【サンライズフェスティバル2021】富野監督自身も「本当に理解ができなかった」と告白! 「ブレンパワード」上映舞台挨拶レポート!

TVアニメ「ブレンパワード」上映イベントが、2021年10月15日、東京・新宿ピカデリーで開催され、上映後の舞台挨拶に富野由悠季監督、村田秋乃さん(宇津宮比瑪役)、若松基さん(「富野由悠季の世界」展企画チーム・ブレンパワード担当)が登壇した。

本イベントは、2021年10月1日~31日に開催されている上映イベント「サンライズフェスティバル2021 REGENERATION」の一環として開催された。

「ブレンパワード」は、1998年にWOWOW初のオリジナルアニメ作品として放送。当時は久々の「ガンダム」以外のTVシリーズということで非常に注目を集めていた作品だ。

難解なストーリーや独特のセリフの言い回しなど、少々見る人を選ぶところはあるものの、「∀ガンダム」「OVERMANキングゲイナー」など後の富野作品につながる、明るく、やさしい作風は本作ならではの魅力に満ちている。

今回は、ヒロイン・宇都宮比瑪役の村田秋乃さんと「富野由悠季の世界」展企画チーム・ブレンパワード担当の若松基さんがセレクトしたTVシリーズ4話の上映に加え、富野監督、村田さん、若松さんによる舞台挨拶が、河口佳高さん(サンライズ)の司会のもと、オーガニック的な何かを感じさせる和やかなムードの中で行われた。

まずは、今回上映された4エピソードがどういう意図で選ばれたのかが語られた。


村田秋乃さん



第9話「ジョナサンの刃」を選んだのは、村田さん。選出の理由を尋ねられると、「破天荒な性格のジョナサンの心の傷が見えるシーンがあるところ」「クマゾーにもわかってしまうほどのお母さんへの思い」だという。

TV放送から23年を経て、今は母親になった村田さん。「23年前にセレクトしてくださいと言われたら、違う話を選んだと思う」「お母さんの目線でみると、ジョナサンがかわいくてしようがない。寂しかったんだね、クリスマスプレゼントがほしかったんだね」と、母親ならではの視点で語る。このコメントに、思わず笑みを浮かべる富野監督の表情が、実に印象的だった。



ちなみに、「ブレンパワード」が初のアニメのアフレコだったという村田さん。当時はアフレコの練習すらしたことがなく、絵のタイミングに合わせてしゃべるのに精いっぱいだったと回顧する。特に第1話は声をキャラの動きに合わせていくことに必死だったそうだ。

ここで河口さんは、「『ブレンパワード』には初アフレコというキャストが多かった。その狙いは?」と富野監督に質問を投げる。

これに対し、富野監督は「キャスティングはうまくいったという記憶しかない。(キャストを選んだ)基準は、声優事務所の(声優の)仕事が大っ嫌いなの」と回答し、河口さんを思い切り狼狽させる。さらに富野監督は、村田さんを比瑪役に据えた理由を「村田さんの声を10秒くらい聞いてると、声優事務所慣れしていない素人の声が聞こえてきた」からだと語る。

かと言って、「全面的に声優の仕事をしている方を非難する全く気持ちはない」そうで、「彼らは徹底的にプロなので、何をやっていただいてもだいたい当たりはずれがないことは承知しています。なので、(『ブレンパワード』には)何人か抑えとして(本職の声優に)来ていただいています。そういう人が枠を作ってくれないと、素人は使えなかった」と富野監督流のキャスティング論が語られた。

若松基さん

いっぽう若松さんが選んだのは、第21話「幻視錯綜」、第25話「オルファンのためらい」の2本だ。

「『ブレンパワード』は富野作品の中でも、エモーショナルな方向に振り切れていて、言語化しづらい」ので、富野由悠季展でも担当する人がなかなか見つからなかったそうだが、自身がとにかく『ブレンパワード』を好きだったということで、志願して担当することになったという。

そんな若松さんいわく「現象は立場によって見え方が変わってくる。その不確かさみたいなもの」が富野作品の軸だそうで、それが端的に表れているのが第21話だという。

第25話については、「富野作品はラスト3話(が盛り上がる)の鉄則がある」「だからラスト前から(続けて最終回を)見たらブワーッとなると思って選んだ」そうだ。

河口佳高さん

そして最終話(第26話)「飛翔」は、村田さんセレクト。

このエピソードで特に好きなのが、子供たちがブレンパワードの体をこすってあげているシーンや、登場人物たちが手をつなぐシーンといったキャラクターたちが直に接触するところだという。

「今はコロナなのでできないけど、触ったり、さすったりするパワーが人間にとって大事なんだと思う」と、なかなか他人と触れ合うことが難しい時代だからこそ、本作特有のフィジカルなコミュニケーションを意識した演出に感じ入る部分があった様子だ。

若松さんも、「最終的にオルファンがどうなったのかが具体的に語られないところがいい」「大いなるものが人間の記憶を乗せて、銀河のかなたまで旅立っていくというというのが富野ロマンを感じる」とラストシーンの魅力を語った。

富野由悠季監督

熱い思いを込めてエピソードを語る共演者に対し、イベント前に第1話を改めて観直し、イベント当日にもファンと一緒に4エピソードを観直した富野監督は「こんなにもわからない話を作ったのかとゾッとした」と、衝撃的な感想を発した。さらに「本当に理解ができなかったので、(当時発売された)ムック本を読み直したら、もっとわからなくて、あの編集をしたのは何者かと思った」と、作った本人ですら難解な内容だと告白する。

ちなみに今回の舞台挨拶に先駆けて、富野監督はインターネット上にまとめられている「ブレンパワード」のwiki記事もチェックしたそうで、ファンの目線で作品をまとめた記事のおかげで「ブレンパワード」の全体が理解できたという。ちなみにこのwiki記事を読んで、初めて「白富野(編注:明るい作風の富野作品の通称。暗い作風の時は「黒富野」と言われる)という言葉」や「こういう風に褒められている部分と、こういう風にくさされている部分があること」を知ったそうだ。

そのいっぽうで、「今日観て、やっとなぜこういうものを作ったかを思い出した」と語る富野監督。「ここに表れている台詞や物語の構造、全部が現在までの自分自身の能力の限界値で作った」そうで、「ギリギリで作った作品のことは覚えていない。全部吐き出したので」と作品を振り返る。

そんな「ブレンパワード」という作品について、「素晴らしい作品」と高評価をする富野監督だが、「作りが悪すぎる」という反省点もあるということで、「ここ(舞台挨拶会場)にいる皆さん以外には観てくれとおすすめできない」と語り、会場を大いに沸かせた。

そうは言っても、キャラクターの感情や個別エピソードには心を掴まれるところの多い作品だった、と河口さんがフォローすると、富野監督は「そういう要素があるとは思えない」バッサリ。というのも、放送から20年以上が経って、覚えているキャラクターの関係性がほとんどないそうで、これは作劇がうまくいかなかったため、という反省点を語る。

ただ「(個人的には)ここがよかったとか、ここで涙を流してほしいとは言えない。自分の作品でそういうことを言うのはタブーだと思う」と言いつつも、改めて最後まで観直すと「いわく言い難く、すごい作品」という感想を抱いたそうで、「誰かそれをうまく言語化してほしい」と語った。

この言葉を受けて、河口さんが若松さんに「ブレンパワード」の魅力について尋ねると、「完成度という意味では、他にもっと高い富野作品もあるかもしれないが、富野監督の人生においてこの瞬間にしか作れない一期一会な感じがある。作者自身がジタバタしながら、何としても生きようとしているところ(が魅力)では」と分析。

その言葉を受けて、富野監督は「なぜこんな作品ができたか。それは『ブレンパワード』は僕にとってリハビリの作品だったのです」と語る。

「この企画をやる1年前に鬱になって、完璧に家から出られなくなり、鬱から脱出するのに丸1年かかった。そのリハビリのつもりで企画を立ててみたのが本作。その時に、アスファルトの道路の上はつらくて歩けないんだけど、田んぼのあぜ道の上なら気持ちよく歩けるという感度の違いを覚えて鬱から脱出したという記憶がある。そういう感度の中で物語を作っていった時に、『ブレンパワード』になっていった」という。

「ブレンパワード」のキーワードとなるのが「オーガニック」という言葉であり、概念だ。

この「オーガニック」なるものがいかにして本作に取り込まれたかについて、富野監督は以下のように語った。

「鉱物などの無機物には命は宿らないが、有機的なものには命が宿る。命という物は連続していって何億年も生きていけるが、鉱物は一度精製したらそれっきり。鉱物として何億年も存在するだろうけどそこに命はない。オーガニックエナジーというのは、まさに命の力なのです。アスファルトの道路を歩いているととてもつらいけど、土の上なら楽という人間の生態、生き物の感覚はなんだろうとずっと考えていて、それが『ブレンパワード』に反映されている。

(最終話などの)お花畑のエピソードはそこから生まれた。自分がもし健康だったら、あんな恥ずかしいシーンは作れない。地面や田んぼ、畑の上なら寝転がれるという安心感。極端な言い方をすると地球の鼓動が聞こえるかもしれないし、地面に寝ていたら地球の裏側の星空まで見えるかもしれない。それくらい感覚がシャープになるかもしれない、それが『ブレンパワード』という作品です」

また、「ブレンパワード」といえば、全裸の女性キャラが乱舞するOP映像や、写真家・荒木経惟さんによる花弁の写真をあしらったED映像が話題になることが多い。これについては、「OPとEDはうまくいった」という手ごたえが今もあるそうで、とりわけ「EDの歌が流れた時に思ったのは、本当にすごい作品」ということであり、「OPとEDの曲と画の構造が『ブレンパワード』なんだと説明できることが幸せ」だという。ただ、改めて観るとOPの作画が自分の思ったものとは少し違っていた点、EDの写真はもう少しきれいに出ていると思った点など、気になる部分も少なからずある様子だった。

舞台挨拶終盤には、「ブレンパワード」のBlu-ray BOXが2022年3月29日に発売されることが発表された。すでに1話分だけ先行して視聴できたという富野監督によると、今回はEDの映像を気持ちよく見ることができたそうで、ハイクオリティな映像処理に期待できそうだ。

最後に「Blu-rayで、また『ブレンパワード』を観られる環境を作ってくれて感謝しています。ただ必ずしも作りがよくないので、これが保存版になるのが悔しい。『ブレンパワード』を作り直したい(笑)。絶対長生きするぞ!」という、富野監督の嬉しい言葉で舞台挨拶は締めくくられた。

【商品情報】

■ブレンパワード Blu-ray Revival Box (特装限定版)


・発売日:2022年3月29日

・価格:27,500円(税込)

・スペック:カラー/(予)710分/(本編約650分+映像特典約60分)/

・本編Disc:リニアPCM(ステレオ)/AVC/BD50G×5枚/4:3<1080p High Definition>

・特典Disc:リニアPCM(ステレオ)/AVC/BD25G×1枚/

・発売元、販売元:バンダイナムコアーツ

<封入特典>
◆【特製ブックレット】(108P 予定)

■映像特典
 ◆新規PV・CM
 ◆再録
  ・特番「総監督:富野由悠季登場」
    (1998年6月WOWOW放映)
  ・特番「最速攻略:AtoZ」
    (1998年7月WOWOW放映)
  ・特講「アニメ演出チェックの五原則」 
  ・ノンテロップオープニング
  ・ノンテロップエンディング


■仕様
 ◆重田敦司描き下ろし収納BOX
 ◆重田敦司&いのまたむつみ描き下ろし
  デジジャケット(各1枚ずつ)

(c)サンライズ

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