『スター・ウォーズ:ビジョンズ』が引退作になる!? TRIGGER代表取締役・大塚雅彦監督『The Elder』インタビュー!
世界各地に多くのファンを持つ空前のエンターテインメント「スター・ウォーズ」シリーズ。本シリーズの世界観をもとに、日本を代表する7つのスタジオが独自の「ビジョン」で、新たな「スター・ウォーズ」の物語をアニメで描くビッグプロジェクト『スター・ウォーズ:ビジョンズ』が、2021年9月22日よりDisney+(ディズニープラス)で独占配信中だ。
『スター・ウォーズ:ビジョンズ』に参加した日本のアニメスタジオが制作した9作品は以下の通り。
・神風動画『The Duel』
・キネマシトラス『村の花嫁』(『The Village Bride(英題)』)
・サイエンス SARU 『T0-B1』、『赤霧』(『Akakiri (英題)』)
・ジェノスタジオ『のらうさロップと緋桜お蝶』(『Lop and Ochō(英題)』)
・スタジオコロリド『タトゥイーン・ラプソディ』(「Tatooine Rhapsody(英題)」)
・プロダクション I.G 『九人目のジェダイ』(『The Ninth Jedi(英題)』)
・TRIGGER『THE TWINS』、『The Elder』
なかでも『The Elder』は、TRIGGER代表取締役でもある大塚雅彦さんが監督を手がけ、さらに本作をもってアニメ制作現場からの引退を宣言しているということで大きな注目を集めている。
そこで、今回は、大塚監督に『スター・ウォーズ:ビジョンズ』というビッグプロジェクトに参加した経緯や制作秘話。そして「引退宣言」の真相をうかがった。
「絶対に通そう」という思いで臨んだコンペ
──まず『スター・ウォーズ:ビジョンズ』に参加されることになった経緯を教えてください。
大塚 「日本のアニメスタジオに「スター・ウォーズ」のアニメを何本かお願いする企画があるんだけど、参加する?」って言われたのがきっかけです。「もちろん」って答えたところから企画コンペ的なものに参加しました。
ちょうどスタジオ内に自分と同じように「スター・ウォーズ」が好きなスタッフがいたので、その人と一緒に「絶対に通そう」「なんなら何本かやろう」っていう気持ちで企画を出して、それで無事に企画が通って制作することになったという感じです。実際に提出したのは3本で、どれかひとつでも通ればいいなと思っていたので、2本も制作できて大変ありがたいです。
──大塚監督の『The Elder』は、ジェダイの騎士たちの活躍を描く活劇ものですが、時代設定的には『スター・ウォーズ エピソード1/ファントム・メナス」よりも、さらに過去が舞台だそうですね。
大塚 そうですね。すべての映画本編よりも前の時代というつもりで、設定してあります。
──アニメの設定やシチュエーションについては、ルーカスフィルムサイドからのオーダーや修正はあったのでしょうか?
大塚 最初にプロットを出して、その後にシナリオ、コンテと進んでいくんですけど、その中で文言や細かい部分で「こうしてください」という修正はあるんですけど、基本的なお話の流れとかはあまり大きく修正されることはありませんでしたね。かなり大胆なことも認めてもらえました。
──制作自体は、TRIGGERさんの──いわゆるいつも通りの日本のアニメの制作フローでできたのでしょうか?
大塚 はい。ただダビングや音響のミックスは、本来ならアメリカのサンフランシスコで行う予定だったんですが、コロナの影響で僕らは東京にいて、スタッフは現地でという形で、リモートでの作業になってしまいました、ダビングをリモートでやるという経験がなかったので、そこが普段と大きな違いでした。
それ以外の部分については、アフレコは日本の声優さんでしたので、国内のスタジオでやりましたし、アニメの制作自体はいつもと同じようにできました。
「スター・ウォーズ」に衝撃を受けた高校生の時に立ち返ったような感覚
──『The Elder』は、筆絵のような粗いタッチであったり、日本の農村のような惑星が舞台になったりと、和テイストを前面に押し出したようなビジュアルが印象的でした。
大塚 企画段階から時代劇を少し意識したような内容でしたし、絵の部分は本当に日本を強調した──それこそ水墨画を意識したようなものになっていました。ただ現実的に制作現場との兼ね合いだったり、あまり和テイストを強めすぎてもどうかなということで、もうちょっと一般的なものに寄せて最終的なバランスに落ち着きました。
──大塚監督は、高校生の頃に「スター・ウォーズ」を見て映像での仕事を志されたそうですが、『The Elder』には、その「スター・ウォーズ」に影響を与えたという『隠し砦の三悪人』に代表されるような、黒澤映画的なテイストもそこはかとなく感じられました。やはり「スター・ウォーズ」のルーツともいえる、黒澤明作品も意識されましたか?
大塚 それは基本と言ってもいいくらいです。また僕自身、活劇というか娯楽作品としての面白さが「スター・ウォーズ」の魅力だと思っています。だから、自分がアニメーションを作るという時も、お客さんを楽しませたいというのが根本にあって、昔から自分が「スター・ウォーズ」に影響を受けた部分に対して恩返しするとしたら、「スター・ウォーズ」のテイストのある時代劇を作るというのが、ひとつの目標ではありました。ただ、なかなか実現する機会がないままここまできてしまったんですが。
ところが実際に「スター・ウォーズ」をやれるってなった時に、「じゃあ『スター・ウォーズ』の時代劇をやるか」と思ったんですけど、それだとただの「スター・ウォーズ」になってしまうんですよね。だから、「スター・ウォーズ」なんだけど時代劇のテイストがある作品にすることを目指しました。それだと「スター・ウォーズ」もできるし、かねてからやりたかった「時代劇みたいな『スター・ウォーズ』」が作れるかなと。
──「スター・ウォーズ」で時代劇、という構想は昔からあったんですね。
大塚 高校生の頃に人形アニメを作っていたんですが、それが本当に「スター・ウォーズ」を昔話というか、日本のファンタジーな時代劇に置き換えた人形劇だったんです。それをいつかアニメでやりたいと思っていまして、今回はそれに近いことをやれたという感じです。
──本作は、大塚監督の原点回帰というか初期衝動が詰まっているといったところでしょうか。
大塚 そうですね。やっぱり高校生の時に立ち返ったような感覚があります。当時いろいろと妄想していたことを現在の技術でやる、というのが企画の発端というか。そこは柱かもしれないですね。
──キャラクターデザインは白浜鴎さんが担当されています。いろいろなところで「スター・ウォーズ」にかかわってらっしゃる漫画家・イラストレーターさんですが、どういう経緯で起用されたのでしょうか。
大塚 提案してくれたのは堤尚子プロデューサーでした。お忙しい方だから無理なんじゃない?と思ったんですが、「そういうイラストの仕事をされているから『スター・ウォーズ』が好きなんですよ」って言うので、ダメ元でお願いしたら「『スター・ウォーズ』の仕事は断れないです」って快諾していただきました。打ち合わせもノリノリで、こちらが1を言うと10わかってくれるみたいな。すごく理解が深くて、打ち合わせから楽しくやらせていただきました。
──「スター・ウォーズ」愛あふれる人材が集ったという感じですね。そんな本作の見どころ、こだわりポイントを教えてください。
大塚 先ほど話した通り、日本の時代劇をかなり意識したんですが、それでいて「スター・ウォーズ」であるということが大事であるとも意識しました。そこがこだわりのひとつですね。
なおかつ「スター・ウォーズ」自体も映画が9本ありますし、映画、アニメなどスピンオフ作品も膨大にあって、どれから見ればいいのかとしり込みしている方もいると思います。
また、今回『スター・ウォーズ:ビジョンズ』という面白そうなアニメがあるなということで、初めて「スター・ウォーズ」に触れる方も多々いらっしゃると思うので、そういう方々に向けて、予備知識なしで安心して観られる映像作品を作る、ということを意識しました。
もちろん「スター・ウォーズ」ファンも楽しめるようにとも意識したので、どんな方にも観ていただたきたいです。
──ライトセーバーの音が出ると、とたんに「スター・ウォーズ」感が出てきますよね。個人的には、その舞台が時代的風な農村というミスマッチな演出が面白かったです。
大塚 あの効果音が出ると、誰もがチャンバラを真似したくなりますよね。やはりあれなくして「スター・ウォーズ」はないと思っています。最終的な映像も、TRIGGERとしては初めてHDR(ハイダイナミックレンジ。従来の映像に比べて、より幅広く明るさを表現できる次世代の高画質技術)に取り組みまして、一段グレードアップした映像を楽しんでいただけると思います。
いろいろと画面作りにこだわって仕上げているので、ベストな環境で観ていただきたいですね。
大塚監督、引退……その真相は!?
──何よりも監督自身が「スター・ウォーズ」のファンということですが、ファンとしては公式作品に触れられるというのはどんな気持ちでしょうか。
大塚 なんだか夢みたいですね。最後に自分のクレジットが出てきた時なんて「ギャグかな?」なんて思いました(笑)。昔から知ってる周りの「スター・ウォーズ」ファンからも言われたりして、そういうことを経て自分が「スター・ウォーズ」に携わったということを実感し始めているところです。
──TRIGGERの文字とルーカスフィルムのロゴが並んでいるのを見て、確かに「おお」と思いました。
大塚 のけぞりましたね(笑)。名前が出て感動するなんて気持ちは久しくなかったんですけど、今回ばかりは自分の名前を見てにやけてしまいました。
──そんな中で気になるのが、本作を最後に大塚監督がアニメの制作現場から引退されるとうかがっているのですが、この話の真相を教えていただけますでしょうか。
大塚 もともとTRIGGERを作った時にアニメ演出家としてはこれで終わりだというつもりだったので、その後はもうあんまり現場に出るつもりはなかったんですが、大変だったらやるよって言ってたんです。そしたら会社設立からずっと大変で、その結果、今まで現場を手伝い続けるという感じで引退させてもらえなかったんです。
でも、もうそろそろいいかなと思っていた時にこの話がきて、「『スター・ウォーズ』が最後っていうのもいいな」という気持ちを周りに言いふらしてたら、「大塚さん、これで引退するの?」って外部からも言われるようになったんです。でも本当にそういうつもりです。
本来は後進の育成のようなところにシフトしていたんですが、いつまでも現場にいるとずっと頼られてしまうんです。だから「これで最後」と言ってしまえば、周りももうやらないからって思ってくれるかなと思って、引退を宣言してみました。
ただ、今回はアメリカでダビング作業をやるという夢がかなわなかったので、また「スター・ウォーズ」のアニメの仕事があればやるかもしれません(笑)。
──ちなみに、昨今は世界規模でサブスクリプションサービスが定着しつつある中で、日本のアニメ制作スタジオが海外市場を見越したアニメを作る、という機会が増えてきています。今回のプロジェクトも、それに近いところにあると思います。これは個人的な所感になるのですが、日本のアニメは国内の視聴者に向けてガラパゴス的に進化していったがゆえに世界に類を見ない独自のアニメ文化が育ったという側面もあるのではないか、と思っています。そう考えた時に、今後、日本のアニメはどのような形になっていくと思われますか?
大塚 いわゆる地上波で放送されて、円盤(DVD、Blu-rayなどのパッケージ)になってそれが売れるというのが従来のビジネスモデルだったわけですが、TRIGGERを作った頃から、そろそろ配信というものが定着していって、おそらくそちらが主流になっていくだろうとは予想していました。そのいっぽうで、YouTubeなどの動画サービスで──違法ではあるんですが──海外で現地の言葉の字幕を自主的につけられて流されるというのがあって、かなり前から日本の放送と同じタイミングで海外のアニメファンが、最新のアニメを観るという流れができあがっていました。
その結果、海外でアニメイベントが開催されるようになり、実際に自分たちも参加したりもしたんですが、その時に肌で感じたのが、海外のファンのほうが、反応は大げさだったりするんですが、ウケる部分は一緒なんですね。だから結局のところ、日本だろうと海外だろうと関係なくオタクとして感じる部分は、みんな一緒なんだと思っています。
だから日本向け、海外向けということでアニメの作り方が変わるとは思っていません。それまでやってきたことを今後もやればいいんだと思っているんですが、そのいっぽうで、日本はもうそこまでではないんですが、やはり海外にはまだアニメーションって子供が見るものという認識があって、「カートゥーンも(日本のアニメも)子供向けでしょ」っていう意識はまだ根強いんです。
その中で日本のアニメーションはハイティーンはもちろん、成熟した大人が見ても楽しめるレベルの作品をずっと作ってきてると思います。アニメが好きだという海外の子供がそのまま大人になれる、作品性の高いものを作れるのが日本のアニメの強みだと思うので、そのスタンスは変わらないと思います。
そう考えると、今後ますます日本のアニメが好きだという人たちは増えていくと思うので、僕らは市場に合わせてスタンスを変えたりする必要はないんじゃないでしょうか。これまでと同じようなアニメ作りを続けていけばいいと、僕は思います。
──そのお話をうかがって改めて振り返ると、確かに『スター・ウォーズ:ビジョンズ』におけるTRIGGER作品は、2作品とも日本と海外。アニメと実写作品をつなぐかけ橋のような作品になっていると思いました。
大塚 まさにそうだと思います。「スター・ウォーズ」自体が、子供向けと思われていたSF映画を、大人が本気で作ったというところもあったので、それは今僕らが世界に向けてアニメを広めていこうとしているところとリンクしているような気はします。
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