CGディレクター・吉田裕行 ロングインタビュー!(アニメ・ゲームの“中の人” 第51回)

ライターcrepuscularの連載第51回は、CGディレクターの吉田裕行さん。吉田さんは株式会社白組所属のクリエイターで、人気作「86―エイティシックス―」のメカアクション等のCGパートを監修した人物だ。「にゃんぼー!」における実写とCGの見事な合成「22/7(ナナブンノニジュウニ)」のきらびやかなライブシーン、「Fate/Grand Order -終局特異点 冠位時間神殿ソロモン-」の不気味にうごめく魔神柱なども、吉田さんのチームが生み出した映像美である。白組といえば、アニメにとどまらず幅広い映像作品を発表し、国内外より高い評価を得ている日本トップクラスの3DCG制作会社だが、実は吉田さんは、あの名作ゲーム「DARK SOULS」のムービー制作にも携わっているのだ。世界と戦えるCGアーティストは、いかなる技法やこだわりをもって、日本の映像クオリティを支えているのか。今回の単独インタビューではそんな吉田さんのキャリア、創作論、仕事術、制作エピソード、今後の挑戦などをうかがった。ぜひ最後までお読みいただきたい。

アニメだけではない、「映像全般を手がける」CGディレクター


─お忙しい中、インタビューに応じてくださり、まことにありがとうございます。拙連載は、アニメのCGディレクター(編注:「CG監督」、「3D監督」、「3DCGI監督」、「3Dディレクター」等とクレジットされることも)としての吉田さんに注目したいと思っているのですが、吉田さん所属の3DCG制作会社「白組」は、アニメ以外にも、さまざまな映像作品を手がけていますね。


吉田裕行(以下、吉田) 白組の仕事は、本当に多岐に渡っているんですよ。映画、ドラマ、CM、ゲームムービー、プロモーションビデオ、イベント映像……業界や媒体を選ばず、映像に関するあらゆることをやらせていただいています。僕は映像そのものが大好きなので、アニメのCG以外にもいろいろと作ってきました。ここ近年では化粧品のプロモーションビデオなどもやらせていただきましたね。


─今では「86―エイティシックス―」(2021)や「Fate/Grand Order -冠位時間神殿ソロモン-」(2021)のCGディレクターとしてアニメファンにも知られていますが、吉田さんはもともと、アニメ業界との関わりがなかったのでしょうか?


吉田 実は逆でして、僕はアニメ業界から入った人間なんです。一番最初に入社したのはサンライズで、そこのCG部署に入ってやっていたんですよ。白組に入るまでの6年ぐらいはアニメのCGをひたすらやっていて、白組に来てからは、実写合成やCM、ゲームムービーなど、映像全般をやらせていただきました。そうやって幅を広げていったところで、再び、アニメのお仕事をいただけるようになりました。アニメは、絵コンテから縦割りでワークフローが組まれていたり、タイムシートを読んだりする必要があるので、実写サイドからするとワークフローが確立されていて特殊に見えるんですよね。そういうこともあって、前職でアニメをやっていた僕に、プロデューサーが声をかけてくれたんだと思います。


─吉田さんがアニメのCGディレクターをする場合、モデリングからテクスチャマッピング、リギング、ライティング、アニメーションまで、クリエイティブの全工程をチェックするのでしょうか?


吉田 そうですね。CG作業全般を、最終監修しています。


─CGディレクターの小川耕平さんは、クリエイティブだけではなく、マネジメント面にも関わることがあるそうです(編注:#)。


吉田 白組では、クリエイティブとマネジメントの分担が明確になっています。マネジメントに関しては、担当プロデューサーがプロジェクトの進捗を考え、予算やスケジュールを立てます。実際の制作については僕たちのようなクリエイターチームが何チームもあって、プロデューサーは、それぞれのチームの適性や各クリエイターの経歴を見て、チームリーダーに相談しながら仕事を決めていきます。たとえば、実写合成の得意なスタッフの多いチームはVFX映画を任せよう、とか。アニメ系だったら、僕たちのチームとか。僕らも、アサインするスタッフや作業工数のことは気にかけてはいるんですけど、最終的なところはプロデューサーにお任せしていて、画づくりに集中できる環境になっています。


─創作活動にあたり、一番影響を受けた作品は?


吉田 子供の時に観た「スター・ウォーズ」旧三部作に、すごく影響を受けました。金曜ロードショーでやっていたのを録画して、繰り返し観ていましたね。「スター・ウォーズ」がきっかけで「どうやって作ってるんだろう?」、「どういう人たちが作ってるんだろう?」と考えるようになり、映像制作に興味を持つようになりました。アニメですと、「機動戦士ガンダム」(1979~80)や「装甲騎兵ボトムズ」(1983~84)の再放送を何度も観ていました。

メカアクションの豊富な経験を生かした「86―エイティシックス―」


─お得意な画づくりやジャンルはありますか? サンライズのご出身ということで、やはりSFやロボットものなのでしょうか? 


吉田 メカアクションはそれなりに経験はあるので得意ではあるんですが、「自分でわざわざ得意ジャンルを狭めるのはもったいないな」と思うようになりまして、今では、お客様の要望に何でも応えられるようにと心がけています。


─メカアクションといえば、「86―エイティシックス―」に触れないわけにはいきませんね。シンをはじめとしたスピアヘッドの面々が操る、ジャガーノートの戦闘シーンは、国内外のアニメファンから高い評価を得ています。


吉田 ありがとうございます。安里アサト先生の原作小説がすごくおもしろいので、映像化した時に、原作ファンの皆さんが頭の中で思い描いていることをいい形で落としこみたい、がっかりさせるわけにはいかないと思って、僕らも気合いを入れて作りました。


─戦闘シーンの制作にあたっては、アクションの導線やカメラのセットアップなど、石井俊匡監督と何度も検討を重ねたのでしょうか?


吉田 プリプロの段階で、ジャガーノートやレギオンの歩行や発砲といった基本のモーションを作りました。発砲の規模感といったエフェクトのほうも、エフェクトテストを再三繰り返して、ベースのプリセットを作りました。こうした準備をしておきますと、どの発砲シーンでもメカの画が大崩れしませんし、特殊なシーンの場合には、基本のモーションをカットに入れ込んで、そこから細かい動きや挙動のカスタマイズをする、というやり方ができるんですよ。石井監督、アクション監修の柳隆太さん、原作サイドの方々にもご確認していただいて、「みんながイメージするジャガーノートやレギオン」というのを擦り合わせながら、ていねいに作っていきました。


─ジャガーノートの錆や塗装の剥がれ具合も絶妙でしたが、あれは作画で描き足しているのでしょうか?


吉田 いえ、あれはテクスチャでやっています。「Substance Painter(サブスタンス・ペインター)」というツールを使って、機体ごとの特徴も付けながら、錆具合のパターンをいくつか作りました。いっぽうで、破壊や押しつぶしといった機体の内部まで壊れてしまった部分に関しては、作画さんの力をお借りして、上からかぶせていただきました。そうした役割分担をすることで、モデリング工数が圧縮でき、アニメーションのほうに集中することができるんです。僕は、質の高い最終画を短期間で積み上げていくうえでは、「全部をCGでやり切る必要はない」と思っていますので、CG打ち(合わせ)の時には石井監督やアニメーションプロデューサーの藤井翔太さんに、「ここはCGでやりますので、ここは作画でかぶせていただけないでしょうか?」と相談させていただいていました。


─巨大メカ・ディノザウリアのメタリック感、重厚感もすばらしかったです。ライティングにもこだわっておられたようで。


吉田 そうですね。CGとしてより映える角度、影らせ方、締め方というのは、監督や演出さんと一緒にこだわって作っています。


─第9話のディノザウリアの手は、作画ですか?


吉田 あれは作画ですね。フルCGというお話も当初あったのですが、手の繊細な動きやきめの細やかさは、作画のほうがよいのではないかと思いまして、監督とご相談させていただきました。その代わりというわけじゃないですけど、クラスター爆弾などの爆発エフェクトは、CGならではのよさが出せるよう、精一杯やらせていただきました。

CGと実写を合成した、白組らしい作品「にゃんぼー!」


─白組のWebサイトには「最先端と伝統技術が混在し、ハンドクラフト精神が生きた本物の映像」、と書かれています。吉田さんのフィルモグラフィの中から、わかりやすい例をひとつ、あげていただけないでしょうか?


吉田 「にゃんぼー!」(2016~17)は、CGと実写を合成した作品でして、割と白組らしいアプローチの作品だと思います。背景はモデリングしないで実写で撮っていて、実写にCGを寄せることによって存在感を担保しています。監督の岩本晶さんとは、撮影上りの実写素材を見て、キャラクター芝居の内容や調整をさせていただいたりもしていまして、ライブ感といいますか、「一緒に作っていくモノづくりの楽しさ」みたいなものを改めて教えていただきました。


─「にゃんぼー!」には、本物の猫も登場していましたね。動物に演技をさせる、というのは相当大変だったのでは?


吉田 大変でしたね……。猫を外で撮影したら逃げちゃうので、調布のスタジオで猫だけグリーンバックで撮影して、背景と合成しているんですよ。最初は猫じゃらしを使ったり、ドライフードのカリカリをあげたりしていたんですけども、頭がいいので、3テイクぐらいするとバレちゃうんですよね。「ここに行ったら、エサをくれるだろう」って(笑)。そんな中でカメラを長回しして、岩本監督やコンポジットの小林晋悟さんが、使える撮影素材を探していきました。僕も撮影現場には立ち会っていまして、小林さんたちが実作業、僕はクオリティの監修をやっていました。


─オープニングやエンディングのCGも、吉田さんのチームが手がけられたのですか?


吉田 これは八木竜一さんのチームですね。八木さんは、「STAND BY MEドラえもん」(2014)や「STAND BY ME ドラえもん 2」(2020)の監督です。僕らは本編の実写の合成と、キャラクターのアニメーションをやっていました。

「22/7(ナナブンノニジュウニ))」で見せた、CGと作画の絶妙なバランス


─CGにアニメーションを付ける場合、手付けとモーションキャプチャーの2種類のやり方があります。これらの使い分けはどのように行っているのでしょうか? 一般的に、アイドルのライブシーンなどは、モーションキャプチャーを使うことが多いようです。吉田さんが手がけた「22/7(ナナブンノニジュウニ)」(2020)のライブシーンも、モーションキャプチャーですよね?


吉田 そうですね。ただ、手付とモーションキャプチャーの選択は、ライブシーンだから必ずモーションキャプチャーでというわけではなくて、決められた納期の中で、監督やお客様が完成映像をどのような方向に持っていきたいのか、によって決まってきます。時間が十分にあって、手付の上手な方がアサインできれば、手付けでも全然いいものができると思います。ダンスシーンの場合、実際のダンスの動画を撮って、ロトスコープ(編注:実写映像をトレースしてアニメを作る手法)みたいな形でCGを合わせて付けることもできますが、短期案件などの場合は、キャプチャーをベースにして詰めタメを調整したほうが、ゴールへの到達地点は早いと思います。


「22/7」の時は、A-1 Picturesさんから「いい感じでまとめてもらえれば」というお話をいただきましたので、僕のほうから「モーキャプを撮りたいです」とご相談させていただきました。ダンサーさんの手配については、僕たちから振付師ユニットのHIDALIさんに直接連絡をして、モーションアクターをお願いしました。というのも僕は、「22/7」の3rdシングル「理解者」(2018)のMV監督もやらせていただいてまして、その時にHIDALIさんとはお仕事をご一緒していたんです。


─「22/7」のライブシーンは、CGと作画のバランスがとてもよいと感じました。第3話のお披露目ライブでは、フレーム内とカット間双方において、CGと作画の使い分けが見られました。背後の巨大モニターに映る、みうの顔は作画、ステージ上に小さく並ぶメンバー全員はCG、といった具合に。


吉田 あのCGは、MVの時に使ったモデルからリファインをしたものを使用しています。MVの時は堀口悠紀子さんのキャラクターデザインを基に作成しているのですが、アニメ版ではまじろさんのキャラクターデザインに合わせて顔の形などを作り直しているんです。そうしたリファインを行っても、リップシンク(編注:声優のせりふとCGキャラクターの口を合わせる作業)をしたり、細かい表情芝居をする時には、しっかり時間を取ってていねいにやらないと人形っぽく見えちゃうんです。なので、表情や芝居に関わる大切な寄りのほうは作画さんにお願いをして、引き画で複数人数が出てきて作画で描くのが大変なところや、長回しでカメラが回り込んだりするところをCGでしっかりと担保する、というのを、阿保孝雄監督やA-1 Picturesさんと相談しながら決めていきました。逆に第8話のライブシーンは、作画の張り込みでは表現の難しい衣装の柄をCGのカメラワークで見せ切るという演出意図もあったので、キャラクターの寄りカットも含めて、ほぼフルCGで作り切りました。


─雨、雪、花びら、光の玉といったものは、作品や現場によって担当セクションが異なるようです。「22/7」はいかがでしたか?


吉田 4話の桜のシーンは、演出の仁科邦康さんから花びらの形や回転についてご指示をいただきまして、こちらでパターン化したものを作って、撮影さんにお渡ししていました。うちが3Dの素材提供みたいなことをして、撮影さんのほうでやっていただく、という体制ですね。


─「86」の3D背景は、すべて美術セクションが担当していたのでしょうか?


吉田 CG先行でレイアウトを出して、それを美術さんに加筆していただく、といったものもありますね。ジャガーノートのコックピットがそうで、こちらがベースになるものを作って出して、美術さんのほうで上から質感を加えていただきました。もっとも、1話のアバンだけはフルCGで、背景もうちがやっています。

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