「このコクピットは、僕の世界だ!」――「蒼き流星SPTレイズナー」に見る主人公と主役ロボットの“分離”【懐かしアニメ回顧録第83回】
先日、BS12の深夜アニメ枠「アニメ26」で、「蒼き流星SPTレイズナー」のOVAが3週にわたり放送された。
惑星グラドスの異星人によって、火星にある地球人の基地が攻撃される。グラドス人と地球人の間に生まれたエイジは、機動兵器SPTの1機・レイズナーに乗って、地球へメッセージを伝えようと孤独な戦いをつづける。物語前半の主系的葛藤は、エイジがグラドスと地球との全面衝突を避けながら、地球人の子どもたちと生きのびられるかどうか。傍系的葛藤は、謎を秘めた兵器であるレイズナーとエイジの対立だ。
主役ロボットのレイズナーは頭がコクピットになっており、エイジはレイズナーに搭載された補助コンピューター“レイ”と会話しながら、敵のSPTと戦う。ところが、レイズナーが危機に陥っているのにエイジが敵への反撃をためらったり、脱出を拒んだりすると、レイズナーはエイジの制御を離れて、過剰な防御と攻撃を行ってしまう。その特殊機能は、後に“V-MAX”としてエイジの制御下に置かれるのだが、それまでエイジは暴走するレイズナーに翻弄される。
レイズナーの目がピンク色に変わるとき、エイジの身体はモノクロへと退色する
さて、このV-MAXが初めて起動したのは第8話「彼の叫びに応えて」。戦闘中、レイは「戦闘態勢の限定命令を解除せよ。現位置からの移動を要す」と、エイジに警告する。さらに「先制攻撃を要す。攻撃目標、指示」と、敵SPTのコクピットを撃つよう、エイジに求める。エイジが撃つのを拒んでいるとき、V-MAXが起動する。
1. エイジのヘルメットのバイザー部分に、コンソール部の光が反射する。
2. コンソールが緑・青・赤に点滅する。
3. コンソールの光が立体的に伸びて、エイジの体をつらぬく。
4. レイズナーの目(カメラアイ)が、黄色からピンク色に変わる。
この1~4のプロセスは、エイジが先輩であるゲイルを手にかけてしまう第15話「蒼き流星となって」でも、映像を転用して繰り返される。ただし、第8話でも第15話でもエイジは意識を失っている。その証のように、コンソールの計器類が色とりどりに点滅するのと反対に、エイジ自身からは色が消えていく。エイジの顔がアップになっても、それはモノクロの線画でしかない。
「このコクピットは、僕の世界だ。それなのに、お前は僕の意思の外に存在する」
これは、第21話「我が名はフォロン」で暴走したレイズナーに向かって、エイジの放った言葉だ。第20話「レイズナーの怒り」で、レイズナーは自分を守るため、無人で周囲の米軍施設を攻撃した。その間、レイズナーの目の色はピンクである。暴れ回るレイズナーを止めるためにエイジが歩み寄ると、レイズナーの目は黄色に戻る。
つづく第21話で、エイジはレイズナーのコンソールを拳銃で脅し、管理コンピューター“レイ”の裏に隠れた別人格“フォロン”を探り当てる。「お前のことを聞いているのではない、もうひとつのコンピューターを呼び出せ」「お前のほかにコンピューターが内蔵されているのは間違いないのだ。命令だ!」
機械的に応答するだけのコンピューター“レイ”を問い詰めるエイジ。この息づまる会話劇は「レイズナー」最大の見どころだが、レイズナーのコンソールの発する色、そして、「目(カメラアイ)の色が変わる」という視覚効果で巨大ロボットの意思を表現していることには、留意したほうがいいだろう。
主役ロボットの「外部」へと疎外された主人公が、「僕を殺せ!」と命令する
さて、未知のコンピューター“フォロン”の存在を知ったエイジは、自分の愛機であるレイズナーをいかにして取り戻すのだろうか?
第22話で、レイズナーは再びV-MAXを発動させる(レイズナーの目は黄色からピンク色に変わる)。エイジは、「僕はもう、合理的に殺人をする機械に乗っているのは、まっぴらだ」と、コクピットから抜け出す。すると、第21話での立場が転倒したかのように、今度はレイズナーが銃を構えて、エイジを狙うのである。
このシーンの構図は、衝撃的だ。コクピットのキャノピー内から、真正面にエイジをとらえている。また、コンソールのモニター部分にもエイジが映る。今まで、エイジはキャノピー越し、あるいはモニター越しに「敵」を見てきたはずだ。ところが、今では「敵」の収まるべき構図に、エイジ自身が収まっている。ほとんどのロボットアニメで、主人公が乗り込んだ瞬間から、主役ロボットは主人公の肉体そのものであった。だが、「レイズナー」第22話においては、ロボットの外側へと主人公が疎外されている。
「フォロン、お前は記憶回路の奥に引っ込んでいろ。認めないなら、僕を殺せ!」 かつての主であったエイジを、照準スコープにとらえたレイズナー……その目の色が、ピンクから黄色へと戻る。フォロンが沈黙し、以前のようにレイがレイズナーを管理しはじめたことを、色の変化で表現しているのだ。第8話と第15話では、エイジの意識が消えたことを「色を抜く」ことで表していた。セルアニメーションは絵を重ねて、色を塗っていく「素材を足す」表現だ。“ロボットと人間の意識の入れ替わり”という難しい概念を「レイズナー」が描けたのは、素材を削りに削って、シンプルな表現に徹した成果ではないだろうか。
(文/廣田恵介)
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