようなもの
──これから新しく公開・配信予定の神山監督の作品は、計4本もあります。もっとも近い作品が、「スター・ウォーズ:ビジョンズ」。神山監督の「九人目のジェダイ」は、ご自身のアイデアですか?
神山 そうです。当初、プロダクションI.Gから「神山、『スター・ウォーズ』はどう思う?」と言われ、この企画の存在を知りました。初めは別のクリエイターに話を振っていたのかもしれませんが、「どうしてもっと早く言ってくれなかったんですか?」という感じで、すぐにストーリーを考えました。「俺だったらこうする」という“俺スター・ウォーズ”を空想している人は世界中にいるでしょうけど、僕が最初に「スター・ウォーズ」を見たときの帝国軍対反乱軍のシンプルな構図、田舎の若者が旅立って銀河をめぐる戦いに巻き込まれていくジュブナイル的な物語にもう一度、立ち返りたいと考えました。今回の作品には出てきませんが、映画のエピソード9(「スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け」)以降の銀河の勢力図も、自分なりに考えてあります。
──そういう設定部分には、ルーカスフィルムなりディズニーなりが口をはさんでくるのではありませんが?
神山 それが、自由にやらせてもらえたんです。設定面を監修している人が「正史ではこうなっていますよ」とレクチャーしてくれましたが、制約はほとんどありませんでした。
──次に、「ブレードランナー」と同じ世界観で展開する「Blade Runner: Black Lotus」。これは、荒牧伸志さんとの共同監督で、「攻殻機動隊 SAC_2045」(2020年)と同じSOLA DIGITAL ARTSの製作だそうですが?
神山 はい、「Blade Runner: Black Lotus」はもう完成しています。今とりかかっているのは、「The Lord of the Rings: The War of the Rohirrim」です。まず、J.R.R.トールキンの原作とピーター・ジャクソン監督がつくってきた実写版の「ロード・オブ・ザ・リング」シリーズの存在が絶大なんです。ハリウッドにとって映画は国策……じゃないですけど、国の基幹産業になっていますよね。日本のアニメ現場の小規模ゆえのよさ、純粋な映画製作とは次元が違うと感じています。「Blade Runner: Black Lotus」は映画「ブレードランナー 2049」も製作したアルコン・エンターテインメントの製作で、ハリウッドのメジャーな会社ではあるのですが、日本のアニメに近いつくり方ができました。また、「スター・ウォーズ:ビジョンズ」はルーカスフィルムとウォルト・ディズニー・スタジオという超メジャーな製作会社なのに、日本側のクリエイティビティを優先してくれました。しかし、「The Lord of the Rings: The War of the Rohirrim」の仕事は、「おそらくハリウッドではこのようにして映画をつくっているのだろうな」と実感させられる大変さと面白さがあって、ほかのプロジェクトとはまったく異なります。エンターテインメントという絶対的なテーマのもとにつくり方を突き詰めていった結果、予算規模とスタッフィングによって、それなりのクオリティを保証した作品づくりができる。シナリオは合議制だし、スタジアムや橋を建設するのに似ているかな。「The Lord of the Rings: The War of the Rohirrim」は、この作品のために新しいアニメスタジオをつくることになると思います。
──もう1本、「永遠の831」というテレビシリーズが発表されましたが、これは?
神山 WOWOWさんからの依頼で、オリジナル企画です。WOWOWさんの実写ドラマにもその傾向がありますが、地上波ではやらないようなポリティカルなテーマとアクションのある作品です。青春モノにも見えるしファンタジー要素もあるんだけど、僕に求められているのは、やはりポリティカル要素なのでしょう。自分の会社であるCRAFTARで制作するので、セルルックの3DCGアニメです。昨今きびしいと感じているのは、アニメを見る人はどの作品も大作だと思っていて、予算やスケジュールなど、作り手の事情は考慮しないことです。実写映画やドラマの場合は、俳優さんの背負っている部分が大きいのですが、アニメではすべてが監督の責任です。スポーツにたとえるなら、日本のアニメは無差別級。ライト級とヘビー級のボクサーが殴り合っているようなものだけど、それが自由さでもあります。
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