Aqours、DIALOGUE+、黒鉄たま(電音部)、降幡愛──80’s リバイバルの波が声優アーティスト界にも! 【月刊声優アーティスト速報 2021年9月】

“80's リバイバル”の流れが、アニメ/声優音楽シーンにも到来している。

楽曲を制作するうえで、1980年代風サウンドメイクを意識するこの潮流は、The WeekndやDua Lipaらの世界的スターに後押しされて、国内外でますますの盛り上がりを展開。ここ日本でも、藤井風さんの楽曲「青春病」のヒットや、大人気アニメ「東京リベンジャーズ」第1期エンディングテーマ「ここで息をして」を歌うeillさんが、竹内まりやさんの名曲「プラスティック・ラブ」のカバー音源を発表するなど、さまざまな例が見られる。

また、近年はいわゆる“シティポップ再評価”の傾向もあり、そうした要素がトレンドにまでふくらむことで、アニメ/声優アーティスト業界にも漏れなく波及しているようだ(シティポップという枠組みについて、その取り扱いの難しさからこれ以上の言及は避けておきたいが……)。

たとえば、街の情景を見渡した際、数ある中でもネオンライトだけが、極彩色ながらも心地よいまばゆさを放つかのように、1980年代を懐古するような音楽だけがまとうことのできる、同時代特有のメロウネスがあるのだ。

当月リリースの声優アーティスト作品をレビューする本連載。偶然にも、2021年9月はそうした“80's リバイバル”な作品リリースが同時期に重なったため、本稿にてまとめて紹介していきたい。

Aqours シングル「KU-RU-KU-RU Cruller!」(9月22日リリース)

なんと、Aqoursまでもが1980年代テイストのサウンドに接近!

新曲「KU-RU-KU-RU Cruller!」は、スマホゲームアプリ「モンスターストライク×ラブライブ!サンシャイン!! 」コラボソングに起用されている。なんとも異色なコラボではあるが、思えばμ’sの「Shangri-La Shower」やAqoursの「ジングルベルがとまらない」など、「ラブライブ!」シリーズがゲーム作品とともに作り上げてきた楽曲は、音楽的な挑戦ぶりとそのクオリティが高い水準で比例してきた印象がある。つまり「KU-RU-KU-RU Cruller!」も例に漏れず、指折りな“ど名曲”なのだ。

具体的には、イントロでゆるやかに流れるシンセウェイブの、いい意味でチープなメロディや、1980年代サウンドの代名詞であるゲートリバーブを施したドラムなど、音の処理がいちいち当時のポイントを押さえているのである。間奏で挿入される軽快でモダンなエレピと、同様の丸みを帯びたふくよかな質感のエレキギターのソロパートも、そのオシャレさはAqoursのこれまでのトラックリストでも随一のものだ。

思わずトラックに聞き入ってしまうがゆえに、ボーカルの存在感の大きさが問われる楽曲かと思われるが……。そうしたトラックに埋もれることがないのも、彼女たちが声優という存在だからだろう。キャラクターを演じる際のそれぞれの特徴的で際立った声色は、楽曲内でもとりわけ存在感を放つ強みとなる。

それでいて、センターを務める高海千歌(CV:伊波杏樹)については、天真爛漫な少女性の後ろに見え隠れする、ため息を漏らすようなアンニュイな一面であったり、2番終わりのDメロに用意された渡辺曜(CV:斉藤朱夏)のラップパートだったりと、熱くならずとも大人っぽい“熱っぽさ”を常にまとっている。Eメロを例外としても、ほとんどアッパーなムードに振り切らないあたりに、「KU-RU-KU-RU Cruller!」が持つ洗練された印象や、メロウネスの真骨頂があるのだろう。

冒頭に“なんと、Aqoursまでもが……”と記したのは、アニメ音楽シーンのトップランナーといえる彼女たちが今、このタイミングでこうした曲調に向き合ったことに驚いたことが理由である。ただ、アニメ本編のストーリーも一旦は山場を乗り越えたことで、ユニットとして音楽的にますます自由度の高い活動ができるようになった状況もあるのだろう(思えば、本連載の2020年7月号で紹介した「Fantastic Departure!」も、今回と同じくマイナー調な楽曲だったあたり、自然な流れなのだろうか)。

そうした点で、現在のAqoursがリリースする作品として、これ以上ないものだったと考えたい。

DIALOGUE+ 1stアルバム「DIALOGUE+1」(9月1日リリース)

「良いアルバムは時間をかけて作らなくてはいけない」とは、ユニットの音楽プロデューサーという立場から、ここまでの苦楽を共にしてきた田淵智也氏(UNISON SQUARE GARDEN)が本作に寄せた言葉だ。

次世代声優育成ゲーム「CUE!」より、2019年6月に誕生した8人組声優ユニット・DIALOGUE+。彼女たちが放つ1stアルバム「DIALOGUE+1」は、田淵氏を中心に、田中秀和氏(MONACA、現在はフリーランス)や睦月周平氏といった、デビュー以来の活動を支えてきたクリエイターらと作り上げる、満を持しての1枚となった。

同作より特筆すべきは、大胡田なつき氏(パスピエ)が作詞、睦月周平氏が作編曲を務めた「プライベイト」。“大人な女性の少しおしゃれな休日”をテーマに、シティポップ~ディスコファンク系のサウンドをベースとした1曲だ。全体的にストリングスで懐かしさを、シンセサイザーの質感で今っぽさのバランスを保ちつつ、2番へのブリッジ部分でリワインドのエフェクトを挿入したかと思うと、そこから一部、ドラムを打ち込みに切り替えたのだろうか。ダウンサンプリングしたような荒々しさで楽曲に奥行きを持たせたり、1番とは大きく異なる変則的な進行で間奏に突入したりなど、睦月さんらしいひと筋縄ではいかない作家性があふれ出ている。

また歌唱面では、前述の「KU-RU-KU-RU Cruller!」にも登場したような、肩の力が抜けるラップがとにかく心地よい。トラックに合わせてレトロなツヤ感を大事にしつつも、特にこの楽曲とマッチングしているのが、緒方佑奈さんの大人びた歌声だ。まるで余裕のある女性像をイメージさせるようなタッチで、楽曲の重要な落ちサビパートを任されているのにも納得がいく。そんなDIALOGUE+の“優”れた“声”に心を委ねられる、またとない声優アーティスト楽曲と言えるだろう。

1980年代というくくりをいったん横に置き、アルバム全体にも言及しておくと、業界屈指のお祭り男=田淵智也氏の人柄が反映されたメロディに、あのフジファブリックがスパイスを加えた「ドラマティックピース!!」にも心惹かれる。ほか、「もってけ!セーラーふく」を彷彿とさせながら、終盤になるにつれて思わず楽曲に飲み込まれそうになる、田中秀和氏謹製のパワーチューン「アイガッテ♡ランテ」など、「プライベイト」以外の新曲に込められた熱量もまたすさまじい。

チップチューン的な音使いが代表的だが、メロディメーカーとして田淵氏が備えるキャッチーさを、協力アレンジャー陣が増幅させ、そこで生まれた楽曲に、DIALOGUE+が奏でる八人八色なハーモニーが合わさる。そうした連鎖反応の原点にあるのはやはり、田淵氏のDIALOGUE+に懸ける強い想いに違いない。とてつもない完成度を誇る1枚だった。

黒鉄たま(CV: 秋奈)「MIDNIGHT TOWN (Prod. AmamiyaMaako)」(9月16日リリース)

バンダイナムコエンターテインメントによる音楽原作キャラクタープロジェクト「電音部」。同作発の楽曲は、本連載でも何度かピックアップしてきたが、現在は新曲・未発表曲を週1回、なんと40週連続でデジタルリリースしているのだ。この“力こそすべて”と言わんばかりの資本力を感じるキャンペーンは、2022年3月上旬にゴールを迎える予定。作品始動当初より、“トラックメイカー大富豪”のように数多の才能が一同に会してきたものの、ここまで来るともはや理解不能な領域である……。

そんな「電音部」より紹介するのは、黒鉄たま(CV:秋奈)が歌う「MIDNIGHT TOWN (Prod. AmamiyaMaako)」。少し背伸びをした恋を歌う歌詞を通して、普段は気の強いたまの女の子らしいギャップをますます引き立てる1曲だ。

楽曲プロデュースを担当したのは、シンガーソングライター/トラックメイカーのAmamiyaMaako氏。自身の活動でもシティポップ系の楽曲を取り扱う彼女は、「電音部」への参加はこの楽曲が初めて。温もりのあるエレピやホーンが、現代的なビートの上でぽつぽつと灯りを灯すようなトラックに、自然と夜の街に繰り出したい想いを見出される。たまの拠点とするアザブエリアの情景が思い浮かぶ歌詞とトラックともども、きらびやかで大人びた落ち着きが漂いつつも、どこか喧騒を拭いきれない、街のにぎやかさに酔いしれて──まるでこの夜が終わらないでほしいと願ってしまうような、アーバンさに秀でたものだった。

正確に表現するならば、この楽曲は1980年代風のサウンドメイクや、クラブミュージックという形態からは少し外れるのだが、思えば過去に同じアザブエリアより、白金煌(CV: 小宮有紗)がtofubeats氏によるプロデュース楽曲「MUSIC IS MAGIC」にて、ホーントラックの上でほがらかな歌声を奏でていた例もある。「電音部」全体としても、こうしたクラブミュージック以外の領域でも強みを発揮することで、作品としての強度を上げる狙いもあるのだろうか。いずれにせよ、まだ40週連続リリースの折り返しすら迎えていないあたり、この先がいい意味で恐ろしすぎるコンテンツだ。

降幡愛 1stシングル「ハネムーン」(9月29日リリース)

今月リリースの作品で、群を抜いて80's リバイバル……というよりも、令和の時代に一人、昭和の音楽を孤高なまでに鳴らし続けている。あるいは1980年代を地で行く音楽といった表現が正しいのだろうか。本間昭光氏をプロデューサーに据えた音楽活動も1周年を迎えた降幡愛(ふりはたあい)さん。彼女が満を持して発表した1stシングル「ハネムーン」は、相変わらずの80's ラバーぶりを感じさせる1枚だった。

なかでも、“新婚旅行”をタイトルに掲げた表題曲は、歌い出しからサビの導入まで、ポイントごとの1音目の雰囲気作りがとにかく巧み。サビに登場する〈ここいらで〉にハネ感を持たせて、周辺のフレーズ全体にわざとらしいほどに懐メロテイストなキャッチーさを演出しているあたりなど、細かな部分でのこだわりぶりを見つけられるだろう。そのほか、奥行きあるボーカルの質感も、1980年当時の再現度がケタ違い。これらのリバーブ/コーラスといったミックス処理については、また別の機会に考えてみたい。

何より、デビュー当時から変わらないスタンスに思わずニヤリとさせられたのが、降幡さん自身が書き上げた歌詞において、“報われない恋愛”を描き続けていること。たしかに、1980年代当時の恋愛ソングは、どこか不幸せな歌のイメージがある。今回の「ハネムーン」では、仲睦まじいカップルの前に、彼氏側を行きずりの関係へと誘う女性が現れるのだが……おそらく、1番は〈ちょっぴりおイタなことしちゃお〉と誘惑する女性、2番は〈ころがし上手にプライド捨てて〉と、自然とほだされる彼氏側の目線を綴る意識したのだろう。だからこそ、サビで歌われるのはただのハネムーンではなく、〈浮気なハネムーン〉なのだ。

そうなると、彼女側はもはや歌詞にほとんど登場することすらない。なぜなら、彼氏側が浮気をしていることすら知らないのだから。いつだって、浮気をされる側は知らず知らずのうちに不幸にされているのだ。降幡さんの綴る恋愛、憎いくらいにリアルである……。

(文/一条皓太)

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