アニメライターが選ぶ、2021年夏アニメ総括レビュー! 「女神寮の寮母くん。」「小林さんちのメイドラゴンS」など、5作品を紹介!!【アニメコラム】

2021年夏に最終回を迎えたタイトルの中から注目作をピックアップ! 「月刊少年エース」連載の「女神寮の寮母くん。」、「週刊少年マガジン」連載の「カノジョも彼女」、「月刊アクション」連載の「小林さんちのメイドラゴンS」、「サンデーうぇぶり」連載の「死神坊ちゃんと黒メイド」とマンガ原作4タイトルと、オリジナルショートアニメ「ダイナ荘びより」を紹介します。

女神寮の寮母くん。


うぶな男子中学生・南雲孝士が女子大学生寮・女神寮の寮母になって、年上のお姉さんたちに翻弄されるラブコメディ。ラッキースケベというよりは桃色ハプニングという言葉が似合う、どこか懐かしいシチュエーションが盛りだくさん。とくにコタツの中で足が絡み合う9話は予想通りの予期せぬ事態が起きるという期待を裏切らない仕上がり。コタツという閉鎖空間が女神寮のメタファーになっているといった理論武装の必要はなく、めくるめく官能の世界に身を委ねたい。
アニメ化にあたっては原作以上にお色気要素が満載で、キャラクターのセクシーな部位は「風紀まもるくん」なるキャラクターによって隠されている。地上波では修正版が、アニメ専門チャンネルでは無修正版が放送され、配信専用のシースルーバージョンもラインアップ。メディアによって修正を変えるという試みは過去のタイトルでも行われていたが、結局は修正が小さくなっただけで肝心なものは何ひとつ見えやしないという、人の心をもてあそぶ仕様であることがほとんどだった。だが今回はかなりの部分が透けて見えるという、こちらは本当に予期せぬ事態に。心はまだ中学生のロートルアニメファンに打って付けだ。



カノジョも彼女


マジメ過ぎる高校生・向井直也が、長年アタックを続けていた幼馴染・佐木咲と念願の恋人同士に。ところが同級生・水瀬渚からまさかの告白を受けて断れきれず、二股交際を決意するという異色のラブコメディ。主人公が自他ともに認める二股野郎であるものの不思議と嫌悪感は薄いのは、直也のズレた実直さゆえ。咲と渚に許しを乞うて正々堂々と二股したり、3人の関係性を優先するため一線は越えないようにしたりと、彼なりの筋の通し方が笑いを誘う。そもそも二者択一を迫られたときに両方を選ぶというのはヒーローであれば当然であり、トロッコ問題など所詮は凡夫の浅知恵に過ぎないのだ。
主人公の条件をいびつな形で満たしてしまった直也だが、OPアニメでは彼の背景に正三角形がタイルのように張りめぐらされることで、咲と渚との三角関係を表現された。本作にはほかにもヒロインが存在しており、三角の切り取り方によっては、四角にも五角にもなり得ることが予言されている。はたして直也が二股のまま維持できるのかどうかも見どころ。



小林さんちのメイドラゴンS


SEとして日夜働く小林さんと、彼女の専属メイドになったドラゴンのトール、さらに人間界にやってきた多種多様のドラゴンを交えてハチャメチャな日々を繰り広げる話題作の第2期。一見コメディに思えるがドラゴンたちのバックボーンは複雑で、数千年の時に及ぶ因縁があることも。1話から新たな来訪者がトラブルを持ち込み、平和な街を脅かしかねない迫力あるバトルシーンが楽しめる。
そのいっぽうで日常をていねいに描いた作風も魅力。10話Bパートは幼いドラゴンのカンナが小林さんと散歩をするだけのエピソードではあるが、マンホールのデザインがそれぞれ違うことを見つけたり、雨に流されているテントウムシを助けたりと、小さな発見がかけがえのないものとして描かれている。提供クレジットにはイラスト調のミニアニメが、本編終了後には星座占いコーナーが盛り込まれ、細部まで楽しさが詰まった一作。



死神坊ちゃんと黒メイド


触れたものを死なせてしまう呪いをかけられた貴族の坊ちゃんと、それを知りつつも至近距離で誘惑してくるメイドのアリスによるラブストーリー。OPテーマ「満月とシルエットの夜」は相思相愛でありながら指一本触れられない関係性を歌ったデュエットソングだ。接触は禁じられてはいるものの体を介さなければ触れ合うことができ、本編では月明かりによって生まれた2人の影が重なる瞬間がていねいに映し出されている。
坊ちゃんを模した雪だるまの頬をアリスがやさしくなでたり、雪原に着いた2人の足跡が混ざり合ったりと、何かが触れたり重なったりする場面に自然と目が向かう作りとなっており、OPアニメでは2人が持つ傘が合わさることで監督クレジットが表示されるのも印象的。本作は続編の制作が決定済み。もし坊ちゃんの呪いが解けたとしても、今度は貴族とメイドという階級差が2人を隔てることが示唆されていたが、一体どのような結末を迎えるのだろうか。



ダイナ荘びより


ティラノサウルス、トリケラトプス、ステノニコサウルスの恐竜3匹が、賃貸アパートのダイナ荘で共同生活を送るショートアニメ。恐竜たちはかわいらしいデフォルメタッチで、バイトの愚痴を喋ったり、キャンプへ出かけたりと、ゆるゆるな日々を過ごしていく。ちょっとシュールな日常ものに思えるが、隕石が落ちて絶滅することを異様に恐れるティラノや、登場するたびに食べられてしまうアラモサウルスなど、どこか不穏な空気もチラホラ……。アニメ作家・水江未来によるミュージックビデオ(MV)のサイケデリックな世界観も一度見たら忘れられないインパクトを残す。
ティラノ役はなぜか恐竜やドラゴンのアニメと縁のある松重豊が担当。大食漢の雑貨商や元力士の警備員など、個性的な役柄を数多く演じてきただけあって、穏やかな口調の中に最強の肉食恐竜たる説得力が備わっている。口数は少ないがひと言ひと言に重みのあるトリケラトプス役は俳優の田中要次、2匹に比べるとマイナーであることを気にしているステノニコサウルス役はお笑いコンビ・バイきんぐの小峠英二と、意外な面々による掛け合いに癒やされる。


(文・高橋克則)

(C) 2021Ikumi Hino/女神寮
(C) ヒロユキ・講談社/カノジョも彼女製作委員会 2021
(C) クール教信者・双葉社/ドラゴン生活向上委員会
(C) イノウエ/小学館・死神坊ちゃんと黒メイド製作委員会
(C) ダイナ荘管理組合

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